コートを着ながら街を歩く。
雪は降っているものの、昨日よりはマシだった。
ざくざくと雪を踏みしめながら、舗装された道を進む。
手には街の地図を持ち、ヴァンたちと共に街の特徴を確かめていった。
現在は、南にある港に来ている。
そこには軍艦や大型の輸送船が停泊していた。
……島にしては本格的な港になっていると思ったが……元々は軍港のような役割を担っていたのか。
軍艦数隻に大型の輸送船も入港していた。
扉が開かれて、中から様々な兵器が出て来た。
防衛戦用の兵装であり、注目すべきはその量や変わったメリウスくらいか。
港には対空砲などの防衛ユニットが既に設置されている。
空輸して持ってきたものだろう。
俺たちの輸送機が止めてあるドックにもそれらしきものがあったからな。
輸送船の中からはメリウスも次々と降りてきていた。
俺の兵士時代に見た事も無いメリウスだな……。
ミッシェルにアレ等のメリウスは何かと聞けば、彼女は目を細めながら教えてくれた。
「……アレは軍用モデルじゃないな……手足が細くてコックピッド周りの装甲も薄い……センサーも双眼とかじゃなくて”全周タイプ”だな。珍しい」
見た事も無いメリウスだ。
軽量型のようにも見えるが、背中に大きなバックパックを積んでいる。
白い塗装のメリウスであり、隠密作戦であれば問題は無いが。
今回は多くの人間と共同して行う防衛戦で。
アレでは天候が悪くなれば誤射や衝突を招く恐れがある。
その上、ミッシェルが珍しいと言ったように頭部全体がセンサーとなった”全周センサー”で。
アレらを扱うメリウスのパイロットは相当な手練れでなければならない。
まるで、ヤドカリのような見た目であり、あのバックパックも異様だな。
螺旋状の切れ込みがあり、形状自体は円だが。
恐らくは、何らかのシステムを作動する事によってアレが展開されるんだろう。
どんな仕掛けなのかは分からないが……少し不気味だな。
大量に降りて来るそれらを見ていれば、誰かが歩み寄って来た。
その人物の姿を確認して、俺は顔を引き締める。
軍の制服を着て、帽子を取った彼はにこやかに笑いながら声を掛けて来た。
「お久しぶりです。地形の確認中ですか?」
「えぇ、まぁ……アレ等のメリウスは最新型ですか? 軍用には見えませんが」
「あぁアレですか……アレは正式には軍用ではなく。カメリアを守るために作られた”執行用メリウス”です」
「……執行用? 何だよそれ。聞いた事ねぇぞ」
「ミッシェル」
「はは、構いませんよ……聞きなれないのも当然です。執行モデルが使われる事は滅多にありませんからね……アレ等は世界にとって最も危険度が高い組織などを速やかに排除する為に作られたモデルですから」
ジョットさんは笑みを浮かべながら言う。
しかし、その目は冷たく軍人の目だった。
執行用か……憶えて置いた方が良いだろう。
読んで字のごとく刑を執行する為のメリウス。
その刑は概ね死刑であり、アレと戦った人間は死ぬのか。
厄介であり、もしもアレを敵に回せばどんな事になるのか……ジョンには悪いが、見ておきたい。
神と敵対するかは分からない。
ノイマンだって適応剤が抜けたとはいえ信用できない。
両親を死に追いやった原因なのは確かだが。
今の俺の心に従うのであれば……奴の口から聞きたい。
何故、あの場所に奴がいたのか。
そして、何故、俺にこんな力を与えたのか。
記憶だってそうだ。何故俺は、今の今まで大事な記憶を失っていたのか。
全てが知りたい。知らなければ先には進めない。
神との契約なんて関係ない。
俺は俺の意思でノイマンと会い。どうするかを決める。
もしも、アイツが本当にどうしようもないクズであったのなら殺す。
そうして、俺はエマを復活させて自由を手にする。
それで神との繋がりは絶っておしまいだ。
鍵が欲しいならくれてやる。俺にはどうでもいい事だから。
だが、もしも。ノイマンという男が両親の事を……っ!
目の前に碧が広がる。
思考に耽っていて気づかなかった。
それは大きく開いた目で――俺は大きく後退する。
そこには人が立っていた。
小柄な体格の少年で、赤い変わったコートを着ていた。
彼は目を細めながらにしりと笑う。
「君がナナシだね! うんうん、分かるよ! 不思議な匂いがするからね!」
「……彼は?」
「……エーミール。エーミール・レングナーです。青いコートを着たのがフランソワ。双子の兄弟で、私の部下です」
「……彼らも戦うんですか?」
俺が眉を顰めながら聞けば、双子はむっとした顔をする。
どういう意味なのかと聞かれて、俺は思った事を口にする。
「君たちは軍人じゃない。明らかに個に特化しているだろ?」
「「――!!」」
「……何故、そう思うんですか?」
ジョットさんが目を細めながら聞いて来た。
双子は大きく目を見開いて笑みを浮かべている。
「……何となく、ですかね……彼らは強い。だが、それは集団戦によって発揮される力では」
「――君、やっぱりいい人だね! 僕好きだよ、君みたいな人! フランソワもでしょ!」
「うん! この人は良い人だ! だって他のいけ好かない大人みたいな事言わないし!」
双子は俺の周りを取り囲む。
そうして、猫のように目を細めながらじゃれついて来た。
何なんだと思いつつ見ていれば、ジョットさんはやれやれと首を振る。
「……彼らはこう見えて……いや、どう見ても自信家で。周りから子供扱いされる事をひどく嫌っているんです……だから、一人の戦士として評価してくれたことを嬉しく思っているんですよ」
「……そうなんですか……まぁ、俺も十二からメリウスに乗っているので……」
「え!? そうなの!! 凄い凄い!! じゃほとんど同じだ! 君も苦労したよねぇ。周りの視線とかうざかったでしょ?」
「そうそう! アイツ等、弱い癖にプライドだけはあるからさ。僕たちに勝てないからってひがみばっかで」
「……大変だったんだな」
ぺらぺらと喋る双子。
俺がそう言うと二人は気分を良くして更に話しかけて来た。
何故か、手を引かれて自分たちのメリウスを見せてあげると言われてしまう。
俺は流石に今からはダメであると断ったが、双子はそれでもと手を引いて来る。
強情な性格だと思っていれば、ジョットさんが優しく手を振りほどいてくれた。
「……お前たち、任務を忘れるな。此処へは友達を作りに来たのか?」
「……何だよ。別にいいじゃん。まだアイツ等来てないし」
「それでもだ……すみません。ご迷惑をお掛けしました。私の方からきつく言い聞かせますので……先に行け。メカニックには話してある」
「……チッ……ナナシ! またね!」
「任務が終わって、また今度会えたらさ! その時は――僕たちと戦ってよ!」
「……? あぁ」
戦ってと言われて返事をしてしまう。
双子は約束だと言って走って行ってしまう。
戦うというのはシミュレーターなどの話だろうと思うが……少し嫌な感じがした。
一瞬だけ、双子から殺気を感じたのだ。
俺は気づかないふりをしていたが、ヴァンは少し表情を硬くしていた。
ジョットさんは今夜中に招集が掛かり、全ての兵士や傭兵に作戦を伝えると教えてくれた。
「それでは、また……因みに、アレ等のメリウスの名前は”ハーミット・クラブ”といいます。しゃれた名前でしょう」
「……面白い名前ですね」
彼は最後にそれだけ言って去っていく。
俺は頭を下げて見送った。
「……何か。嫌な予感がするな……執行用を持ってくるなんて。やっぱりアイツは代行者なのか?」
「……分からない。だが、用心に越したことはない……ライオット、ドリス。アレが近くにいたら警戒しろ」
「お、おぅ!」
「は、はい!」
海辺の調査はこれで終わりだ。
次は円を描くように島内部を調べよう。
俺はそうヴァンに言って歩き出す。
§§§
街の散策を終えて、宿へ戻って来た。
肩に積もった雪を軽く払い、部屋へと戻ってシャワーを浴びる。
温かい湯が冷えた体には心地よく。
思わず深い息を吐く程だった。
街を歩きながら話したから、二人との認識の差もないだろう。
恐らくは中心部にある建物の中で会議が開かれるが。
周囲に展開された防衛装置はかなり強力なものが多い。
そう、”過剰と思える”ほどに……どういう事だ。
確かに、今回の会議にて集まる面々は大物ばかりだ。
しかし、相手は単なるテロ組織だ。
国家が相手でもなければ軍隊でも無い。
組織の戦力で言うのなら、高々数千人の規模だろう。
如何に、相手が知略に長けた怪物であろうとも――”戦略兵装”を持ち出す理由にはならない。
素人には分からないだろう……だが、俺はアレを一度だけ見たことがある。
小型の”小宇宙炉”を積み込んだ戦略兵器。
大型の重戦機に偽装した兵装であり、”超長距離用ロングレンジ雷砲”だ。
その一撃は神の雷と表されるほどの威力であり、どんなに硬い装甲の兵器であろうとも貫ける。
一瞬にして空に展開された空軍部隊を殲滅する様は”理不尽な暴力”そのものだ。
条約により使われる機会が極端に少ない兵器である筈なのに。
少なくとも中央付近に”三つ”も確認した……これは異常だ。
ただのテロリスト相手に、戦略兵器を三つだぞ……状況から見てもおかしい。
アレを配置させたのは、恐らく神に他ならない。
他に責任を取れるような人間はいないのだ。
いたとしても、三つも配置した何て世間に知られれば非難されるのは火を見るより明らかで。
それすらも黙らせる事が出来る存在は、やはり神以外にはいない。
奴との契約時に、ジョンの事は言われていない。
アイツ自身は何とも思っていないのかと思ったが。
異様な光景の所為で、奴がジョンの事を危険視していると疑いたくなる。
そうでもなければ、何故、あんなものを三つも持ち出すんだ。気がくるってるとしか言いようがない。
単なる牽制目的での配置か。それとも、実際にアレを使う場面が訪れると予見しているのか……。
……何方にしろ。あんなものを置かれたら、嫌でも意識する……敵も味方もだ。
くれぐれもアレの射線に入らないようにしなくてはならない。
万が一があっても駄目だ。アレの威力は本物であり、その威力はこの目で見ている。
一瞬だ。瞬きの合間に強い閃光が迸って、次の瞬間には空を覆うように展開されていた爆撃機やメリウスが消えていた。
全てだ。一瞬にして塵も残さずに消えたんだ。
アレはもう戦いとは呼べない……ただの一方的な虐殺だ。
形すら残さないなんて危険すぎる。
今思い出しても震える光景で……シャワーを止める。
水滴の音が響いて、俺は息を吐く。
見てしまったのなら仕方ない。
忘れようとしてはダメだ。アレは記憶に留めておかなければならない。
そうでもしなければ、不意の瞬間に全てが消えてしまう。
一体ジョンは、どうやって此処を攻略する気なんだ……?
執行用メリウスに手練れの兵士たち。
そして、戦略兵器に代行者と思わしき人間もいる。
そんな中で、奴はどうやって会議に集まる人間たちを異分子化させるというんだ?
空からも海からも、侵入できるような穴は無い。
だが、奴は必ず現れる。
奴自身じゃなくても、必ず奴の組織の人間は此処に来る。
その時は俺が全力で――奴を止める。
……殺さなくてもいいのなら、殺したくはない……が、もう此処まで来たら……っ。
SQたちの願いを踏みにじる事になる。
ノイマンや他の奴らはどうでもいい。
しかし、奴に対しては少なからず……情はある。
アイツの言葉に嘘は無かった。
真っすぐに俺を見ていて信じてくれていた……たぶん、それは信じていい。
ノイマンに接触する為の手土産になるのがジョンで。
SQの願いと約束の事もあったからこそ生きたまま捕えたかったが。
この場には俺たち以外の人間が多くいる。
そんな中で奴を捕らえた逃がす事なんて出来ない。
確実にこの場に集まった全員がもれなく敵になるだろう。
……諦めるしかない……奴を殺すしか道は無い。
「……そうだ。殺すしか……」
拳を握る。
そうして、シャワー室から出た。
作戦会議がそろそろ始まるだろう。
さっき詳細が伝えられて、全員で向かう事になっていた。
どのような作戦で、どのような配置になるのか。
不安と期待が心の中で渦を巻く……俺の中には、まだ”迷い”があるのか。