【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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143:触れてはならない存在(side:碧い獣)

 マップを展開しビーコンを追う。

 月明かりの下。真夜中の海上を猛スピードで飛行しながら、私はシステムを再度チェックする。

 エネルギー供給路も戦闘システムにも異常はない。

 背中のもの以外は通常通りのパックで来たが、問題はないだろう。

 

 轟轟と音を立ててエネルギーが噴射されて。

 小刻みに機体が揺れて、振動がコックピッド内に伝わる。

 計器の音を聞きながら高度を保ち、海面に視線を向けながら注意を払う。

 

 此処まで来るのに使ったハイブースターの出力も安定していた。

 超長距離での移動を短縮する為に開発されたそれは、見かけはゴテゴテとしたロケットのような形状だ。

 三方向に向けて伸びる予備ブースターが取り付けられて姿勢を安定させて速度を一定に保つ。

 燃料は内臓式であり、此処まで来る為にたんまりと入れてある。

 連絡はしており、既にこの海域から離れた場所には我々の機体を回収する為の潜水艇が待機してあった。

 目標を発見し速やかに制圧。そして、ターゲットを回収次第潜水艇に乗り込み離脱する。

 

 警戒を怠る事無くレーダーを常に確認し。

 センサーを動かして横を見れば、見慣れた漆黒のメリウスが飛んでいる。

 同じハイブースターをつけて飛行していて、私はハンドサインを送った。

 

 並走するSJのメリウス――”アンブッシュ”はハンドサインを送り返してくる。

 

 ジョンが乗る輸送船に近づいている。

 恐らくは、敵のレーダーには捉えられているだろう。

 情報によれば古い貨物船に偽装した兵器輸送船であり、そこにジョンは乗り込んでいる。

 一隻だけではなく、別ルートでも船を向かわせている様だが……何を企んでいる。

 

 メリウスを運ぶのなら、輸送機の方が遥かに良い。

 対空ユニットが展開されていても、高高度からなら降下作戦も取れる。

 いや、そもそも奴の目的は虐殺ではない。

 そこに集まった人間たちの異分子化で。

 その為にメリウスや他の兵器を用意するなど、無意味ではないのか……?

 

「……」

 

 考えても仕方がない。

 話なら後でも出来る。

 今は兎に角、未然に奴の作戦を止めるのが先決だ。

 

 これは奴らに発見される事を覚悟した作戦であり、スピードが要求される。

 ハイブースターのお陰で距離を縮める事は出来た。

 このまま奴の船へと一気に向かい制圧する。

 そうして、奴を連れ帰りノイマンに――!

 

 システムが警告を発した。

 私はそれを聞くよりも早くに手足を動かした。

 ブースタのサブスラスターを動かして、一気に下へと降下する。

 瞬間、遥か彼方より弾丸が飛来し、私の機体の頭を掠めていく。

 機体が軽く揺れて映像にノイズが走り、私はSJに戦闘態勢に入る様に指示する。

 

 その間にも連続して弾丸が飛ぶ。

 全てを回避し続けるが、重く小回りが利かないこれでは不利で――止むを得んな。

 

 ハイブースターをパージする。

 ガコリと音がして、背中のそれの固定が解除された。

 接続が切れた事によって機体のメインとサブのスラスターが自動で点火した。

 そのまま放たれる弾丸を回転しながら避けて――見つけた。

 

 敵との距離と射角を計算。

 潜伏している場所を特定し未来視の力で精確な位置を割り出し――ブーストした。

 

 我が愛機、”サンドリヨン”の全力の加速。

 迫り来る弾丸は装甲を薄く撫でる事しか出来ない。

 否、私がそう仕向けているだけだ。

 回避行動を取っていれば敵との間合いを詰めるのに時間を要する。

 最短最速で敵を屠る。

 

「――神度(カムド)

 

 愛剣の名を呼ぶ。

 我が声に呼応し、剣に白き輝きが満ちる。

 私は敵の弾丸を全て回避し、加速の勢いを使って剣を大きく振るう。

 白き力が波となり、閃光となって姿を隠す敵へと向かう。

 触れれば最期。これで決まる――違うな。

 

 私の斬撃が当たる。

 空気が大きく振動し衝撃波が発生した。

 が、致命傷を与えた音ではない。

 弾き飛ばした音であり、ジジジと音を立てながら何かが姿を現す。

 

 私は機体の速度を上げながら、それへと向かって斬撃を放つ。

 奴が動く――速いッ!!

 

 轟音を立てながら動く巨人。

 残像が生まれるかのような速さで。

 そいつは宙を翔けながら、手に持ったハンドキャノンを私に向けて放つ。

 銃口に光が集まり。放たれたそれが眼前に迫り、機体を逸らす。

 バチバチと音を立てる青いエネルギー弾であり、通常のエネルギーの色ではない。

 

「万象――いや、奴らのか」

 

 巨人が頭上へと昇る。

 そうして、大空で機体を制止させた。

 丸い月を背にしながら、奴の機体が完全に姿を現す。

 

 手足が太くゴツゴツとした白い機体。

 特徴的な背中の巨大なバックパックからは凄まじい熱量のエネルギーが噴き出していた。

 その手には二つの黒光りするハンドキャノンを持ち。

 頭部はブレードアンテナが丸みを帯びたそれに沿うように後ろへと伸びていて。

 キラリと光る二つのライン状のセンサーからは強く鋭い殺気を感じた……大物が出たな。

 

 

 

《”オラース・ヴェルネ”……この機体の名だ。冥途の土産に憶えておくと良い》

「……代行者ベン・ルイスか……お前が立ちはだかるとはな」

 

 

 

 通信を繋いできた代行者。

 不遜な態度であり、何処までも傲慢な男だ。

 奴は私を見つめながら、ゆっくりと両手のハンドキャノンを広げる。

 そうして弾丸を放ち――ッ!!

 

 横へと放たれた弾丸が進路を変える。

 此方へとホーミング弾のように向かってきていた。

 私はそれを神度の斬撃で打ち払う。

 全てを切り払い衝撃波が伝わり、奴は重そうな機体を軽やかに動かして私を追ってきた。

 

 あり得ない。アレはどう見ても重装甲型だ。

 それなのに、軽量型と同じような俊敏さがある。

 離れた此方にまで伝わる爆発音。連続して発生するそれは凡そスラスターの音とは呼べない。

 が、恐らくはアレほどの爆発が無ければあの機体が俊敏に動く事は出来ないのだろう。

 

 恐らくは、あの巨大なバックパックが凄まじい推力を生み出している。

 あの音と見た目だけで、その異常な性能にも予想がつく。

 となると、エネルギーの消耗量もかなりのもので――攻撃だ。

 

 追って来る奴へと白き斬撃を放ち続ける。

 奴はそれをブーストによって回避していく。

 そうして、ハンドキャノンで此方を執拗に攻撃してきた。

 私は攻撃をしながら、その光弾を回転によって躱す。

 が、外した筈のそれは円を描くように回って再び私を追いかける。

 

 ホーミングなのか――いや、違う。

 

 エネルギーそのものに追尾性能を付与する事は不可能。

 ならば、ホーミングをしているように見せているだけだ。

 それをしているのはやはりあの機体で――SJッ!

 

 視界の端に映ったSJ。

 奴もハイブースターを切り離して何かと戦っていた。

 姿を消している事から、あれが最初に攻撃してきた敵だと認識する。

 苦戦しているようであり、私は機体を旋回させながらSJの元へ行こうと――ッ!!

 

《行かせないよ》

「――ッチ!」

 

 奴がブーストによって私の道を塞ぐ。

 そうして、間髪入れずに光弾を放つ。

 至近距離からのそれを機体全体に白いエネルギーを纏わせて防ぐ。

 が、完全には威力を殺しきれなかった。

 背後から迫るそれを一刀の元に斬り伏せて、衝撃波と共に奴から距離を取る。

 

 機体の損害状況は……大丈夫だ。

 

 見たところ、まだ奴は本気を出していない。

 流天も灰燼も使っていない……回禄すらもだ。

 

 力を隠しているのか。それとも本気でやりあう意志が無いのか。

 私は迷った末に奴へと言葉を送った。

 

「何故、貴様らが私たちの邪魔をする。この先で誰がいるか、分からない訳ではないだろう」

《知っているさ。知っていて君たちを止めに来た……彼はこのまま行かせる。それが主の御意思だ》

「……何?」

 

 互いに会話しながらも攻撃を続ける。

 私は回避行動を止めて奴へと接近した。

 奴も私へと向かってくる。

 私はそのまま奴を斬り伏せようとして――かち当たる。

 

 奴が獲物をクロスさせて攻撃を防ぐ。

 エネルギーの性質は変わっていないが。

 奴は武器にそれを纏わせていて、自分の意思で完璧に操っていた……やはり使い手だな。

 

 

「意思とは何だ。このまま奴の起こす悲劇が見たいのか」

《ふふ、違う。君たちにとっては悲劇でも――主にとっては喜劇となる》

「……ふざけるな。異分子だけじゃない。ただの人間ですら危うくなるんだぞ。それを分かって」

《――分かっているさ。だからだよ、”プロトタイプ”》

 

 

 奴が呟く。

 それは禁句で、それは私を穢す言葉で――ぶつりと音がした。

 

 

 

「――その名で私を呼ぶなッ!!」

 

 

 

 流天の濃度を更に高める。

 激しい光が迸り、神度が共鳴するように甲高い音を発した。

 ギリギリと奴へとブレードを押し当てていく。

 奴の獲物にビキリと罅が入ったのが見えた。

 そうして、機体の出力が上昇しそのまま奴を獲物ごと斬ろうと――ッチ!

 

 弾丸が迫る。

 本能でそれを回避した。

 しかし、姿勢が乱れた事で奴はそのまま奴は自らの獲物で私のブレードを弾く。

 そうして、コックピッドに向けて重い蹴りを放つ。

 激しい音を立てながら機体から嫌な音が響いた。

 バチバチとスパークを起こしたが。咄嗟に流天をコックピッドの集中させたお陰で致命傷は防げた。

 

 大きく距離を取られながらも姿勢を一瞬で安定させて奴を探す。

 何処だ。何処に――下ッ!!

 

 ブーストによれ後方に下がる。

 瞬間、下から光弾が上がっていく。

 危なかった。一瞬でも遅れていれば黒焦げで――怖気が走る。

 

 ぞくりとして私は本能のままに、流天を全て腕に集中させてクロスさせる。

 瞬間、頭上に上がった光弾が弾けて雨のようにそれらが周囲に飛び散った。

 細く鋭利になったそれが私の機体の腕に刺さりズクズクと装甲を溶断する。

 

 流天を纏わせたのに貫通した――これは私の知っているものではない。

 

 分かる。同胞だから分かるんだ。

 奴が作り出し運用しているエネルギー。

 その製造方法が分かってしまう。

 アレは万象のように家畜を使っている訳ではない。

 もっと単純でもっと残酷で――より”質の良い”ものだ。

 

 私は怒りの頂点に達する。

 ビキビキと血管が浮かび上がる音がした気がした。

 私は強く奴を睨みながら――黒きエネルギー”灰燼”を纏わせる。

 

 

 

「腐れ外道がッ!!!!!」

《はははは! どの口が言う偽善者めッ!!!》

 

 

 

 灰塵を纏ったブレードを全力で振るう。

 黒き半月が奴へと迫り、奴は腕をクロスさせていた。

 

 奴は回避も攻撃もせずに私の攻撃を受ける。

 強い怒りと殺意によって生まれたエネルギーだ。

 破壊の性質を極限まで高めたそれは触れたもの全てを溶かし尽くす。

 真面に受けた奴の機体の装甲が溶けていく。

 そうして、奴の機体は大きく後退していき奴のセンサーが――”妖しく光る”。

 

 私はそれを見つめながら――

 

 

 

 違和感――強い違和感。

 

 私たちが優勢だ。奴は致命傷を負った。

 

 なのに心が全く安心しない。

 

 何だ、これは――心が強く警鐘を鳴らす。

 

 

 

「――SJッ!!! 撤退だッ!!!」

《――了解ッ!!!》

 

 

 

 灰燼が消える。

 代わりに流天へと切り替わり、私はそれを全てスラスターに回す。

 SJも相手からの攻撃を無視して逃走を選択した。

 片手間で潜水艇にメッセージを送り、作戦の中止を知らせる。

 

 奴を見る事はしない。

 奴を見るだけの余裕は無い。

 心が全力で逃げろと言っている。

 アイツを見た瞬間に、殺されると心が告げていた。

 

 分からない。何も分からないのに――従うしかないと分かる。

 

 

 

 逃げろ。逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ逃げろ――逃げるんだ。

 

 

 

 ダラダラと汗が流れて呼吸が大きく乱れる。

 そんな中でも奴らの敵や殺気は消えやしない。

 追ってこない。ただジッと逃げる私たちを見ていて――声が聞こえた。

 

 

 

《次は――眠らせよう》

「……っ!!」

 

 

 

 心臓がバクバクと鼓動する。

 呼吸が出来ないほどに苦しい。

 こんなにも激しく脈打っても、体は死人のように冷たくかった。

 

 私とSJはこの時に本能で理解した。

 あのまま戦っていたら確実に二人共死んでいた。

 勝てる見込みはゼロだった。

 驕りも慢心も無く、全力で戦って羽虫のように殺されていた。

 

 アレは人間ではない。化け物でも無い。

 代行者という地位を与えられた他の人間とも異なるもので――”暴力”そのものだ。

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