【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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144:走る閃光

 雪がしんしんと降る。

 雲の切れ間からは太陽が顔を見せているが温かさは感じない。

 と言っても今は機体の中であり、寒さは微塵も感じていなかった。

 ロイドからの言葉を聞きシステムの最終チェックを終わらせて。

 俺は周りへと視線を向けていた。

 

 

 世界各国の首脳が集まり、今――世界会議が開かれる。

 

 

 船から降りる彼らの顔はどれも見たことがあった。

 一様に不安げなを顔をしているものの、言動でそれを表す事はしない。

 皆が皆、首脳たちと談笑しながら中央の会議場へと向かっていた。

 それをメリウスのモニター越しに確認しながら、俺は静かに息を吐く。

 

 港で待機している南部防衛戦隊。

 此処で停泊していた戦艦は既に遥か海の彼方へと言ってしまった。

 彼らが第一防衛ラインを担う部隊であり、突破されれば俺たちの出番だ。

 それでも防げなければ、最終防衛ラインの戦略兵器たちを使う事になる……それだけは防ぎたい。

 

 第二で全ての敵を屠る。

 此処にはメリウスの他にも対空ユニットが数多く配備されていた。

 そして、他の部隊の人間たちも漏れなく精鋭で。

 ここまで過剰な戦力を投入したのだから、テロリストに負ければ世界の笑いものだ。

 

《静かですね。不気味なほどに……嵐の前の静けさでしょうか》

「……不吉な言葉だが……その通りだな……彼らは知らないだろう。ジョンが頭のキレる男と言う事を」

《……ナナシ様は”信じて”いるのですね。彼が現れる事を》

「……信じざるを得ない……アイツには隠しきれないほどの野望があるからな」

 

 奴は来る。確実に現れる。

 此処に集まった人間たちも理解している。

 だからこそ、守りを固める他なかった。

 リモートでの会議は出来ない。

 そんな事をすれば、会議の内容自体を改ざんされる恐れがある。

 顔を合わせて話し合い、その時に記録を取らない限り。

 世界が動く事は出来ないんだ……人というのも面倒なものだよ。

 

 

 

 組織として、世界の意思として――彼らは集まらざるを得なかった。

 

 

 

 誰もこんな島で会議が開かれるなんて思わないだろう。

 俺自身も依頼の話が来なければ分からなかった。

 だが、事実。彼らは此処に集い、テロ組織の対応について協議を始める。

 

 邪魔するものはただ一つ――篝火だけだ。

 

 作戦会議が開かれ、そこに集まった兵士や傭兵たちの配置が決定された。

 傭兵たちで固めた東部戦線と熟練の兵士たちで固めた西部と北部戦線。

 そして、最も敵の侵攻が激しいと予想される南部戦線には、俺たちとジョットさんたちの部隊がいた。

 

 ジョットさんの機体は何故か見当たらないが。

 彼の部下である双子ともう一人の誰かが乗る機体が後方にて待機している。

 代行者の部下だから大層なワンオフ機に乗って来ると思ったが。

 細かく調整されているだけであろう量産機だった。

 見た事のある機体であり、第五世代型の軍用モデルであり北部に使われている”ジー・ゲッシュ”だろうか。

 

 箱状になった頭部には複合センサーが取り付けられており。

 複数のセンサーを同時に使う事によって敵の正確な位置や状態を判別するのに特化している。

 その索敵範囲は第五世代のメリウスの平均値の3.2倍ほどであり。

 今回のように混戦状態に陥る可能性が高い戦場では、最も適していると言える。

 その代わりサーマルなどの余分な機能を排している事が欠点でも利点でもある。

 

 軽量級ではないが、中量級の中では比較的装甲が薄く。

 足回りを重点的に強化している為に、脚部は太くがっちりしているのが特徴だ。

 足裏に一つずつと、膝裏にも一つずつ大きなサブスラースターをつけている。

 爆発的な火力を生み出し、並みのメリウスであればその蹴りだけで大破させる事も出来ると聞いたことがあった。

 腕部は武装を手で掴むようにはなっておらず。専用の”アーム”を接続する事によって操作システムを簡略化させてある。

 アームとは見ての通り武器そのものになった腕であり、あの双子であるのならマシンガンタイプを装備してあった。

 弾数は多いものの、弾が尽きれば腕そのものを交換しなければ戦う事が出来なくなってしまう。

 その為、あの量産型は熟練者向けのメリウスであり、生産数自体も小ロットだった筈だが……。

 

 青色のカラーリングのものと赤色のカラーリングのものが一機ずつ。

 ビリビリと強者の気配が漂ってきている……それよりも、あのもう一機は何だ。

 

 双子とは違って装備しているのは近接武器で。

 奇妙な形状をしたアイアンクローであり、アレで多対戦が可能なのかは疑問だ。

 だが、アイツからも強者の気配を感じるが……心がざわつく。

 

 あの灰色のメリウスからは嫌な気配を感じるが……今は気にしていられない。

 

 周りを見れば、カメリアの兵士の慣れ親しんだメリウスもある。

 同じ宿にいた兵士たちであり、俺の視線に気が付いて手を上げていた。

 少なからず一緒に生活していたが、悪い奴らではないと思う。

 アイツらプロであり、きちんと仕事は熟すだろう……最も警戒すべきは等間隔にて待機しているあのメリウスだな。

 

 ハーミット・クラブという名前のメリウス。

 正にヤドカリであり、その背中のものは一体どんな武装なのか。

 得体の知れないものが近くにいるだけでも、意識が削がれてしまいそうだ。

 ライオットやドリスの表情を見れば緊張した面持ちで……仕方ない。

 

「ドリス、ライオット……怖いか?」

《……あぁ怖いよ。どんなに死を体験したって……本物はもっと恐ろしいんだろうさ》

《……私もです……でも、もう後戻りは出来ない……皆さんの……ナナシさんの顔に泥は塗りたくありませんから》

 

 ライオットは本音を打ち明けて。

 ドリスはそれでもとやる気を見せていた。

 俺はくすりと笑いながら、昔の事を少し語る。

 

「……俺も初めての戦いは怖かった……怖くて怖くて……何も出来なかった。ただ銃を撃ち続けて逃げ惑い……気が付けばベッドの上だった……一緒に戦っていた仲間たちのほとんどが死んだ……生き残って次に進める奴らはほんの一握りだったからな……それでも俺は生きている」

《……運が良かったって言いたいのか?》

「……どうだろうな……運が良かったのもある。もしかしたら、この力に救われたのかもしれない……だが、その時に俺はこう思った……強くても弱くても、死ぬ奴は死ぬ……だったら、その逆もそうだ……弱くても憶病でも、生きる奴は生きるんだ……俺はお前たちは後者だと思っている」

《……そ、それは私たちが弱いって事ですか? ぅ、ぅぅ》

 

 ドリスが傷ついたような声を出す。

 俺は説明が難しいと思いつつ、伝えたい事を簡潔に伝える事にした。

 

 

 

「お前たちは死なない。絶対に死なない――俺がいるから」

《……はは、何だよそれ……でも、ありがとよ……確かに、お前と一緒なら何とかなりそうな気がするぜ!》

《えぇ、確かに……先輩。力をお借りします!》

 

 

 

 二人に、俺の気持ちが伝わった様だ。

 迷いはまだあるだろうが。もう怯えは無い。

 なるようになる。いや、生きられるように俺が守る。

 そして、そんな二人からも生きる意思を感じた。

 

 もう大丈夫だ。二人は強い。

 生きるという目標さえ与えれば自分で考えて動ける。

 ただ俺に守られるだけの弱い存在なんかじゃない。

 二人は俺が考えている以上に――っ!

 

 島全体に警報が鳴り響く。

 ビリビリと空気が振動するほどの大音量で。

 地下のシェルターに避難した島民たちにも聞こえているだろう。

 それは敵の接近を知らせるもので――やはり来たか。

 

 絶対に此処の位置は見つけ出すと思っていた。

 どんなに巧妙に居場所を隠そうとも、情報を規制しようとも奴らは見つけ出す。

 何故ならば奴はノイマンの元右腕で、俺が出会って来た誰よりも頭のキレる男だから。

 

《所属不明機を多数確認。第一防衛ラインを突破――総員、戦闘態勢に入れ》

「……仕事の時間だ」

 

 俺はライオットたちに声を掛ける。

 彼らは静かに頷いてから通信を切る。

 戦闘システムを起動し、武器を構える。

 今回の戦いではスピードが要求されるだろう。

 最初はアサルトで挑もうと思ったが、ライトニング変更した。

 

 あの不気味な量産型と同じだが……少なくとも、こいつはアレよりは格段に速い。

 

 こいつの速度は既に何度も経験しているが。

 高機動に慣れていた俺ですら最初は嘔吐していた。

 安全性に問題ないと言っていたのに、こいつの速度はハッキリ言ってイカれている。

 網膜とシステムをリンクさせる事で、無理やりにこの速度に対応できるようにしているが。

 そのせいで凄まじい揺れなどが脳に直接作用するような鬼畜仕様だ。

 

 

 速さは問題ない。手数の多さと俊敏性なら間違いなく――世界一だろう。

 

 網膜リンクを開始――接続完了。

 

 

 映像が鮮明になり、周りの景色を肉眼で見ているように感じた。

 ズームをしながら、前を見れば……”黒い靄”?

 

「……アレは……違う――機械虫かッ!」

 

 機械虫――インセクター・ボットと呼ばれる遠隔機械だ。

 

 虫のように高速で飛び回り、触れたもの全てを爆殺する兵器で。

 安価な値段に単純な機構をしている事からテロリストたちが好んで使うものだ。

 だが、空を覆うほどの靄であり数が恐ろしいほどに――行くしかないッ!!

 

 考えても時間の無駄だ。

 この島の上陸したが最期で、此処にいる全ての島民や兵士たちが殺される。

 アレほどの数を近づけさせたらそうなるのは自明の理だ。

 だったら近づく前に、全てを――始末する。

 

 二人にメッセージで地上から射撃戦に徹するように指示する。

 そうして、俺はスラスターを噴かせて大きく飛び上がった。

 

「――っ!」

 

 グゥンと視界が一気に広がる――凄まじいGだ。

 

 軽く噴かせただけだ。しかし、一気に島から距離を離し翔けていく。

 体に掛かる負荷を極限に抑えても、尚、体を圧迫するような感じがする。

 俺はニヤリと笑みを浮かべながら外套をはためかせてブレードを展開した。

 

 甲高い音を立てて刃が激しく振動する。

 そのあまりの振動に刀身が赤く発熱し輝いていた。

 俺は機体を回転させながら、眼前に迫る靄の中へと――突っ込む。

 

 ブレードを腕ごと回転させる。

 そうして、風と共に迫り来る虫をバターのように切断していった。

 激しい金属音が響き渡り、視界全体が黒い金属と飛び散るオイルに満たされて。

 俺は笑みを深めながらも、その靄の中を翔けぬける。

 

 爆発させはしない。爆発する前に断ち切る。

 虫たちの羽がもぎ取れて、それでも尚進もうとするそれらはひらひらと海上へ落ちて爆散した。

 

 更に加速――奥歯を強く噛みしめる。

 

 全身を締め付けるような感覚。

 一瞬にして遠ざかる爆発音と、鋭く研ぎ澄まされたような風きり音。

 そして、目の前で飛び散る虫たちの残骸。

 俺は心を高揚させながら大空を舞う。

 全てを屠る。全てを片付け、俺だけが空を翔ける為に。

 

 ギャリギャリと音が響き。

 視界が線香花火のようにバチバチと弾ける。

 火の粉が舞い、小さな閃光が目の前でずっと起きていた。

 機体に掛かる残骸の衝撃と刃で金属を立つ感触。

 何故か、それを感じるようで――体が熱くなる。

 

「――はは!」

 

 機体を回転させながら、靄から抜け出す。

 ばさりと外套をはためかせれば、付いていた虫のオイルが飛び散った。

 太陽を背にしながら、俺へと向かってくる靄の一部。

 それを見つめながら俺は腕をクロスさせて――加速。

 

 連続してブーストし、靄へと飛び込む。

 触れた瞬間に爆発する様に設定されたそれ。

 だが、俺の愛機のあまりの速さに反応できていない。

 爆発する前に俺が切断し、後になって爆発していた。

 まるで、遠方で花火が上がったような感覚で――まだまだだッ!!

 

《す、すげぇ。アレが》

 

 ライオットの声が聞こえた。

 俺は彼に警戒を緩めるなと叫ぶ。

 彼はびくりとしながらも俺の言葉に応えてくれた。それでいい。

 

 風となる。大空を舞いながら、全ての黒を断ち切る。

 ガラガラと音を立てながら残骸が舞い。

 全てを外套で弾きながら、俺はブレードを振るい続けた。

 

 こんなもんじゃないだろう。

 お前がこの程度の機械たちで満足する筈はない。

 これは前菜で、次の手があるんだろう。

 

 ねじ伏せてやる。

 お前の全てを破壊し、お前の計画ごと仕留める。

 最早、俺たちに言葉なんてものは無意味だ。

 だったら、最後まで敵として――殺し合うだけだッ!!

 

 虫の一部が加速した。

 靄の中から抜け出し、島へと迫り――させない。

 

 思念でコマンドを与えた。

 ペダルを強く踏めば、体がゴムのように伸ばされた感覚を味わい――虫たちの前に移動する。

 

 加速でもブーストでも無い。これが縮地だ。

 強い吐き気を覚えながら笑みを浮かべて、ブレードを回転させて虫たちを切り裂く。

 バラバラになった残骸を払いながら駆け抜けて。

 俺は島へと上陸する前に、虫たちを全て片付ける勢いで切り払って行った。

 

《……おいおい、俺たちの出番は無しか。猟犬》

「あるさ。まだ後だがな」

《……楽しみにしているぜ。英雄殿》

 

 カメリアの兵士の言葉を聞く。

 俺はそれに答えながら、更に機体を加速させた。

 連続して発生する爆発音。

 それと共に体の内臓がぐるぐると動くような不快感を抱くが問題ない。

 

 俺は笑う。

 地獄を生み出そうとする悪魔の狙いを考える事も無く。

 俺はただ笑いながら、一方的に全ての機械を屠っていった。

 

 さぁどうする。次の手は何だ――全部、壊してやるよ。ジョン。

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