【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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145:正義の衝突

 機械虫を殲滅していく。しかし、取り逃がした奴らが島へと攻め込もうとしていた。

 そんな奴に目掛けて島にいる兵士たちは攻撃を開始。

 対空ユニットも使った事で、中央へと向かえる奴はいなかった。

 濃い弾幕が展開されて、空気が揺れるほどの振動が伝わる。

 閃光と共に爆炎が広がり、空は雪の白さを塗り潰すほどに黒が広がっていた。

 

 俺は空中に停止しながら、あちらは問題ないと認識する。

 オープン回線越しに、他の戦線の部隊も交戦を開始した事を知り。

 俺はそのまま水平線の彼方に視線を向けた……何だ。この違和感は。

 

 可笑しい。次の一手を打ち込んでこない。

 機械虫で対空ユニットを引き寄せて海上から攻め込んでくると思っていたが。

 船らしきものは一隻も見えない。

 いや、それどころか機械虫がもう少しで殲滅されるというのに何故、一機もメリウスの姿が無いんだ。

 乗り込んでくるのなら強襲艦などを使うと作戦でも考えられていたのに……ダメだ。違和感が拭えない。

 

 残りの機械虫の殲滅はライオットたちに任せる。

 俺は機体を操作して移動を開始した。

 島から離れながら、ロイドに指示を出す。

 

「ロイド、索敵をしてくれ。範囲を広げてな」

《了解…………敵影確認できません。ステルスの可能性もないでしょう》

「……空でも海からでも来ない……どういう事だ」

 

 機体を一時的に停止。

 そのまま海上へと視線を向けた。

 変化は無い。いや、無さすぎる。

 

 ロイドの言葉を疑っている訳じゃない。

 しかし、アレほどの数の機械虫を用意してただ特攻させるだけなんておかしすぎる。

 囮として使うのなら分かるが、後続の部隊の影すらない。

 

 

 俺は不審に思いながら――何だ?

 

 

《――こ――し――き――ぁ――――…………》

「……ロイド。何処からの通信だ。オープン回線だが、様子がおかしかった」

《確認します…………海上からです。通信をしたのは第一防衛ラインにいた戦艦です。信号は――途絶しています》

「――っ!」

 

 

 信号途絶。つまり、撃沈させられたという事だ。

 何処からだ。肉眼では見えていない。

 レーダーによる索敵をもう一度開始して……ダメだ。何も反応が無い。

 

 目視での確認も、海上を進む船も無いのなら――海中かッ!!

 

 俺は通信をすぐさまに繋ぐ。

 オープン回線であり、全ての部隊に向けて叫ぶように報告をする。

 

「第一防衛ライン壊滅ッ!! 敵は海中だッ!! すぐに上がって来るッ!!」

《海中だとッ!? ふざけるな。水中戦モデルなんて奴ら何処で――ああぁぁぁ!!!?》

「何だッ! 何があったッ!?」

《敵だッ!! 海中からミサイルを撃ってきやがったッ!! クソがァァ!!!》

 

 他の戦線の兵士から声が上がる。

 俺たちがすぐに見破る事を想定し、他の部隊への攻撃を速めていたのか。

 ミサイル攻撃を受けたという事はかなりの距離まで近づかれている――それならッ!!

 

 

 俺は機体を一気に降下させた。

 そして、そのまま海中へと潜り込む。

 上空でレーダーを使っても無意味。

 ならば、敢えて海中に潜り込んでソナーの要領でレーダーを使えば――いた!

 

「ロイド、マーカーを付けろ。仲間たちに情報共有もだッ!」

《既に終えています――敵機加速しました》

 

 マップ上の敵が速度を上げた。

 かなりのスピードであり、俺はブレードを振るう。

 眼前に迫った敵。俺の一撃をひらりと躱してからコックピッドを狙って赤く輝く指を――ッ!

 

 縮地を作動。

 再び体がゴムのように伸びた感覚が俺を襲い、一瞬にして機体が移動した。

 各部のスラスターから発生する熱が、ボコボコと気泡を発生させていた。

 吐き気と悪寒が走っていた。あのまま戦っていれば死んでいただろう。

 

 奴の攻撃を回避し、海中で漂う。

 両手のブレードを構えながら、敵へと向く。

 暗い海中では姿が朧気だが、そのセンサーは赤く発光し俺を見ていた。

 奴は単眼センサーで俺をチラリと見てからそのまま島へと向かう。

 スラスターなどはついていない。

 ジェットスクリューのようなもので海中を猛スピードで移動していた。

 

 正確な数は分からないが……恐らく十や二十ではない。

 

 レーダーで発見できるだけでも等間隔に敵影があり。

 ざっと見ただけでも五十機はいそうだ。

 水中専用のメリウスなんて数は多くない上に、これだけの数を短期間で揃えるのは不可能だ。

 恐らく、ジョンはずっと前から戦場が此処になると分かっていた。

 分かった上で入念な準備をしていたんだ。

 

「目視で確認できた機体データを転送する……イメージは伝わったか」

《誤差を修正――転送します》

 

 ロイドが俺が見た敵の情報から誤差を修正しデータを送る。

 これで少しはマシな戦いが出来る筈だが……。

 

 形状は丸みを帯びていて頭部が胴体部に埋め込まれているように見えた。

 恐らく全長は通常のメリウスよりも小さく八から十メートルくらいだろう。

 水中を高速で動くために無駄な装甲を外し、出っ張りを無くすことによって水の抵抗を減らしたのか。

 手となる部分の指は尖っていて真っ赤に輝いていた事からヒート系の近接武装か。

 盛り上がった背中にはスクリューの他に発射口のような窪みが見えた。

 恐らく、アレが島へと撃ち込む為のミサイルなのだろう。

 

 俺は冷静に敵の情報を分析する。

 そして、島へと向かった敵を追いかけるように進む。

 が、海中での速度は明らかに向こうが上だ。

 これ以上潜られれば水圧に耐えられずに自壊してしまう。

 俺は海に潜りながら、敵をレーダーで観測し教える事しか出来ない。

 

 奴らが作った泡の軌跡を辿りながら必死に追う。

 どうする――もう一度縮地を使うか――だが、接触した瞬間に攻撃されたら最期だ。

 

 だが、このまま見過ごせば敵はミサイルを島へと撃ち込むだろう。

 頼みの綱は島にいる兵士たちで――

 

 

《私の出番ですねぇ。きひひ》

「……誰だ」

 

 

 ノイズ混じりの声。不気味な笑い声が聞こえた。

 瞬間、海中に新たな反応が――速いッ!!

 

 島から海へと飛び込んだであろうメリウス。

 それが一瞬にして敵との距離を縮めて――閃光が上がる。

 

 遥か先で爆発が起きた。

 一瞬で距離を詰めて敵を撃破したのか。

 いや、まだだ。謎の味方はそのまま海中を猛スピードで移動しながら次々と敵を沈めていく。

 手慣れている。まるで作業のように接敵した敵を一瞬で屠っていた。

 味方のビーコンから、それがあのジョットさんの部隊の量産機であると分かった。

 

 ……そうか。近接戦闘用のクローを装備していたのは海中戦を想定してか。

 

 脚部のスラスターも海中戦用にチューンナップしているんだろう。

 恐ろしい速さであり、もう俺が海中にいる必要はない。

 

「此処は任せた」

《……きひ》

 

 奴は返事をしない。

 不気味に笑うだけで……心がざわつく。

 

 奴に対して殺意すら湧くが。

 今はこの感情について考察している暇はない。

 幾ら奴が手練れで次々と敵を殲滅していても、既に奴らは島を捉えていた。

 

 俺は海中から勢いよく飛び出した。

 水の柱と共に空へと飛びあがり、そのまま一気に全てのスラスターを噴かせた。

 それと同時に海中を進む敵たちがミサイルを放つ。

 それらは対空ユニットでは撃ち落せない。

 水面ギリギリを飛行しながら真っすぐに仲間たちの元へと迫る。

 

 ライオットたちが撃ち落そうとする。

 幾つかは撃ち落せた。

 しかし、打ち漏らしが対空ユニットに当たりそれらが爆炎を上げながら爆ぜる。

 

 今ので、三分の一がやられたか……だが、味方は生きている。

 

 海中にいる敵たちがそのままの勢いで海中から飛び出す。

 そうして、島へと上陸し交戦を開始した。

 敵は小柄な体格であり、俊敏な動きで大地を駆けた。

 そうして、味方の弾丸を回避しながら連携を取って攻撃を始めている。

 

 

 俺はすぐに援軍に行こうとした――が、レーダーが何かを捉えた。

 

 遥か上空であり、雲の上を飛んでいるそれは――大型の輸送機かッ!?

 

 

 此処に来て複数の反応をキャッチした。

 そうか。機械虫を最初に使ったのは意識を第一防衛ラインから逸らす為で。

 第二陣として送り込んだ敵たちは、ミサイルなどを使って島にある対空ユニットを破壊する為か。

 上陸した敵はそのまま運動性能だけで仲間たちをかく乱。

 そうして、此処まで近づいて来た輸送機が増援を投入する――考えたな。

 

 輸送機は既に島を捉えており、そこから複数の反応をキャッチした。

 

「ここからが、本番かッ!!」

 

 複数の反応は全てがメリウスで。

 雲を突っ切って現れたのは飛行ユニットに載った赤黒いメリウスたちだった。

 遊楽都市を襲撃した時のメリウスであり、奴らは手にバズーカ砲などを持っていた。

 完全に島にある設備を破壊する為の装備であり――やらせるかッ!

 

 俺はブレードを構えながらスラスターを噴かせる。

 大丈夫だ。水中戦メリウス程度なら、ライオットたちなら倒せる。

 問題なのは高火力の武装を積んであるアレ等のメリウスだ。

 アイツ等だけは絶対に島に近づけてはいけない。

 俺が少しでも空の上で仕留める必要がある。

 

 俺は静かに息を吸う。

 そうして、一気に目を見開き未来視によって敵の動きを見た。

 

 一気に加速。

 その瞬間に、俺を発見した敵たちが攻撃を開始した。

 大きなガトリングガンを装備したメリウスたちが弾幕を張る。

 が、俺はその僅かな隙間を縫うように回転しながら飛翔した。

 

 弾丸が機体の装甲スレスレを飛ぶ。

 外套に当たった弾がバチリと音を発して弾かれていく。

 その衝撃を感じながら、俺はぐんぐんと距離を詰めて――ブレードを”投げた”。

 

 腕から切り離されたブレードが宙を舞う。

 凄まじい勢いで回転しながら、飛行ユニットに乗っていた敵ごと両断する。

 一気に二機のメリウスを仕留めて、ブレードが俺の元へと帰って来る。

 飛行しながらそのまま腕に装着し直して、俺は離れようとする敵を追う。

 

「逃がすかッ!!」

 

 背中を向ける敵へと斬りかかる。

 しかし、寸での所で回避し胴体を薄く斬るだけに終わる。

 敵はそのままバズーカの砲身を俺へと向けて――

 

《死ねッ!!!》

「――!」

 

 島から上がって来た味方。

 その蹴りが俺の攻撃を避けた敵に刺さる。

 機体をくの字に曲げて、そのまま残骸を散らばせた。

 

 その量産型はそのまま機体を手足のように動かして。

 踊りでも踊る様に機体を操作し、島へと向かう敵を墜としていった。

 ガラガラと回転しながら弾を吐き続けて、予測不可能な攻撃に敵は隊列を乱していた。

 流石に見過ごせないと判断した敵の一部がそいつに攻撃を行おうとした。

 連携を取りながら死角を狙って迫り――おぉ!!

 

 死角をつこうとした敵の死角を取る別の量産型。

 呆気に取られながら機体を蜂の巣にされて僅かに隙が生まれた。

 そのまま赤い機体は姿勢を逸らすだけでマシンガンの弾丸を回避。

 現れた青いメリウスと足裏を合わせて――強く蹴った。

 

 甲高い金属音が響き、一気に包囲網を突破。

 それを理解できない敵は、ブレードを誰もいない空間に振るう。

 空振りに終わった攻撃。敵たち迫る味方を避けようとしたところを双子が一斉掃射する。

 ガラガラと弾がばらまかれ、人形のようにメリウスが踊り。

 手足を捥がれたそれらは仲良く爆散した。

 

 双子はオープン回線越しにケラケラと笑う……こいつらは、やはり只者じゃない。

 

「ありが」

《あはははは!!》

「……」

 

 此方の声は聞こえていないようだ。

 双子はそのまま空中を飛ぶ敵と乱戦に突入する。

 俺は機体を加速させて、双子に襲い掛かる敵を斬りつける。

 そうして、死角から攻撃をしようとした敵のバズを回避。

 そのままブレードを投げて、敵のコックピッドごと断ち切る。

 

 撃破は出来ている。

 しかし、やはり数が多い。

 残った対空ユニットも機能はしているが。

 これだけの数を防ぐ事は出来ない。

 

 飛行ユニットを盾にしながら降下。

 そうして、バズなどで地上へと集中砲火を行っている。

 島の至るところで火災が発生し、建物なども破壊されていた。

 味方と思わしきメリウスの残骸も転がっていて……クソッ!

 

 作戦は練ってある。

 重要な作戦の前段階であり。

 兎に角、俺たちは敵の”本命”が来るまで耐えるしかない。

 

 ジョットさんは言っていた。

 敵は必ず本命となる”アレ”を使うと。

 それを防ぐ為に、ハーミット・クラブたちは存在すると。

 

 俺たちは被害を受けないようにメリウスにアップデートを施してあるが。

 詳しい事は聞いていない。

 本命の情報は掴んでいるものの、ハーミット・クラブたちがどうやってそれを防ぐのかは分からない。

 しかし、その本命を一瞬で封殺できる何からしい。

 

 ……考えたって仕方ない。やるしかないんだ。

 

 耐えろと言うのなら耐えてやる。

 ジョンが出してくる本命まで意地でもだ。

 

 

 

 だが、何故だ――この形容しがたい”何か”は?

 

 

 

 不安とも恐怖とも言えない何かで。

 俺はこのまま本命を防いで終わりとは思えなかった。

 この感情の正体を知るには、それを見るしかない。

 確かめてやる。この感情を、俺の心を乱す何かを。

 

 

 来い。来るんだジョン――俺は此処にいるぞ。

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