【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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152:君と一緒に

 仕事が終わり、ヴァンたちに今から帰ると連絡した。

 ヴァンは夜道に気を付けるように言ってきて、自分ももう少ししたら帰ると言って来た。

 イザベラは帰りに酒を買ってきてくれと俺に言って来たので。

 途中であった酒屋兼飲食店で彼女の好きな物を買っておいた。

 バイクに跨りながら端末が震えたので見れば、ミッシェルからで。

 彼女は食材を並べた写真を俺に見せてきて……カレーか?

 

 誰が料理を作るのかを考えれば、ライオットくらいしかいない。

 今やL&Pの料理長はアイツで、他の家に住む奥さん達とも仲良くなったと教えてくれた。

 傭兵としての活動が出来ない今は、それぞれが出来る事をしていくしかないが。

 二人にはもっとメリウスに乗っての戦闘経験を積ませたい。

 不安があり、この先でも戦う状況にならないとは限らない。

 いざという時に自分の身を守れなければならないからな。

 

 その事をSQに相談すれば、彼女は新兵の訓練に混ざって見ないかと誘ってくれた。

 模擬戦のような事も頻繁にしているようで、かなり練度は高いと言っていた。

 教官たちは数多の戦場を渡り歩いた猛者たちであり、彼らならばライオットたちに見合った訓練も考えてくれるらしい。

 その事についてどうかと二人に聞けば、二つ返事で了承してくれた……何故か、イザベラも行くと言っていたのは驚いたが。

 

 二人に関しては新兵として訓練に参加し。

 イザベラはもう少し上のランクでの戦闘訓練を行ってみようとSQは言っていた。

 まぁ彼女の実力から言えば、新兵ではないのは確かだが。

 果たして、どんな訓練なのかとちょっと気になっている。

 SQはそれは実際にやってみた二人から聞けと言っていた。

 

 イザベラの怪我もほぼ完治している。

 後は体を慣らしながら、メリウスの操縦をしていくだけだ。

 既にシミュレーターでは問題ない事を確認していて。

 今後は彼女の勘を取り戻しながら、腕に磨きをかけていくしかない。

 イザベラは好戦的な笑みを浮かべながら、親衛隊とやらに挑戦してみようかと言っていた。

 SQもニヤリと笑いながら、挑戦なら何時でも受けてやると煽っていた。

 

 ……でも、何で送迎は自分がすると言ったんだろうか。

 

 明らかに親衛隊のメンバーがする仕事ではない。

 そこまでしなくていいと言えば、頼ってくれと言われてしまった。

 そこまで言うのならと、せめて朝飯や晩飯は食べて行ってくれと言えばすぐに返事は来た。

 何故か、脳内へのメッセージと同時にだ……この力が怖くなったよ。

 

 バイクを走らせながら、俺は夜の道を進んでいく。

 空中に浮かぶ”蛍火”と呼ばれるオレンジ色の光が夜の道を明るく照らす。

 周りが暗くなれば自動で道の至る所に埋め込まれた投射機が起動し。

 光玉を空中に出してくれるそれは画期的なアイデアで。

 そのお陰で夜でも道は比較的明るくて安全だ。

 時折、トラックや車が対向車線を走っているが問題ない。

 

 イザベラの注文通りに彼女の好きなビールを買っておいた。

 残念ながら壁の外で彼女が好きで飲んでいたメーカーのものは無かったが。

 この国で新たに好きになった”雷電”なるビールを二ケース分買っておいた。

 全体的に赤いケースには太った男が白塗りの化粧をしてその大きな手を前に突き出していた。

 缶自体にもこの男が奇妙なポーズをしていて、金字で雷電の二文字が彫られている。

 

 彼女曰く、普通のビールよりも味が深く。

 好みが分かれるほどに癖が強いらしいが、一度ハマれば病みつきらしい。

 確かに彼女に勧められて飲んでみたが大分癖が強かった。

 こう濃厚な味わいであり苦みもあるが、目が覚めるような味で……まぁこれはこれで美味いがな。

 

 ついでにつまみなども買っておけばいいと考えて。

 豆がいいかジャーキーが良いかは悩んだが。

 取り敢えず、豆七で肉三にしておいた。

 

「……冷えるな」

 

 エンジン音を噴かせながら、道を疾走する。

 比較的、開けた場所であり四射線の道で俺の前や後ろを走る車はいない。

 反対へと進む道にはちらほらと車が通るだけで静かなドライブだ。

 店や家もこの付近には無いからか、少し寂しい景色にも見える。

 

 空を見れば丸い月が白く輝いていて、体に当たる風は冷たかった。

 蛍火で照らされた道は山道に続いている。

 すれ違うトラック達は遠くへの物資運搬だろうか。

 そんな事を考えながら、俺は少し速度を速めて家路を急ぐ。

 

 ライダースーツを着ていても少し寒い。

 此処では冬になれば雪もそれなりに降るらしい。

 気温や天気などを調整するシステムは何処にもついておらず。

 四季の移り変わりを楽しむだけで、誰もが変化を受け入れていた。

 此処では何もかもが違う。

 砂嵐が起きる事も無ければ、貧富の差も無い。

 誰しもが平和に暮らし、自然との共存を果たしていた。

 

 ヴァンがこの国から習おうとする気持ちもわかる。

 それほどまでに此処は優しさと温かさで満たされていた。

 

 ……気温や天気の調整が出来るのは便利だが……こういう変化を楽しむ暮らしの方が俺は好きだな。

 

 そんな事を考えながら、僅かに口角を上げる。

 今の内に温かい服や暖房器具を揃えておいた方がいいかもしれない。

 そんな事を考えながら、上り坂を上がっていった。

 

 少しだけ複雑な道であり。

 くねくねとしており、油断していれば事故を起こしてしまうだろう。

 山に沿って作られた道だからか上りはきつく下りはすいすいと行ってしまう。

 加減を間違えれば転倒したり曲がり切れずに事故を起こす。

 現に昼頃に此処を通った時にも事故が発生していたようで、ガードレールが大きく破損していた。

 大破した車には改造した後が見えたから、恐らくは若い人間が無理をしたんだろう。

 自分は気を付けようと考えながら、俺はボタンを押してモードを上り坂用に切り替える。

 

 ガチャリとギアが変化した音が聞こえた。

 そうしてスロットルを少し緩めるが、すいすいと坂道を上っていく。

 

 重い車体でもこれに切り替えれば馬力が上がる。

 まぁ燃料の消費量も上がるので、なるべく控えたいところではあるが。

 此処では燃料となるガソリンは完全に人工で作り出せる技術が確立しているからか。

 飲み水よりも安いと言っても過言ではない。

 だから、燃料の心配はしていないが……メンテナンスが面倒になる。

 

 あまり使い過ぎると燃料パイプやマフラーを痛めてしまい交換しなくてはならなくなる。

 このバイクはSQから貰った特注のもので。

 馬力があり走行距離も長い。その上、飛行モードも搭載されているから空だって飛べる。

 しかし、多機能であることと引き換えにメンテナンスが面倒になってしまっているのだ。

 

 此処ではガソリンを使う人間が多い分、こういう乗り物も発達している。

 エネルギーに関する技術ではやはり壁の外の世界だが。

 ガソリンなどの旧時代で活躍したものを使った技術は此方が上のような気がする。

 何故、それらを使いたがるのかは分からないが……これはこれで便利だ。

 

 精製液を使ったものよりは危険は格段に少ない。

 その上、コアのような特殊な機械も必要としない。

 コアを作るよりもこのバイクはコストが安い上に、性能は安定している。

 おまけに必要なガソリンはとても安価だ。

 

 昔はガソリンは環境に悪いと言われていたようだが。

 今の時代のガソリンは人の手で一から生み出されている。

 環境にも配慮された成分調整が行われているのだ。

 パフォーマンスは少しは落ちたが、二酸化炭素の排出量も格段に下がっていた。

 

 マフラーからは音は鳴っているが。

 汚れた空気は出ていない。

 水に近い何かが垂れるくらいだ。

 

 坂道を駆けあがりながら、俺は車体を動かしてくねった道を走行していく。

 上へ上へと昇りながら、曲がり角から出て来る車に注意して上がる。

 そうして、頂上付近に近づいて来て……?

 

 開けた場所がある。

 思わずバイクを路肩に止めてジッと見てしまう。

 行きの時は木々で隠れて見えなかったが、此方から上がって来れば見えるようだ。

 俺は気になってバイクを進ませてその場所へと入っていった。

 

 周りを見ながらゆっくりと入る。

 芝が生い茂っており、遠くの方には切り株のような椅子と机がある。

 よく見れば近くで光が見えて……自販機か。

 

 バイクを止めてから、ゆっくりと降りる。

 そうして、ヘルメットを脱いでからハンドルに掛けてキーを抜く。

 山の頂上付近だからか少し冷えている。

 俺は芝を踏みしめながら自販機の方に寄って行った。

 

 切り株の椅子と机を通り過ぎ、自販機の前に立つ。

 見れば半分ほどは売り切れており、中々に人気のスポットなんだと思った。

 記念に何か飲もうと思って財布をポケットから取り出して硬貨を入れる。

 何を飲もうか考えて……これにしよう。

 

「……あつ」

 

 ボタンを押せば、ガラガラと出て来た。

 それを受け取れば缶全体が温かい。

 ころころと掌で転がしながら、俺は再び切り株の椅子の方に戻る。

 こんな所に休憩所があるのは不思議だが、何かあるのか……おぉ。

 

 切り株に座ろうとした時に前を見た。

 すると、そこだけが木々が無くなっている。

 そこから見えるのは街全体で浮かぶ無数の光で。

 ぽつぽつと青や黄色や赤い色の光が街を彩っていた。

 道を移動している光もあるが、それは車などだろう。

 まるで、宝石箱の中身を見ているようで――あつ!

 

 景色に見惚れて片手で缶を握りしめてしまっていた。

 思わず落としそうになってしまって慌ててもう片方の手でキャッチした。

 薄手のグローブであるからか、熱を防ぐ機能はあまり期待できなかったな。

 掴めた事に安堵しながら、俺は切り株に腰を掛けてから目の前の景色を眺める。

 片手でプルタブを開ければ気持ちの良い音が響いて、そっと口をつけた。

 

 とろとろとした中身を口に流し込む。

 舌で転がせば口内に甘みが広がる。

 つぶつぶの感触もしてそれを歯で潰した。

 すると、別の甘みが溢れ出し口内を温かな熱と優しい味が満たしていく。

 ゆっくりと飲み込めば、思わず口から熱の籠った吐息が漏れた。

 

 甘い。しかし、塩の味もほのかにする。

 黄色い液体はトウモロコシをペースト状にしてぐつぐつと煮込んだもので。

 牛乳などを混ぜてとろみとまろやかさを出して、味付けは塩と胡椒程度だ。

 バターによって柔らかな甘みも出ており疲れ切った胃には心地いい。

 素朴な味でありながら、家庭の温かさと優しさが感じられる。

 これはただのコーンスープだが、この一杯からは色々と元気を貰えそうだった。

 

 とみみがありまろやかで、晩御飯の前の一服には適している。

 光が踊り音色が聞こえてきそうな美しい夜景を眺めながら。

 俺は優しい味のするコーンスープを静かに飲む。

 そうして、思い出したように端末を取り出して写真を撮った。

 

 それを皆に送り、暫く待って……返事が来た。

 

《何処だよ、そこ?》

「……山……いや、何て言えば……また連れて行ってやる、でいいか」

 

 送信を押して送れば、またミッシェルから返信が来る。

 

《……二人でか?》

「……? どういう意味だ……嫌じゃないなら、でいいのか?」

 

 送信を押して待つ……返事が来ないな。

 

 端末をテーブルに置きながら、一人黄昏る。

 こうやって一人で過ごす時間も悪くはない。

 此処を降りればすぐに帰られるから時間の心配はない。

 恐らく、ヴァンはまだ仕事中であり、今いるのはミッシェルたちで……返って来たか。

 

 端末を取って返信の内容を見る。

 

《分かった……またな》

「……ふふ……イザベラか?」

 

 ミッシェルの返事に笑みを零す。

 そうして、また音が鳴って誰がメッセージを送ったのか確認すればイザベラだった。

 

《お熱いねぇ。でも、皆見てるよ?》

「……何の事だ?」

 

 イザベラの意味深な言葉。

 それを受けてライオットやドリス。

 双子やベックまでもが人差し指を口の前で立てたスタンプを送る。

 その瞬間に何故かミッシェルは退出してしまった……後でまた誘おう。

 

 端末を仕舞ってから、俺はスープを飲む。

 ホッと息を吐きながら、口角を上げながら耳を立てる。

 

 静かに響く虫の鳴き声。

 鈴が鳴るような音であり、それがぽつぽつと聞こえていた。

 風が吹き木々が揺れて葉っぱの擦れる音も聞こえて。

 俺は自然の音色を堪能しながら、今という時間を過ごす。

 

 美しい景色に、優しいスープ。

 耳心地の良い音色に、自然の香り。

 芯から温まり体が熱を持ってそれを風が撫でていく感触。

 五感全てでこの時を感じる。

 

「……悪くないな……ん?」

 

 また端末から音が鳴った。

 確認すれば……ミッシェルからの個別メッセージか。

 

 

《絶対に連れてけよ! 約束だからな!》

「……約束だ、と……きっと楽しいだろうな」

 

 

 此処だけじゃない。

 少しの間に回った土地。

 そこで見た景色をミッシェルと共有したい。

 自然も街並みも、動物や植物たちも。

 全部共有して、共に笑いたい。

 

「……エマ……君も見ているのか……ふふ」

 

 空に浮かぶ星々。

 それらのどれかが彼女であるのか。

 きっと一番輝いている星が彼女で。

 今は会えなくとも、何時かきっと会える筈だ。

 神の力でもノイマンも関係ない。

 

 彼女が会ってくれる時と場所で……この長い旅の話を聞かせたいな。

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