【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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156:裏切りのユダ

 ユーリ・ミヤフジとの再会。

 楽しい食事を終えて、その日は彼女を家に泊めて。

 そうして分かれて、互いの仕事の成功を祈り合って解散した。

 

 それから少し時間が経ち……シャンドレマに不穏な風が吹いていた。

 

「……」

「……」

 

 コツコツと音を鳴らしながら、建物内を進む。

 目の前にはシャンドレマの軍服を着た男が歩いていて。

 俺たちはその男の案内の元、皆が待つ講堂を目指していた。

 

 今、俺は壁の中にある街に来ている。

 海岸沿いに作られた街であり、誰かに会話を聞かれる心配がない場所で会う事をSQに決められた。

 当日には俺たち以外にも重要な人間たちが呼ばれる事になっていて。

 ヴァン以外は誰も呼んではいけないと念を押された。

 俺もヴァンも仕事は勿論あったが、代わりの人間を用意してくれて。

 そいつに任せて俺はヴァンと共にシャンドレマ第三軍学校の講堂を目指していた。

 

 何故、こんな縁もゆかりもない場所に来ているか……それはミヤフジがもたらした情報から始まった。

 

 入り口で警備の人間に話を通し。

 案内されるままに講堂へと向かう。

 長い通路を進んだ先が講堂に通じる扉で……。

 

「――!」

「……」

 

 すれ違う人間が頭を下げる。

 それを受けて、俺たちも頭を下げた。

 

 軍学校とだけあって、凛々しい顔立ちの若い人間が多い。

 礼儀正しく、規則正しい優秀な兵士の卵たちだ。

 ライオットたちもこういう人間と共に訓練を受けているのか。

 厳しくはあるものの、充実した毎日だと二人は言っていた。

 

 そんな事を考えていれば、ヴァンが俺の脇腹を小突いて来た。

 

「……で、SAWの発表ってのはやっぱり……神の企みなのか?」

「……その可能性が高いが、断言は出来ない……ミヤフジも上に連絡して確認してくれている。今は少しでも情報が欲しいところだな」

「……アイツ等め。まだ何かするつもりなのかよ……まさか、万象の生み出したエネルギーをメリウスにも本格的に導入するなんて……」

 

 SAWが発表した事は、異分子の国の人間たちは知らない。

 俺たちもミヤフジから聞くまでは知らなかった。

 SQにその事を聞けば、事情を知ってしまった俺たちにも協力を仰いできた。

 恐らく、今までは万象によって生み出されたエネルギーはエネルギー兵器にしか運用していなかった筈だ。

 それをメリウスにも導入する事を発表したと言う事は、素材となる異分子を大量に生産する算段が付いたことになる。

 

 北部で聞いた情報では、SQたちは既にSAWへの工作を行っていたのだろう。

 家畜同然に生み出される異分子たち。

 顔も知らないとはいえ同胞であり、彼らだって見過ごす事は出来ない。

 それに、家畜でも安定したエネルギーが生み出されるのだ。

 もしも、ジョンが言ったようにハイランダーが捕らえられ使われてしまえば……待っているのは地獄だ。

 

 それを防ぐ為に、奴らの工場を襲撃していた。

 俺もその一つを潰しており、SQたちならもっと破壊していただろう。

 大量生産の目途が立つ筈が無い。

 いや、強引に進めても破壊されるだけなんだ。

 それを理解しているからこそ、工場の数を制限していたのではないか。

 

 ……だからこそ、俺たちは神の”関与”を疑っている。

 

 奴の手引きによって大量生産が実現してしまった。

 恐らく、自身が厳重に管理している土地にて異分子たちを生み出しているのだろう。

 それをSAWに提供する事によって、奴らは十分な数を確保しメリスウでも使えるように公表した。

 その製造の過程の一切は公表する事無く、有用性だけを示してだ……とんだ悪党がいたものだ。

 

 ミヤフジが確認できた情報だけでも。

 今後の動きとして、新エネルギーは瞬く間に世界中に広まるだろうと言っていた。

 

 同じ価格か。それ以下の値段で販売されて。

 従来のエネルギーよりも性能が良く安定しているんだ。

 デメリットが同じであるのなら、使う以外の選択肢はないだろう。

 

 奴らの狙いが何かは分からない。

 しかし、間違いなくSAWの発表には神が関わっている。

 

 俺たちは不安を抱きながら、扉の前に立つ。

 

「此方です」

 

 案内人が扉を開ける。

 そうして、俺たちは彼に礼を言ってから中に入る。

 講堂の中は広く、半円状に赤い椅子が設置されていた。

 中心に行くほどに段が低くなっていて、収容できる人間の数は五百程だろうか。

 既に何名かが椅子に座っており、入ってきた俺たちに視線を向けていた……彼らが親衛隊か。

 

 後ろで扉を閉める音が聞こえて。

 俺たちはゆっくりと歩き出し、近くの椅子に腰かけた。

 

 壇上にはSQが立っている。

 彼女は静かに頷いてから言葉を発した。

 

「……これで全員集まった様だな」

「ま、待ってください! ま、まだKクラスの方々が集まって……す、すみません」

 

 椅子に座っている青年。

 ぼさぼさの黒髪であり表情は見えないが肩を縮こまらせている。

 おどおどした口調であり、明らかに親衛隊の人間には見えないが。

 彼も親衛隊のメンバーかと思いながら、彼の言ってたクラスについて考える。

 

 SQは彼の発言を受けて説明を始めた。

 

「Kクラスの人間は此処には来ない。彼らの使命は王と王都の守護だ。如何なる理由があろうとも、彼らがその使命を放棄する事は無い……CQ、何を怯えている」

「い、いえ。僕はただ……こ、この件は僕たちだけじゃなくて……け、Kクラスの方々にも協力してもらった方が」

「CQ!! 貴様、それでも栄えあるシャンドレマの親衛隊メンバーか!!」

「ひぃ!」

 

 CQと呼ばれた青年。

 彼は荒々しい空気を纏う獅子のような顔をした男に一喝されていた。

 奴は彼の事をやれ情けない、自分たちでも十分に対処できる事だと言っていた。

 纏う空気から言えば、あの獅子のような男の方が親衛隊らしい気がする。

 しかし、この件がただならないという点では、あの青年と俺の意見は同じだ。

 彼は正しい事を言っているが、あの男の剣幕に押されて更に身を縮こまらせていた。

 

「け、声がデカけりゃ意見も通りやすいってか? DQ」

「……HQ。姉弟揃ってしつけが足りない様だな。俺自らがその生意気な口調を改めさせてやろうか」

「お前如きがかぁ? やれるもんならやってみな――単細胞」

「――貴様ッ!!!!」

 

 DQと呼ばれた男が立ち上がり拳銃を抜く。

 CQの隣に座っていたHQと呼ばれていた女も立ち上がり――あれは!

 

 立ち上がった事で横顔が見えた。

 バンダナを巻いていなかったから分からなかったが。

 アレは間違いなくミランダだ。

 黒と金が混ざった髪は肩まで伸ばされていて、がっしりとした体に百九十はありそうな背。

 口調もそのままであり……親衛隊のメンバーだったのか。

 

 あわあわとしているCQ。

 姉弟そろってと言っていたが……彼が弟か。

 

 いや、感心している場合ではない。

 一触即発の空気であるが、誰も止めようとしない。

 中には欠伸を掻いている人間もおり。

 頼みの綱のSJを見れば、静かに目を閉じて腕を組んでいるだけだった……くそ!

 

 俺は立ち上がる。

 その瞬間に二人は俺へと視線を向けて来た。

 

「……あー争いは止めよう。俺たちは仲間……いや、俺はまだ違うかもしれないが……殺したって意味はない。親衛隊のメンバーが減るのは国にとっての損失であり……ノイマンは喜ばないと思う」

「――ッ! き、貴様ッ!! 我らが偉大な王の名を呼び捨てにッ!!?」

「……ぷ、ふふ」

 

 DQは顔を真っ赤にしながら俺へと拳銃を向ける。

 そして何故か、ミランダは笑いを堪えていた……いや、何でだ。

 

 取り敢えず、俺は静かに両手を上げて降参の意を示す。

 DQはそんな俺を物凄い剣幕で睨みつけながら、お前は誰なのかと聞いて来る。

 所属も何も無い俺はただ名前だけを答えるしか出来ない。

 困っていればSQがゆっくりと言葉を発した。

 

「ナナシは私の弟だ」

「……っ!? ひ、姫様の弟君!? そ、それは誠ですか……今までそんな話は」

「銃を下ろせ――殺すぞ?」

「……っ」

 

 SQが殺気を放つ。

 関係の無い俺も震えるほどの圧で。

 それを真面に受けたDQは銃を降ろして悔しそうに席に座る。

 

 やはり、ノイマンの娘とだけあってお姫様のような存在だったのか。

 そんな存在が俺の事を弟と紹介して……視線が痛いな。

 

 好奇の目に晒される中で。

 ミランダに目を向ければひらひらと手を振っていた。

 詳しい話は後で聞くとして、俺は静かに椅子に座り直す。

 横を見ればヴァンがにやにやとしていて、俺は無言で奴の横腹を殴る。

 くぐもった声を上げながら横腹を抑えるヴァン……自業自得だ。

 

「……今回の件はノイマンも知っている。与えられた任務はシンプルだ……”時を待て”だ」

「え、え!? で、でも! アレは明らかに」

「黙っていろ! 姫様の話は続きがある!」

「……そうだ。ノイマンは時を待てと言ったが……我らは備えなければならない。幸いにも、今、我々の手には三つの鍵が揃っている。一つはノイマンの手に。もう二つは、我が弟の中にある」

「……へぇ、鍵を中にねぇ」

 

 ミランダが俺を見て来る。

 そんな目で見ても此処で鍵を出す事は出来ない。

 そもそも、どうやって出し入れするのか俺は知らない。

 神かノイマンであれば出し入れが出来るんだろうが……SQは説明を続ける。

 

「……今から話す事は、この国にとって最重要機密事項だ。絶対に他の人間には話してはならない……覚悟の無い物は此処で去れ」

「……」

 

 全員が黙ったまま動かない。

 最重要機密事項を知る事はつまり、二十四時間国に監視される事になる事を意味するのだろう。

 もしも、誰かに話せばその時点で罪となる。

 最悪の場合死刑であり、親衛隊であろうとも例外では無い筈だ。

 つまり、俺もべらべらと喋れば消される。

 

 だが、関係ない。

 それを聞かなければ、俺たちは行動できない。

 そもそも、鍵を持っている俺が聞かなければいけない筈だ。

 だったら、俺だけでも此処に留まる必要がある。

 隣のヴァンを見れば澄ました顔をしている……覚悟は出来ているんだな。

 

 SQは誰も動かない事を確認し。

 ゆっくりと機密情報について話した。

 

 

 

「今までは話していなかったが。神に近しい立場の人間の中に――我々の協力者がいる」

「「「――!!」」」

 

 

 

 神に近しい立場の人間に協力者。

 想像以上に大きな秘密で、俺は思わず目を大きく見開いてしまう。

 他の人間たちも息を飲むような音を出していた。

 

 神に近しいと言うのであれば恐らくは……代行者の事か。

 

 神の駒として動く人間の中に。

 シャンドレマのスパイが潜んでいる。

 にわかには信じがたいが、恐らく嘘ではない。

 

「これを知っているのはノイマンとKクラスのメンバー……そして、私だけだった」

「な、何故そのような重要な情報を?」

「……不安を煽る事になる。察してくれ」

「……つ、つまり……そういう事ですか?」

 

 親衛隊のメンバーが互いに視線を向ける。

 つまり、こちら側がスパイを送り込んだように。

 向こう側も此方にスパイを送り込んでいた可能性があったのか。

 確かに、こんな事を知れば疑心暗鬼になってしまうな。

 

 SQは安心する様に皆に言い聞かせた。

 

「お前たちは心配ない。既に確認は取れてある……が、こちら側の情報が抜けていた事も事実だ。用心しろ」

「……まぁスパイの件は置いておいて……姫様は、その協力者の情報を私たちに明かして何をするつもりなんだ?」

「ね、姉さん。その聞き方は」

「黙ってろ……もしかして、近々……そいつと接触を?」

 

 ミランダは目を鋭くさせる。

 全員もその事を気になったようでSQに視線を向ける。

 すると、SQは静かに頷いた。

 

「そうだ。何を成そうとしているのかを知る必要がある……リスクはあるが。直接会って聞く方が、神からの探知を逃れられるだろう」

「……理由は分かったよ……で、その協力者ってのはどんな奴なんだ?」

「……分からない」

「は? いや、協力者がいるって知ってたんだろ! なら、どんな奴かくらい」

「……協力者がいるとは知っていた。しかし、顔が分かるのはノイマンと”CK”のみだ……神に近しい立場だ。戦闘になる事もあるからな。お互いに知っていて手加減をすれば、神らに正体がバレる恐れがある……恐らく、そいつとはこの場にいる者たちの中に戦った事がある者もいるかもしれない」

「……なるほど。敵を欺くのなら味方からか……全員を動かすと言う事は陽動と本隊に別れるんだな」

 

 黙っていたSJが声を発した。

 彼の言葉に頷きながら、SQはぱちりと指を鳴らす。

 その瞬間に講堂内は暗くなり、後ろの方に地図が投影された。

 

「今や、我々と神の間には不可侵協定が結ばれた。互いに表向きでは刃を交えないが。我々は黙ったまま奴らの計画を見過ごす事はしない。これからそれぞれの役割を言う。陽動班は神らの目を集中する為に、北部と東部においてカメリア近郊での領空侵犯を行う。交戦の必要はない。発見されてカメリア内の兵士が迎撃態勢を取った瞬間にその場を離脱しろ」

「つまり、機体データを記録されないように敵をかく乱し離脱しろと言う事か」

「そうだ……北部にはHJ、CJ、DJに向かってもらう。東部は最も難しい任務となる事が予想される……DQ、SJ頼めるか」

「ハッ! このDQ、必ずや任務を成功させましょう!」

「……俺も問題はない」

 

 二人はそう言って了承する……つまり、CQとHQ、SQが……。

 

「……残りの二名と私……そして、ナナシ。お前にも来てもらいたい」

「……俺がか? 何故」

「……私の勘だ」

 

 この場に呼んでしまったからかもしれないが。

 俺も何か協力出来る事があるのなら協力したかった。

 だからこそ、俺は一瞬戸惑いながらもしっかりと頷いて了承する。

 

「……では、任務の詳細について今から説明を行う。先ずは――」

 

 SQの説明を皆が黙って聞く。

 また始まるんだ。

 神と異分子の国による戦いが。

 

 最初は俺が異分子への攻撃を行っていた。

 兵士として言われるがままに、不穏分子の抹殺から異分子の国への攻撃を行って……。

 

 だが、今は違う。

 まだ仲間と呼べるのかは定かではないが。

 今は俺もシャンドレマの国民であり……守りたい。

 

 この国に住む心優しい人々を。

 そして、この地の美しい自然を守りたかった。

 俺に何が出来るかなんて分からない。

 でも、俺のこの力で救えるものがあるのなら……。

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