【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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158:金と信頼の裏

「……なるほどねぇ……つまり、アイツ等は万象のエネルギーの他に新たなシステムも導入するって事か」

「あぁ、仲間からの情報では中には無償で機体をアップグレードする場合もあるらしい……きな臭いな」

 

 ミランダと共に椅子に座りながら話す。

 彼女との情報共有で俺が話したことは、 二級特別調査員であるユーリ・ミヤフジから聞いた事だ。

 支部長クラスになった彼女であれば、これくらいの情報は得られるようで。

 今後も何か動きがあれば俺に教えると言ってくれた。

 

 SAWは新エネルギーの普及を進めている。

 そしてそれと同時進行で、全ての機構に奴らの開発したシステムを組み込もうとしていた。

 そのシステムとは新エネルギーを更に効率よく消費する為のもので。

 奴らの使っていたエネルギー兵器の中でも優れた個体があったが。

 一般のメリウスも同じように突出した兵器にする為のシステムだ。

 

 奴らはそのシステムを”オーバーフォーム”と呼んでいた。

 見かけでの変化は青いエネルギーが赤黒く変色するというもので。

 機体のパフォーマンスを向上させるそれは多くの傭兵や兵士から望まれているらしい。

 色の変化とパフォーマンスの向上という話を聞いた瞬間に、俺たちの使うエネルギーの性質変化であると理解した。

 奴らはそのシステムによって強制的にエネルギーの性質を変化させるらしい。

 

 SAWだけならまだ理解できる。

 しかし、神が関わっているのであれば何故、こんな事をする。

 奴にとってメリットは無く、やる意味すら無いように思える。

 

 話を聞いていたミランダも同意見で。

 彼女は腕を組みながら天を仰ぎ見る。

 

「……そう、だなぁ……万象の材料は培養された異分子だ。今までは私たちがSAWを攻撃する事でメリウスにまで使われちまうような事態にならないようにしてきたけど……神が仕組んだのなら、用意できちまうだろうさ……ただ」

「……ただ、何だ?」

「……いや、神がSAWにそう動けと命令して。奴らがそれに大人しく従ってだ……この件で誰が一番得をすると思う?」

「……それはSAWじゃないのか。奴らには金が入り、世間からの信用も得られる」

「そこだ。SAWはこの話を待っていたんだ。世間からの信用と莫大な資金が得られるこの瞬間を――なら、今まで何でそれをしなかった?」

 

 ミランダは俺を見ながら問いかけて来た……確かにそうだ。

 

 SAWとしては一刻も早くこのエネルギーの大量生産をしたい。

 それが生み出す利益は途轍もないものだからだ。

 だからこそ、神がそれを実行できるだけの力があったのなら。

 何故、今までその話が無かったのか。

 

 何時でも実行できたはずだ。

 それこそ、ジョンが歴史に名を遺すよりも前に。

 一年二年での準備ではない。

 恐らく、何十年も前から準備をしていた筈だ。

 シャンドレマに勘付かれないように計画自体を巧妙に隠して少しずつ。

 

 

 ……このタイミングで完成したからか。いや、たぶん違う……既に完成した段階で機を伺っていたのか?

 

 

「……神はこのタイミングを待っていた……だからこそ、SAWに時は今だと指示を出したのか?」

「私はそうだと思う……ただ、確証はない。正直な話、SAWが得をしただけだ。神がこれで何か得をしたとは思えない」

「……目に見えるものじゃないのか……もしかして、鍵が関係しているのか?」

「……かもしれないね。残る鍵が一本なら、奴らも手を打つ筈さ。それさえあれば、奴らは望む世界を手に出来る……アイツは何か言ってたか」

「……? アイツ?」

「……あぁ……ジョンだよ。ジョン・カワセ……気になってたんだ。シャンドレマの賢者と言われた男が、アンタに何を言ったのか」

 

 ミランダは興味を示していた。

 シャンドレマではジョンは賢者だと言われていて。

 そんな男がノイマンから力を与えられた異分子に何を言ったのか気になるようで……。

 

「……アイツは訪れる結末を変えると言っていた……この世界も、そこに住む人間たちも紛い物で。神は人を超えられないとも言っていた……自分の目で見て、自分の心を信じろ。それが本物だと……今も考える事がある。アイツの言っていた結末が本当に変わったのか……それとも、その結末はまだ先なのか」

「……はは、わっかんねーな。私、そういう哲学染みた話は苦手でさ……けど、自分の心を信じろってのは分かるよ。本物も偽物も関係なしに、自分を信じられねぇ奴は長生きできねぇしな……ナナシよ。別にいいんだぜ? 深く考えなくたっていい。今のお前がどう思っているのか。それで十分じゃねぇのか? 結末がまだ先だと思うのならまだ来てねぇんだろ。だったら、その時にお前がどう行動するか……その時になって決めりゃいい」

「……そうだな。お前の言う通りだよ……悩んでも解決しない。今最も重要な事はどう行動するかだ……お前の情報も聞かせてくれ。ミランダ」

「うし、それじゃモニターをご覧あれ」

 

 ミランダはそう言って立ち上がる。

 腕に巻いてあった端末を操作して、彼女はケーブルを伸ばす。

 コネクターをデッキに差し込んでから、コンソールを叩いて操作をしていた。

 モニターを見ていれば何かが表示されて……っ!

 

 そこには顔写真と共に名前などのプロフィールが張られている。

 その中には知っている人間もいて、彼らの共通点は――代行者である事だ。

 

「分かるか? こいつらは代行者だ。詳細な情報までは期待しないでくれよ」

「……やっぱり、そうだったのか……っ」

 

 ベン・ルイスにセラ・ドレイク。

 そして、あの時の双子と謎のマスクの男……ジョットさんもいる。

 

 他にも顔の知らない男女が四名いるが。

 こいつらは会っていないだけだろう。

 合計で十名の代行者がいるということであり、俺は何処でこの情報を手に入れたのかとミランダを見る。

 すると、彼女は少しだけ悲しそうな顔をしながら答える。

 

「……同胞たちのお陰さ……死んでいったアイツ等が最期に、これを残して行った……機体のデータも少しだがある。すげぇだろ?」

「……あぁ凄いよ……ベン・ルイスの機体は見えるか」

「ん? あぁ……これだな」

 

 ベン・ルイスの専用機体が表示される。

 分厚い装甲を纏った重装甲型の白いメリウスで。

 特徴的なのは背中に背負った巨大なバックパックだ。

 武装は両手に持ったハンドキャノンであり、音速での飛行を可能にするほどの機動力を有している、か……。

 

「こいつは見かけの割に動きが素早い。その動きを可能にしているのがあの大型のバックパックだな。あんな巨体を音速まで引き上げちまうんだから、バカみたいにエネルギーを食うだろうさ。短期決戦型で、ぶつかっただけでも木っ端みじんさ。並大抵の攻撃は通用しない上に……まだ、何かを隠し持っているらしいぜ」

「……切り札が存在すると?」

「あぁ恐らくはな……代行者の機体にはオーバーフォームよりも更に洗練されたシステムが組み込まれているのが大半だ。が、こいつがそれを使用した記録は一切ない。使うまでも無く相手を殺してきた手練れだからな。よっぽどの事が無い限りは使わないんだろう。姫さんが相対して直感で分かったらしい……こいつは危険だってな」

 

 ミランダの話に静かに頷く。

 この機体には隠された切り札がある。

 それを使わせるほどベン・ルイスを追い詰められる存在は果たしているのか。

 

 ……初めて会った時から感じていた空気の正体はこれに繋がるのだろう。

 

 代行者の中にスパイが紛れている。

 その中で誰がそうなのかは目標地点に現れるまで分からない。

 ベン・ルイスは恐らくは違う。

 そして、奴を妄信するセラ・ドレイクも違うだろう。

 

 あの双子はスパイには向いていない。

 そんな器用な真似が出来るようには見えなかった。

 あのマスクの男はそもそも怪しすぎるから論外だ。

 

 ……となるとジョットさんか。その他の四名くらいになる。

 

 ジョットさんが味方であれば心強いが。

 彼の話からして家族が向こう側で暮らしているんだ。

 家族を欺けるような冷たい感じはしなかったし、俺と話した時の柔和な笑みも自然だった。

 彼は軍人であるが、冷酷非道な人間ではない。

 だからこそ、ジョットさんである可能性も低いだろう。

 

 そうなると、残りの四名になるが俺は彼らを知らない。

 会った事も無ければ、見た事も無い。

 ミランダにこの四名に心当たりはあるかと尋ねた。

 しかし、ミランダは首を横に振り「知らないな」と答える。

 

 顔を知っているのはノイマンとCKと呼ばれる異分子だけだ……今考えれば奇妙だな。

 

「……何故、CKというメンバーだけは知っているんだ?」

「んぁ? あぁ、そうか。お前は此処に来て日が浅いもんな……CKと呼ばれる存在は実質的に親衛隊の隊長と言っても過言じゃない。腕っぷしだけじゃない、メリウスの操作技術も親衛隊の中で一番さ。姫さんを除けば、CKがノイマンに最も信頼されているだろうな……歳なんてまだ二十八っていうのに、すげぇもんだよあの人は」

「……そんなに凄い人なのか……なら、確かに知っていてもおかしくは無いな」

 

 ノイマンから信頼されているCK。

 親衛隊の中で一番位の高いKクラスであり、隊長と呼ばれるほどの実力者。

 Kクラスが王と王都の守護を任されていると言うのも、彼らがこの国の柱であるからに違いない。

 会ってみたいと思う反面、目を付けられれば敵わないとも思う。

 

「……当日に現れる味方……情報が洩れる心配はないのか……」

「大丈夫だとは思うが……神は馬鹿じゃねぇ。自分の腸近くにいる駒なら、幾らかのセーフティを掛けているかもな……姫さんも用心に越したことはねぇって言ってたから。態々、自分とアンタ以外に私たちをつけたんだと思うぜ」

「……まさか、さっきのあれを……?」

「あ? 何言って…………いやいやいや! アレは持っていかねぇよ! 目立つし過剰戦力だし! 分かれよ!?」

「あ、あぁ……だよな」

「……私たちはタンク型に乗って遠距離からお前たちをサポートする。何時も使ってる奴なら隠密にも向いてるし、離脱時でも活躍できると思う……ま、安心しろよ。私たちがいれば先ず死ぬ事はねぇからな」

 

 ミランダは大船に乗った気でいろと言う。

 心強い言葉であり、俺は彼女に頼んだと伝える。

 彼女は任されたと言いながら、互いに明かせる情報は此処までだろうと言う。

 

 モニターの映像を切り、ケーブルを抜いてから端末に戻した。

 彼女は大きく伸びをしてからパキパキと肩を鳴らす。

 

「また何かあれば教えてくれよ。私の方でも敵の情報を探ってみるからな」

「頼んだ……ヴァンたちはどうなったかな?」

「さぁな。もしかしたら、シリルのお宝ルームにでも案内されたんじゃねぇのか? 私なんかは絶対に入れねぇけど……一応、さっきの情報はお前の端末にも送っておくよ。アドレス、教えてくれよな」

「分かった。ありがとう」

 

 ミランダはふてくされたように呟く。

 俺は端末を操作して彼女の端末に無線でアドレスを送る。

 互いにアドレスが分かりこれで此処で出来る事は完了した。

 俺たちは外に出ようとして……俺は思い出したように振り返る。

 

「……ホットチリトマト、美味かったよ。辛みとトマトスープが絶妙だった」

「お! そうかそうか! いやぁ私もお前から貰ったもの食べたけどさ……アレはいけるね。酒の後には最高だよ」

 

 彼女は俺の肩を叩きながら笑う。

 またオススメがあれば教えてくれ言えば、彼女は勿論だと言う。

 そうして外へと出て、俺たちはヴァンたちを探しに行く。

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