「……オラース・ヴェルネ……ジ・アンサーか……厄介だな」
自室でパソコンを操作し、ミランダから貰った代行者の情報を見る。
現在、敵の機体を確認しているが。
油断ならない相手ばかりであり、確認できない機体の方が多い事もあって安心は出来ない。
分かっているだけでも、ベン・ルイスのオラース・ヴェルネはジョーカー的存在で。
その腹心であるセラ・ドレイクの”ジ・アンサー”も中々に厄介だ。
会った事のない代行者の機体も確認したが。
やはり、この二名の機体が群を抜いて厄介だろう。
ジョットさんやあの顔を隠した男。
そして、双子の機体は判明しておらず。
恐らくは、その都度適した機体を使っている可能性が高い。
または隠し玉として専用の機体は使用を控えているのか。
分からない奴の事は一旦置いておく。
問題なのはこの二人が同時に現れた時で。
オラース・ヴェルネに関しては短期決戦モデルと断定した上で話を進めるのなら。
このジ・アンサーはオラースのサポートに徹する為に作り出されたと言っても過言ではない。
交戦記録によれば、敵は如何なるレーダー機器にも姿を捉える事は出来ず。
実体弾による超長距離からの狙撃を主体とした戦闘スタイルを取るらしい。
もしも至近距離まで近づいたとしても、レーダーで捉える事は出来ず。
エネルギーの粒子すらも排出されない事から、全く別の燃料による運転か。
又は、粒子の排出を極限まで落とした内部構造をしていると予想されるらしい。
交戦経験があり、唯一生き残った人間の話によれば。
弾丸を発射する時での察知は一瞬だけだが出来たらしい。
ただ、何処から弾丸が飛んで来るかは完全に勘で予測しなければならないらしい。
もしも、弾丸発射の距離が縮まれば避ける事すら敵わないだろう。
完全なるステルス兵器であり、並みのパイロットであれば死んだことすら気づかない。
単体の相手であっても、極限まで集中力を高めなければ回避は不可能だ。
そんな奴と一緒になってオラース・ヴェルネが現れればそれこそ戦いにすらならない。
手練れが二名以上いる場合であれば、時間稼ぎに徹するなり互いに別々の敵を引きつけなければならない。
単機での二機の相手は実質死であるからこそ、交戦時は離脱を視野に入れなければならないか。
オラース・ヴェルネは見た目以上に装甲が硬く厚い。
交戦記録によれば、如何なる攻撃であろうとも奴の装甲を破る事は出来なかったらしい。
唯一、SQによる全力での斬撃であれば傷くらいであればつけられたとある。
そう、SQの全力の攻撃で、だ……途方も無いな。
SQの力は嫌というほど知っている。
どんな敵であろうとも、バターのようにそのブレードで斬り伏せるのだ。
その姿は正に敵を一撃でかみ殺す獣であり、碧い獣の異名がついたほどだ。
記録も何度も見ていてその攻撃の鋭さは脳裏に焼き付いていたが。
そんな女の一撃すらも傷しかつける事しか出来ない。
奴は短時間でしか戦えないだろうが。
それを補うほどのアドバンテージを有している。
どんな攻撃であろうとも無視して突っ込んで行けるほどの防御力。
そして、標準装備のエネルギー弾タイプのハンドキャノン二丁の威力は本物だ。
弾が切れたところでアイツの体当たりや蹴りは一撃必殺級で。
ジ・アンサーを警戒しながら俊敏な動きで出鱈目な攻撃を仕掛けて来るであろうオラースを捌き切る事は不可能だ。
もしも、この二名が内通者との接触の場に表れでもしたのなら……その時は即時離脱しかないだろう。
最も、限りなく線は薄いだろうが。
この二名が内通者である可能性だってある。
それを判断する方法はSQのみが知っており。
俺たちであろうとも明かす事は絶対にしない。
内通者と安全に接触出来たのなら良いが……多分、無理だろう。
どんなに巧妙に場を整えたところで。
敵の妨害がある可能性は残っている。
だからこそ、SQは自分以外に俺とミランダたちを招集した。
護衛でも囮でも構わない。
兎に角、SQと内通者が無事に接触できるように場を整える必要がある。
カメリアへと向かう部隊は問題ない。
SJの強さは知っているし、そんな奴と同じかそれ以上の階級の人間たちが作戦に加わるんだ。
鼻から信用する以外に選択肢はないが、それでも安心できるだけの強さと自信をあそこで感じた。
「……問題は切り札だな……オラースはどんなものを隠し持っているんだ……」
手練れの兵士からの情報は信用できる。
彼らの心が何かを感じたのであれば、それは気のせいではない。
絶対に奴は切り札となる何かを隠しており、ミランダからの情報通りならばオーバーフォームの上位互換だ。
エネルギーの性質変化程度であれば、親衛隊が警戒する事は無い。
何がこいつに対して警戒心を覚えさせるのかと言えば……間違いなくこの補足情報だろう。
奴は今までの戦いで――三名の親衛隊メンバーを殺している。
全てJクラスの人間ではあるが。
それでも同時に相手取って屠ったと書かれていた。
現場へと調べに行った諜報班によれば、そこには機体の破片すら落ちていなかったらしい。
が、現場を隈なく調べれば豆粒ほどの球体を発見し……それが三名の機体であると後に判明した。
まるで隕石が落ちたかのよう”巨大なクレーター”に”豆粒ほど圧縮された機体たち”……此処だな。
この状況こそが、奴の切り札を示しているに違いない。
親衛隊のメンバー三名を相手にして、奴は切り札を使った。
その結果、親衛隊のメンバーは強力な力により圧縮されてこの世から消えた。
だが、そんな事がメリウスだけで成し得るのか?
戦略兵器クラスであれば、そういった芸当も出来るかもしれない。
だが、交戦記録によれば大規模な兵器が設置されていた形跡はないらしい。
殺されたメンバーたちは任務から帰還している途中で、ベン・ルイスの襲撃にあった。
最期の暗号通信によれば、奴は単機で現れて輸送機を撃墜しそのまま出撃した親衛隊メンバーと交戦。
正確な交戦時間は不明であるが、十五分もかかる事無く終わったものだと推測されていた。
もしも、最初からJクラス三名を消す事を計画していたとして。
その三名が通るであろう航空ルートを割り出したと言うのか……いや、無理だ。
如何に神の使徒であろうとも、膨大なルートの中から一つを割り出す事は不可能だ。
そもそも、全てが計画通りに行かずにルートを逸れたり。
帰還自体を選択しなかった場合だってあった筈だ。
いや、もっというのであれば何時にそこを通るのかさえ分からないだろう。
それなのに大型で目立つであろう戦略兵器を配置しておくのは流石に警戒される。
つまり、戦略兵器の使用にクレーターが出来た訳ではなく……あくまでオラースの影響によってクレーターが出来た事になる。
顎に指を添えながら考える。
今までの戦闘経験から、クレーターが出来るほどの武装があったか。
あるにはあるが、この記録によればクレーターの大きさは直径五百メートルほどで。
エネルギーフィールドなどを使った攻撃であれば地面が焦げていたり、ズクズクに溶けた機体が残っている筈だ。
いや、そもそも、五百メートルまで広がるものを作り出すのなら相当なエネルギーがいるだろう。
だからこそ、エネルギーフィールドによる攻撃ではない。
……恐らくだが、クレーターはミスリードの為のものだ。
切り札の推測を誤らせる為のもので。
問題なのはこの発見された機体の状態だ。
豆粒ほどまで十五メートルはあるメリウスを圧縮する方法……残念ながら俺は知らない。
機体の圧縮だけなら方法は幾らでもある。
しかし、クレーターを生み出せる上に機体だけを圧縮する事も可能だなんて……悪い冗談だ。
どんな原理の兵器かは分からない。
しかし、クレーターが出来るほどの力を発生させるのであれば誰だって分かる――回避不能だ。
予備動作が無いのであれば回避できない。
いや、そもそも機体だけを圧縮できるのであればどうなる?
それが遠隔操作によるものであるのなら目も当てられない。
近接攻撃によるものであるのならまだマシだが。
それでも触れただけで豆粒サイズまで圧縮されるんだ。
かつてないほどの脅威であり、明らかに規格外だ。
「……謎の力によるクレーターと機体の惨状……効果範囲はどれくらいだ……発動から再発動までの時間は……いや、それよりも…………勝てるヴィジョンが見えない」
そもそも、これが奴にとっての切り札かも怪しい。
親衛隊のメンバーを倒した後に偽装を……いや、時間がない。
記録によればオラースは親衛隊のメンバーを始末した後にすぐに戦域から離脱している。
ノイマンの力による観測であると補足されている事からその情報は正しいんだろう。
つまり、こいつはたった一機でこの状況を作り出したことになる。
嘘だと言って欲しい。
だが、真実であるのなら目を背けてはいられない。
現状で最も巨大な敵はベン・ルイスで。
こいつが神を裏切る可能性は極めて低い。
これほどの強力な機体を与えられているのだから、神の信頼も厚いと一目で分かる。
「……内通者との接触時に、奴が現れる可能性は……ゼロでは無いな」
もしも、奴が現れたら……ん?
考え事をしていれば扉がノックされた。
俺はパソコンを操作しファイルを閉じて隠す。
そうして、ケーブルから端末を抜いてからパソコンの電源を落とす。
端末をポケットに入れながら立ち上がり、扉の方に寄りノブを握って開けた。
「……よ」
「ミッシェルか……どうした? もう晩飯か」
「いや、違うけど……その……ど、ドライブに行かねぇか?」
「……今からか? 時間は……いけるか」
腕時計を確認すれば、時刻は午後七時に迫っていた。
遅い時間ではあるものの、まだ皆は帰ってこない筈だ。
ヴァンも何処かへ出かけに行くと言っていたし……行くか。
「準備をする。ガレージで待っていてくれるか?」
「お、おう!」
「……何処か行きたいところでもあるのか?」
「……おまぇ……自分で言ったんだろ。連れてってやるって!」
「……? 何を…………あぁ、あそこか。そうだな、約束していたな」
「……二人でな」
ミッシェルはぼそりと呟く。
俺は笑みを浮かべながら頷く。
彼女は少し頬を赤くしていて、熱でもあるのかと俺が聞けば。
キッと俺を睨んでからガレージに行った……何か怒らせたか?
俺は首を傾げつつ、扉を閉めた。
そうして、クローゼットに仕舞っているライダースーツを取りに行く。
ミッシェルの服装も俺と同じようなものだったから、最初から行くつもりだったんだろう。
服を脱ぎながら、俺は考える。
まだ夜ではないが、あそこに連れて行ってもいいものか……いや、移動していれば暗くなるか。
少しゆっくりと移動しよう。
頭の中で予定を考えていく。
内通者の事も気がかりで、代行者の脅威にも怯えているが。
何時来るかも分からない脅威に怯えていても神経が磨り減るだけだ。
楽しめる時は楽しみ、仕事の時に全力を出す。
当たり前の事を思い出しながら、俺はくすりと笑った。