【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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162:黒腕の狩猟者

 夜の帳が降り、人々が寝静まった時間。

 作戦決行日を迎えた俺らはシャンドレマを発ち。

 それぞれの役目を果たす為に互いに健闘を祈り合って別れた。

 恐らく、既にSJたちはカメリアの領空に侵入している。

 交戦状態に突入して何処まで敵の目を集める事が出来るかが鍵だ。

 あまり長く協力者と接触をしていれば、神が勘付く可能性が高まる。

 最小限の接触で互いに情報を交換する必要があり、SQはその為の段取りは組んである言っていた。

 

 どのような方法で情報を得るのかはSQは明かさないが。

 アイツは戦いにだけ集中してくれれば良いと言っていた。

 俺の重要な役目は現れる協力者を見極める事と敵が出現した時の対処だけだ。

 こんな俺にその二つが果たせるかは分からないが、任されたのなら全力でやる。

 

 機体に乗り込み、専用の飛行ユニットで途中まで来た。

 ポイントから二十キロほど離れた場所で飛行ユニットを降りて。

 現在は出力を限りなく抑えながら低空飛行でポイントまで近づいている。

 先行するのはSQの駆るサンドリヨンで、その後ろを俺が追走し。

 距離を取りながら地上を走行している二機のメリウスにはミランダと弟のシリルが乗っている。

 何方もタンク型であるが変形機構も備えているようで、今は戦車のような地上走行形態をしていた。

 二つの砲身が伸びており、内蔵している砲弾の種類は複数あるとミランダが教えてくれた。

 彼女が言っていた今回の作戦において活躍できる事……もう理解できた。

 

 タンク型はスラスターでの移動を極力抑えている。

 だからこそ、空中戦が一般的なメリウスのレーダーには探知されるリスクが低い。

 ミランダ曰く、あのメリウスの駆動系統は特殊らしく。

 コアによってエネルギーで動く多脚型戦闘形態と従来のガソリンで動く大型複合内熱機関の二つがあるらしい。

 タンク型は後者の機関で動く為に、エネルギーに特化した戦闘レーダーでの探知を回避できる。

 生体反応を隠す為の特殊な塗料を機体にコーティングしている事もあってアレはSJのアンブッシュよりも隠密に適している言えるだろう。

 ミランダに暗殺向きである事を感想で言えば、アイツは笑いながら「私たちの二つ名はノーバディーだからな」言っていた。

 最初はどういう意味かと思っていたが、知られる前に相手は死ぬからだと分かった……それで、”名が無い”か。

 

 サポートはあの二人に任せれば問題ない。

 俺は後ろをチラリと見る。

 そこにはヴァンが座っており、初めて複座を使う事になったのがヴァンなのは……縁だろうかな。

 

 アイツは俺が見ている事に気づいて笑う。

 

「索敵と分析は任せてくれ! お前は兎に角、戦闘に集中だ。SQだけじゃなく、俺も守ってくれよ」

「あぁそのつもりだ……通信だな」

 

 コールが掛けられた。

 ヴァンが通信を繋げば、相手はSQだ。

 

《予定では既にカメリアに向かった部隊が交戦に入っている筈だ。代行者や神の目はそちらに向くだろうが……油断は出来ない》

「分かっている……ポイントは合っているか?」

《あぁ問題ない。このまま直進すれば……》

 

 スラスターを噴かせながら低空飛行をする。

 両脇には岩壁が聳え立っており、雨がしんしんと降っていた。

 雨水を弾きながら壁に衝突しないように避けて行って。

 背後を見れば距離を大きく取りながらミランダたちのメリウスも問題なく追ってきていた。

 このフィールドに天候が加われば、タンク型の二人にとっては好条件だろう。

 ただでさえ地上へと目を向ける余裕は無く、エネルギーによる探知も出来ないんだ。

 二人は距離を取りながら、現れるであろう協力者と敵に集中すればいい。

 もしも何事も起きないのであればそれまでだが……そう簡単には終わらないだろう。

 

 ミランダが言っていた言葉の意味を理解した。

 タンク型のメリウスならば長距離砲を備えているものがほとんどで。

 此処は岩壁が聳え立つエリアだからこそ、俺たちや敵は自由に飛行する事が出来ない。

 だからこそ、親衛隊のメンバーで腕が立つミランダたちならば、動きを封じられた敵だけを狙い撃てる……と言った所か。

 

 どれほどの腕かは分からない。

 だが、逃走を選択しても活躍する事が出来ると言っていた気がする。

 だったら、彼女たちの腕を信じて後ろを任せるしかない。

 

 風きり音が響き、カタカタと機体が揺れる。

 モニターに映る代り映えの無い景色を見つめながら、俺はヴァンにレーダーに反応は無いか聞く。

 調べて見てくれたが……やはり反応は無い。

 

 近接戦になる事を想定し、機動力も底上げされたライトニングパックを選択したが。

 これが間違いじゃなかったと思いたい……そろそろか。

 

 間もなく、協力者と会う事になっているポイントに着く。

 レーダーには反応が無い事から、まだ到着していないか。

 或いは既に到着していて潜伏している可能性が高い。

 

 何方にせよ。

 発見できないのであればこちらはどうする事も出来ない。

 俺たちはそのまま壁を回避しながら進み……下へと降下した。

 

 脚部を地面につけて滑るように停止する。

 少しだけぬかるんでいたが止まるだけなら難しくはない。

 俺とSQは互いに死角を作らないように互いに背を向けて周りを索敵する。

 

「……ダメだな。何も反応がねぇ……本当に来るのか?」

《来る。CKの情報だから確かな筈だ》

「……俺たちはそのCKすら知らねぇけどな……ん? 何だ?」

「どうしたヴァン?」

「いや、レーダーが何かを……」

 

 ヴァンは疑似コンソールを叩く。

 そうして、レーダーの精度を上げて索敵していた。

 SQも索敵の範囲を広げているようで――!

 

「SQッ!! 上だッ!!」

《――!!》

 

 未来視が発動した。

 その光景を見た瞬間に俺は叫びながら回避行動を取る。

 SQは反射的に体を動かして、俺たちは互いに反対方向へとブーストした。

 

 瞬間、何も無い筈の頭上から何かが勢いよく落下した。

 まるで、隕石の落下のように地面に衝突した何か。

 凄まじい衝撃が発生し、雨粒が一斉に弾かれた。

 土煙が巻き起こり、 何も見えない状況の中で俺は未来視を発動させる。

 そうして、正面から向かってくる敵の気配を察知しブレードを――ダメだ。

 

 攻撃を受け止めようとして中断。

 そのまま横へと縮地を使う。

 一瞬にして機体が移動し、コンマ数秒で先ほどまで立っていた場所に何かが通過した。

 

「ヴァンッ! 敵の反応はッ!?」

「ダメだッ!! 一瞬だけ見えるのに、すぐに消えちまうッ!!」

「――クソッ!」

 

 土煙の所為で姿が見えない。

 奴は態と土煙を発生させて視界を奪ってきている。

 それは奴が此処で暴れる為であり。

 奴にとって此処には俺たち敵しかいないんだ。さぞやりやすいだろう。

 

 此処に現れた何か。

 十中八九が敵であり、協力者であるのなら攻撃を仕掛ける必要が無い。

 やはり情報が漏れていた可能性があり、俺はSQに指示を仰ぐ。

 

《……恐らく、敵は代行者だ。先ずは視界を確保する――任せたぞ。CQ、CH!》

《おぅ!》

《は、はいぃ》

 

 二人への援護の要請。

 それを受けた彼女らは、行動を開始し――轟音が鳴り響く。

 

 瞬間、俺たちから離れた場所に何かが着弾し。

 紅蓮の炎を巻き上げて、突風を巻き起こした。

 四方を崖に囲まれた状況下で、大きな炎を発生させた事で風を作り上げたのか!

 

 土煙が一気に晴れていく。

 瞬間、煙の中を動く敵を視認し、俺はブーストして敵へと迫る。

 回避しようとした敵に対して、俺は間髪いれずに超高周波ブレードを叩きつけた。

 

 ブレードが当たる。

 凄まじい火花を散らしながら奴の武装を――!

 

 ギラリと赤い光がちらついた。

 悪寒が走る。

 本能が危機を察知し、機体を勝手に動かした。

 上体を仰け反る様な体勢にすれば、上すれすれを赤いエネルギーが走った。

 バチバチと音を立てながら、巨大な手の平から放たれたエネルギー弾。

 その威力は本物であり、掠めた外套がちりちりと焼かれていた。

 俺は機体を回転させながら奴の機体に蹴りを放つ。

 甲高い音を立てながら奴の腕を弾き、ブーストによって距離を取りながらブレードを奴へと飛ばす。

 激しく回転しながらブレードが敵の機体に殺到し――奴は難無くその黒腕で弾いて見せた。

 

《発射ァァ!!!》

 

 ミランダの声が響く。

 瞬間、俺に視線を向けていた黒腕の機体に砲弾が放たれた。

 奴は一瞬にして動き片手で砲弾を受け止めた。

 爆発が起きて爆風で機体が揺さぶられた。

 戻って来たブレードを回収しながら、俺はその爆炎を見つめた。

 

 巨大な黒い腕のメリウス――ゆらりとそれが姿を現した。

 

 巨大な二つの腕は指となる部分が鋭利な刃物のようになっていて。

 まるで高速具のように機体にはパイプが巻き付けられていた。

 腕から中心で真っ赤な光を灯らせるコアらしきものに向かってパイプが伸びている。

 脚部も巨大な逆関節型であり、機体の全長はおよそ二十メートルはありそうだ。

 頭部の中心で真っ赤に輝く単眼センサーは俺をジッと見つめている。

 背部のスラスターは後ろへと真っすぐに伸びていて、やや下方に二つの小さなサブスラスターが見える。

 

 頑丈な巨大な腕は武装になっている。

 姿を現したものの、レーダーには奴の機体は映っていない。

 

「分かったぞ! アイツの機体から妨害電波が出ている。それがレーダーを誤認させてやがるんだ」

《私も今しがた認識しました。ヴァン様、ナナシ様。お時間を頂ければ必ず奴の妨害電波を利用し、意表を突けるかもしれません》

「……ロイド……分かった。何方にせよ、簡単には逃げられない。妨害電波を出しているのなら増援は呼べない筈だ……いや、既に呼んでいる可能性もあるが。奴を始末して離脱するしか手はない……ヴァン、無茶をさせるが」

「――俺の事は気にするなッ! 全力でやってくれッ!」

「……あぁ!」

 

 炎から出て来た敵。

 あの機体はミランダから貰ったデータで見たことがある。

 代行者の一人が搭乗していた機体であり……厄介だな。

 

 ロイドが奴の妨害電波を分析できるまで耐えるしかない。

 見失えば最期であり、常に視界に入れる必要がある。

 解像度の低い写真で確認できただけの機体であり。

 その戦闘スタイルに関してのデータはまるで無かったが。

 奴の主な戦闘方法はあの巨大な腕を使った攻撃だろう。

 超高周波ブレードで両断する事は難しいほどに硬い武器で。

 あれを破壊するよりも、脚部を破損させるかセンサーを潰した方が――

 

 

 

《怯えるな――ただ死ぬだけだ》

「……来るッ!」

 

 

 背後の炎を突っ切って、サンドリヨンが姿を現す。

 死角からの攻撃であり、奴は動くことなく――ブレードを避けた。

 

《――!》

「何!?」

 

 SQの驚愕の息遣い。そして、ヴァンの驚きの声。

 奴は全く動いていなかった。

 それなのに、サンドリヨンの斬撃は空を切った。

 奴は機体をその場で回転させて、そのまま停止したサンドリヨンに対して攻撃を放つ。

 が、間一髪のところでサンドリヨンはブレードの刃で攻撃を受け流し――いや、ダメだ!

 

 攻撃の衝撃を受け流しきれずに。

 サンドリヨンは機体を吹き飛ばされる。

 地面を転がりながら、サンドリヨンは姿勢を制御しようとする。

 そんな彼女を追いかけて、奴は更なる攻撃を――させるかッ!!

 

 縮地を使用。

 瞬間、体を引き延ばされるような感覚を味わい。

 奴の横へと躍り出る。

 ヴァンが強い吐き気に襲われていたが、俺は歯を食いしばって耐える。

 そうしてそのまま奴の頭部に目掛けてブレードを叩きつけた。

 

《――油断だ》

「――!」

 

 奴の低い声が響く。

 瞬間、奴は地面を大きく蹴り上げた。

 土煙が舞い上がり衝撃で機体が弾かれる。

 奴の姿を見失い、未来視を発動させて――マズいッ!

 

《ミランダッ! シスルッ! そっちだッ!!》

《――来やがれッ!!》

《ひぃぃ!!》

 

 敵の狙いを察知し、二人に叫ぶ。

 瞬間、轟音が鳴り響き衝撃波が離れた此処まで飛んできた。

 俺はすぐさま衝撃の発生源まで飛翔する。

 ブレードをクロスさせながらブーストし――何かが通り過ぎていく。

 

 一瞬見えたもの。

 それは長い砲身で――二人のメリウスに取り付けられた武装だ。

 

 理解した瞬間に、俺は機体を横にずらす。

 すると、そこへ向かって奴の機体が駆けた。

 もしも動揺し判断を誤っていれば死んでいた。

 

 通過していった奴に目掛けて砲弾が飛ぶ。

 被弾した奴から爆風が発生し、炎によって風が巻き上がる。

 煙が晴れた先には多脚型に変形したミランダのメリウスがあった。

 彼女の機体の砲身は抉り取られていて、俺は彼女の横に立ちながら大丈夫かと聞いた。

 

《あぁ問題ないね……あいつめ。迷いなくシスルを狙いやがった》

《ね、姉さん。ごめん。俺が、俺が》

《泣き言は後だッ!! 死にたくないなら奴を見続けろッ!!》

《は、はい!!》

 

 奴は今の一瞬で地面に向かって拳を連続して叩きつけた。

 土煙が空間全体を覆い、風だけでは払いきれないほどに広がる。

 これでは如何に二人が優れた狙撃手でも狙いがつかない。

 二人はまた焼夷弾を撃とうとしていたが、俺はそれを制止した。

 

「音が聞こえる。今、SQと代行者が戦っているんだ……迂闊に撃てば危険だ」

《――なら、閃光弾だ。後は分かるね?》

「……! 分かった。任せる」

 

 俺はそう言って煙の中へと突入する。

 背後では二人のメリウスが上空へ向かって閃光弾を発射し――光が走った。

 

 光は闇のようになった煙の中にまで届く。

 瞬間、その中を揺らめく大きなシルエットを発見した。

 俺はそこへ連続してブーストを行う。

 一気に距離を詰めながら、ブレードを大きく振りかぶる。

 煙の中から奴の赤い光が見えて――此処だッ!

 

 機体を回転させる。

 瞬間、俺に向かって放たれたエネルギー弾が外套を大きく削っていった。

 バラバラと残骸が舞う中で、俺はそのまま機体を回転させて力を使い――薙ぎ払う。

 

 超高周波ブレードが奴の脚部を削り取る。

 ギャリギャリと音を立てながら抉り取られたそれ。

 確かな手応えではあったが――浅いッ!

 

 今の一瞬で機体を動かされたか……いや、妙な感じがした。

 

 敵は機体を動かしていない様に見えた。

 しかし、俺の狙いは逸れていた。

 その為、足を切り飛ばす事は出来なかった。

 だが、大きなダメージであり、奴は機体をよろめけさせながらサンドリヨンの猛攻を防ぐ事しか出来ていない。

 

 これで跳躍による移動に制限が掛かった――いけるッ!!

 

 勝利の光が見えた。

 が、後ろでヴァンが叫ぶ。

 

「レーダーに反応ッ!! やばいぞ!! 増援だッ!!」

「――やはり呼んでいたかッ!」

 

 ヴァンが示した敵の数は二機。

 恐らくはその何方もが代行者であり。

 一機だけでも手こずっているのにもう二機が加わるのはマズい。

 俺はSQに声を飛ばして離脱を提示した。

 

《……止むを得ないか……撤退するッ!! しんがりは私だッ!!》

《何言ってんだッ!! お前が帰らなきゃ意味ねぇだろッ!! 私に任せろッ!!》

《これは命令だッ!! お前たちは全力でナナシの援護に回るんだッ!! 行けッ!!》

《……クソッ!!》

 

 ミランダの怒りに満ちた声。

 俺は一瞬迷ったが、SQの命令を受け入れた。

 そうして、三人で安全圏まで逃れようと――ッ!!

 

 何かが爆ぜる音が聞こえた。

 瞬間、退路に繋がる壁が崩れて塞がれる。

 遠隔起動型の爆弾であり……やられた。

 

 

 空中へと逃れれば逃げられる。

 しかし、その空中にも何か仕掛けがあるだろう。

 残されたそこへと飛び込んだが最後であり、残された道は……戦って勝つ以外にない。

 

「ロイド。あとどれくだいだ」

《残り十分ほどです》

「……一機だけでも削れば……まだ逃れる術はある」

 

 爆弾を用意したのが奴なら、他の仕掛けも奴が設置した事になる。

 代行者一人だけで、他に伏兵はいない。

 ならば、此処に単身で来るという判断は奴の独断の可能性が高い。

 神であるのなら全力で俺たちを潰しに来る筈だからだ。

 

 ……だとしたら、遅れて来る二名の何方かが……協力者の可能性もある。

 

 まだだ。諦めるには早い。

 何とかしてこの状況を打破し、協力者から情報を受け取る。

 ミッションを達成する鍵は――SQを全力で守る事だ。

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