爆発的な加速で眼前に迫る敵。
その黒腕を振りかぶれば突風が発生し。
その衝撃波だけで機体が激しく揺さぶられる。
間一髪で避けれても、奴はそのまま掌を外へと向けながら勢いよくエネルギーを噴射する。
瞬間、奴の機体は加速し砲弾と化す。
ブレードをクロスしながらそれを防ぐ。
が、完全に衝撃を殺す事が出来ず。
奴のタックルを受けた機体が悲鳴を上げていた。
《武装に深刻なダメージを検知。これ以上は衝撃に耐えられません》
「……敵の増援が来る……まずいな」
スラスターを動かして横へとスライド移動をする。
耐久性の高いブレードであっても、あれほどの質量の塊が何度もぶつかれば消耗も激しい。
このままこれで攻撃を防ぎ続ければ、何れは武器として使い物にならなくなる。
奴の像がブレ――加速。
地面を疾走しながら俺へと向かってくる。
その両手を振りかぶりながら肉薄してきた。
俺もブーストするが、奴も合わせるようにブーストし肉薄。
そのまま両手を振りながら打撃による攻撃を仕掛けて来た。
俺は未来視を同時に使用し、その攻撃一つ一つを捌いていく。
ブレードで受け止めるのではなく、受け流すように力を逸らす。
何度も何度も火花が散り甲高い音が鳴り響いて両腕がびりびりと痺れる。
奴の攻撃を通して疑似的な振動が俺の腕に伝わる。
だからこそ分かる。この一撃は重すぎると。
まるで、戦艦の弾であり、衝撃だけでも機体が揺さぶられる。
一撃必殺に等しいそれを受け流すだけでも精一杯で――奴が回転する。
その場で機体を回転させて、蹴りを放ってきた。
意表を突かれた俺は真面に奴の攻撃を受けてしまう。
機体がベキベキと音を立てながら一気に後ろへと飛ばされる。
そのまま壁へと激突し、ロイドが警告を発した。
《機体ダメージを確認。損害状況中レベル。エネルギ出力三十パーセントダウン》
「――クッ!」
一瞬、脳が揺さぶられた。
しかし、体は勝手に動いてその場から横へと緊急回避をした。
瞬間、俺がいた場所に敵の機体が突っ込む。
大きな穴が開いたそこからビキビキと亀裂が走り、壁が一気に崩れ落ちる。
俺はその瓦礫を避けながら奴から大きく距離を取る。
危なかった。まさか、ダメージを負った脚部で攻撃を仕掛けるなんて。
イカれている。いや、奴は戦闘に関しては天才か。
此方の意表をついての攻撃であり、タイミングは完璧だった。
あのまま意識が飛ばされていれば確実に俺は死んでいた。
いや、生きてはいても今のように深刻なダメージを負わされていただろう。
「縮地は……ダメだ。使えない」
ダメージが大き過ぎて縮地を使う為の力が出せなくなっている。
つまり、此処からはライトニングの強みを一つ失った状態での戦闘になる。
瓦礫によって発生した煙。
焼夷弾の炎も勢いを弱めていて、風による掻き消しも効果が薄くなっている。
奴は生きている。今ので死ぬようなやわな敵じゃない。
何処だ。何処から――!
背後から気配を感じた。
一瞬だ。ほんの少しの殺気であり、俺は咄嗟にブレードを振り――空を切る。
瞬間、背後から甲高い音が鳴った。
ハッとしてその場から距離を取る。
そうして、センサーを向けて確認すればサンドリヨンと敵の機体が鍔迫り合いをしていた。
まさか、今の一瞬で背後に迫り。
最小限の動きで再び俺の死角に――怖気が走る。
理解した瞬間に、敵の狡猾さとスキルの高さに恐怖を感じる。
これが代行者であり、たった一人で四人の手練れの兵士を相手に圧倒している。
機体性能だけじゃない。奴自身の戦闘経験も相当なものだ――増援は?
「ヴァン。敵の増援は?」
「おかしいんだ。アイツ等、遠くのポイントで停滞している。一向に動こうとしないんだ」
《恐らく、増援は命令を待っている状態かと。明らかにこの状況はあの敵にとって有利なものです。そこに味方が現れれば足を引っ張ってしまう可能性が高いです》
「つまり、アイツを仕留めるか危うくさせればそれが来るって事か……舐めている」
スラスターで移動をしながら敵を確認。
敵はサンドリヨンのブレードを弾きながら一定の距離を取る。
しかし、サンドリヨンは逆に敵へと迫りながら目にも留まらぬ速さで斬撃を放つ。
恐ろしく洗練された動きであり、奴の拳と当たる時の音も俺とは違う。
まるで、楽器のように透き通った音であり、SQの技量の高さが伺える。
二機は互いに交差しながら地上を駆ける。
そうして、敵はそのまま火花を散らしている脚とは逆の足を使って跳躍。
そのまま壁を移動しながら、サンドリヨンに対してエネルギー弾の攻撃を放つ。
連続して放つ光弾であり、小さなそれはまるでマシンガンのようだ。
それを受けるSQは己のブレードに白いエネルギーを纏わせる。
そうして、片手で器用に回しながら、その光弾を弾き飛ばして行く。
流れるように地面を滑る。
加速し、時には減速。
跳躍し空の上で機体を回転させながら光弾を弾き奴へと跳ね返した。
奴はそれを拳で払い飛ばしながら、壁に向かって両手でエネルギー弾を放つ。
瞬間、壁は大きな音を立てて破壊された。
奴自身はその衝撃で瞬間的に音速の速さで加速。
そのままサンドリヨンへと蹴りを放つ。
「SQッ!!」
《――!》
俺は咄嗟に叫んだ。
瞬間、SQは息を飲むような声を出していた。
スローモーションに感じる世界で。
SQはブレードを横へと滑らせるように振るう。
その刃には薄くエネルギーを纏わせていて。
奴のブレードが敵の機体の脚部に触れて――サンドリヨンのスラスターが甲高い音を奏でた。
ブースト。いや、ただのブーストじゃない。
高濃度になるまでに練り上げたそれを一気に噴出させた。
その結果、サンドリヨンはセーフティを突破するほどの挙動で回転する。
スローに見える世界でも速く見える回転。
だが、それは即ち機体を酷使すると言う事で――サンドリヨンの腰部から火が噴く。
《――ぅ!!》
敵の全力での蹴り。
それを一気に受け流せば、敵の脚部が地面に当たり大きく大地が揺れた。
衝撃の発生源にいたサンドリヨンはそのまま後方へと吹き飛ばされる。
俺は機体を加速させて、サンドリヨンの背後に回り受け止めた。
逆噴射によって壁への激突を防ぎながら、通信で大丈夫かと問いかける。
《あぁ問題ない――まだだ》
「あぁ」
「……マジもんの化け物だな。代行者」
ヴァンの呟きに同意しながら、煙の外を目指す。
サンドリヨンは反対方向に向かって。
俺たちが何とか煙りの外に出れば、ミランダとシスルの二人が再び焼夷弾を放つ。
地面に撃ち込まれたそれが大きく炎を巻き上げて。
また広がった煙を風によって払ってくれた。
すると、中心で腰を屈める敵の機体が見えた。
奴はゆらりと機体を持ち上げながら、ぎろりと俺を見つめる。
片方の足は既に限界であり、後少しでも攻撃を当てれば折れるだろう。
もう片方もサンドリヨンのエネルギーに触れたり激しい攻撃を加えた事でスパークを起こしている。
どう見ても満身創痍だ。それなのに全く安心が出来ない。
奴はゆっくりと通信を繋げて話しかけて来た。
《答えろ。裏切者の名を。誰が我らが主を欺いている》
「……知らない。何を言っている」
《……惚けるか。無駄だ。私は知っている。奴だ。奴しかいない……神の寵愛を受けながら、異分子に力を貸す愚か者……この手で奴を殺せば、私こそが神に……お前たちを殺せば、主もお喜びになるだろう》
奴はだらりと両手を下げる。
そうして、ゆらゆらと機体を動かして――!!
センサーが複数の敵影を捉える。
マップ上に多くのマーカーが出現する。
だが、周囲には敵はいない。これは奴が――
「ヴァン。レーダーを切れ。これは使えない」
「分かった!」
ヴァンがコンソールを叩いて操作する。
その間にも奴は機体を動かして地面を疾走した。
サンドリヨンが奴を追いかけながら、白いエネルギーの斬撃を飛ばす。
奴は焼夷弾によって発生した炎の中へと飛び込む。
そうして、斬撃を回避しながら炎の中からエネルギー弾を頭上に飛ばす。
炎を一緒に纏ったそれが宙で爆ぜた。
瞬間、凄まじい光量が発生して。
俺は目を閉じてしまう――心が警鐘を鳴らした。
俺は勘で機体を操作した。
そうして、ミランダの前に躍り出る。
一か八かで白いエネルギーを俺自身も作り出す。
一度は出来た。
ならもう一度であり、俺は二人を守りたい気持ちを高めた。
ブレードをクロスさせれば、目の前に白いエネルギーの膜が出来る。
瞬間、目の前に凄まじい量の光弾が撃ち込まれる。
バチバチと激しいスパーク音を発しながら、目の前にバリアに触れたそれが爆ぜる。
じりじりと後ろへと後退させられながら、エネルギー残量が勢いよく減っていくのを確認した。
バリアなら防げる。
だが、長時間は――
《解除して横だッ!!》
「――!」
ミランダが叫ぶ。俺は言われるがままに解除する。
そうして機体を横へとずらせば背後から勢いよく何かが飛ぶ。
激しく赤熱する砲弾であり、それは敵から放たれたエネルギーを吸収しながら飛ぶ。
大きく膨張するそれ。敵はそれを確認し攻撃を中断した。
が、奴を逃がさないとサンドリヨンは回り込み斬撃を放つ。
《――!!》
敵の息を飲む声。
一瞬の判断で奴は斬撃を受ける選択を取った。
両腕でガードしたものの、防ぎきれなかったそれが機体の装甲を傷つける。
パイプの一部からエネルギーが噴出し、炎を発生させていた。
奴はそのまま強引にサンドリヨンの守りを突破し――大爆発が起きた。
エネルギーを吸収し、小さな太陽のようになったそれ。
空中で爆ぜたそれは今までにない衝撃を生み出す。
土が大きく捲り上がり、残骸が飛んできて俺の機体に当たる。
システムが警告を発する中で、生み出された爆風が周囲の炎や壁すらも抉り取っていく。
逆噴射によってその場に留まろうとするが、ゆっくりと機体が後ろへと後退していく。
ヴァンは激しく揺れる機体に恐怖して叫んでいた。
「何なんだよ、あれッ!!!?」
《EN吸収膨張弾だッ!! 積んできて正解だったなッ!! ははは!!》
「笑い事じゃねぇ!!」
凄まじい暴風に耐える。
SQに無事かと聞くが通信が乱れている。
近くにいる二人は無事だが……。
衝撃が収まっていく。
俺はヴァンにレーダーを復旧して見てくれと頼んだ。
カタカタと操作しレーダーが復旧し、サンドリヨンの反応をキャッチした。
奴は少なくないダメージを追っている。
脚部からは少なくないダメージを負っていて、全力での蹴りや踏み込みが今はもう出来ないだろう。
激しい戦闘によって内部のエネルギー残量も減っている筈だ。
その証拠に、エネルギーの出力が落ちている事が目視で確認できていた。
だからこそ、さきほどのエネルギー弾による攻撃も機体が大破せずに受け止める事が出来た。
もしも全力であったのなら死んでいただろう。
通信が入り、SQが叫ぶように指示をする。
《増援が来る前に畳みかけるッ!! 援護をッ!!》
《おぅ! 行くぞシスルッ!!》
《はい!!》
背後から飛び出したミランダとシスルの機体が大地を駆ける。
さきほどの特殊弾によって中心では大きな炎が上がっていた。
それにより煙は一気に晴れて、全身をスパークさせる奴の機体が見えた。
地面に立っている奴を視認し、二人は互いに別の方向に向かって走行する。
奴の周りを走行しながら、奴に向けて砲身を向けていた。
《異端者どもが――図に乗るな》
奴は拳を構えながら周りにセンサーを向けていた。
そんな奴の上を飛び、垂直にSQが降下する。
一気にスラスターの出力を上げての加速であり――奴の視線が上を向く。
片手を頭上に向けて、もう片方を外側に向ける。
そうして、脚部を酷使した蹴りを地面に放ち奴はその場で回転した。
瞬間、奴の掌のエネルギーが赤く光り周囲に向かって放たれた。
シスルは怯み動きが止まる。
が、ミランダはそんな攻撃を意に介さずに攻撃を放った。
轟音が鳴り響き、奴に目掛けて砲弾が飛ぶ。
奴はそのまま機体を回転させながらエネルギーを放ち続けて。
奴へと迫ったSQは――奴から距離を取った。
俺も機体を動かしてその場から離れる。
瞬間、砲弾がエネルギーの壁に当たり爆ぜる。
大きな爆発であり炎が飛び散って煙が広がる。
奴の赤黒いエネルギーを飲み込むほどの爆発で。
突風が発生した戦場で大地を駆けながら、俺は機体を一気に上へと上昇させた。
煙から飛び出すように上へ飛ぶ。
そうして、一気に煙から抜け出した。
瞬間、レーダーに敵の反応が――
「今だッ!!」
《了解》
ロイドの声が聞こえた。
背後を飛ぶ敵は危険な光を発していて――機体スレスレを光弾が通過する。
《――!》
未来視によってロイドの策を認識した。
だからこそ、彼から作戦を聞かずに実行に移した。
その結果、奴の妨害電波を逆に利用する事で奴の機体システムを一時的にハックできた。
今まで俺たちの攻撃が空を切っていたのも同じ原理だ。
あのイカれた殺人鬼と同じ手であり、二度も同じ手は通用しない。
奴は驚きながらも、その場を離れようとした。
が、一瞬でも動揺したんだ――もう遅い。
レーダーにはもう一機の反応がある。
それは味方の反応であり、奴の死角から迫る”碧い機体”だ。
背部センサーで見た。
奴は気づいた。
だが、回避は出来ない。
電波によるハックをするだろうが、そうはさせない。
ロイドが奴に対してハックをしている。
機体は動かす事に集中しなければならない状況。
奴は舌を鳴らしながら、黒腕で防ごうとした。
SQは銀のブレードを水平に構えながらスラスターで機体を回転させて――
《終いだ》
《――》
SQのブレードに白い光が満ちる。
透き通るような白で、それが薄く纏わり。
SQは一呼吸の間に斬撃を放つ。
音は無い。
火花も散っていない。
気づけばSQのブレードが振られた後で――奴の腕がゆっくりと落ちる。
瞬間、奴はカニのように自らの手をパージした。
そうして、その場からブーストによって一気に離れる。
大きな爆発が発生し、俺は思わず両腕でガードをした。
何も見えない状況だが、レーダーには奴の反応がハッキリとある。
SQは既に奴を追っていた。
俺も後から奴を追い――その方向はッ!!
レーダーには二機のメリウスの反応がある。
奴が逃げる方向にて待機している不明機。
恐らくは奴が手配した増援で、奴はそれを今度は俺たちに差し向けるつもりだ。
俺はSQに今の内に撤退する事を叫んだ。
《ダメだッ!! 此処で代行者を逃せば危険だッ!! 奴だけでも確実にッ!!》
「――動いた!」
ヴァンが叫ぶ。不明機が動き始めたのか。
真っすぐに逃げる奴へと向かっている。
武器を失った奴は身軽であり、更に加速をしていた。
SQも速度を上げるが、奴の方が速い。
俺は縮地を使えない状態であり、間に合わ――あれは!?
遥か向こうから向かってくる機体。
漆黒の機体であり、真っ赤なライン状の光を放つセンサー。
見た事も無い形状の機体であり、手足が長く頭部が胴体と一体化している。
両肩には盾のような形状をしたものが取り付けられていて、細身の機体は高機動型であると予想される。
《命令だッ!! 奴らを殺せッ!!》
《やはり敵かッ!》
代行者が叫ぶ。
その命令を受け取った二機のメリウスは光を強くして。一気にブーストして、両腕の武装を展開した。
鉄杭のような武装に、もう片方は小型のガトリングガンだろう。
二機は代行者を――”攻撃した”。
「は?」
二機の鉄杭が逃れようとした代行者を穿つ。
空中で機体に風穴を開けられた奴も動揺していた。
残骸がひらひらと落下し、奴の機体のセンサー弱弱しく点滅していた。
《そう、か……お前は、最初から……私を、おびき出す為に……”ベン・ルイス”》
「――え?」
ノイズ交じりの通信。
その最期に聞こえた名前。
俺たちは動揺しながら、代行者の揚げる最後の火を見届けた。
視線をゆっくりと目の前に浮遊する二機に向ける。
その二機はセンサーを点滅させながら、此方に何かを送りつけてきて……これは!
データだ。
それも高度に暗号化されたデータで。
二機はそれを俺たちに送りつけてから、互いに向き合って――杭を打ち込んだ。
互いに殺し合い。
ひらひらと残骸が落下し、途中で爆発して全てが消えた。
俺たちはただ茫然とそれを見つめて……協力者は現れなかったか。
「……なぁナナシ。奴が最期に言っていた名前……アイツが協力者なのか?」
「……分からない。だが、聞く事は出来る……ノイマンたち知っている。そうだろ、SQ」
《……そうだな。だが、ノイマンには会えない……CKの口から聞こう》
SQはそう言って帰還を命じる。
俺たちは炎を上げる代行者の残骸を見つめて。
用は終わったと言わんばかりにその場から離脱する。
後ろ髪を引かれるような思いだ。
協力者は現れなかったが。
敵として戦った代行者は最期に、ベン・ルイスの名を呟いていた。
本当に奴が協力者なのか。
そして、もしもそうであるのなら何故……仲間である筈の親衛隊メンバーを殺す事が出来たのか。