作戦域から離脱し、シャンドレマへと帰還を果たした。
既にSJたちの部隊は帰還していて、他の部隊も予定より遅れたが無事に帰還した。
SJたちはすぐに協力者との接触は上手くいったのかと聞いて来たが。
答え辛い質問に、SQは首を横に振る事しか出来なかった。
協力者とは接触は出来なかったが。
必要な情報を持ち帰る事は出来た。
SQは暗号化されたデータをすぐに解読すると言って。
俺たちには休むように言って来た。
久しぶりの戦闘であり、疲労は溜まっているだろうという気遣いから来る言葉だ。
それを理解している俺たちは言われるがままに家へと帰る。
バイクではなく専用の無人車両に乗って帰宅。
システムからの労いの言葉を聞き流し。
俺とヴァンは鍵で扉を開けてから中へと入った。
ガチャリと音をさせて家に入れば、ばたばたと音を立ててリビングの扉が開かれる。
家の中に入ればミッシェルが待っていた。
碌な説明もせずに出て行ったからか。
彼女は少し不安そうな顔をしていたのを今でも覚えている。
だからこそ、彼女と一緒にミヤフジが待っていたのも納得できた。
ミッシェルは俺を見つけるなり抱き着いて来て。
ヴァンはにやにやしながら部屋へと戻って行く。
俺はすすり泣く彼女の頭を撫でながら、ミヤフジと共に彼女をリビングに連れて行く。
ソファーに座らせながら彼女を宥めて。
ミヤフジから渡されたお茶の入ったコップを彼女に渡す。
すると、彼女はそれを一気に飲み干してから机に叩きつけた。
キッと俺を睨みながら、彼女はハッキリと言う。
「どこ行ってた! 心配かけさせんなよ!」
「……悪かった……任務で、国外に行っていた」
「……どうせ、作戦自体が外部には言えないんだろ……それでも、言えた事はあったんじゃねぇのか」
「……悪い」
「……謝んなよ」
互いに向き合いながら顔を伏せる。
そんな俺たちを元気づける為にミヤフジはパンと手を叩く。
「はい。そんな顔は終わりでーす! さぁお腹も減っているでしょうから。何か作りますよ! 何が良いですか?」
「……肉が良い」
「はい! 肉ですね! 分かりました! ちょっと待っていてくださいねぇ」
「……ミヤフジが作るのか?」
「そうですよぉ」
彼女はそう言いながら、椅子に掛けてあったエプロンを纏う。
慣れた手つきで腕を捲りつつ、彼女は流れるように必要な材料や調理器具を出していった。
見たところ料理経験はありそうであり、俺はミッシェルに断りを入れてからソファーから立ち上がる。
キッチンに立ちながら材料を切る彼女を見る。
大根を手頃な大きさに切り皮を剥く。
そうして、たまねぎなどもみじん切りにしていた。
全ての手際が良くて見惚れるほどだ。
「料理が得意だったのか?」
「え? あぁ……意外ですか?」
「あ、いや……食べている所しか見ていなかったからな」
「あはは、まぁそうですよね……御祖母ちゃんとお母さんから教わったんです。何れお嫁に行くのなら憶えておいた方が良いって……こんな私はどうですか、ナナシさん?」
彼女は笑みを浮かべながら問いかけて来た。
その言葉の意味は、恐らくそう言う事で……俺には答えられない。
今の俺には恋人がいる。
後ろを見れば、彼女がジッと俺を見つめていた。
分かっていると笑いながら、俺はミヤフジに言葉を送った。
「良いと思う。俺にはもう恋人がいるがな」
「……聞きました。おめでとうございます……でも、そんな答えじゃ私は止められませんよ?」
「ん? それはどういう事だ?」
俺は首を傾げながら問いかけた。
しかし、彼女は笑うだけで何も言わない。
ミッシェルを見れば頬を膨らませながら俺を睨んでいた……可愛い。
ミヤフジの意味深な言葉。
それを考えれば一つの答えにしか行きつかない。
いや、それ以外の意味があるのなら俺の勘違いだが。
何故、二人から好かれてしまったのか俺には分からない。
俺は何もしていない上に、二人に贈り物だって……。
「何で好かれているかって考えましたか?」
「――! 何で分かったんだ?」
「ふふ、分かりますよ。だってすぐに顔に出ますから。ね、ミッシェルさん」
「……そうだよ。お前はポーカーフェイスなんか気取っているが、バレバレだ……少なくとも私とユーリは分かる」
「みたいですよ……理由、教えましょうか?」
「あ、あぁ」
理由を教えると言った彼女。
てきぱきと料理を作りながら彼女は理由を明かす。
「……ノース・カメリアでナナシさんは私を救ってくれました……縁もゆかりもない私の泣いている姿を見て。貴方は打算も何も無く、私の友達を助けようとしてくれた……ヴァンさんもそうですけど。最初に声を上げた貴方は私にとってヒーローのように見えました……別れ際でも私を気に掛けてくれて。本当に嬉しかったです……私はダメダメで、何のとりえも無くて。本部でも浮いた存在だったから誰も私なんて見ていなくて手も差し伸べてくれなくて……私ってチョロいですかね? へへ」
「――そんな事は無い」
「……そうやってハッキリと言ってくれるところも理由の一つです……私はナナシさんが好きです。今もこれからも」
ミヤフジは手を止める。
そうして、俺の目を見ながらハッキリと言った。
彼女からの想い。それをストレートに受けた俺は静かに頷いた。
「ありがとう……でも、俺には」
「――だから、二番目にしてください!!」
「……は?」
彼女の発言に思わず声が出た。
二番目と言ったのか……そういう意味なのか?
俺は戸惑う。
そういう事はダメではないのかと。
だからこそ、彼女に対してそんな曖昧な関係は一番ダメだと伝える。
誰が一番か二番なんか無い。
愛する人は一人だけであり、そんな事はミッシェルも……?
彼女に視線を向ければ大きくため息を吐いていた。
そうして、首を左右に振りながら諦めたように言う。
「ナナシ、お前はそいつをどう思っている? 正直に言え」
「…………好きだ。ミヤフジは優しくて根性があって…………純粋な彼女の心が好きだ」
「だったらよぉ。もう答えは決まってんだろ……俺は一人増えるくらいなんとも思わねぇよ」
「だ、だが! それはお前やミヤフジに失礼な」
「――バァカ! 何時の時代の人間だぁ? 今の時代な重婚くらい当たり前なんだよ。ロボットとの結婚だってあって、年の差だって関係ねぇ。俺が良いって言ってんだ。つべこべ言わずに、そいつも抱いてやれ!」
「ぶぅ!!」
ミヤフジが噴き出す。
彼女は顔を真っ赤にしながらあわあわとしている。
今彼女は抱けという言葉を盛大に勘違いしているんだろう。
だからこそ、俺はミヤフジの誤解を解くために説明をする。
「抱けというのはシンプルにお前を抱きしめるという意味だ。そもそも、俺とミッシェルはまだ経験が無い。だからそういう意味では――ぅ!」
「ば、バカかッ!! そんな説明すんじゃねぇ!!」
彼女が一瞬にして俺の横に移動する。
そうして、思い切り横腹を殴られた。
俺は横腹を抑えながら小さな声で謝る。
彼女はふんと鼻を鳴らしてから、自らも腕を捲ってエプロンをつけた。
「手伝う。何すりゃいいんだ?」
「あ、それじゃこれとこれを混ぜて捏ねてください」
「おぅ……お前は座ってろ」
「……はい」
ミッシェルに座ってろと言われて座る。
ミヤフジはニコニコとしていて……なら、言うしかないな。
俺はミヤフジに声を掛ける。
すると、彼女は首を傾げながら俺を見て来た。
「……俺もお前が好きだ……その、ミッシェルも一緒で良いのなら……恋人になってくれ」
「……それじゃ、一つ条件があります」
「じょ、条件……何だ?」
条件と言われて少し面食らう。
彼女はふふっと笑いながら目を細めて笑う。
「ユーリって呼んでください。出来ますよね?」
「……分かった。これからよろしく頼む。ユーリ」
「――っ! はい! よろしくお願いします! ナナシさん」
彼女は綺麗な笑みを俺に見せる。
日光の下で咲く綺麗な花のようで。
俺はそんな彼女をジッと見つめていた。
そんな時に玄関から声が聞こえた。
ガチャリと扉が開けられて入って来たのはドリスやライオットに。
アニーやイヴとベックだった……そう言えば。
壁に掛けた時計を見れば、既に時刻は午後九時過ぎだ。
彼らは俺たちを見つけるなり「ご飯!」と目を輝かせる。
「あ、ミヤフジさん。こんばんは。今日は泊りですか?」
「はい。お泊りデートです!」
「……? デートって誰と……っ!」
ドリスが目を輝かせる。
隣に立っていたライオットは眠そうな目で俺を見ていた。
ベックも何か勘付いた様子であり、血の涙のように見せかけた赤い液体を目の付近に垂らして歯ぎしりしていた。
アニーとイヴはミッシェルを見ながらニヤニヤとしている。
「先輩。寝取られた」
「先輩。夜這いするしかない」
「……お前ら……別に? 怒らねぇよ? 私はもう大人の女だからな」
「「処女の癖に?」」
「――殺すぞ?」
ミッシェルが肉がついた手を上げながら笑う。
双子は全身の毛を逆立てながらベックの後ろに隠れる。
ベックは限界まで目を見開きながら赤い液体を垂らしながら俺を睨んでいた。
ドリスが俺に駆け寄る。
そうして手を握りながら小声で言う。
「本当におめでとうございます。まさか、”お二人”と結ばれるなんて……今度、私たちと一緒にWデートでもしませんか?」
「…………ん? Wって」
「……ふふ、私とライは……ね?」
彼女は妖艶に微笑む。
此処に来て俺は理解した。
つまり、ライオットとドリスは最初からそういう関係だった。
彼女たちは付き合っており、俺は今の今まで気づかなかったのだと。
俺は間抜けにも口を開けながら固まっていた。
ドリスはそんな俺から離れて、ライオットの頬を突いて笑っていた……やはり、女心は難しいな。
何故か、ベックは更に顔に皺を作りながら。
白目を剥きながら殺気を放っていた……怖い。
「おぅす! さぁさぁどうなったか……何だ何だ? この状況は……ベックの様子からしてそう言う事だろうが……独身はあっちで飲もうぜ」
「ヴァ、ヴァンさぁぁん」
男同士で抱き合いながら泣いているベック。
ヴァンはそんな彼をあやしながらソファーの方に行く。
俺は無言で彼らの為にビールを取りに行って……イザベラか。
遅れて帰って来たイザベラ。
見ればその手には大きなガラス瓶が握られている。
「ただいまっと……ナナシ、良いものを貰って来たよ。何か分かるかい?」
「……酒か?」
「ふふ、ただの酒じゃない……何と火乃国のブランデーさ。私のファンからの捧げもんだ」
「イザベラのファン……?」
「あぁイザベラさんは軍で人気者なんだよ。紅一点ってわけじゃないけど。その男らしい性格で男女問わずに人気なんだ……この前何て女性の兵士から手紙貰ってたよ」
ライオットは眠そうにしながら答える。
そんな言葉を聞いてミッシェルは頷いていた。
「まぁ何でもいいじゃないか。これを飲めば疲れも吹き飛ぶよ」
「お! じゃ、今日はビールは止めてそいつにするか! ベック君はいける口かなぁ」
「いけますいけます! もう酒なら何でも!」
二人は笑いながらそんな事を言う。
イザベラは現金な奴らだと笑いながらコップと氷を用意しに行く。
視線を感じて振り返れば、ユーリがを俺を見ていた。
彼女は口を動かして俺に何かを伝えて来た。
『愛してます』
「……ふ」
彼女の言葉に笑う。
まさか、二人も恋人が出来るとは思わなかったが……悪くない。
協力者の件があり油断は出来ないが。
このまま彼女たちと平和な時を過ごせるのなら。
それは俺にとって最高に幸せな時間で……守ろう。
数多の悪意から、彼女たちや家族を守る。
その為ならば俺は神でも悪魔でも喜んで戦いを挑む。
誰にもこの平和を壊させやしない。
俺はこの時間が好きで、大切な存在といられる空間が掛け替えが無く……。
ギュッと拳を握る。
そうして、見えない悪意を警戒しながら。
俺は一人決意を固めながら、大切な存在を守る事を誓った。