【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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167:欠けているもの

 渡されたスーツに着替えてヘルメットを装着。

 コンソールを叩きながら、この奇妙なメリウスの情報を見ていく。

 

「……こんなメリウス、何処で作ったんだ?」

《気になるかな? まぁ言っても分からないと思うけどね》

「……」

 

 突然、戦いを申し込まれて。

 そのまま連れていかれたのはあの大きな倉庫だった。

 てっきりシミュレーターで戦うと思っていれば、メリウスが二機その中に鎮座していた。

 彼曰く、戦いは生でなければ実にならないらしい……流石は大物だな。

 

 どちらも細身の機体ではあるが、バックパックは背負っていない。

 あるのは小型のスラスターだけであり、恐らく長時間の飛行は出来ないと思った。

 人型であり、分類でいうのであれば軽量二脚だろう。

 余分な装甲はない上に、これと言って特別な機構も無い。

 ただの飛べないメリウスであり、本当にどういう目的で作ったのか不明だ。

 

 CKと会話しながら調べてみれば、やはり飛行には対応していない。

 精々が跳躍程度であり、操作方法に至ってもレバーとボタン式だ。

 いや、確かにフリーハンドはそこまで普及はしていないが……本当に何処で作ったのか。

 

 型式番号が存在しないことから、企業によるものではない。

 いや、個人でも型式番号はつけているが。

 これは明らかに正規のメカニックのものでもない。

 少し知識があるだけの人間が作ったようなお粗末なもので。

 最低限の歩行機能やスラスターがつけられているだけで。

 どの世代の強みもない。何の意図で作られたのかも、どんな理由で此処にあるのかも不明だ。

 ただ存在する機体の名前は……”ミッシング”か。

 

 欠けているなんて名前がここまでマッチする機体も珍しい。

 全くもって嬉しくない状況だが、今は気にしていられない。

 色々と掛けてはいるが、操作方法だけは慣れ親しんだものとほぼ同じで。

 俺はマニュピレーターの感度やスラスターの反応などを確かめていく。

 

 典型的な人型機体で、カラーリングは灰色だ。

 青い双眼センサーであり、手にした武装は縦とブレードだ。

 これではメリウスというよりはコロッセオで戦う剣闘士のようだな。

 

 そんな事を思いながらコンソールを戻す。

 そうして、機体を操作して倉庫から出た。

 彼について来るように言われて、クラウンさんが住む家から離れていく。

 見渡す限りの平原であり、障害物は何もない。

 遠く離れれば湖とその周りに生える木々だけが小さく見えている。

 俺は小さく息を吐きながら、コックピッド内の暑さにも違和感を覚えた……まさか、空調設備もないのか?

 

 明らかにただ動けるだけをコンセプトに作られている。

 その為、長時間の戦闘には絶対に不向きだ。

 振動も伝わりやすく、唯一の外の状況が分かるのは双眼センサーだけで――

 

《準備はいいかい?》

「……はい。何時でも――!?」

 

 俺がそう返事をすれば、彼は俺に向かってきた。

 試合開始の合図もなく始まった戦い――速いッ!

 

 特別なチューニングは施されていない筈だ。

 しかし、相手の機体の歩行スピードは滑らかな上に無駄がない。

 すぐに眼前に迫り、彼は腕を振り上げていた。

 俺が咄嗟に盾を構えれば、彼は盾ごと俺に斬りかかってくる。

 がすりと音がして衝撃だけで機体全体が揺れた。

 俺は盾を持つ手を上へと上げた。

 そのまま相手の機体のバランスを崩そうとした。

 が、CKは俺の動きを読んで先に攻撃の手を緩めていた。

 

「――っ」

 

 機体を回転させて、そのまま横から斬撃を放つ。

 スラスターを噴かせて後ろへと飛ぶ。

 ギリギリで斬撃を避けたが――本気で殺しに来ているのかッ!?

 

 明らかに殺すための攻撃だった。

 それだけで奴の本気度が理解できた。

 そんな事を考えていれば、奴は地面を踏みしめて駆ける。

 手にしたブレードが地面を抉り、奴はそのまま土を巻き上げた。

 

「くそッ!!」

 

 バシャバシャと土が機体に当たる。

 狭いモニターでは外の状況が完璧には分からない。

 少しでも何かで視界を防がれれば敵を見失う。

 土と芝が宙を舞い、盾を振るってそれらを払う。

 が、既に遅かったようで俺は奴の姿を完全に見失う。

 この機体にレーダーは無い。

 使えるのは己の五感とセンサーだけであり――後ろか!

 

 ブレードを振るう。

 瞬間、確かな手ごたえを感じた。

 何かに当たりブレードが止まって――違う。

 

 ひらひらと舞うのは奴の機体の残骸じゃない。

 舞っているのは奴が持っていた盾だ。

 それを認識した瞬間に、背筋が凍りつくような殺気を感じた。

 

《こっちだよ》

「――!」

 

 何かに機体を小突かれた。

 その衝撃から敵は斜め後ろにいると気づく。

 咄嗟に盾でガードをすれば、奴の全力の突きによって機体が大きく吹き飛ばされる。

 

「ぐぅ!!」

 

 機体はそのまま地面に倒れそうになって。

 咄嗟にスラスターからエネルギーを噴射して姿勢を戻す。

 がりがりと脚部で地面を滑りながら、俺はセンサーを奴に向けた。

 機体を揺らしながら、迫り来る奴にブレードを横一閃。

 奴はそのブレードの軌道を予測し、頭部スレスレで回避して見せた。

 そうして、俺の機体にタックルをする。

 

 機体全体が激しく揺れて、ヘルメット越しに頭をシートに何度もぶつける。

 俺はたたらを踏みながら後進し何とか踏ん張る。

 一気に後ろへと吹き飛ばされながらも脚部に力を込めた。

 

「このォ!!」

 

 奴にめがけて跳躍する。

 そうして、大ぶりの攻撃で奴へと斬撃を放つ。

 奴はそんな俺を見つめてブレードを構えて――な!?

 

 ブレードに俺の得物が触れた瞬間。

 奴の機体が沈んだように感じた。

 それは錯覚ではなく、奴の機体が膝を曲げていて――奴が飛ぶ。

 

 膝を曲げて機体の角度を一気に傾けた。

 そうして、そのままスラスターを一気に噴かせながら地面を蹴りつけ跳躍。

 奴は俺から距離を取り宙を回転し、そのままブレードを地面に刺して機体を停止させた。

 

《いい動きだね。流石に場数を踏んできただけの事はあるよ》

「はぁ、はぁ、はぁ……褒めているつもりか?」

 

 奴の言い方は賞賛のように聞こえるかもしれない。

 しかし、明らかに奴の方が格上だ。

 完全に俺は弄ばれているだけであり、その賞賛の言葉も嫌味にしか聞こえない。

 

 呼吸を整えながら奴をジッと見つめる。

 次はどう来る、どうやって攻めてくる。

 俺は奴をジッと見つめて――奴はブレードを上に投げた。

 

「――ッ!」

 

 奴のブレードがくるくると回転する。

 大きく空を飛んでいて、それが太陽の光を浴びてきらりと輝く。

 俺は大きく目を見開きながらそれを見つめていた。

 

 あり得ない。その動きは無意味だ。

 そんな事を一瞬でも考えてしまった。

 瞬間、奴は一気に跳躍する。

 向かった方向は俺の左側であり、そこには何もない。

 何をするつもりなのかと思いながらも、一度離した武器を拾わせないために俺は奴へと攻めに行く。

 今がチャンスだ。奴は丸腰であり、これで終わらせて――

 

《油断、だね》

「――!」

 

 奴が笑った気がした。

 瞬間、俺は一瞬だけ攻撃を躊躇った。

 奴はその隙を見逃すはずもなく。

 拳で俺のブレードの側面を叩く。

 軌道がずれて奴の横にブレードが当たり土煙が舞う。

 俺はハッとして武器から手を放し、奴から離れようとした――目の前に奴が迫る。

 

《それは悪手だよ》

「――な」

 

 逃れようとした俺にタイミングを合わせてきた。

 咄嗟に拳を振るうが、そんな単調な動きは読まれている。

 奴はひらりと交わしながら、俺のコックピッドに目掛けて拳を振り下ろした。

 

「があぁ!?」

 

 機体全体が激しく揺られる。

 あまりの衝撃に脳全体が揺さぶられた。

 ヘルメット内に吐しゃ物をまき散らしながら、俺はそのまま姿勢制御もできずに地面を滑って行った。

 機体が激しく揺さぶられてセンサーからの映像が乱れる。

 俺はシールドを展開しながら、必死に奴を探して――何かが刺さった音が響いた。

 

 地面が大きく揺れて土煙が舞う。

 振動はすぐに収まり、センサーからの映像も戻っていった。

 機体が停止し、頭部を動かしてセンサーを向ければ頭部スレスレにブレードが刺さっている。

 それは俺のものではなく奴が持っていたもので――肝が冷えた。

 

 もしも、少しでもズレていれば機体に刺さっていたかもしれない。

 偶然か。いや、違う。

 奴は狙ってこの状況を作り出した。

 最初からブレードで決着をつけるつもりで投げて、俺はまんまと奴の掌の上で踊らされた。

 それを認識した瞬間に心が凍り付き、絵も言わぬ恐怖を感じた。

 これがKクラスのトップであり、傷無しの異名で恐れられた英雄の力。

 

 圧倒的であり、終始転がされた。

 いい訳なんて出来ない。いや、しようがない。

 完膚なきまでの敗北であり、手も足も出なかった。

 同じ機体で戦ったのだから、実力の差は明白だ。

 奴は俺の機体を見下ろしていた。

 そうして静かに、この戦いに幕を下ろす。

 

《チェックメイト……まだ、足りないね》

「……く、そ……」

 

 負けた。

 文句のつけようがないほどに完膚なきまでに。

 俺は悔しさを滲ませながら奴を見続けた。

 

 これが親衛隊の中でも選ばれし異分子の力。

 Kクラスの異分子はこいつほどに強いというのか。

 傷無しという異名も嘘ではなく、本当に今まで攻撃を真面に食らったことがないのか。

 俺は奴を化け物のように思った。

 すると、奴は笑いながら提案をしてくる。

 

《君はノイマンに会いたいそうだが……今の君にはその資格はない。そこで提案だ。これから一月ほど猶予を与える。それまでに強くなって次の戦いでこの僕に一太刀でも攻撃を与えられたら……ノイマンに会わせてあげよう。どうかな?》

「……言ったな。その言葉、忘れるなよ」

 

 俺は笑う。

 確かにこの男は強い。

 だが、一太刀でもというのであれば俺に全く望みがない訳じゃない。

 そう思って言った言葉だったが、奴は気に入ったようだ。

 

《いい返事だ。それじゃ、君にうってつけの先生を紹介しよう……此処で父から学べ。彼は優秀なパイロットであり、教官でもある……もしも僕の予想が正しければ”あの力”もものに出来るだろうさ》

「あの、力……?」

《すぐに分かるよ。最も君は不完全ながら何度かそれを使っているようだけどね……その時を楽しみにしているよ。ナナシ君》

 

 奴はそれだけ言って通信を切る。

 奴が離れていくのを感じながら、俺は久しぶりの敗北に笑うしか出来なかった。

 こうまで力の差が歴然で、あっさりと負けたのは何年ぶりだ?

 教育時代でもまだマシだったお思えるほどに早々に敗れた。

 

 ……いや、奴は実力を全て出していなかった。もしも全力だったら、もっと早くに……。

 

 奴の底知れない力に身震いする。

 そうして、これからの事を思いながら俺も機体を倉庫に戻す為に動き始める。

 ヘルメットを脱いで近くに置きながら、謝罪の言葉も考えておく事にした。

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