【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

180 / 230
179:希望へと向かう意思

 大きく地面が揺れる。

 倒壊する城から抜け出して、俺は目の前の惨状に絶句した。

 

 空は黒煙に染まり、無数のメリウスが戦っている。

 城にいた兵士たちは全て出払っており。

 PB兵などが果敢に上空の敵メリウスへと攻撃を行っていた。

 

 弾丸の雨だ。

 地上からと上空からのそれが混ざり合い。

 都市中へと放たれるそれらが美しい景色を穢していく。

 炎が生きているかのようにうねり、黒と赤が混ざったそれが空気を染め上げていった。

 崩れ落ちた壁の隙間からそれらの光景が目に映る。

 

 熱い。肌を通して空気の熱を感じる。

 呼吸をするだけでも息苦しい。

 そして、耳に聞こえる火薬の音や人々の声がひどく煩い。

 

 祭りだったら良かった。

 だが、これはそんな生半可なものではない。

 地獄だ。瓦礫に潰された兵士に、メリウスからの攻撃を受けてバラバラになったPB兵。

 城から離れて都市のメインストリートを駆けていけば、無残な死体が至るところに転がっていた。

 

 ――何だ、これはッ!

 

 心臓が激しく鼓動する。

 汗がだらだらと流れて、生きた心地がまるでしない。

 悲鳴と怒声。そして、爆発の音や炎が燃え上がる音。

 不安と恐怖を掻き立てるそれが、俺の心をかき乱そうとする。

 良くない考えが何度も浮上して、俺は必死にそれを消していった。

 

 走る、走る――走り続けた。

 

 瓦礫が転がるメインストリートを駆けていく。

 空には無数のメリウスが飛んでいて、中央都市へと攻撃を仕掛けていた。

 都市を守っていた筈の防衛装置は既に解除されていて。

 何処からともなく現れた無数の黒いメリウスたちが無差別な殺戮を行っていた。

 

 黒い外套を纏ったメリウスたち。

 頭部からは真っすぐに伸びる小さな二つのブレードアンテナが生えていて。

 血のように赤い単眼センサーを光らせるそれは、武装と一体化した腕を民衆に向けて放ち続ける。

 風でたなびいたその機体は漆黒よりも黒く。

 装甲の上をなぞるように赤黒いラインが引かれていて、よく見ればそれはエネルギーだと分かる。

 露出するように展開された動力路であり、心臓の鼓動のように脈動していた。

 

 アレは死神だ。

 無感情に目の前の命を刈り取る死神で。

 あれらの機体からは命を感じない。

 いや、敵意すら感じない……アレらは恐らく無人機だ。

 

 人が乗り込んでいない機体だが。

 その動きは無駄がなく洗練されていた。

 統率されたベテランの軍人以上の動きであり。

 それに対抗するシャンドレマの兵士たちは苦戦していた。

 

 シャンドレマの兵士が乗るメリウス。

 連携を取りながら標準装備のアンダルライフルとスプレッドショットで敵を迎撃していた。

 アンダルは貫通性能を極限まで高めた一点突破型の特化型ライフル。

 スプレッドショットは散弾銃を改良し、弾が敵に着弾した瞬間に誘爆を起こす仕掛けを施している。

 スプレッドで動きを制限させてから、鈍った敵をアンダルで確実に仕留めて行っている。

 この瞬間にも敵のメリウスが撃破され、その残骸がひらひらと降って来る。

 落ちてきた残骸が近くの建物に当たり残骸が辺りに飛び散った。

 俺は転がるように移動し、それを大破して転がっていた別のメリウスの上半身の影に隠れてやり過ごす。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……はぁ!」

 

 荒い呼吸を繰り返しながら、煙の中から上空を確認する。

 敵と味方が入り乱れていて、激しい空中戦が今も続いている。

 

 圧倒的に敵の方の機体の数が多い。

 空を黒で埋め尽くすほどの数であり。

 それに対抗するシャンドレマ側のカーキ色のメリウスたちは必死に抗っていた。

 

 戦況で言えば……まだシャンドレマ側に分がある。

 

 どんなに統率された動きであろうとも。

 シャンドレマのパイロットの腕は高いと知っていた。

 彼らは応用を利かせながら、敵にとっては不規則な動きで上手く相手をかく乱していた。

 どんなに優秀なAIを敵が積んでいようとも、不測の事態にすぐに対応する事は困難だ。

 データに無い動きをすれば、それだけ相手の動きが鈍る……上手いな。

 

 恐らく、彼らを指揮している人間がいる。

 この戦場の何処かで戦いの流れを分析し。

 適した戦い方を指示しているんだ。

 きっとあの空の上で戦っている筈だ。

 

「――よし」

 

 俺は呼吸を正して、勢いよく駆けていく。

 今はまだ、敵の中で俺を見つけている奴はいない。

 もしも見つかっていたら優先的に攻撃されていただろう。

 このまま敵の目をやり過ごしながら、ヴァンたちと合流を――ッ!

 

 砲弾が飛び、建物がはじけ飛ぶ。

 大地が大きく揺れて、俺は必死に足を地面につけていた。

 

「そのまま真っすぐ進めッ!! 振り返るなッ!!」

「空になるまで吐き続けろッ!! すぐに戻ってくるぞッ!!」

 

 PB兵たちは都市の人間たちの避難誘導を行いながら、上空を飛ぶメリウスへ攻撃を続ける。

 避難している一団はほとんどが老人や女子供で、その足取りはひどく遅かった。

 ガラガラと弾丸が飛び、メリウスたちは一定の距離を保ちながら彼らへと攻撃を行おうとしていた。

 展開されている弾幕は濃く、赤熱する弾丸が空を無数に飛んでいた。

 

 弾幕を展開しながら上空の敵からのミサイルを打ち落とす。

 爆炎が広がりながらも、PB兵たちは果敢に攻撃を続ける。

 しかし、その合間を縫うように砲弾が飛び――人が飛び散る。

 

「――ぅぁ!!」

 

 突風が吹き、体を覆うような熱風を浴びた。

 俺は姿勢を低くしながらその風圧に耐えた。

 悲鳴が一瞬だけ聞こえた。しかし、すぐに爆発音で掻き消えた。

 

 一瞬だ。ほんの瞬きの間に、目の前で何人もの人が弾けた。

 残骸が辺りに飛び散り、ごとりと何かが足元に転がる。

 それはPB兵用のヘルメットを装着していて、シールドが砕けて見えてしまう。

 煙の中で見えづらいそれは空ろな目で俺を見ていて――ッ!

 

 俺は駆けだした。

 此処にいれば確実に死ぬ。

 アイツらは神が送り込んできた無人機たちで。

 それを指揮しているのは十中八九、代行者の誰かだろう。

 よく目を凝らしてみれば、純白のメリウスが空を駆けていた。

 それらは合計で4機のメリウスであり、それぞれが特殊な形状をしたブレードを振るい。

 次々に無人機たちを墜としていっていた。

 華麗な動きであり一切無駄が無い。

 統率された軌跡であり迷いの無い太刀筋が無人機たちを警戒させていた。

 

 都市への攻撃を行うメリウスはいる。

 だが、あの純白のメリウスたちはそんな敵を優先的に潰していた。

 まるで疾風であり、すれ違いざまに無数の敵機が爆ぜていく。

 

 このまま上手く行けば味方のメリウスが敵を殲滅する。

 何故だか分からないが、アレらに乗るパイロットたちが負ける姿が想像できない。

 ノイマンからの情報でアレらのメリウスがKクラスのパイロットが乗るものだと知った。

 つまり、あのCKが直々に戦っているんだ……負ける筈がない。

 

 俺は空を見上げてからすぐに前を見て駆けだした。

 見れば、バイクが木にもたれ掛かるように転がっていて。

 俺はすぐにそばに駆け寄った。

 所有者は近くにはいなかったがキーが入った状態で横転していて。

 それを起こしてからエンジンを掛ければ……生きている!

 

 まだ死んじゃいない。

 それが分かったからこそ、俺はバイクに跨る。

 そうして、エンジン噴かせながら一気にスロットルを回す。

 アクセル全開で都市の中を駆けていき、瓦礫の山を避けていった。

 

 都市中で火の手が上がり、黒煙が空を染め上げていた。

 無数の悲鳴と火薬の爆ぜる音が聞こえて。

 俺は歯を噛み締めながらこの地獄の中で抗っていた。

 

 こんな所で死ぬわけにはいかない。

 俺は彼から託された。

 失った記憶を取り戻し、大切な名を受け取ったのだ。

 

 

 ――もう迷いも後悔もない!

 

 

 全力でスロットルを回す。

 ノンストップで都市を駆けていけば、都市の柱が見えてきた。

 半ばから折れていて機能を停止したそれら。

 奴らがどんな手を使ってあれらを無力化したのかは分からない。

 だが、今は一刻も早く皆と合流して――ッ!

 

 空中から何かが勢いよく飛来する。

 目の前で着弾したそれが大きな音を立てて爆ぜた。

 バイクを停止させようとしたが、俺はそのまま爆風に巻き込まれる。

 

「――!!」

 

 声にならない悲鳴を上げた。

 そうして、体が吹き飛ばされる。

 きりもみ回転をしながら、俺は体を地面に強く打ち付けた。

 そのまま激しく転がりながら、何かに体を打ち付けてようやく止まる。

 

 激しくせき込みながら朦朧とする意識の中で――ぅ!!

 

 腕に鋭い痛みが走る。

 ゆっくりと左腕を見れば、曲がる筈の無い方向に曲がっていて……大丈夫だ。

 

 この程度の傷なら、今の俺の力で治せる。

 今は立ち上がって別の乗り物を……!

 

 地面が大きく揺れる。

 何かが俺のすぐ近くに降り立った。

 視線を向ければ、無人機たちの内の一機が俺を見ていた。

 奴はゆっくりと両腕を上げて俺に狙いをつける。

 

 

 心臓の鼓動が急激に早まる。

 

 断続的に浅い呼吸を繰り返しながら、俺は自らに迫る死を見ていた。

 

 確実に殺される。力を使ったとしても、間に合うのか。

 

 分からない。何も分からない。

 

 

 

 このまま俺は、俺は――ッ!!

 

 

 

 勢いよく何かが飛んできた。

 謎のメリウスであり、それが敵機を勢いのまま蹴りつけていた。

 外套越しに敵の機体が大きく歪み、敵は単眼センサーを謎のメリウスに向けた。

 そうして、無事な片腕で攻撃しようとし――そいつがブレードで腕を飛ばした。

 

 一瞬だった。

 流れるような動きで相手の腕と頭を切り飛ばしていた。

 鮮やかな動きで武装を破壊されたそいつはそのまま謎のメリウスに更に蹴られて後ろへと吹き飛ぶ。

 遅れて爆発が起こり、謎のメリウスは俺に視線を向けてきた。

 

 灰色のカラーリングの機体。

 どことなくアンブルフに似ている気がするが。

 俺の愛機とは違って頭部がシュッとしていて特徴的なスラスターではない。

 四つのメインスラスターを背中に装備していて、機体にはシルバーのラインが走っていた。

 青く発光する双眼センサーを俺に向けながら、そいつは両手のブレードを腕に戻した。

 俺の傍へと駆けよりそいつは腰をかがめて手を伸ばしてきた。

 声は聞こえない。だが、その中にいる人間は分かる――ヴァンだ。

 

 俺は頷きながらその手に乗る。

 すると、ヴァンはゆっくりと腕を持ち上げてから指を曲げる。

 悠長に時間を掛けてコックピッドへと入れてもらう訳にはいかない。

 それが分かっているからこそ、俺は手の中で身を潜ませながら後の事はヴァンに任せた。

 

 機体が揺れて空を飛行しているのが分かる。

 力を使い見えたのは、空中戦をしていた敵が数体此方を追いかけようとした姿だ。

 しかし、それらの機体はCKたちに斬り飛ばされてしまう。

 

 一瞬、彼らと目が合った気がした。

 気のせいだったかもしれない。

 だが、間違いなく彼らの強い意志を感じた……ありがとう。

 

 ヴァンの駆る機体と共に戦場と化した中央都市から離脱する。

 一体何が始まるのか……いや、俺は知っている。

 

 ノイマンから託されたもの。

 その中の情報には神が成そうとしている事があった。

 そして、奴がこれから起こしていく事についての情報も……阻止しなければならない。

 

 もしも、このまま神がする事を黙って見過ごせば。

 俺だけじゃない。この世界に住む全ての人間が――消えてしまう。

 

 俺たちの故郷を消し、奴が望む人間たちの世界にする。

 偽物である俺たちは最早奴にとっては不要な存在だ。

 

「……どうすれば……」

 

 俺一人の力ではどうする事も出来ない。

 だからこそ、多くの力が必要になる。

 これから俺たちが向かわなければならない場所。

 そこに行けば、俺たちの力となる物がある筈だ。

 

 行かなければ。

 一刻も早く仲間たちと――”第二の仮想世界”に!

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。