【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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183:聖なる剣(side:CK)

 シャンドレマの剣。最期の希望。

 聖なる剣の名を与えられしメリウス。

 王を守る為に生まれた剣――”ソード・クルタナ”。

 

 我が愛機の名であり、これを受け取ったあの日から僕の役目は決まっていた。

 この輝く剣を持って、全ての敵を屠るのだと。

 ただ一つの傷でさえも受ける事無く。

 国を支配せんとする闇を打ち払う。

 

 純白の機体の表面が青白く発光する。

 機体全体に広がるラインの光。

 それは国に魂と誇りを捧げた英雄たちの輝きだ。

 紛い物の輝きではない。本当の光であり――彼らは我らと共にある。

 

 双眼センサーが輝きを発したのが分かる。

 我が心に共鳴するようにスラスターの音色が高まった。

 金色に輝く王家の紋章を映した赤いマントをたなびかせ。

 この広い大空をクルタナは自由に舞った。

 

 無数の敵が襲い来る。

 視界はほぼ全て的で、視界覆うほどの眩い光が見えていた。

 赤熱する弾丸であり、それが僕とクルタナを終わらせようと迫る。

 そられ全てを視界に入れながら――僕は笑う。

 

 レバーとペダルを操作し。

 指のボタンをカチカチと押して機体全体を細かく動かす。

 マントにすら掠らせないように全ての弾丸を避けていく。

 最短最速で、この身を傷つける事無く――翔ける。

 

 美しいスラスターの音色を聞きながら。

 僕はクルタナの剣を広げて機体を回転させる。

 青色の粒子が空を舞い、クルタナが通った軌跡を彩り。

 すれ違いざまに逃げようとする敵を両断した。

 

 一瞬だ。

 それ以上の時間は掛けない。

 遅れて爆発が起こり、そのままトップスピードで大空を舞う。

 放たれる弾丸全ての軌道を先読みし。

 避けられないものは剣で弾き、目まぐるしく変わる景色の中で次々と敵を切り落としていく。

 

 一体、二体、三体四体五体――数え切れないほどだ。

 

 敵に心は無い。

 何処まで行っても戦闘の為のマシーンで。

 そんなものに与える心など持ち合わせていない。

 仲間たちも大空を舞いながら、互いに連携し相手をかく乱。

 そのまま思考に一秒ほどの時間を要する敵を屠っていく。

 

 次だ。次だ――まだまだいる。

 

 

 どれだけ墜とそうとも。

 どれだけ切り払おうとも。

 敵は蛆のように湧いて出る。

 何処からともなく現れた敵たちは神が送った先兵で……まだまだ潜ませているな。

 

 確実にシャンドレマを墜とすつもりだ。

 そうでなければこれほどの戦力を投入する筈がない。

 だが、奴にとって最も強力な駒である代行者の姿は見えない……どういうつもりだ。

 

 思考しながらも、敵へと攻撃を続ける。

 迫り来る弾丸を見切り、放たれたミサイルをブーストによって回避。

 接近戦で攻めてきたチェンブレードの無人機たちをより速い動きで捌く。

 

 止まらない。止まる訳にはいかない。

 時間を掛ければ掛けるほどに他の場所に手が及ぶ。

 これ以上の犠牲は容認できない。

 

 更にブーストする。

 そうして、SKの機体とギリギリで交差する。

 互いに引き連れた敵へと突っ込み。

 そのまま両腕を動かして敵を切り飛ばしていく。

 

 戦いじゃない。

 この程度はただの掃除だ……手早く終わらせよう。

 

 

 眼下に広がる地獄。

 あんなにも美しく綺麗だった中央都市は既にもう存在しない。

 この地獄を作り出した神が憎い。

 やはり奴は神であり……ただのシステムに過ぎないんだ。

 

 ノイマンとはまるで違う。

 奴には冷たさと灰だけしかない。

 かつてはあったであろう心も既に消えていた。

 

 ……最早、交渉の道はない……いや、鼻からそんなものはなかったよ。

 

 後ろから追ってくる敵。

 ロックオンしようとする敵を確認し――急停止。

 

 敵も同じく停止相しようとした。

 瞬間、スラスターを全て使いブースト。

 そのまま動きを鈍らせた敵へと迫り、腕ごと機体を断つ。

 

 ずるりとズレたそれ。

 ゆっくりと落下していき――爆ぜた。

 

 廃部センサーで一瞥。

 そのまま大空を掛けながら、二振りの剣を構える。

 そうして、再びトップスピードで駆けて行った。

 全ての機体の動きが読める。

 次の行動なんてない。奴らに待つのは死だけだ。

 

 高速で移動をしながら剣を振るう。

 踊りでも踊るように軽やかに宙を舞いながら、すれ違いざまに敵を次々と切り捨てていく。

 後ろで無数の閃光が迸り遅れて音が聞こえてきた。

 中央都市の上空にはまだまだ敵がいるが、他の兵も奴らを倒していっている。

 殲滅するのも時間の問題だが……敵は何処から来た。

 

 ノイマンの反応が消失したのは確認している。

 彼の目論見通りであり、神は遂に行動を起こした。

 が、ノイマンが捕らえられる前に敵は行動していた。

 そんな事は不可能な筈だ。だが、実際に奴らは中央都市の上空に突如として現れた。

 

 恐らくは転移装置を使って移動したに違いない。

 だが、ノイマンの防壁を突破して転移装置を使用できる筈がない。

 となれば、奴らは……神は此方の想定よりも早くに力を取り戻しつつあるのか。

 

 その起点となったのは間違いなくナナシ君だ。

 彼との接触により、神は何かのヒントを得たのか。

 ノイマンを殺すのではなく捕獲する事にしたのも関係ある……多分、兄さんも関わっている筈だ。

 

 神だけであれば、ノイマンを捕らえる何て考えには至らなかったはずだ。

 リスクが高い上に、それをしても得られるメリットは少ないように思えるから。

 しかし、態々リスクを承知でナナシ君と接触し布石を打っておいたのには理由がある筈だ。

 恐らく、その理由を作ったのは兄さんで……兄さんは今、何処に?

 

 シナリオ通りであれば、最早、神の傍に留まっておく必要はない。

 此処へと兵を向かわせた時点で、兄さんも此方と合流する手筈になっていた。

 だが、兄さんの姿はなく。代わりに無数の無人機が送り込まれただけだった。

 

 ……妙な胸騒ぎがする。何かがおかしい。

 

 考えたくない事も浮かんでくるが。

 これ以上は目を逸らすことは出来ない。

 あり得ない筈の事でも、確かに可能性はあるんだ。

 ノイマンたちが用意した作戦でも、神を欺けなかった可能性。

 そうして、それでも兄さんが代行者として傍に仕えていた事は……。

 

 ――システムが新たな敵の接近を告げる。

 

 機体を上空へと上げながら、迫り来る敵を切り飛ばしていった。

 放たれる弾丸が雨のように降り注ぎ、それらを回転により回避。

 触れる可能性のあるものは全ては弾き飛ばしてから、回転の力を利用し敵の胴体を分かつ。

 激しいスパークを起こしながら、後方でまた一機爆発する。

 

 ピリピリと機体が揺れる。

 受ける風の影響か。はたまた敵の爆発によるものか。

 関係ない。どんなに愛機を揺さぶろうとも、我が剣先が乱れる事は無い。

 赤いマントを模した”対EN兵器用防布”をはためかせながら、僕は更に大空を駆けた。

 

 瞬間、遥か彼方より何かが迫る。

 それはまるで、雲を切り裂く稲妻のように速い。

 反射的に剣を動かしてそれを弾こうとした。

 刃が当たり。機体全体に凄まじい力が掛かり、僕は咄嗟に受け流しへと変更する。

 衝撃を逃がしながら機体を回転させて。

 激しい火花を散らせながら、それの体当たりを躱す。

 

 稲妻の如きそれは真っすぐに進んでいきながら、空中に制止する……見たことが無いな。

 

 恐らくはメリウスだろう。

 しかし、その形状は見た事もないような球体状だった。

 いや、完全な球体ではなく。

 多重装甲のようなものを張り巡らせて、正面の守りを固めているそれ。

 全長は恐らく二十メートルから二十五メートルほどか。

 後方からは筒状になった大型のスラスターが一基と小型の筒状のスラスターが計四つ。

 他にも機体の各部に機体に埋め込まれた内臓式のサブスラスターがある。

 

 元は白かったであろう機体。

 しかし、その機体の正面は中心から広がるように黒ずんでいた。

 煤汚れていると言ってもいい。

 恐らくは、それほどまでに多くの機体を墜としてきたんだろう。

 

 汚れを落とさないのはそれを勲章のように思っているから。

 好戦的で血に飢えた獣で……パイロットは相当な手練れだ。

 

 隙間から除くセンサーは黄色く発光している。

 多重装甲の隙間が僅かに開いて内部の熱を放出していた。

 

 ……見た事は無い……だが、データ上では確認している。

 

 アレは代行者の機体だ。

 機体名は”ジオ・ストーム”だったか。

 重装甲よりも更に強力な多重装甲の機体で。

 その重さは正確には分からずとも、並大抵のメリウスでは比較にならないほどらしい。

 攻撃方法は先ほどのような質量に任せて体当たりで。

 爆発的な推進力を持つスラスターの恩恵もあり、死角からの急襲であれば掠めただけでも致命傷を負う事になる。

 

 だが、最も脅威となるのは――来るッ!

 

 機体を動かしながら、奴から距離を取ろうとする。

 その瞬間に、奴の機体の隙間から赤黒い発光を確認した。

 奴の機体の表面が激しくスパークしていて。

 奴はそのままセンサーを強く光らせたかと思えば此方に向かって突進をしてきた。

 

 一瞬にして奴の機体が眼前に迫る。

 僕はその動きを読みブーストにより機体を先に上へ――剣を合わせた。

 

 瞬間、完璧に避けた筈の奴の機体に剣が当たる。

 ギリギリと音を立てながら、そのまま僕の剣を折ろうとしてきて――機体を一気に回転させた。

 

 全てのスラスターを使って無理矢理に機体を回転。

 そのまま奴の装甲を撫でるように滑っていく。

 表面が帯電しているが、マントのお陰でダメージはほとんどない。

 そのまま奴の機体が抜けていき、空中で姿勢を整える……やっぱりか。

 

 情報によれば、アレは体当たりをするだけだが。

 何故か、ベテランの兵士であろうとも避けられなかったと伝えられていた。

 完全に避けるような動きをしていた筈だ。

 それでも気づけば真面に攻撃を喰らってそのままバラバラに、か。

 

 情報通りだ。

 体感して分かったが、アレは此方の動きに合わせるように動きを変えていた。

 それもスラスターによる調整ではなく、もっと単純な方法でだ。

 ジオストームなんて大層な名前だが、それは誇張でも嘘でもない。

 アレは”強力な磁力”を纏っており、此方の機体を”自動で追尾”できるようにしている。

 

 僅かだがレバーが重くなったように感じた。

 それは奴が発する強力な磁力に機体が吸い寄せられたからだ。

 もしも、このマントが無ければ確実に仕留められていたかもしれない。

 

 原始的な方法。

 しかし、それ故に対処の仕様が無い。

 奴の磁力を無効化する為には、メリウスから降りる他ない。

 が、そんな馬鹿な事は誰も絶対にしないさ。

 

 奴は機体を旋回させながら再び此方に向かってきた。

 僕は薄く笑みを浮かべながら、それならそれでいいと考えた。

 

 機体を一気に連続してブーストさせる。

 すると、奴もその動きに合わせて追跡してきた。

 距離を離す事なんて出来ない。

 幾ら優れた機体であるクルタナであろうとも――それがどうした?

 

 

 連続してブーストし、そのまま機体を回転させる。

 纏うべきエネルギーは流天であり、僕はそれを刃に纏わせる。

 そうして、そのまま敵に向かって急反転する。

 

 敵が驚いているのが何故か分かる。

 そのまま互いの機体がゼロ距離にまで迫って――ブレードを叩きつける。

 

 全力で二つの剣が奴の装甲にかち当たり。

 甲高い音と共に激しいスパークが生じた。

 耳が壊れそうなほどの音を聞きながら、僕は剣から手を放す。

 瞬間、二振りの剣が奴の装甲にくっついた。

 僕はそのまま機体を回転させて撫でるように奴の攻撃を回避。

 

 

 此方にセンサーを向ける彼に対して僕は言葉を送った。

 

 

「彼女たちは少し――熱烈だよ」

 

 

 そう呟いた瞬間。

 剣の中で増幅された流天が一気に噴き出してきた。

 それはその色と性質を大きく歪めて灰燼と化す。

 逢引きを邪魔され怒り狂う女神のように荒々しく――恋敵を襲う。

 

《――!》

 

 灰燼の性質により、奴の機体の装甲が腐食されていく。

 ズクズクに表面が溶かされていき、奴は磁力を――へぇ。

 

 磁力を解除すると思っていた。

 しかし、奴はそれを敢えてせずに逆に更に磁力を高めていった。

 良い判断であり、磁力を解いた瞬間に倒そうとしていた此方の計算が狂わされた。

 

 遠く離れた愛機が彼に引き寄せられようとしていた。

 周りを飛ぶ無人機やシャンドレマ兵の機体も引き寄せられていて。

 彼へと向かう残骸たちが空を飛ぶ奴の後ろを目に見える軌跡となっていく。

 まるで、天を翔ける竜であり――いいね!

 

 僕はそんな彼へと自らの意思で迫る。

 もしも近づけば、今度こそ回避は出来ない。

 強力な磁力により、彼の攻撃は必殺中となったと言っても過言ではない。

 このマントを使ったとしても、完璧には力を衰えさせる事は出来ないだろう。

 

「でも――関係は、ないッ!」

《――!》

 

 僕は敢えてマントを脱ぐ。

 それを片手で持ちながら、僕は敵へと迫る。

 一気に速度が高まり、死の気配が近づいてきた。

 すぐ近くで死神の呼吸音が聞こえていて――僕は死なないけどね。

 

 瞬間、一機の純白のメリウスが姿を現す。

 彼は僕の機体目掛けて剣を投げてきた。

 激しく回転するそれも磁力の影響を受けているが。

 すぐにそれをマントで包み込んだ。

 

 刃も何もかもがマントで隠れて。

 僕はそのままエネルギーを阻害するであろうそれにエネルギーを纏わせていく。

 

「知ってるかい? こうやって使えばどうなるか――見せてあげよう!」

 

 内部で膨張する灰燼。

 それがぐつぐつと音を立てているようで。

 眼前に迫った砲弾の如き敵。

 それに向かって剣を叩きつける瞬間。

 マントが耐えきれずに焼かれて行き、姿を現した黒く輝くそれが敵の装甲に触れて――爆ぜた。

 

 行き場を失った灰燼。

 それを一気に正面に向けて放つ。

 斬撃でも打撃でもない。

 これはただのエネルギーによる爆弾だ。

 

 しかし、その衝撃だけで僕の機体は一気に彼から引きはがされる。

 磁力が一気に弱まり、空中を僕の剣が舞っていた。

 僕は手に持っていた仲間の剣を投げて仲間に返却した。

 彼はそれをしっかりと受け取り、別の代行者と戦う仲間の下に向かう。

 

 僕はそのまま宙を舞う剣を回収。

 そうして、雷雲のようになった爆発の中心で蠢く影を観察していた。

 死んではいない。

 アレだけの多重装甲であれば、致命傷にもなっていないだろう。

 しかし、磁力を解除したのであれば維持できるだけの力が残されていないことになる。

 後に続いていた残骸たちの軌跡はゆっくりと落下していっている。

 降り注いでいくそれはまるで隕石のようで……すまない。

 

 アレを取り除く術はない。

 国民たちはシェルターに避難しているだろうが。

 この美しい都市を崩壊と穢れから守る事は出来ない。

 それだけが歯痒く感じる……来るか。

 

 蠢く影。

 それが黄色い光を発した。

 瞬間、中から勢いよく何かが飛んできた。

 それは手であり、広げられた大きなそれが空中で分離する。

 

 指一つ一つと掌になったそれ。

 それが宙を飛びながら、此方に向かって攻撃を仕掛けてくる。

 真っ赤に輝くレーザーは細長い光の線であり、触れるまでは一瞬だ。

 恐ろしく速い上に、手数も多い。

 避ける瞬間を正しく見極めなければ、それだけで手足は吹き飛ぶ。

 

「ふふ」

 

 一つ一つからレーザーが飛んできている。

 独特な発射音が響き、未来視の力を使いその軌道を正確に見抜く。

 触れるか触れないかのギリギリだ。

 装甲を人間の拳ほどの隙間をあけて抜けて行っていると感じる。

 

 機体を回転させながら、ブーストも併用し回避。

 縦横無尽にレーザーを放つ手が動き回り、死角からも攻撃を放っていた。

 が、僕には全て見えている。

 この程度で攻撃は当たらない。

 

 攻撃のディレイはほとんどないが。

 Kクラスの人間であれば避けられて当然だ。

 チラリと仲間を確認すれば一機は無人機の殲滅に当たり。

 もう二機は代行者と思わしき別の機体を追い詰めていた。

 

 勝てる――問題はない。

 

 確実な勝機が見えていた。

 このまま敵を殲滅し、此処で避難している国民を避難させて。

 先に逃げたナナシ君たちと合流する。

 そうすれば、神と対する時に僕たちも手を貸すことが出来る。

 

 少なくとも、この場に現れた二名の代行者たちは――此処で潰す。

 

 黒煙から躍り出た敵。

 既に多重装甲はパージしていた。

 内部フレームが少しむき出しになているが動きには問題ないようだ。

 身軽になった敵は、僕へと向かってき掌が無くなった腕を向けてきた――おぉ!

 

「そうなっているのか!」

 

 両腕から銃身が伸びる。

 それはエネルギーをチャージして赤黒く発光するエネルギー弾を放ってきた。

 真っすぐにすすむ極太のエネルギー弾であり、僕はそのギリギリを見極めて避ける。

 そんな僕を他の無人機も混ざって攻撃してくるが――まだまだだ!

 

 弾丸を放つそれらを見る事無く空を翔ける。

 避ける必要もない弾丸の剣で弾いて。

 そのまま死角からのレーザーをブーストで回避。

 散会しようとした無人機へと連続ブーストで接近――薙ぎ払う。

 

 横一線で一気に二体の敵機を断つ。

 薄く広がる斬撃であり、ゆっくりとズレたそれが遅れて爆ぜた。

 そのまま背後から攻撃を放つ代行者へと視線を向け――ふふ。

 

 奴は今の視線だけで攻撃を中断した。

 もしも、あのまま攻撃をしていればすぐに肉薄し切っていた。

 やはり、それなりに場数を踏んでいる。

 危ない事はしないようで……だが、妙だな。

 

 奴の攻撃には確かに殺意が籠っている。

 確実に此方を殺そうとする敵の気配を感じていた。

 だが、何故かは分からないが奴は慎重すぎるほどに此方から距離を取っている気がした。

 多重装甲の時は守りが硬かったからこそ積極的に攻撃を仕掛けていたが……いや、違う。

 

 多重装甲の有無は関係ない。

 奴は何かを待っている。

 確実に奴は時間稼ぎを目的としていた。

 

 だが、代行者を二名も遣わせて目的が時間稼ぎだって……?

 

 変だ。すごく変だ。

 神の一番の駒であり、戦力としてこれ以上ないほどの存在だ。

 そんな貴重な駒二体に与えられたのがただの時間稼ぎなんて……読み違えているのか。

 

 何かを待っている気はする。

 だが、時間稼ぎに代行者を使うのが引っかかる。

 

 

 ……いや、もしかして時間稼ぎをするのは……目的が僕たちだからか?

 

 

 それ以外に考えられない。

 この場にKクラスを留めておくのなら代行者を使う他ない。

 だからこそ、彼らは此処に――だからどうした。

 

 例え罠であろうとも、僕たちが此処を離れる事は無い。

 我らが与えられたのは王の護衛とこの都市の守護だ。

 持ち場を離れる時は全ての国民を逃がした時だけだ……そう、例え王が”アレ”を僕に渡したとしてもだ。

 

 受け取ったものは肌身離さず持っている。

 だが、これを現時点で使おうとは思わない。

 もしも使うのならば最悪の時だけで……それを起こさせないためにッ!

 

 回避を止める。

 そうして、奴へと向かって言った。

 奴は此方の動きが変わったのを察知して距離を取ろうとする。

 だが、簡単には距離を取らせるつもりはない。

 

 剣にエネルギーを纏わせる。

 そうして、黒き斬撃を奴へと放った。

 奴は大きな動きでそれを回避した。

 が、そのせいで速度が落ちた。

 

 一気にブーストで接近。

 そのまま奴へと剣を叩きつけようとして――弾かれた。

 

 見れば、両腕が戻っていた。

 今の一瞬で手を戻していたのか。

 奴は手の甲で僕の斬撃を弾いて見せた。

 だが、一瞬でも触れた事によって敵の拳は表面が少し溶けていた。

 

 奴は流天を纏わせてその傷を癒す。

 回禄と流天……まぁ使えるか。

 

 奴への警戒度を少し上げる。

 そうして、薄く笑みを浮かべながら。

 もう少し時間がかかりそうだと感じていた。

 

 早めに終わらせる。

 何を企んでいようとも関係ない。

 この国へと迫る脅威は――全て斬るッ!!

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