【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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185:死の天使(side:CK)

「兄さんッ!!!」

 

 大空を駆けながら剣を振るう。

 敵となった兄さんはその攻撃を視界に捉えながらハンドキャノンを撃ち鳴らす。

 一瞬にして六発の光弾を放つ敵。赤黒く発光するそれは不気味な音を奏でる。

 赤黒く発光する無数の光弾が空を飛び、此方の斬撃を打ち消していった。

 

 ただの回禄――そうじゃない。

 

 兄さんの纏う回禄は全くの別物だ。

 此方の流天や灰燼に匹敵する威力がある。

 アレを使って機体の基本スペックを底上げしているんだろう。

 追いつこうとしても追いつけないのがその証拠だ。

 

 破壊音と激しいスパーク音。

 美しい空に攻撃の光が迸る。

 兄さんがブーストし甲高い音が響く。

 パラパラと舞う赤黒い光の粒子の中を翔けながら、二機のクルタナが互いに回転する。

 一瞬にして別れ、そのままブーストし接近。

 仲間たちが死角から仕掛けるが、兄さんは機体を回転させながら四方八方に光弾を放つ。

 乱れるように撃たれたそれらが奇妙な軌道を描いて迫り来る。

 

 二人は機体を敵から放しそれから逃れようとする。

 が、その光弾は生きているかのように揺れ動いていた。

 追尾弾に近い性能――似て非なるものだ。

 

「――!」

 

 僕は剣を二つとも投げ飛ばす。

 勢いよく突き進むそれらが仲間たちに迫る光弾を打ち消した。

 光弾たちが爆ぜて粒子が舞う。

 その中を突っ切るように二つの剣が飛翔した。

 仲間たちは連続してブーストし、斬撃を放ち残りのそれらを迎撃――背後にオラースがいる。

 

「SKッ!!」

《――ぅ!!》

 

 SKの背後に一瞬で迫る。

 殺気が高まり、ハンドキャノンの照準が向いている。

 一撃だ。一撃で仕留められる――させないッ!!

 

 脳波リンクにより剣に命じる。

 手元から放たれた剣が奴へと向かっていた。

 風を切り裂き飛翔し、奴の僅かな隙へと潜り込む。

 

 ブレードと奴の銃がかち当たる。

 意表を突いた攻撃に奴は動揺しているように見えた。

 奴のハンドキャンの両断しようとした。

 もう少しで砕ける、そう思った。

 が、完全に破壊する事は出来ず。奴の手元から弾くのが精一杯だった。

 

 その来ると分かっていた。

 此方も未来視は使える。

 兄さんも使えるからこそ、互いに未来を読みあっての攻防になる。

 今の一瞬。兄さんは確実にSKを仕留める筈だった。

 が、僕の一手でそれを防ぎ――奴は武器を手放した。

 

 オラースが距離を取る。

 武器を掴もうとして、HKが立ちふさがる。

 そうして、連続した攻撃を放った。

 奴はその攻撃を見切るが、Kクラスの中で最も速度に特化した太刀筋――避け切れない。

 

 逆手に持ったブレードを舞うように振るう。

 風切り音が鋭さを増していき、彼女の機体が残像のように見えていた。

 オラースは器用に機体各部の噴射口を使って全ての攻撃を避ける。

 僕は剣を回収し、奴の背後から迫った。

 

 彼女の機体から青い粒子が舞い、奴の意識をかき乱している。

 彼女は更に速度を高めて、空中で剣を回す。

 全ての攻撃がトリッキーであり、法則なんてものは存在しない。

 剣と粒子が混ざり合い、奴の目には幻のように映っているだろう。

 

 速く、速く――より鋭く。

 

 まるで幻術のようであり、オラースは動きを僅かに鈍らせていた。

 未来視でも対応できないほどの速度で攻撃を行っている。

 簡単なようで実践できる人間はそう多くはない。

 彼女はKクラスの中で近接格闘戦に優れた異分子だ。

 彼女との格闘戦で勝てる人間は――存在しない。

 

《シィ!!》

《――ほぉ》

 

 奴の声が聞こえた。

 オープン回線であり、完全に舐められている。

 

 HKは限界まで高めた斬撃に灰燼を合わせた。

 攻撃に特化した事によりオラースは――火花を散らせる。

 

 ギャリギャリと音を立てて奴の胸部装甲に薄く傷がついた。

 薄くとも確かな傷で、奴は驚いたような息遣いをした。

 HKの斬撃へと対処し、背後から僕が練り上げた斬撃を三つ放った。

 SKも頭上から刺突の要領で貫通性を高めた攻撃を穿つ。

 真っすぐに進む半月状のそれとSKの剣波を奴はチラリと確認し――爆ぜる。

 

 衝撃が発生した。

 ばらばらと残骸のようなものが舞い。

 中心にいた奴は姿が見えなくなった。

 一時的に距離を取りながら二人で剣を構える。

 

 命中した。

 確かな手応えであり、確実に当たった。

 そう確信し、HKが煙から飛び出してきた。

 

《まだだッ!! 息があるッ!!》

「……っ」

 

 息がある――確かにそう言った。

 

 瞬間、奴が一気に下へと降下していく。

 機体全体に罅が入っていて、今にも死にそうな気配を感じる。

 しかし、一向に奴から感じるプレッシャーが収まらない。

 身が凍り付くようなそれは徐々に高まっていくようで――行かせるかッ!

 

 奴を追う。

 奴の目的は下へと落下したハンドキャノンだ。

 それを取りに行ったとすぐに分かった。

 落下場所も知っている。

 奴が取りに行く直前に、此方の攻撃で完全に破壊する。

 

 剣にエネルギーを高めていく。

 殺意を込めて高められた黒きエネルギー。

 全ての理不尽と神への怒りを込めて練り上げたそれ。

 激しいスパーク音を聞きながら、奴への攻撃のタイミングを計る。

 奴が武器へと迫った瞬間、そこが攻撃を仕掛けるタイミングだ。

 

 その瞬間に奴は死ぬ。

 そして、武器を取らないままでいても死ぬ。

 奴には選択肢はない。

 此処で強引にでも武器を回収すること以外に道は無い。

 

 奴は更に速度を上げた。

 限界までスラスターの出力を高めている。

 そうだと分かるほどに奴のそれは悲鳴にも似た音を鳴らしていた。

 耳障りなそれを聞きながら呼吸を整えて――此処だッ!!

 

 奴が武器を手に取ろうとした瞬間。

 僕は全ての怒りを込めたそれを勢いのまま放つ。

 真っすぐに飛ぶそれは奴を庇う様に現れた無人機に触れて――蒸発した。

 

 無駄だ。

 どんなに盾を作ろうとも、それを防ぐ術はない。

 勢いすら衰える事無く進んだそれは、奴が武器を掴むまでの一瞬で迫り――悪寒が走る。

 

「――ッ!!」

 

 瞬間、エネルギーが奴に当たり爆ぜた。

 凄まじい爆風であり、黒い雷が辺りに飛び散っていった。

 びりびりと機体全体が振動し、レバーを掴む手が激しく震えた。

 両腕で衝撃を和らげながらも、視線は爆発の中心に向け続ける。

 瓦礫も残骸も消し飛ばし、爆心地では轟々と音を立てて炎が舞い上がった。

 

 奴は姿を見せない。

 いや、姿なんてある筈がない。

 原型が留められないほどにエネルギーの濃度を高めた。

 あれ程の灰燼であれば、流石の重装甲とはいえ無事では済まない。

 燃え上がる巨大な炎を見つめながら、ゆっくりと空中に静止する。

 

 周りに視線を向ければ、無数にいた無人機もほとんどいない。

 シャンドレマの兵士たちとDKのお陰で殲滅は完了する。

 残った敵機たちは退却を始めていた。

 彼らはそれを追うことなく待機して、誰もが勝利を確信していた。

 他のエリアへと逃れる敵は、別の部隊が片付けてくれる。

 此処で追えば疲弊した彼らも無事では済まないだろう。

 先ずは勝った。後は此処にいる国民を逃がし、僕たちはあそこへ向かう必要がある。

 

 代行者三名の始末も出来た。これで、神との戦いでも有利に……何だ。

 

 体が震えている。

 レバーを握る手が汗ばみ、呼吸が乱れているように感じた。

 機体内は熱いくらいなのに、心は冷え切ったように寒さを感じていた。

 ちぐはぐだ。説明ができないほどに不可解で。

 隣に並び立ったSKとHKは真っすぐに炎を中を見ていた……やっぱりそうか。

 

 

 

 僕も彼らと同じだ。

 始末できた代行者は――”二名”。

 

 

 

 奴はまだ生きている。

 この寒気も震えも、奴が生きている事の証明だ。

 本能が恐怖を感じて、全力で僕に警告している。

 だからこそ、剣を持ちながら炎の中を見つめて――!

 

 炎がうねる。

 そうして、生き物のように動いたかと思えば。

 ゆっくりと遥か頭上に吸い寄せられるように渦を巻いていた。

 都市中の炎や黒煙を何かが飲み込んでいった。

 瞬く間に全てを飲み込んだそれは、静かに黄色い二つのライン上のセンサーを光らせる。

 

 ボロボロだ。

 機体全体に罅が広がっていて、その隙間から真っ赤な光が漏れている。

 死にかけの機体であり、今にも機能を停止しそうなそれから恐怖を感じた。

 

 動けない。

 動いた瞬間に殺される。

 その本能で感じ取って、僕たちはただ奴を見つめる事しかできない。

 そんな僕たちを見つめながら、パイロットである兄さんは静かに言葉を発した。

 

《流石は……私の弟だ……久しぶりに楽しめたよ。ありがとう》

「……兄さん。貴方は何故……何でこんなことをッ!! 仲間は、国はどうなってもいいのかッ!?」

 

 溜まらずに声を発してしまう。

 兄さんはそんな僕へと哀れみに近い感情を向けてくる……やめろ。

 

《あぁ悲しいさ。私にとって大切なものはこの国と家族……お前の事は世界で一番愛している。今もこれからも》

「だったら、何で……っ……何でこんな事が出来るんだッ! 答えろッ!!」

 

 兄さんは笑う。

 静かにそれでいて冷たく笑っていた。

 

 ……違う。アレは兄さんなんかじゃない。

 

 記憶の中にある兄さんはあんなにも冷たい笑い方をしなかった。

 誰かを蔑むことも、不用意に相手を痛めつける事もしない。

 何もかもが違う。言動も今の姿も……それなのに、何で……何で僕の心はアレが兄さんだと言うんだ。

 

 絶対に違う。

 認めていい筈がない。

 それなのに目の前の化け物を兄ではないと否定できない。

 

 悔しい。悔しくて悔しくて、溜まらなく憎い。

 兄さんを辱めた神が。

 兄さんの心を穢した神が――憎い。

 

「……っ!」

《会えて良かった……戦えてよかった……さようならだ》

 

 

 ゆっくりと機体全体に広がった罅が更に広がっていく。

 限界を超えたオラースの装甲はそのままガラスのように――砕けた。

 

 

「――!」

《あれ、は?》

《何なんだ……あれは!》

 

 

 分厚く重い印象があった機体。

 その装甲が砕ければその下には真新しい装甲の機体があった。

 それらは砕けた破片を再構成し、別の機体として生まれ変わらせていく。

 まるで、主を守る盾のように浮遊する奴の周りの分厚い装甲。

 エネルギーで出来た鎖に繋がれて、それらが奴の周りを飛んでいた。

 その中心には無駄な装甲をそぎ落として顔を露にしたオラース・ヴェルネが。

 二つのライン上のセンサーは一つの線となり、血のように赤く発光している。

 顔を守っていた装甲が展開されて、後ろに伸びていたアンテナが前へと延びる。

 黄金の角であり、美しすら感じてしまう。

 

 角のように見えるそれからは神々しさすらも感じる。

 岩のようだった機体が一変し、天使のように軽やかで美しいフォルムになった。

 機体の全長は小さくなったが、アレからは強さと美しの二つが見て取れる。

 まるで、今までの形態が拘束具であったかのように……今の奴には羽を広げる自由があった。

 

 罅も穢れもない純白の機体の表面には無数の赤黒い線が走っている。

 無数の線であり、まるで血管のように広がるそれ。

 それらは心臓の鼓動のように脈動し、両手を広げる奴は天使というよりも――”死を告げる者”に近い。

 

 

 美しい。美しくて――溜まらなく恐ろしい。

 

 

「それがお前の……っ!」

 

 

 ゆっくりと奴は両手を広げる。

 何をするつもりかと警戒していれば――どくりと心臓が高鳴る。

 

 思わず胸を押さえれば、体全体に強い熱を感じた。

 空を見れば見た事もないような文様が広がっていて――これが、神の!

 

《あの方の力だ……今全ての異分子があの方の為に動き出す……紛い物たちの心を使って》

「――っ!!」

 

 都市中に赤い光が出現した。

 それらは機能を停止した筈の無人機たちの残骸から出ている。

 光が強さを増していき、やがて僕たちの頭の中に形容しがたい声が響いた。

 

『――――!!!!!!!!』

「これ、は……っ!!」

 

 叫びだ。

 心からの叫びであり、苦痛や恐怖。怒りが混じり合っていた。

 それらの負の感情がこの場を支配している。

 分かっていた。ノイマンからの情報で神がしようとしていた事を。

 兄さんからの情報で確信し、それを食い止めようともした。

 

 だが、奴らは既に計画を終えていた。

 

 僕たちは勘違いをしていた。

 奴らは偽物の異分子たちの魂を使って災厄を顕現させるんじゃない。

 偽物の異分子たちの魂を”起点”とし、僕らの魂に変化を与える事が目的だった。

 ある程度の広がりがあり、シャンドレマに侵入し。

 ノイマンを捕獲して国民たちの負の感情を刺激さえすれば……後は働きかけるだけだった。

 

 最初から不安や恐怖で心が満ちていれば。

 後はその感情が心から漏れ出すまで、負を与え続ければいい。

 そうすれば、勝手に災厄へと呼び掛けて。

 奴はこの地へと降り立つことになる。

 全ての紛い物たちを、己が力を受けた者たちを――救世する為に。

 

 シャンドレマの人間たちの心には今。

 恐怖と怒りと悲しみしかない。

 偽物たちはそれらを更に高める為の起爆剤で。

 奴はノイマンを確保した時点で、防壁の無くなったこの地に力を行使した。

 

 でたらめだ。

 奴は人間たちに干渉しない。

 いや、してはいけないと定めていた筈だ。

 

 禁は破っていない。

 干渉したのはあくまで生み出した偽物の異分子たちの魂で。

 奴は間接的に同胞たちの魂を刺激しただけだ。

 

 これはダメだ。

 この影響力は強すぎる。

 全ての同胞の心が闇へと向かい……奴が姿を現すッ!!

 

 

 

《さぁ来い……災いを降り注ぎに》

 

 

 

 シャンドレマの上空に黒点が現れた。

 それは遥か頭上で輝く星のよう滞空している。

 全てを破壊し、全てを浄化する存在。

 災厄の名を与えらし鉄の王。

 最後の鍵を持つ者。それを守護する者の成す形は――”朽ちた英雄”だ。

 

 

 

《我が弟、ノア・クラウン……私はお前を愛している。父の事もこの国の事も》

「……っ! レオンッ!!!」

 

 恐怖も怒りも振り払う。

 全ての呪縛を解き放ち、僕は兄に向って翔けていく。

 此処で終わらせる。

 兄さんの声と姿をした化け物は、此処で永遠に眠らせなければならない。

 

 これ以上、兄さんを――レオン・クラウンを穢させはしないッ!!!

 

 奴はゆっくりと両手を合わせる。

 独特な合わせ方。まるで祈るようなそれを僕に向けて――奴は不気味笑う。

 

 

 

《愛しているから――全部、壊したくなったんだ》

「――!」

 

 

 

 怖気が走る。

 全身の毛が逆立ち。

 奴の機体から強烈な悪意を感じ取った。

 

 

 

Gospel(ゴスペル)――起動》

「――」

 

 

 

 奴が呟く。

 

 瞬間、奴の機体を這う光が輝きを増す。

 

 強烈な光の波動を受けながら、僕は咄嗟に仲間たちに声を飛ばそうとした。

 

 同時にレバーから手を放して神から渡されたものを掴む。

 

 彼らは遅れてレオンへと向かっていく――間に合わない。

 

 

「ぅぁ――ッ!!」

 

 

 奴の力は、奴の隠された力の正体は。

 

 大きく見開いた目で奴を見つめる。

  

 そうして、一瞬の内に己が愛機から響く破壊音を聞いて――――…………

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