【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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187:起死回生の白光(side:ヴァン)

 縦横無尽に飛び回る敵。

 予測の出来ない動き――だが、それ以上に厄介なことがある。

 

 青と赤の機体は互いに完璧な連携を取っていた。

 此方が攻撃を仕掛ければ左右に別れて。

 そのまま左右から連携攻撃を仕掛けてくる。

 戦闘スタイルはその両手の盾と一体となった拳に両足を使った蹴り技だ。

 

「くそッ!!」

《また来るよッ!!》

 

 視界から奴らが消えた。

 イザベラに背中を預けながら、俺たちは奴らの攻撃を警戒した。

 奴らはまるで幻のように機体を使って俺たちを惑わす。

 揺れ動く機体を見つめていれば、奴らの機体の影が二重三重になって見えていた。

 この現象は一体何なのか。

 恐らく、敵の機体に仕組まれた何かであり――!

 

 敵の攻撃の気配を感じた。

 俺は斜め下へと弾丸を撃ち込む。

 ガガガと音がしてバースト射撃を行う。

 瞬間、そこにいた赤い機体に当たり――消えた。

 

「――ッ!」

《ヴァンッ!!》

 

 イザベラが俺を押しのける。

 瞬間、何も無いところから青い機体が現れる。

 奴は拳を突き出してイザベラを攻撃しようとしていた。

 咄嗟に俺はライフルを奴に向けて発砲した。

 勢いよく飛ぶ弾丸。それらを奴は片手のシールドで弾く――硬いッ!

 

 が、僅かな隙が生まれた。

 イザベラは器用に機体をずらして奴の拳を躱す。

 そうして、片手に装備した”バレッドナックル”を宛がう。

 腕に巻き付けるようなそれは先端に二つの短い銃身がある。

 近接戦において爆発的な威力を持つ拡散型貫通弾を装備したそれ――やれるッ!

 

《爆ぜろ》

 

 イザベラの言葉と共に弾丸が放たれる。

 瞬間、青い機体は胴体からバラバラに砕け散って――消えた。

 

「――は!?」

《チッ――!》

 

 霞のように消えた敵。

 すると、オープン回線越しに敵の笑い声が聞こえてきた。

 

《ふふふ、楽しい楽しいショーの始まりだよ》

《楽しい楽しい狩りの時間だよ》

「何をふざけて――イザベラッ!」

 

 奴らの声を無視する。

 そうして、レーダーが複数の敵の反応をキャッチした。

 俺は咄嗟にその方向に銃口を向けるが。

 そこには何もいない――どういう事だ!?

 

 レーダーが誤作動を起こしている。

 そして、俺たちの目も狂わされていた。

 幻覚のようであり、体調に変化はないが明らかにおかしい。

 

 いや、違う。

 肉体に作用するものじゃない。

 確実にこれは機体自体が狂わされている――ハッキングかッ!

 

 ナナシに聞いたことがある。

 アイツにとって因縁の相手であるアンドレー・バッカス。

 アイツの乗っていた機体も似たようなものを装備していたと。

 保護されている筈のメリウスのシステムにハッキングを行い。

 レーダーなどを狂わせてしまう恐るべきシステムで――だったらッ!!

 

 代行者からの攻撃が来る。

 幻覚のように見えるそれら。

 目の前で霞のように消えるそれらを見ながら。

 俺は音声コマンドによってシステムを書き換えて行った。

 

「高機能センサーシステム解除! ノーマルセンサーモードに切り替え。解像度は最小限に、補助システムもオフ!」

《音声コマンド認証。センサー機能変更します――変更完了》

 

 システムからの音声を聞く。

 瞬間、モニターに映っていた敵の姿が変わる――やっぱりだ!

 

 モニターに映る景色は解像度が荒い。

 高機動戦を行えば、ノイズのように見えるだろう。

 しかし、そこに映る敵の姿も同じだ。

 本物であれば青や赤で大雑把に表示されるが。

 フェイクである敵だけはくっきりとその姿が映っている。

 

 奴らは現行機に合わせたハッキングは行えるが。

 ダウングレードされている機能に関しては完璧な偽装が行えない。

 優れたセンサーを使う奴はいても、態々、戦闘に不向きな何世代も前の骨董品は使わない。

 だからこそ、此方が意図的にセンサーの質をギリギリまで下げれば――見分ける事が出来るッ!

 

 俺はすぐにイザベラに暗号メッセージを送る。

 言葉で伝えれば読み解かれてしまう。

 だからこそ、暗号化して送れば――伝わったな。

 

 モニターの解像度が極限まで落ちている。

 大雑把な色分け程度であり、戦い辛い事この上ない。

 だが、これをしておけば奴らの不意打ちには対応できる。

 

 派手なカラーリングにしたのが災いしたなッ!

 

 俺は奴らの機体を探す。

 そうして、襲い来るフェイクを無視して――見えた!!

 

 少し離れた位置。

 浮遊しながら様子を伺う青と赤の機体。

 俺は偽物を狙うふりをして――弾丸を放つ。

 

 連続して響いた発砲音。

 衝撃と共にマズルフラッシュが発生し、空薬莢が舞う。

 スローモーションに感じる世界で、フェイクを抜けて奴らへと弾丸が飛び――弾かれた。

 

《……へぇ》

《やるじゃん》

「そいつは――どーも!!」

 

 俺はブーストする。

 そうして、奴らへと一瞬にして距離を詰め。

 遠慮なしに弾丸を放つ。

 ガラガラと音を立てて放たれた弾丸。

 奴らは両腕をクロスさせて弾丸をしのぐ。

 そうして、ガバリと両腕を広げてから逆に肉薄してきた。

 

《逝っちゃえッ!!》

 

 赤い機体の男。

 そいつが俺のコックピッドを狙って――俺は一気に下降した。

 

「お前がな」

《――!!》

 

 そこには円形状の地雷が浮遊している。

 俺のショルダーパックから分離された地雷であり。

 それが機能して奴の盾へと取りついた。

 電磁吸着式であり、簡単には引き剝がせないだろう。

 奴は驚きを露にしながら、必死になってもう一機に助けを求めて――爆散した。

 

 凄まじい爆風。

 目の前が白い光に包まれて。

 衝撃から逃れながら、パラパラと舞う残骸を見ていた……先ずは一機。

 

 残る敵は一人。

 奴を見れば、機体の手で拍手をしていた。

 仲間が死んだっていうのに随分な態度で……何だ。

 

 違和感がする。

 何か大きなズレであり……いや、ダメだ。

 

 意識を逸らしかけた瞬間。

 目の前に青い機体が迫っていた。

 咄嗟に距離を取ろうとするが、奴は俺の機体の動きを完全に読んでいた。

 合わせるようにブーストし距離を離せない――こいつッ!!

 

《悪いけど、むしゃくしゃしているからさ――憂さ晴らしに付き合ってよ!!》

「何を――っ!!」

 

 強い殺気――俺は咄嗟にライフルでガードする。

 

 瞬間、目にもとまらぬ速さで奴の拳がライフルに触れて――ぐにゃりと湾曲する。

 

 不自然な動きで曲がったライフル。

 それを見た瞬間に、俺の機体にも衝撃が伝わった。

 重い。まるで、隕石に当たったかのような衝撃で――機体が吹っ飛ばされる。

 

「ぐ、あああぁぁぁ!!!」

 

 システムが警告を発する。

 機体全体が激しく揺れて、胸部に強いダメージが発生していた。

 目では見えないが、コックピッドまで衝撃が伝わっている。

 恐らく、胸部が大きく凹むほどの威力で――ライフルで防いでこれかッ!?

 

 でたらめな威力。

 拳が触れた瞬間に発生したインパクト。

 その事から恐らく、ピストンパンチに似た原理の攻撃だと分析した。

 ひどく原始的だが、確実に拳の威力は底上げさせる。

 恐らくピストン自体にも改良が施されている筈だ。

 

「ぐうぅぅ!!!」

 

 地面へと衝突しそうになる。

 ビル群の一部に機体が当たり弾かれて。

 そのまま錐もみ回転しながら落下し。

 俺は姿勢を制御しスラスターを全て全力で噴射した。

 機体全体が激しく揺れながらもギリギリで停止し――目の前が青に染まる。

 

 きらりと奴のセンサーが光る。

 全身の毛が逆立つ感覚であり、明確な死が見えて――イザベラの機体が奴へと攻撃をする。

 

 横から迫ったイザベラのワンデイ。

 勢いのまま突っ込み、奴の機体を押していった。

 スラスターを全力で噴かせながら、半壊した建物へと突っ込んでいく。

 破壊音と共にぶわりと埃が舞う。

 パラパラと残骸が舞って――別の所に穴が開く。

 

 出てきたのはワンデイで――片腕が吹っ飛んでいた。

 

「イザベラッ!!」

《ドジった、よ……くそが》

 

 煙から飛び出した青い機体。

 奴はイザベラの機体の腕を掴んでいた。

 力を込めてそれを砕き残骸が宙を舞う。

 奴は笑い声をあげながら、負傷したワンデイを執拗に追いかける。

 

 俺はすぐに機体を上昇させて、ワンデイへと攻撃を仕掛ける奴を追う。

 

「ライフルは一丁。残弾は……エアマインは……よし!」

 

 素早く状況を確認。

 そうして、ワンデイへと蹴りを放とうとした奴の脚部に銃弾を撃ち込む。

 奴はすかさず攻撃を中断し、ワンデイから距離を取る。

 そうして、そのまま連続でブーストし俺の視界から消えた。

 レーダーには奴の反応が出ているが――俺は背後にライフルの弾丸を放つ。

 

 バースト射撃によって精確に放たれた弾丸。

 何かへと当たり見れば、奴が足のブレードで弾丸を弾いていた。

 

《やるぅ!! そうでなくちゃねぇ!!》

「楽しんでんじゃねぇよ!!」

 

 まるで子供だ……いや、子供に違いない。

 

 成人もしていない子供がパイロットだ。

 皮肉にも相手は俺で……やめろ。考えるな。

 

 トラウマが呼び起こされそうになる。

 もしも、ハッキリとメリウスが映っていればナナシの姿が見えていたかもしれない。

 不幸中の幸いか。解像度が下がったお陰で幻覚は見えていない。

 

 ……いや、俺は乗り越えた筈だ。もう二度と、間違いは……っ。

 

 考え事をしてしまった。

 瞬間、横から殺気を感じる。

 咄嗟に回避をしようとすれば、胸部を何かが突き抜けていく。

 それは奴の振り抜かれ拳で――うぐぅ!!

 

 回避した思っていた。

 しかし、拳を掠めていたようで。

 機体全体に強い衝撃が伝わり。

 コックピッド内は火花が散っていた。

 赤い警告灯が光り、ダメージを確認すれば……たった二発で中破寸前かよ。

 

 幾ら何でも出鱈目だ。

 この攻撃力は反則級であり、おまけに残弾数なんてものも存在しないだろう。

 代行者はあと二人で、一人はナナシが相手をしている筈だが。

 たった一人になったとしても、こんなに厄介だなんて――いや、知っていた筈だ。

 

 代行者があっさりくたばる筈がない。

 ナナシと共に見ていただろう。

 黒腕のメリウスでさえも、親衛隊が束になってようやくだった。

 そんな敵と並ぶ奴が目の前にいて……?

 

 

 だったら、何で……さっきの赤い機体は……っ!!

 

 

「イザベラッ!! いますぐにナナシの援護に――っ!」

《させないよぉ!! はは、気づいたんだぁ!!》

 

 

 奴が攻撃を仕掛けてくる。

 連続した拳による攻撃。

 それを紙一重で回避すれば、脚部による攻撃も仕掛けてきた。

 

 俺は咄嗟に腕に格納したブレードを展開。

 それを使って奴のブレードを受け流していく。

 ギャリギャリと刃物同士が当たり火花が散り。

 奴はけらけらと笑いながら、逃れようとする俺へと肉薄してくる。

 

 こいつらの目的は最初から分かっていた。

 代行者があんなにもあっさり負ける筈がない。

 奴は態と俺たちの前で死んだように見せかけて――ナナシを奇襲するつもりだッ!

 

 イザベラへと通信を繋ごうとする。

 しかし、ノイズが走ったような音しか聞こえない。

 片腕を失ったワンデイだが。通信機器がイカれている筈がない。

 先ほどまでは声が聞こえていたんだぞ――まさか!

 

 背後からワンデイが奴に奇襲を掛ける。

 近接戦闘用のチェーンブレードで斬りかかるが。

 奴はそれを見る事なく頑丈な盾で受け止めていた。

 奴の盾を断とうとワンデイのチェーンブレードは激しく回転する。

 甲高い音が響き花火のように閃光が迸って――

 

《まだまだだよねぇ!!!》

 

 奴は一気に弾いた。

 ワンデイの胴体はがら空きで、奴は攻撃に――入らない。

 

「――っ!」

 

 攻撃すると思っていた。

 だからこそ、本能で体が動いていた。

 奴はその動きを誘発させて、下へと機体を滑り込ませる。

 そうして、ブーストによて一瞬で俺の背後を取り――

 

 

 

 ――死ぬ。

 

 

 

《はい、さようなら》

「――!」

 

 

 

 こんな所で死んで――たまるかッ!!!!

 

 

 

 俺はカッと目を見開く。

 瞬間、俺の体が激しい熱を持つ。

 そうして、機体全体の熱が高まったように感じて――白い光が溢れ出す。

 

 それが奴の攻撃を受け止める。

 奴の拳は目に見えない壁に阻まれたように止まっていた。

 激しい光の乱流――奴が勢いよく弾かれた。

 

《何だぁ? これ》

「――ッ!!」

 

 白いエネルギー……ナナシたちが使っていた技か!

 

 何故かは分からない。

 だが、今の俺なら使える。

 俺は機体全体に白いエネルギーを纏わせる。

 そうして、スラスターの出力を上げて距離を取る奴を追う。

 

 チラリとイザベラを確認し、センサーを点滅させた。

 アイツに伝わる短いメッセージを送ってから――加速。

 

 奴は都市へと降下し、障害物を縫うように移動していた。

 俺はそんな奴の後を追って機体を滑るように移動させていく。

 

 凄まじい速度だ。

 ビル群を勢いよく駆け抜けていく。

 センサーの映像では最早何も分からないが。

 今の俺にはこの機体が見ているものが直接見えているように感じた。

 

 

 ――繋がっている。暁と俺の心が一つにッ!!

 

 

 今なら出来そうだ。

 今まで出来なかった事全部……今の俺なら!

 

 全力で飛ぶ。

 そうして奴へと追いつき銃弾を放つ。

 放たれた弾丸は奴へと吸い込まれるように飛び。

 奴は機体に赤黒いエネルギーを纏わせて弾いていた。

 

 バラバラと弾丸が弾かれて粒子が舞い。

 俺たちは互いにぶつかり合いながら空を舞った。

 接触した瞬間に、俺は奴へと至近距離で弾丸を放ち奴の攻撃をブレードで受け流す。

 奴は俺の放つ弾丸を回避し、そのまま勢いのままに両手で殴りかかってきた。

 

 無数の音が響き、何度も何度も閃光が迸る。

 激しい風の音。そして、分厚い雲の中へと機体を突入させて。

 互いに姿が見えない中で、俺たちは互いを認識し。

 何も見えないそこへと弾丸を撃ち込めば、奴が弾丸を弾く音が響いた。

 

 そこにいる――そうじゃない。

 

 一瞬にして俺の背後へと移動。

 そのまま共に暗い雲の中から抜け出した瞬間、奴は拳を突き出す。

 全力の攻撃であり、俺は機体を回転させて回避した。

 拳が掠めそうになるが、白いエネルギーをそこへと集中させる。

 奴のインパクトが俺のエネルギーを削り取っていく――が、問題ない。

 

 そのまま激しく回転し。

 奴の肩に目掛けてブレードを振るう。

 斜め上から振り下ろされたそれが奴の肩に触れて――閃光が迸る。

 

《ぐぅ!!》

 

 確かな手応え――が、届いていない。

 

 俺と同じようにエネルギーを纏わせて防いでいる。

 しかし、此方のエネルギーが奴の防御を僅かに上回っていた。

 徐々に押していき、バキリと奴の肩の装甲に罅が入り――!!

 

 奴が蹴りを放とうとした。

 それを見抜き、奴から一気に距離を取る。

 距離を取りながら高速で飛行し、空のマガジンを排出し交換する。

 注意深く奴を見て――殺気が高まる。

 

《面白い……面白い面白い面白い!! お前、最高だよ!!》

「――嬉しくねぇよ」

 

 たらりと汗を流す。

 どうやら本気にさせてしまったようだ。

 奴を睨みつけながら、此方もいよいよ覚悟を決める他ないと察知する。

 アイツは死ぬまで戦う気だ。

 イザベラが間に合えばいいが……っ!

 

 

 

 一瞬。ほんの一瞬だ――嫌な光景が見えた。

 

 

 

 何処からともなく放たれた弾丸が。

 ナナシの機体を穿つ光景で……今のは?

 

 今、何でそんな不吉なイメージが出た。

 これはただのイメージか。それとも――待っていてくれ!

 

 奴が両腕を広げる。

 そうして、両腕の盾の姿を変化させた。

 より鋭くより強靭に。まるで、ランスのようになっていくそれを見ながら。

 俺はこいつを出し抜いて、ナナシの下に行く為の作戦を練っていった。

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