【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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188:闘争本能

 奴の腕がぐにゃりと歪む――瞬間、奴の手が弾けた。

 

「――くぅ!!!」

 

 液体のように揺れ動き、四方八方から襲い来る。

 その先端には赤熱するクローがあり、俺は危機察知を全力で働かせた。

 ブーストをし回避。避けられないと判断したものは弾丸で打ち払う。

 分裂鉄球弾へと変更。一発の威力を高めたそれよりも分裂弾の方が迎撃しやすい。

 

 一条の光となり空を翔ける弾丸。

 無数の鉄球へと分裂し、襲い来るクローを迎撃していく。

 が、その隙間を縫うように迫るクローが俺の肩部を掠めた。

 ロイドが損傷を知らせるが、問題ない。

 

 姿勢を制御し、そのまま空を勢いよく翔ける。

 全力だ。少しでも気を抜けばこいつに喰われる。

 本能が警鐘を鳴らし続けて機体内の熱を高めていく。

 

 風の音を聞き、ロイドの声を聞き。

 視線を動かし続けて敵を捉え、クロー全ての挙動を収める。

 汗が滝のように流れるが気にしていられない。

 今俺は戦っていて、命を天秤に掛けているんだ。

 

 攻撃を放ち、回避。

 ブーストしクローを避ける。

 そのまま敵が肉薄しようとして、分裂鉄球弾で牽制。

 大きく距離を離せば、奴のクローは蛇のように迫って来る。

 

 逃げ、撃ち、逃げ、撃ち、回避し撃って撃って――撃ち続けた。

 

 風により機体全体が揺れ、弾丸の発射の衝撃で手が振動する。

 ガントレッド越しに銃の熱を感じているようだ。

 人機一体であり、アンブルフと俺の心が繋がっていく感覚。

 心地のいい熱と肝を冷やす冷えを同時に感じながら――俺は笑う。

 

 たらりと汗を流しながら奴を見れば、ずっと不気味な笑い声をあげていた。

 道化ではない。最早、殺しに魅入られた狂人だ。

 アイツは最初から狂っていて、笑っているのに全身から濃厚な殺気と怒りを放っている。

 その怒りと殺意は俺に向けられていて、奴は理不尽な暴力を振るい続けていた。

 

 本能から分かり合えないと悟った。

 いや、分かり合う必要なんてない。

 俺はどんな理由があっても奴を許さない。

 奴のせいで多くの人間が不幸になった。

 エマもマリアもそうだ。俺がそんな犠牲者たちの無念を――晴らすッ!!

 

 回避行動を止める。

 そうして、奴の不規則な動きの攻撃網から抜け出す。

 一気に上へと上昇すれば奴もすかさず追走してくる。

 全身に感じるほどよいG。心を震わすスラスターの音色を聞きながらターゲットサイトを合わせる。

 システムの音の感覚が縮まっていき――ロックオンが完了。

 

「失せろッ!!!」

 

 俺はそんな奴へと銃口を向けながら、間髪入れずに銃弾を浴びせる。

 ガラガラと音を立てて磁力により強化された弾丸が空を切る。

 無数の光の線となり大空を翔け、奴の機体へと殺到する。

 

 何度も何度も放つ。

 何度も何度も何度も何度も、何度でもだ。

 手が痺れを感じるまで撃ち続けた。

 そうでなければ意味が無い。そうでなければ有効打になりえないから。

 

 奴はそんな攻撃を真正面から受ける。

 機体全体に無数の穴が開き、残骸がばらばらと宙を舞う――即時再生。

 

 飛び散った残骸が液体となり。

 穴の開いた機体へと吸い込まれていく。

 ぐにゅぐにゅとゴムのように動いた奴の機体は元通りになった。

 そして、まるで何も起きていないかのように加速し迫る。

 

 コアを狙った攻撃だ。

 しかし、注意深く観察すればすぐに分かる。

 俺の攻撃はコアへと届いていなかった。

 奴は攻撃の瞬間に機体を操作して致命傷を回避している。

 だからこそ、コアは無傷であり奴は受けた傷をすぐに回復出来ていた。

 

 だが、決まりだ――奴の弱点はコアだ。

 

 それが分かれば十分だ。

 俺は更に機体を加速させて銃の形態を変更した。

 近接戦闘用であり、大きな銃が二つのハンドキャノンタイプになる。

 それをしっかりと握りしめながら、俺へと追いついてきた奴へと銃弾を浴びせた。

 

 撃て、撃て、撃て撃て撃て撃て撃て撃て――撃ち続けろ。

 

 空中で激しく回転する二機。

 奴へと分裂鉄球弾が飛び。

 空中で分裂し奴の機体へと無数の穴を開ける。

 が、やはりすぐに回復し――まだだッ!

 

 回復した瞬間に再び攻撃。

 それでも回復しようとする奴に間を置かずに攻撃を当て続ける。

 内部のコアを露出させる為に、奴には休む暇を与えない。

 

《きひひひひ!!!》

「――!!」

 

 奴は笑う。

 その瞬間に未来視により奴の攻撃が見えた。

 

 俺は機体を操作し、奴の機体とクロスするように動く。

 奴の機体から液体となったパーツの一部が飛ぶ。

 放たれたそれはまるで弾丸であり、出鱈目な動きで俺へと迫った。

 それら一発一発を空中で避ければ、それが生き物のように揺れ動き追走してくる。

 銃口を向けながら弾を乱射するが、あまりにも細いそれには弾が当たらない。

 

 ホーミング弾のように執拗に追いかけてくる――それならッ!!

 

 機体のスラスター性能を一時的に底上げする。

 タイマーを設定し、リミッターの解除を三分にした。

 そうして、静かに息を吸い込み――カッと目を見開く。

 

 ペダルを強く踏みつける。

 瞬間、体全体に凄まじいGを感じた。

 骨がみしみしとなって強く歯を食いしばりながら耐える。

 意識を手放しそうになる強烈なGであり、脂汗が滲みだしていくのが分かる。

 

 か細い呼吸を繰り返しながら、俺は機体を限界まで加速させた。

 猛烈な勢いで空を翔け、周りの景色が線のようになって消えていく。

 まるで弾丸。まるで光のようで――笑みを深める。

 

 機体を回転させながら、追走してくるそれらを振り切ろうとする。

 最短距離で追いかけてくるそれら。

 トップスピードで空を翔けながら、分厚い雲の中へと突入。

 風の不気味な鳴き声を聞きながら、俺は更なる限界に挑戦する。

 

 目の前に風のバリアが展開されて。

 スラスターの音色が研ぎ澄まされていく。

 機体を激しく回転させながら敵の攻撃を警戒。

 誰にも追いつけいほどの加速は命を削るものだが――最高だ!

 

 命を削ってこそ戦い。

 限界を超えてこそパイロットだ。

 機体が動くのなら俺はこいつと何処までも飛んでいける。

 そうだ。何処までも何処へでも――翔けよう!!

 

 ペダルを更に踏む。

 ぐぅんとスピードが上がり、体から嫌な音が響いた。

 後ろへと体が押し潰されそうになりながら俺は自らの殻を破る。

 

 システムが警告を発していて、頭がずきずきと痛みを発してきた。

 強い吐き気と共に心地よさまで感じて頭がハイになろうとしている。

 危険な状態だが、俺はそれら全てを無視する。

 調整が間に合っていない。それほどまでの加速であり――まだだッ!!

 

 ペダルを限界まで踏む。

 機体全体が激しく揺れて風の音色も更に高まり――突き抜けた。

 

 雲の中を脱出し、青空へと出る。

 白い輝きを放つ太陽がそこにはある。

 が、今はそんなものに見惚れている暇はない。

 

 俺はそのまま機体を旋回させて――雲の中に再度突っ込む。

 

 力を使い遠くまでサーチする。

 すると、遅れてきた奴の機体の一部が見えて――今だッ!!

 

 貫通特化弾に変更。

 そうして、狙いを定めて三発撃ち込んだ。

 磁力により底上げされた弾が雲を切り裂き飛翔。

 そのまま突っ込んできた細いそれに当たり、それらは蒸発した。

 そうして、不気味な笑い声をあげる奴の機体へと届く。

 

《ぐあぁ!?》

 

 驚いたような声を奴は上げた。

 意表を突く形で届いた弾丸。

 俺はそのまま空中で停止する奴の機体へと突っ込み――ぶち当たる。

 

 ガシャリと音がして互いの機体がぶつかる。

 そのまま驚いている奴の機体に銃口を押し当てながら、俺はにやりと笑う。

 

「今度こそ――死にやがれッ!!!」

《あああぁぁぁ!!!!》

 

 奴の機体に向けて連続して弾丸を放つ。

 何度も何度も撃ち込んでいく。

 ガスガスと音が鳴り響き、奴のコアを守る液体金属がはじけ飛んでいった。

 

 まだだ。まだだ、まだだまだだまだだまだだ――まだまだッ!!

 

 叫び声のような声が出る。

 目の前で強い光が何度も何度も発生し、銃から危険な熱を感じていた。

 想定されていない使い方。こんなゼロ距離での使用なんて考えていない――知らねぇよッ!

 

 こいつを殺す。此処で地獄へ叩き落す。

 その為ならば俺は地雷の上でもダンスが踊れる。

 俺は全身から汗を拭きだしながら、笑みを深めてトリガーを引き続けた。

 奴へと最大威力の攻撃を浴びせ続け、奴の汚いパーツがべちゃりと機体につく。

 返り血のように浴びたそれを無視し、俺は残弾が空になるほどに撃ち続けた。

 

 ゼロ距離でのハンドキャノンによる斉射で――ダメ押しだッ!!

 

 何度も何度も何度も何度も炸裂音が響く。

 眩い光と共に奴の悲鳴が響いて。

 奴を守る装甲を剝がしていきながら、奴を地上へと落下させていく。

 

 お前に自由は与えない。

 お前の好きなようには――させなッ!!

 

 手足を動かそうとした。

 その動きを読み、俺は機体を加速させる。

 間もなく、リミッターが戻るが間に合わせる。

 

 強烈な加速により、奴の離れたパーツの再生が間に合っていない。

 それが分かるからこそ、奴の命が目前に見えていた。

 

 奴への殺意。世界の理不尽への嘆き。

 全ての怒りの感情を練り上げる。

 そうして、機体全体に黒いエネルギーが迸り。

 弾丸へと注ぎながら、奴への攻撃の威力を上げた。

 

 奴は痛いと叫ぶ。

 が、そんな事は知った事ではない。

 

 雲を抜けて、地上へと落下しながら。

 奴へと攻撃を続けていく。

 すると、液体金属の隙間から何かが見えて――これだ!!

 

 奴の心臓部。

 コアが露出した。

 それにより、俺は更に攻撃の速度を高める。

 あと少し、もう少しでこいつを終わらせられる。

 そう確信し、俺は連続して攻撃を続けていった。

 

 撃て、撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て撃て――撃ち尽くせッ!!!

 

 こいつは生きていてはいけない。

 こいつは此処で殺さなければ、より多くの人が不幸になる。

 使命感にも似た何かに駆られながら、俺は灰燼を纏いながら攻撃をし――

 

「死ねッ!!!!」

《あああぁぁぁぁ!!!!?》

 

 最後の一発を撃ち込んだ。

 そうして、奴の機体を蹴り上げて――地面に激突させる。

 

 激しく地面が揺れて、奴を追いかけていた残骸がべちゃりと地面に飛び散る。

 バラバラと残骸が宙を舞い、奴のクローの一部がくるくると回転して俺の傍に刺さった。

 土煙が昇っていて、俺は乱れた呼吸を整えながら奴から離れた場所に着地した。

 

 汗が止まらない。

 ヘルメットの下は洪水のようで。

 俺はシールドを展開し、空気を取り込んだ。

 少し動かして汗を流してから、俺は何とか心を落ち着かせる。

 

 廃都市から少し離れた場所だ。

 輸送機はもう既に遠くへと言った筈で……皆は無事か?

 

 無人機たちのほとんどは輸送機に向かっていった。

 恐らく、ライオットやドリスなら問題ない。

 アイツらの腕はかなり上がっている。

 SQから報告を聞いていたし、本人たちの口からも聞いていた。

 アイツらだけでも対処できるだろう……だが、早く戻った方がいいな。

 

 生体反応を探れば……死んだな。

 

 奴の生体反応はロストしている。

 力を使って索敵しても奴からは白い火は見えない。

 完全に死んでいる状態で……だが、念の為だ。

 

 奴が完全に死んだか確認する必要がある。

 俺はスティールワンの残弾数を確認し。

 ゆっくりと奴へと向かって歩き出した。

 

 ゆっくり、ゆっくりと近づく。

 そうして、土煙の中で横たわるぐしゃぐしゃになった奴の機体を――!!

 

 瞬間、最大級の警鐘が心の中で響く。

 

 俺はすかさずその場からブーストしながら跳躍した。

 すると、何も無い筈の空間から風が勢いよく吹いていた――違う!

 

 力を使う。

 すると、何も見えない筈の空間にはメリウスがいる。

 ロイドに声を掛ければ、高度なハッキングを仕掛けられていると言われた。

 

《――対抗プログラムを設定しました。これで問題ありません》

 

 モニターの画面が揺れ動く。

 そうして、今度はハッキリと敵の機体が見えていた。

 まさか、ハッキングを仕掛けてくる敵が伏兵にいただなんて……クソ。

 

 赤い機体だ。

 血のように赤い機体で。

 武装は近接格闘戦のようだ。

 アレは最初に敵の隊列にいた機体で……代行者か。

 

《あれ? やっぱり見えてる? はは、凄いや! 流石は……あの方と同じ力を持っているだけの事はあるね》

「……! その声は、あの時の……っ」

 

 声を聞いた瞬間に誰なのかは分かった。

 メロウ島での護衛任務で一緒に働いた子だ。

 まだ成人もしていなかったくらいの子供で……彼もやっぱり……。

 

《……なぁんか。嫌な空気……言っておくけど。僕たちはこう見えてもう十八だから……舐めんなよ?》

「――ッ!」

 

 ぶわりと彼の機体から殺気が溢れ出す。

 そうして、地面を蹴りつけたかと思えばすぐ目の前にいて――俺は彼の攻撃を回避した。

 

 振り抜かれた拳。

 凄まじい風圧が発生し機体が大きく揺さぶられる。

 彼はそんな俺などお構いなしに連続して攻撃を浴びせてきた。

 避けて避けて避けて――溜まらず距離を離そうとした。

 

《逃がさないよ!!》

 

 彼はそう言って合わせてきた。

 逃げられない。

 攻撃の速度が上がっていて――脚部が目の前を通過する。

 

 不意を突くように振りあげられたそれ。

 意識の外からの攻撃で。

 遅れてダメージをロイドが知らせる。

 切れ味は本物であり、今の一瞬で機体の装甲が軽く抉られた。

 

 彼は踊るように機体を動かす。

 そうして、距離を取ろうと逃れる俺に肉薄してきた。

 

 互いに空中を激しく移動しながら。

 互いにエネルギー同士をぶつけ合い翔けていく。

 彼は黒いエネルギーである灰燼を纏い、俺は白いエネルギーである流天を纏う。

 攻撃と防御。矛と盾であり――削られていく。

 

 彼の灰燼の濃度は極めて高い。

 これほどまでの怒りや殺意は何処から来る。

 何を思って彼は怒っているのか。

 何も分からない。分からないが――負ける訳にはいかないッ!!

 

 俺も更に流天を練り上げた。

 輝きに増した流天を装甲に纏わせながら。

 彼からの攻撃を紙一重で往なしていく。

 そうして、此方も銃弾を放てば彼はそれを盾でガードしようとして――弾かれた。

 

《――! すげぇ!!》

 

 子供のように喜ぶ彼。

 そんな彼のコックピッドを狙い射撃。

 彼は防御を諦めて、弾丸の軌道を逸らすように盾を動かす。

 磁力で弾速を極限まで高めて、弾丸自体も貫通に特化している。

 それなのに彼は器用に全ての弾道を逸らしていた。

 

 真面に喰らえば体勢を崩される。だからこそ、僅かに盾を傾けて弾道を逸らす。

 原理は簡単だ。しかし、そんな事をぶっつけ本番で出来る人間はそういない。

 彼は本物であり、圧倒的なまでの戦闘センスを持っている。

 それが分かったからこそ、彼が十代の子供だと侮ってはいけないと理解した。

 

 一人の戦士として傭兵として――彼と戦おう。

 

 何方かが死ぬまでこの戦いは終わらない。

 ならば、全力で俺は彼を殺す。

 甘えも妥協も許されない。

 私情や感情で殺しの有無なんて決められないんだ。

 相対し戦う意思があるのなら、俺は戦うだけだ。

 

 空を翔けながら、互いに一進一退の攻防を続ける。

 が、急に心臓がどくりと跳ね上がった気がした。

 

 一瞬、意識を逸らしそうになるが堪える……今の感覚は。

 

 何かが起きている。

 それもシャンドレマの方角から感じた。

 禍々しい気配であり、遥か彼方の力強い力を感じた。

 今、あそこにいるのは残った兵士たちとKクラスの親衛隊……そして、市民たち。

 

 何が起きている。

 いや、何をしようとしているんだ。

 

 俺はそんな事を考えながら大粒の汗を流す……まずいな。

 

 敵の攻撃を回避。

 此方も攻撃し牽制。

 常にエネルギーを纏った状態でいるが。

 そろそろ限界が近い。

 

 代行者が三名であり、その内の二名と交戦した。

 手練ればかりであり気が抜けないのもあるが。

 力を多く消費しすぎている。

 このままでは何れ力を使い果たして意識を失う可能性もある。

 そうなれば最期であり――!!

 

 彼の機動が変わる。

 攻撃を仕掛けようとして腕が止まり。

 そのままブーストし俺の背後に回る。

 一瞬、意識が逸れた事によって背後を取られて――頭上から弾丸が降り注ぐ。

 

《何だよぉ!!》

 

 彼は両腕でガードしていた。

 降り注いだ弾丸が彼の堅牢な盾の装甲を傷つけた。

 彼はそれに驚いていて――今だッ!!

 

 彼の機体に回し蹴りをする。

 彼の機体は大きく横へと吹き飛ばされた。

 が、あまり大したダメージにはなっていない。

 

 距離を取りながら、横へと並んだ機体を見る……良かった。

 

《待たせたね、ナナシ……此処からは私も混ぜてもうよ》

「あぁ、助かる」

 

 横に並び立ったのはイザベラのワンデイで。

 違いがあるとすれば、武装が変わっている事だろうか。

 近接戦闘用のショットライフル二丁……いや、違う。

 

 アレはミッシェルが手を加えていたものだ。

 イザベラの武装を一新すると言って開発していた――”ハード・ディフュージョン”か!

 

 銃に取り付けられたシリンダーが回転。

 カーキ色のやや小さめな散弾タイプの銃。

 シリンダーの隙間から深い青色の光が漏れ出していた。

 ただの実体弾ではなく。

 実体弾とエネルギー弾を複合したものを使用している。

 対EN装甲であろうとも破壊するほどの貫通力を持ち。

 多対戦であろうとも射程距離であれば纏めて敵機体を沈められる拡散力を有している。

 自動で敵味方を判別し、拡散の範囲を指定する事が可能だったか……凄いな。

 

 恐らく、敵の特性を理解して換装してきたのか。

 ヴァンが此処にいない事から、もう一機の相手はアイツがしているんだろう。

 ハードの威力は本物だった。

 傷すらつかなかった彼の盾の表面には無数の傷がついているから。

 何発も喰らっていれば、アレも使い物にならなくなる。

 彼は空中で停止していて――笑い声が聞こえた。

 

《はははは!! いいじゃんいいじゃん!! やっぱり最高だよ!! これこれぇ!!》

《バーサーカーかい。あれは?》

「……気を抜くなよ」

 

 バーサーカーであっても戦い方は美しい。

 洗練された技術を持っているからこそ侮れない。

 俺たちは互いに銃口を向けて迫る彼へと発砲する。

 彼は盾で受ける事無く、機体を回転させながらブースト。

 そのまま笑い声を響かせながら、イザベラへと拳を放つ。

 彼女はそんな攻撃を避けながら、逆に攻撃を――放てない。

 

 彼は脚部による攻撃でそれを防ぐ。

 銃を狙った攻撃で、イザベラは舌を鳴らしながら距離を離そうとする。

 俺が彼への牽制で弾丸を放てば、彼は残像が見えたと思えるほどの速さで回避。

 そのまま不規則な動きで此方の攻撃を誘ってきた……っ。

 

《ほらほらぁ!!》

 

 誘っている。

 恐らく、彼は今の俺の状態を本能で察知しているのだろう。

 無駄にエネルギーを消費したせいでガス欠寸前だと……だが、やるしかない!

 

 俺は再び流天を纏わせる。

 そうして、敢えて彼へと接敵する。

 イザベラには言葉で伝えなくても分かる。

 少しくらいの被弾なら問題ない。俺ごと奴を撃つんだと。

 

 危険な懸けだ。

 だが、やる価値はある。

 最悪の場合、俺は死んでも生き返れる。

 

 周りへの影響がどのように作用するかは分からない。

 近くにイザベラがいるから、彼女の生命に影響が及ぶ場合だってある。

 だが、今の俺ならばこの力の作用する向きを意図的に変えられる筈だ。

 死ぬことを前提に考える作戦なんてクソ以下だがな……。

 

 例え一度死んだとしても、代行者の命が貰えるのなら――安いもんだ。

 

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