空に浮遊する三機のメリウス。
赤と青の機体は破損していた部分が元に戻っていて。
その手には両腕をもがれたワンデイが掴まれていた。
中心に立つアンドレーはくつくと笑いながら不快な視線を俺に向けてくる。
《周りのものを吸収して……へぇあれがねぇ!》
《凄いじゃん! ワクワクするなぁ!》
《きひひひ、それでこそですよ。貴方は何処まで行っても薄汚れた傭兵――戦う事しか知らないんですからぁ!》
白い光が迸る。
温かくて優しくて、荒れた心すらも癒してくれるようだ。
周りの建物や草花が粒子となって消えていく。
それを感じながら、俺は両手を”修復した”。
一瞬にして失った手を再構築。
機体全体の傷も修復し、ゆっくりとスティールワンを装備する。
《ナナシ……逃げ……っ!》
《うるさいなぁ。今いいところなんだからさ。ちょっと黙って――ッ!》
イザベラは俺の身を案じる。
ワンデイのコックピッドを殴りつけた青い機体――弾を放つ。
一瞬にして放たれた弾丸が空を翔け。
目では捉えきれない速度で青い機体の腕を吹き飛ばす。
両腕を削がれたワンデイが解放されてゆっくりと落下する。
俺は機体の腕を向けながら、白い光で彼女の機体を包み込んだ――修復。
彼女の機体を一瞬で復元した。
彼女は驚きを露にしている。
《機体が……いや体の傷も……これは?》
「イザベラ、先に戻っていてくれ……すぐに俺も戻る」
《――! ナナシ、お前……っ》
イザベラは機体を動かしこの場を離脱する。
後を追いかけようとした敵たち。
だが、俺の視線を感じ取って動こうとしない。
武器を構えながら警戒し、青い機体の男は手をアンドレーの機体のように修復していた。
《素晴らしい……貴方は本当に最高ですよぉ!! ナナシさん!!》
アンドレーが歓喜の声を上げる。
戦いの中で開かれる華。
敵の血を浴びてこそ輝く光。
わめき散らかしている男を見つめながら、俺は静かに目を閉じる。
感じる。
ヴァンの魂を、彼の心を……俺の中にいる。
彼の声が、彼の記憶が俺の中を駆け巡っていて。
失われた力を呼び覚まし、無限にも等しい力を与えてくれる。
「そうだ……俺は今まで戦いの中で生きてきた」
多くの人間を殺し、罪の無い命も消してきた。
俺の罪は重く。この穢れは決して雪げるようなものではない。
俺がどんなに善行を積もうとも、俺がどんなにいい人間になろうとしても過去は変えられない。
それでも俺は――未来に進む。
もう二度と相棒が帰って来る事は無い。
あの幸せな空間が戻って来る事は無い。
だけど、俺は相棒の最期の言葉で進むと決めた。
「この力は世界を変える。ノイマンは俺に希望を託した……その希望が俺にはまだハッキリと見えていない」
《ふふふ、そんな事はどうでもいいんですよ!! それは神の力!! 貴方はこの世で最も理不尽な力を手に入れたんです!!》
奴は叫ぶ。
その理不尽な力で自分の思い通りの世界を築けばいいと……違う。
俺のこの力は理不尽なものじゃない。
俺は破壊を振りまくことも、この世を支配しようとも思わない。
ノイマンから託された希望。そして、相棒との約束を――決まっていた。
カッと目を見開く。
そうして、俺は黒と白のエネルギーを同時に発生させた。
《――ッ! 何だよ!! 同時に二つをッ!?》
《あり得ないだろッ!! そんな事、出来る訳ないッ!!》
敵が慌てふためいている。
守りたいという願い。敵を滅ぼすと言う欲望。
相反する二つの願いを、俺は受け入れた。
拒絶しない。その全ても俺の感情で、俺の意思だから。
「俺はもう迷わない。託されたこの力で――俺は全ての願いを叶えるッ!!」
《――ッ!!!?》
異分子たちの願いも、人々の生きると言う願いも。
俺の願いも、ヴァンの願いも――全て叶えよう。
灰燼と流天が混ざり合う。
そうして、白銀の輝きを放つエネルギーへと変貌した。
俺はそれを機体全体に纏わせながら、大空を翔けた。
行こう、ヴァン――世界を見に。
敵は散開する。
そうして、双子が同時に攻撃を仕掛けてきた。
俺はそれを予測し機体をブーストさせる。
瞬きの合間に彼らの前から姿を消し、その背後へと出る。
《――はやッ!?》
照準を合わせ――放つ。
放たれた弾丸は、赤い機体と青い機体を穿つ。
コアを狙った攻撃。一時的に機能を停止したのを確認。
だが、時が立てば復活するだろう。
《私を見てくださいぃぃ!!》
奴がクローを突き出す。
背後からの攻撃で――閃光が迸った。
バチバチとエネルギー同士がぶつかり合い激しく火花が散る。
奴の攻撃を阻む銀の光。
奴は感極まった様な声を上げながら連続して攻撃を放った。
何度も何度も閃光が走り、奴の機体の手がボロボロになっていく。
「無駄だ」
俺はゆっくりと奴を見る。
そうして銃口を向ける。
奴は勢いよくその場から離れて――叫んだ。
《さぁショーの第二幕の――始まりですよォォ!!!》
「……!」
奴の声に反応し、空に無数の反応が出る。
それらは突如として空を覆うように現れて――神の無人機か。
けらけらと笑うアンドレー。
絶望を届けると言った奴の言葉を聞きながら――俺は力を使う。
「
《――!》
銀色の光が形を成す。
現れたのは形のそれぞれ違うメリウスたち。
それぞれの剣を持ちながら、俺が腕を振るえば一斉に無人機へと向かっていく。
彼らは瞬く間に空を覆いつくすような無人機たちを殲滅していく。
それを見ていたアンドレー呆気に取られていて――俺は奴へと接近する。
《がはぁ!?》
奴の胴体部に蹴りを放つ。
奴は機体を曲げて残骸をまき散らし吹き飛ばされる。
そんな奴に向かって無感情に弾丸を三発放つ。
近距離モードのままでも関係ない。そうあれと命じれば、俺の弾丸は何処までも飛ぶ。
《こ、のぉ!!》
放たれた弾丸を打ち払おうとした。
奴のクローがぶわりと広がって、勢いよく飛ぶ。
そうして俺の放った弾丸に触れ――消滅する。
奴の攻撃は通用しない。
そのまま勢いが衰える事無く弾丸は飛び。
奴の機体に風穴を開けて行った。
奴は情けない悲鳴を上げて痛みを感じていた……痛いだろう。
ヴァンが受けた痛みはこんなものではない。
俺は奴を静かに見つめながら加速。
そのまま一瞬にして奴の背後に回り、更に蹴りを放った。
奴は苦しむような声を発しながら空へと打ち上げられた。
まるで、空から降って来る隕石のような速度で無人機たちの中へと突っ込んでいく。
俺は奴を見つめながら、エネルギーを背中に集中させる。
「
銀色の光が翼のような形となる。
それを一気に羽ばたかせて――瞬にして奴に迫る。
俺はスティールワンにエネルギーを纏わせてその形状を変える。
ハンドキャノンから光輝く剣となり。
俺は機体を回転させながら、襲い来る無人機たちを薙ぎ払っていった。
無数の黒。視界を埋め尽くさんとするそれら。
迫った瞬間にエネルギーの刃に触れて蒸発していく。
道を塞ぐ者はいない。この空は誰の者でもない。
何ものにも縛られず豊かで優しさに溢れていて――誰もが自由だ。
全ての敵を一瞬にして消滅させて。
体勢を立て直した奴はそのままリミッターを解除し出鱈目な動きで攻撃を仕掛けてくる。
常人では捉えきれない速さ。纏わせた灰燼は理不尽なまでの威力で……でも、無駄なんだ。
《はははは! そうだ!! そうなんだ!!! 貴方こそが私の求めていた傭兵!!! 貴方のような存在こそがこの世で最も理不尽な存在!!! もっと!!! もっとです!!! もっとその力を私に見せてくれぇぇ!!!》
奴は叫ぶ。
血を吐くような叫びであり、俺はそんな奴の攻撃を片手で弾いていく。
上から下から真横から。果ては背後からや同時に――全て弾く。
俺のエネルギーに触れれば奴の機体の回復は鈍くなる。
どんなに急ごうとも俺の力で阻害される。
あの双子も暫くは復活できない。
だからこそ、こいつはたった一人で俺に挑むしかない。
この広い世界でこいつは一人なんだ。
どんなに叫ぼうともどんなに抗おうとも……哀れだ。
《――!! その視線を――私に向けるなァァ!!!!》
奴は更に灰燼の濃度を高めた。
最早、奴の心は戻れないところまで浸食されている。
このまま放置していても奴に待つのは死だけだ……終わらせよう。
俺は剣を大きく振るう。
その瞬間に灰燼を纏った奴のクローは全て蒸発した。
奴は風圧だけで機体を吹き飛ばされる。
そうして、瞬時に機体を制御し空を翔けながら無人機たちに命令を――消滅。
奴の周りの無人機は一瞬で消えた。
それは俺が召喚したメリウスたちの力で。
いつの間にか空を埋め尽くすほどにいた無人機は――全て消えていた。
《あぁ、あぁ……何と理不尽で、何とおぞましく……何と美しいんだぁ》
奴は怯えと喜びで震えている。
俺はそんな奴の前に一瞬で飛ぶ。
正気に戻った奴は攻撃を仕掛けてきた。
が、ブーストにより奴の背後に回る。
そのまま俺は蹴りを放って奴を地面へと叩き落した。
凄まじい勢いで地面へと落下し――衝突。
土煙が舞い上がり残骸がパラパラと舞う。
俺は静かに剣を構えながら、奴を見つめていた。
奴はボロボロの機体で、ゆっくりと崩れていく片腕を俺へと向ける。
《あぁ、どうか、忘れないで……私の事を、ずっと……》
奴は願う。
自らの人生に価値を与える為に。
自分が望んでいた姿となった男に対して願った。
俺はそんな哀れな男の願いを――否定する。
「いや、忘れるよ。もうお前の事は思い出さない。お前は殺して、俺はお前を記憶から消す」
《……っ! 嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ……私はお前の、宿敵で……お前の大切な存在を奪った憎い敵で……忘れるな! 覚えていろ!! 癒えない傷として、私はお前を》
子供のように喚いていた。
意味の無いものにさせない。
自分の事を忘れる筈がない。
奴は今まで殺した人間を思い出し語っていく。
エマの事も、マリアの事も嬉しそうに……哀れだよ。
「傷は癒える。恨みも怒りも消えてなくなるものだ……眠れ。お前はそれしか出来ない」
《あ、あぁ、ああ、ぁぁ、ああぁぁぁぁ!!!!》
奴がもがく。
逃れようとするが、既にスラスターとなるものも大破している。
修復しようとも間に合う事は無い。
俺はエネルギーを纏わせながら、奴へと狙いをつけて――翔ける。
瞬きの合間。ほんの一瞬。
光ととなり空から翔け下りる。
それだけで地上へと一瞬で着き、奴の心臓に剣を突き立てた。
奴は最後まで悲鳴を上げていて……消えた。
上がっていた手は液体となって溶けていく。
機体の全てが溶けていき、後に残ったのは銀色の物体だけで。
それもぱきりと砕けてバラバラになった。
アンドレー・バッカスは今度こそ……眠りについた。
奴は確かに俺にとって宿敵だった。
エマもマリアも……そして、ヴァンの死にも関わっている。
奴をこの手で殺して得られたものは何もない。
やっぱりそうだ。
例え憎かった奴を殺しても何も無い……だから、俺はお前を忘れるよ。
ゆっくりとエネルギーを鎮める。
側に降り立った十三体のメリスウたち。
彼らは俺の前で跪き頭を垂れていた。
静かに手を翳せば彼らは粒子となって消えて俺の中に戻ってきた。
周りに視線を向ける。
すると、双子の機体は消えていた。
そして、ヴァンを殺した”機体”も消えていた。
戦況を察して逃げたのか。
追いかけるつもりはない。
仲間たちは傷つき疲弊している。
今は彼らを安全な地へと届けなければならない……勿論、お前も一緒だ。
後ろに座る相棒を見る。
目を閉じて笑みを浮かべているヴァン。
まるで、幸せな夢を見ているようで……ゆっくりとお休み。
今までありがとう。そして、お疲れ様。
どうか安らかに。そして、俺の中で俺たちの事を見守っていてくれ。
俺は相棒に笑みを向けてから静かに頷く。
「帰ろう……皆の所へ」
『あぁ』
「……っ」
声が聞こえた気がした。
しかし、それはきっと気のせいだ。
相棒は眠っている。幸せな夢を見ているんだ。
俺はゆっくりと前を見る。
そうして、機体を動かして輸送機のビーコンを追いかけた。
前が少し見づらくて、呼吸がし辛いが問題ない。
頬も少しだけ冷たかったが……大丈夫。
相棒の眠りを妨げないように。
俺はゆっくりと機体を動かす。
静かにゆっくりと――