【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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最終章:光は新たな未来へ
192:全ての感情を闘志に


 北部地方を北東へと進む。

 日は既に沈んでいて辺りは暗かったが。

 搭載されている最新のセンサーによって暗くともハッキリと周りが見えていた。

 揺れがほとんどない機体内で、緊張が常に走る。

 敵の気配に怯えながらも、俺たちは此処までやって来た……もう大丈夫だろう。

 

 此処までくるまでに代行者たち以外の襲撃は無かった。

 派手に暴れたせいで北部で哨戒している部隊に発見されたかと思ったが……まぁいい。

 

「……本当に此処なのか?」

「……えっと、俺たちも此処だって聞いてましたけど……あれ?」

 

 ベックが困惑したように周りを見る。

 そこは何も無い荒野で。

 建物も大きな岩のようなオブジェクトすらない。

 見渡す限りの平地であり、唯一、輸送機やメリウスの残骸が転がっているだけだった。

 仮想世界へと繋がる扉はない、皆そう思っている……だが、違う。

 

「此処であっているよ……すぐに分かる」

「すぐに分かるって言ったって俺たちは何を――!」

 

 ミッシェルが首を傾げながら操縦桿を操る。

 ゆっくりと前進していく輸送機。

 しかし、次の瞬間には全員の意識が強制的に動かされていった。

 

 急に周りの景色が伸ばされていくような感覚。

 まるで、ライトニングパックの縮地を使ったような感覚で。

 声を発する間もなく、景色が線のように細くなるまで延ばされて――展開された。

 

 

 

「……へ?」

「……此処だ」

 

 

 

 全員が呆気に取られていた。無理もないがな。

 

 意識が正常に戻った瞬間。

 輸送機の外に広がる光景に全員が驚いていた。

 それもその筈だが、さきほどまで荒野にいた筈なのに。

 次の瞬間には地上は緑豊かになっていて、見た事もないような白い鳥たちが目の前を羽ばたいていっていた。

 いや、それだけじゃない。

 遥か遠くの方では、全長が百メートルを超えるような鋼の巨人が闊歩している。

 それらはノイマンが生み出した環境整備用の大型無人メリウスで。

 彼らの体からはミスト状の薬剤が常に散布されていた。

 人体には無害であり、疫病などが蔓延しない為のものだ。

 

 ノイマンから渡された情報の中にこれらはあった。

 だからこそ、俺は驚きはしない。

 凄いとは思うが、事前に知っているととそうでないとでは反応が違うんだ。

 その証拠に俺とは違って他の皆は固まっているしな。

 何故か、イザベラまでもが表情を凍らせていた。

 

 彼らがこの世界を管理し守ってくれている。

 心優しい巨人であり、その周りには鳥たちが飛んでいた。

 

 それらの事を軽く説明してみたが。

 誰もが口を開けて固まっていた……仕方ないな。

 

 俺は操縦席にあるコンソールを叩く。

 そうして、掌を翳して力を行使し新たなマップデータとルートを設定する。

 後はオート操縦にしておけば勝手についているだろう……さて、何時になれば正気に戻るのか。

 

 俺は少しだけ首を左右に振り。

 少し疲れたから仮眠室に行くことにした。

 扉を開けて廊下に出て仮眠室まで歩いていく途中――後ろから叫び声が聞こえた。

 

 俺はくすりと笑う。

 これくらいで驚いていれば、後がもたないが……アイツらにはまだ分からないだろうな。

 

 

 

「なぁなぁ! アレは何だ!?」

「……ロボットだ。機械獣とも言う。AIが搭載されているから人間の言葉も分かるぞ」

「あれは何ですか!? ナナシさん!」

「……アレは……あぁ環境データ収集用の観測塔だな。この世界には沢山あるぞ」

「次は私です!! アレはアレは!?」

「……物資移動用の真空チューブだな。まだテスト段階だから人は乗れない。主に作業用ロボットの輸送で使って……はぁ」

 

 仮眠室で眠っていれば、興奮した様子のミッシェルにたたき起こされた。

 そうして、ずるずると引きずられて操縦ルームへと戻り。

 彼らの質問に次から次へと答えていた。

 ミッシェルから始まりベックにドリスに……疲れた。

 

 俺はげっそりとしながら質問に答えて行って……そろそろか。

 

 真空チューブが見えてきたのならもう着くだろう。

 そう考えていれば輸送機が目標付近に到着したと報告してくる。

 視線を窓の外に向ければ、都市のようになったものが見えていた。

 全体的に黒や灰色であり、無数の縦長のビルが聳え立っている。

 不思議な形の花が開いたようなシルエットをしたソーラー装置がいくつも設置されていて。

 整備された道路には一定の速度と感覚を開けて輸送車が何台も通っていた。

 

 無数の真空チューブが都市から伸びていて、その中をロボットや物資が通っていく。

 送られたロボットや物資は現地で活用されて、この世界を更に開拓していくのだ。

 ノイマンが考えて生み出した世界には……残念ながら、人と呼べる存在はまだいない。

 

 この世界は完成されていない。

 不安定な世界であり、ノイマンがいなくなった今。

 維持できたとしても二,三十年といったところだろう。

 これがノイマンの選択の一つであり、滅びゆく世界で過ごすというものだ。

 

「……」

 

 他の異分子たちがどう思うかは分からない。

 だが、俺は世界が崩壊すると分かっていて黙っていられない。

 この世界は仮初であり、俺たちの故郷はあの世界なんだ。

 あの世界の浄化を防ぎ。俺はヴァンとの約束を果たす為に……本物の世界を見に行きたい。

 

 今すぐが無理でも必ず説得して見せる。

 例え彼らの協力が得られなかったとしても……俺は行く。

 

 そう決心しながら、俺は都市を見つめた。

 あそこが俺たちの合流地点だ。

 都市内にある開けた発着場であり、良く目を凝らせば先に別の輸送機が到着していた。

 恐らくは、SQたちも既に到着しているだろう。

 色々とあったが何とか合流できる……ユーリを探さないとな。

 

 胸のあたりにあるペンダントに触れる。

 彼女から貰った大切な品で。

 それを大切に片手で包みながら、俺は彼女の無事を心から祈っていた。

 

 ……大丈夫。すぐに会える。

 

 俺は不安を抑え込みながら、到着を今か今かと待っていた。

 

 

 

 輸送機が着陸し、そこにいたロボットたちが誘導を終える。

 俺たちはすぐに外へと出て、周りにいる兵士に声を掛けた。

 すると、近くにいたSQが俺たちの下まで駆け寄って来る。

 俺は片手を上げながら、無事でよかったと彼女に声を掛けた。

 

「あぁお前も無事で良かった……ん? 一人足りない……」

「……アイツは俺を守って……出来たら弔ってやりたい」

「……分かった。その事についても既に指示をしてある……他の英霊たちと共に送ろう」

「……あぁ」

 

 SQは俺の肩に触れる。

 そうして、俺を抱きしめてから頭を撫でてくれた。

 何時もなら振り払っていたが、俺は何もしなかった。

 

 そうして、暫くの間黙っていて。

 俺はゆっくりと彼女の体を押してからユーリを見なかったか聞いた。

 彼女は「ユーリ……あぁ」と言って思い出していた……そういえば面識はほとんど無かったな。

 

「いや、見ていない……そういえば自警団の一人がお前を探していたな」

「本当か? そいつは何処に」

「待て……私だ。あの自警団の男は何処に……分かった……この先にある救護テントで傷病者の手当てを手伝っているらしい。見えるか? あそこだ」

「……分かった。行ってくる。仲間の事を」

「あぁ任せろ……よく頑張った。またすぐに大きな戦いになるだろうが。今はゆっくり休んでくれ」

「……ありがとう」

 

 俺はSQに礼を言う。

 そうして、救護テントの方に向かって走った。

 

 俺を探している自警団の男。

 十中八九がユーリの事で俺を探しているんだろう。

 彼女は怪我をして治療を受けているのか。

 だったら、すぐに見に行かなければならない。

 場合によっては俺の力で彼女の怪我を治療するつもりだ。

 

 俺は笑みを浮かべる。

 無事で良かった。また会える。

 そう思いながら走って、テントの前に立つ。

 

 中からは慌ただしい声が聞こえている。

 それは当然だ。この中には怪我人が沢山いるんだ。

 軍の輸送機の中では治療が追いつかなかったんだろう。

 あれはメリウスや兵士を輸送する為のもので。

 医療器具や薬品も最低限のものしかなかったと記憶している。

 此処に来てテントを立てて……チラリと見ればロボットたちが箱に入った医薬品などを運んでいた。

 

 俺は少しだけ呼吸を整える。

 そうして、中へと入っていった。

 

「もっと包帯を持ってきてくれ! 急げ!」

「先生! 患者の容体が!!」

「いてぇぇ!! いてぇよぉぉ!!!」

「……!」

 

 中はひどいありさまだった。

 最低限の応急処置をして連れてこられたんだろう。

 ベッドは血に染まっており、白衣を着た医者らしき人間数名が手当てをしている。

 手術をしているのか傷口から噴き出す血を拭い。意識を取り戻した手足を失った人間が暴れるのを抑え込んでいた。

 他にも呼吸が荒い患者の手を掴みながら声を掛けて薬剤を投与し……。

 

「邪魔だ!」

「……あ」

 

 背中を押された。

 俺は小さく頭を下げながら端にズレる。

 視線をテント内に向けながら、俺を探していたという自警団の男を探した。

 すると、足が無い患者を抑え込んでいた男と視線が合う。

 彼は患者が静かになったのを確認してから此方に駆け寄って来る。

 手袋とマスクを外し、彼は俺を見つめて……何だ?

 

 

 彼は何でそんなに悲しそうな顔をしているんだ。

 今にも泣きだしそうであり、抑え込んでいる何かを隠していて……心がざわつく。

 

 

「……ナナシさんですか? ユーリ・ミヤフジさんの恋人の……」

「はい、そうですが……彼女は?」

 

 

 心がざわついていた。

 彼女が何処かと聞けば彼は表情を曇らせる……やめろ。

 

 

「彼女は……ミヤフジさんは……っ」

 

 

 聞きたくない。その先を言うな。

 やめろ、やめてくれ。

 俺の心が必死に叫んでいた。

 だが、俺の口からは何も出ない。

 ただ真っすぐに彼を見つめて……彼が重い口を開く。

 

 

 

「彼女は、子供を庇って……瓦礫の下敷きになり……っ……私は子供の避難を優先して、彼女を……本当に申し訳ありませんでした」

「…………」

 

 

 

 彼は頭を下げる。

 深々と下げて一向に上げようとしない。

 俺が頭を上げろと言うまで待つつもりか。

 

 俺は今の言葉を聞いていた。

 そして、静かに理解した。

 

 

 

 彼女は瓦礫の下敷きになって……死んだ。

 

 

 

 此処には彼女はいない。

 彼女の亡骸は今もシャンドレマの中だ。

 

 

 戻って彼女を探すのか?

 先にこの男を気が済むまで殴るのか?

 大声を出して怒り狂い暴れまわるのか?

 

 

 ……違う……彼女は……ユーリは……そんな事は望んでいない。

 

 

 俺は手が震えていた。

 しかし、必死にそれを隠しながら彼の肩にそっと手を触れる。

 

「彼女は……何て言っていましたか」

「……貴方の事を愛していると……っ」

「そうですか……どうか、顔を上げてください」

 

 俺は彼に対して顔を上げて欲しいと願った。

 彼はゆっくりと顔を上げて――目を見開く。

 

 俺は笑えているだろうか?

 泣いていないだろうか?

 

 必死に笑みを作る。

 そうして、子供は無事だったかと聞く。

 彼は静かに頷いていて……そうか。

 

「……ありがとう……彼女の行動を無駄にしなくて……本当に、ありがとう」

「……申し訳ありません……私は、彼女を……誓います。絶対に彼女の事を忘れません……貴方の事もずっと」

「……いいんです。責任を感じて覚えられるよりも、彼女は……皆に笑っていて欲しいと思う筈ですから」

「……っ! ありが、とう、ございます……本当に、ありがとう」

 

 彼は俺の手を両手でしっかりと握る。

 そうして、ポロポロと涙を流していた。

 俺はもしも全てが片付いた時は一緒に酒でも飲もうと彼を誘う。

 彼は笑みを浮かべながら是非お供すると言ってくれて……これ以上は邪魔をしたらいけない。

 

 俺は仲間の下に戻る事を伝える。

 彼は敬礼をして俺を見送る。

 俺はそのまま振り返る事無くテントから出て行った。

 静かに息を吐き……よし。

 

 俺は歩き出す。

 大丈夫。まだ大丈夫だ。

 泣いたりしない。不安な顔を彼らに向けてはいけない。

 これから先で大きな戦いがあるんだ。

 これ以上の絶望を彼らに与える訳にはいかない。

 

 俺は必死に耐える。

 血がにじむほどに拳を握り。

 痛みと苦しみでぐちゃぐちゃになる心の形を留める。

 傍を通った人は俺の顔を見て驚いていた。

 

 それはそうだ。

 俺は歯を全力で食いしばっている。

 溢れ零れそうな涙を必死に抑え込んでいるから鬼の形相にでも見えたんだろう……大丈夫。

 

 彼女は死んだと言っていた。

 でも、俺はこの目で彼女の死を見ていない。

 もしかしたら生きている可能性だってあるんだ。

 あの後、瓦礫から抜け出していたかもしれない。

 彼女は自分を馬鹿だと言うが、俺はそうは思わない。

 彼女はいざという時には正しい判断が出来る女性だ。

 だからこそ、咄嗟に子供を庇う事が出来たんだ……俺は信じている。

 

 彼女は生きている。

 死んでなんかいない。

 こんな別れを認めていい筈がない。

 だから、俺は……俺は……っ!!

 

 ぼたぼたと拳から血が流れるのが分かる。

 それを感じながら、俺は唇を強く噛んでたらりと血を流す。

 流れる血も痛みも苦しみも、全部――戦う力に変えてやる。

 

 世界を浄化なんてさせない。

 お前のシナリオ通りの結末なんて迎えさせない。

 散っていった仲間の為に、消えていった英雄たちの為に。

 この世界で生き抜いた全ての人の為に――俺はお前と戦う。

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