【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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193:重力から逃れる方法

 ヴァンをシャンドレマの兵士に託した。

 彼らはヴァンに敬意を示してくれていて、葬儀の日までに責任をもって守ってくれると言ってくれた。

 他の遺体と同じように手厚く弔ってくれるんだ。感謝以外の言葉はない。

 そうして、SQに案内された場所は俺たちの仮宿となる施設だった。

 都市内部には使われていない宿泊施設が無数にあり。

 そこは元々、移住してきた異分子や人間たちを入れる為に作られていた。

 

 現在は住民が全てロボットたちで。

 彼らは規則正しく行動し、都市の開発や製造などの作業を淡々と熟している。

 邪魔をする者も足を引っ張る者もいない。

 ただ与えられた仕事を熟し、稼働限界が近づけば一時的に休息を取る。

 心の無い機械であるから、遊ぶという感覚を知らない。

 だからこそ、宿泊施設などはあるにはあるが。

 そのどれもが飾り気の無い収容所のようなものだった。

 

 これもノイマンの情報の中に入っていて……まぁいいか。

 

 一々説明なんていらない。

 俺は開けかけた口を閉じて仲間と共に中へと入る。

 長い間、使われていなかった施設だが内部は綺麗だ。

 掃除が行き届いており、罅も何も無かった。

 

 白と黒で作られた空間であり、従業員らしきロボットが忙しなく動いている。

 隅々のチェックに掃除に……やる事は繰り返しなんだろう。

 

 広々としたフロントにはロボットが立っている。

 彼は俺たちへと近づいてきて片言の言葉で対応してくれた。

 SQが部屋の鍵を渡すように言えば、彼は鍵を虚空から出して渡してきた。

 ミッシェルはどんな技術なのかと目を輝かせていて。

 俺はかつて存在した現世人が使う”異空間”だと教えた。

 原理の説明をしようとすれば一時間や二時間では足りなくなる。

 だからこそ、詳しく説明しろという彼女の視線は無視した。

 

 カードキーを受け取り。

 SQは先ずは部屋で落ち着こうと言ってきた。

 俺たちはそれに頷いて部屋までの道中で彼女に話しかけた。

 

「……他の親衛隊は?」

「無事だ……だが、Kクラスはいない……たった”一人”を除いてな」

「……彼らがやられたのか?」

「あぁ……此処に生き残った一人もいる。傷の手当てを終えて眠っているかもしれないが……話が出来るか聞いてくる」

「あぁ頼むよ……俺たちの所にも代行者たちが来た。”四人”だ」

「……やはりか……お前たちが此処にいると言う事は勝ったのか」

「いや、一人は倒したが……残りの三人には逃げられた……奴らは神の機体を使っていたらしい」

「……! まさか、存在していたとはな」

 

 SQは少しだけ驚いていた。

 ノイマンの情報の中にも神の機体の事はあった。

 実際に目で見て分かったが。

 確かに、アレは人が生み出せるような機体ではない。

 

半神半人(デミゴッド)……コアを精確に破壊しない限り死ぬことが無い機体か。おぞましかったよ」

「そうだろうな……私たちも似たようなものだが。アレらは最早、人の体すら捨てている」

 

 SQは悲しげに呟く。

 彼女の言う通り、死から遠ざかる代わりに彼らは人の身を捨てていた。

 大方、神が後で元に戻すと約束でもしたのか。

 あの双子が簡単に承諾するとは思えなかったから。多分、騙されたんだと思う。

 アイツは約束を守るつもりはない。

 かつてのアイツであれば約束は守るものだと記憶していた筈だ。

 しかし、今のアイツは過程や方法に拘りが無い。

 唯一、自らの産みの親の言いつけだけを守っているだけだ……悲しいな。

 

「……それだけ、失ったものを取り戻したいんだろう……例えそれでどれだけ多くの命が犠牲になったとしても」

「……でも、俺たちは認めない。認めたら全てが消えるから」

「そうだ。事情を知ろうとも我々がする事に変わりはない……必ずこの手で神の計画を止めるんだ」

 

 SQは確固たる決意で拳を握る。

 そうして、階段を上がっていき暫く廊下を歩いていけば……着いたな。

 

 SQは無言でカードキーを専用の機械に通した。

 短い機械音が鳴り扉のロックが解除されて。

 全員が部屋の中へと入っていく。

 仲間たちは俺とSQの会話を黙って聞いていて……不安だよな。

 

 ミッシェルやイザベラ、ライオットやドリスは覚悟を決めている。

 双子だって腹を括っているのか涼しげな顔だ。

 

 しかし、ベックだけは浮かない顔であった。

 

 彼は冷静で慎重な男だ。だからこそ、これからの事を決めかねているんだろう。

 此処までついてきてくれただけでも感謝している。

 これから先で彼が此処に残ると言っても俺は絶対に止めたりしない。

 これより先は覚悟が無ければついていけない。

 中途半端な気持ちで神と戦えば……確実に死ぬ。

 

「……ベック」

「……へ!? ななな何ですか!? ナナシさん。へ、へへへ」

「……ゆっくりでいい。どうするかを決めてくれ」

「ど、どうするかって?」

 

 彼はおちゃらけたように笑う。

 まるで、何も知らないように振舞っていた。

 俺はそんな彼をジッと見つめながら、ハッキリと伝えた。

 

「……神と戦うか。此処に残るかだ」

「……っ!!」

 

 悪いとは思う。だが、大事な事だ。

 自分の言葉で意思を示してほしい。

 戦うのなら共に行こう。だが、もしも戦えないと思うのなら……。

 

「……怖いっすよ……急にそんな事……俺はね! アンタみたいに強くはねぇんだ! 先輩みたいに天才でもねぇんだよ!」

「……そんな事は」

「――うるせぇよ!! 黙って俺の話を聞け!!」

 

 ベックは叫ぶように声を出す。

 SQは動こうとしたが俺はそれを片手で制した。

 言いたい事は言って欲しい。もしかしたら、此処で今生の別れになるかもしれないから。

 

 ベックは呼吸を乱しながらも俺を睨む。

 

「分かってんだ……俺が一番足を引っ張ってるって……役に立ててねぇことは、俺が……っ!」

 

 ベックは悔しさを滲ませる。

 彼が一番つらい筈だ。

 こんな事を言う事がどれだけ辛いか。

 分かってやれなくても、話を聞く事だけは出来る。

 俺はジッと彼を見つめていた。

 

「弱くて、頼りなくて……でもなぁ!! 俺だって悔しいんだよぉぉ!!」

「……っ!」

「世界がどうなるとか救ってやろうかなんてどうでもいい!! ただな!! 同じ飯を食って酒を飲みあって!! 馬鹿みたいに騒いでいたダチが死んで!! 俺だって最高にむかついてんだよぉぉ!!」

「……ベック、お前」

 

 ミッシェルはベックを見る。

 彼はぜえぜえと呼吸をしながら。

 ゆっくりと姿勢を正した。

 そうして、俺へと深々と頭を下げた。

 

「連れて行ってくれッ!!! 俺も戦わせてくれッ!!」

「……あぁ、勿論だ。ありがとう……本当に」

 

 俺はベックの肩に手を置く。

 彼は顔を上げてからにしりと笑う。

 その体が少し震えているように見えたが、俺は絶対にそれは言わない。

 こいつは臆病でも弱くもない。立派な男で……俺の戦友だ。

 

「……ふ」

 

 SQは笑う。

 そうして、すぐに戻ると言って部屋を出て行った。

 扉が閉められて俺たちはそれぞれのベッドに腰を下ろした。

 

 広い部屋だ。

 大部屋と言ってもいいほどの広さで。

 ベッドの数は十もあり、最低限の家具も配置されている。

 しかし、生活感があまりない。

 白い壁はシミ一つなく綺麗だが、少しだけ居心地が悪く感じた。

 まるで、寝る為だけの部屋で……そうか。

 

 宿泊施設ではある。

 しかし、此処を建設したのはロボットたちだ。

 高度な知能が無ければ人間の趣味趣向なんて分かる筈がない。

 必要最低限、雨風をしのげる天井と壁がありベッドなどがあればいいだけだ。

 

 ……ノイマンはこういうところでも、この世界を未完成だと言っていたのか。

 

 人間が住んでいるような世界ではない。

 ロボットたちが最低限のものを用意しただけで。

 娯楽と呼べるものがあまりないのもそれが関係しているんだろう。

 

「……はぁ」

 

 小さく息を吐く。

 仲間たちを見れば誰もが疲れを露にしている。

 シャンドレマから避難して、心が休まる時が無かったからな。

 皆も疲れが溜まっていたんだろう。

 

 荷物は持ってきていない。

 すぐに出撃する事になる上に、此処に置いていったところで意味はないから。

 此処が最後の休息地であり……俺も恐れているのか。

 

 気を抜けば体が震えそうだ。

 だが、仲間たちがいる手前、不安などは見せてはいけない。

 俺は彼らの先頭に立ち進んでいくんだから。

 弱みも何もかもを隠し、俺は戦場へと向かう。

 

 

 ……ユーリ……もしも、生きて会えたら……今度は俺が君に言葉を贈るよ。

 

 

 彼女は俺を愛していると言ってくれた。

 なら、今度は俺が彼女に言葉を贈る番だ。

 きっと生きている。何故かは分からない。

 だが彼女の気配を感じる気がするんだ。

 力によって感知している訳でもなく。

 俺の心がそう告げている気がして……来たな。

 

 扉がノックされる。

 全員が視線を向けて、俺が入るように声を出した。

 すると、ゆっくりと扉が開かれて――何名かが驚いていた。

 

「あんたは!?」

「生きてたの?」

「生きてたんだ」

 

 ベックとアニーとイヴが驚いていた……知っていたのか。

 

 ライオットやドリスは少しだけ緊張している。

 恐らく、彼の纏う気配からただものではないと分かったんだろう。

 イザベラに関しても値踏みするような視線を彼に向けていた。

 ミッシェルも一度だけ顔を合わせていたから知っている。

 俺も彼が生きていた唯一のKクラスである事に納得した。

 

 綺麗な金髪に青い瞳。

 王子様のような整ったルックスの彼は顔にガーゼなどを当てていた。

 頭にも包帯を巻いていて、片腕にも包帯を巻いている。

 松葉杖をつきながら歩いてきた彼はどう見ても満身創痍で……彼は微笑む。

 

「無事で何よりだよ……再会を祝いたいが。時間が無い……色々と情報交換と行こうか?」

「あぁ頼む……俺から話そうか?」

「じゃあお願いするよ……失礼」

「は、はい!」

 

 ライオットのベッドに腰かけた彼。

 少しだけ表情をしかめているのは痛いからだろう。

 ライオットは大丈夫かと声を掛けたが、彼は平気だと言う。

 俺はそんな彼――CKを見つめながら持っている情報を話した。

 

 代行者の襲撃を受けてその内の一名は討ち取った事。

 代わりに此方はヴァンを失って。

 彼のお陰で俺を迷いを断ち、ノイマンの力を解放する事が出来た。

 今ならノイマンの力を十二分に発揮する事が出来るだろう事を伝えて。

 それを聞いていた彼は静かに頷く。

 

「……彼を失ったのはまずいが……君がアクセスの力を完璧にものにできたのなら、まだ希望はある」

「……勝算はどれくらいあると思う?」

「……ハッキリと言えば……三十パーセントほどかな」

「……嘘ですよね?」

 

 思わずベックが聞く。

 しかし、CKは否定しない……まぁそんなものだろう。

 

 幾ら俺がアクセスの力を完璧に使えるようになったとはいえ。

 敵の中にはまだ力を隠した代行者が数多くいる。

 神の機体を使って総攻撃をされればアクセスの力を使っても皆を守り切る事は難しい。

 それに代行者を全て討ち取ったとしてもまだ終わりではない。

 神自身が残っており……それが最も強大な敵と言えるだろう。

 

「……代行者は通過点だ。問題はその奥にいる存在……神だからね」

「そうだな……どうやって神の下へ行くかだが……手は幾つかある」

「へぇ、それは是非聞きたいね……でも、先にこっちの情報を伝えておく。代行者――ベン・ルイスについてだ」

「……」

 

 彼は兄の名前ではなく。

 代行者としての奴の名前を言った。

 それはつまり、彼の兄はもうこの世には存在しないと言う事で。

 俺は何も言わずに彼のくれる情報を聞いていた。

 

「……奴は完全に神の僕だ。破壊に魅入られ、全てをただ壊し尽くしたい、そう思っている……奴の切り札をこの目で見た。奴はそれを”ゴスペル”と言っていた」

「……オラース・ヴェルネにゴスペルか」

「アレは確かに天の使いだろう。神の力を与えられているだけの事はある……ゴスペルの使用条件は恐らく、戦闘時間の経過が関係している。僕たちと戦った時にすぐ使わなかったのは条件を満たしていなかったからだ……正確な時間は不明だけど。恐らくは十五分から三十分ほどだと思う。条件が揃えば彼の機体の装甲は無くなって身軽になる。そこからは一瞬だ。まるで、巨人の手で上から潰すように、ね……分かるかい。ナナシ君?」

「……巨人の手で、上からか……空間圧縮か?」

「違うよ。これはもっと単純で、最も強力なもの――重力だ」

 

 CKは種を明かす……重力か。

 

 つまり、オラースの第二形態であれば。

 奴は自在に重力を操れるようになるのか。

 そうであるのなら、単純に押しつぶすと言う事も簡単だが。

 それ以上に高度な現象を起こすことも可能になる。

 重力とはこの世界では切っても切り離せない要素だ。

 全人類がその影響下にあり、何人たりとも逃れる事は出来ない。

 だからこそ、ゴスペルと呼ばれるものがどれほど厄介かは分かる。

 

「……もしも、ゴスペルを使われれば……俺以外の人間は確実に死ぬ」

「あぁそうだ……僕はノイマンのくれたもののお陰で一度は生き残れたが。そう何度もとっておきは使えない……他の仲間も救いたかったけど。装置は一つしかない上に、一人しか使えなかった……そして、それはもう二度と使えない」

「……重力での圧殺に、速度を極限まで落とす事も可能。光でさえもそれから逃れられない……打つ手なしだな」

「……いや、そうでもないぜ。ナナシ」

「……ミッシェル?」

 

 黙って聞いていたミッシェルが声を出す。

 仲間たちをは彼女に視線を向ける。

 彼女は自信ありげに笑いながら説明をした。

 

「実を言うとな重力に抗う方法はあるんだよ……おまえ、”アンチグラビティフィールド”って知ってるか?」

「……それは何だ?」

「いや、聞いたことがあるよ……主にメリウスの武装の重量問題を解決する為に開発されていたシステムだったかな……そうか。それを応用すれば、ゴスペルの重力干渉を防げるかもしれない」

「あぁそうだ……ただ問題がある。此処には多分、アンチグラビティフィールドのシステムに関する設計書は無いだろうから。一から作る必要がある……ざっと計算して一月は掛かるだろうな」

「ダメだ。それじゃ間に合わないよ……困ったな」

 

 CKは眉を顰める。

 折角、ベン・ルイスの即死攻撃を防げる手があったのに。

 これでは絵に描いた餅だ。

 ミッシェルも少しだけ申し訳なさそうにしていて……SQが声を出す。

 

 全員が彼女の方に視線を向けた。

 彼女はミッシェルを見つめながら「設計図があればメリウスに応用できるのか」と聞く。

 ミッシェルは困惑しながらも頷いていた。

 彼女はそれなら大丈夫だと言い、誰かに連絡を取り始めた……問題ないのか?

 

 誰に掛けているのかと思っていればすぐに通信は終わる。

 SQに誰に掛けたのかと聞けば、彼女はHQを呼んだと言った……ミランダか。

 

「彼女が設計図を持っているのか?」

「あぁ恐らくな……昔、メリウス用の巨大な主砲を作っている時にそれを使おうとしていたが。それを止めて、機体自体を更に大きくする方に変えていたと記憶している……何年も前だからな。もしかしたら、もうとっくに破棄しているかもしれないが」

「……いや、彼女は一度研究した資料はずっと持ち歩いていた筈だ。端末だけでも持って来ているのなら、間違いなくある筈だ……さぁ、光明が見えて来たね」

 

 CKは楽しそうに話す……しかし、少しだけ悲しみを感じるのは気のせいなのか。

 

 兄の姿をした人間と戦うんだ。

 抵抗感はあるだろう。

 長い間会っていなくとも、彼にとって奴は間違いなく肉親だ……だが、CKの協力は不可欠だ。

 

 彼が前線に出なければ、勝率も大きく下がると言っても過言ではない。

 一人でも多くのパイロットを動員し、神と挑まなければ確実に負ける。

 だからこそ、彼が兄との戦いを心の中で拒んでいたとしてもついてきてもらう他ない。

 俺は心の中で彼に謝りながらミッシェルを見る。

 彼女は顎に手を当ててぶつぶつと何かを言っている。

 恐らく、設計図が手に入る前提でどのようにするか計画を立てているんだろう。

 幸いにもこの都市には多くのロボットが存在し、メリウスや兵器の生産に必要な資源も豊富にある。

 ノイマンの情報が正しいのであれば、この日の為に用意したものもある筈だ。

 

 既に神は計画を進めている。

 CKの様子からしてまだ情報が残っている様子だ。

 恐らく、代行者との戦闘中に感じた不気味な気配と関係しているだろう。

 

 

 必要な鍵は既に……神は”揃えている”。

 

 

 今なら分かる。

 神はただ俺をノイマンの捕獲の為に利用したんじゃない。

 対面した時点で鍵のコピーを取っていた筈だ。

 すぐに作れるものではないが、時間を掛ければそれも本物と同じ機能を持つだろう。

 既に最後の一つを手に入れたのであれば……やはり時間が無い。

 

 もしも、計画の最終段階に入っているのであれば急ぐ必要がある。

 鍵の使用から世界の浄化に掛かる時間はそれほどない。

 最終プロセスを完了する前に奴を何としてでも止めなければ。

 俺はそう考えながら、此処へと来るHQを今か今かと待っていた。

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