暫く部屋で待機し、ミランダの到着を待った。
彼女が来るまでにCKから残りの情報を話してもらったが……やはりか。
神は既に最後の鍵を手に入れた。
CKが最後に見たという災厄。
それはかつての英雄の機体を模していたらしいが……代行者たちの手で始末されただろう。
本物であったのならどうなったかは分からない。
しかし、所詮は紛い物であり本物以上の力は無い。
ゴスペルを使用している状態のベン・ルイスならば勝てるだろうと思えてしまう。
俺の中の鍵を複製し、最後の鍵も手に入ったのであれば。
本格的に神の計画が進みだそうとしている事が分かる。
このまま放置していれば、一月もしない内に世界は浄化されてしまう。
いや、一月どころかもう一週間も無いかもしれない。
神と接触した日から換算すれば十分すぎるほどの時間があったからな。
CKにその事を伝えれば、彼自身もまずいだろうと判断していた。
となると、やはり準備にあまり時間を掛けている暇はない。
俺はミッシェルの方に向き、ぶつぶつと言っている彼女に質問をした。
「ミッシェル。そのシステムをメリウスに導入するのに、どれほど掛かりそうか分かるか?」
「……まぁ普通なら何か月単位で掛かるぜ。完全な状態っていうのなら年単位だ……だが、この世界にあるものが優れているっていうのなら……ひょっとするかもな」
「……CK、此処にある設備は使えるんだな」
「問題ないよ。君ならもう知っているだろうが……”アレ”も使えるよ」
「そうか……なら、大丈夫だ。後はミッシェル次第だ」
「……含みのある言い方だが……信頼してくれているって捉えておくぜ」
彼女はそう言って笑う。
すると、部屋の扉がノックも無しに開かれた。
俺とCKが警戒しながら視線を向ければ、バリバリと何かを食べながらミランダが入ってきた。
その後ろには弟であるシリルもいる。
姉はのんきに手を上げながら入ってきて、弟のシリルは必死に頭を下げていた。
「……んだよ。座るところもねぇな……隣、座るぜ?」
「あ、はい……」
ベックのベッドに腰を下ろすミランダ。
彼女は袋からせんべいを取り出して食べている。
ベックは汗を流しながら驚いていて、彼女にせんべいを差し出されておずおずと受け取っていた。
……まぁ別にいい。
その煎餅を何処から持ってきたとか。
何でそんなに落ち着いているのかとか。
色々と聞きたい事はあったが我慢する。
そうして、咳ばらいをしてから彼女に視線を向けた。
「……再会できて嬉しいよ。怪我はないのか?」
「んあ? 無い無い。私たちの所には敵が来なかったからな」
「姉さんと僕は皆さんとはまた違うルートを進んだので……」
「そうか。まぁ良かったよ……それで、例の設計図についてなんだが」
「あぁアレね。ちょっと待ってくれよぉ…………あ、これだこれ。ほら」
ミランダは煎餅の袋をベックに渡す。
そうして、ポケットから端末を取り出して操作した。
暫く待っていれば彼女は目的のものを見つけてそれを空中に投影した。
空間に浮かび上がったそれは確かに設計図であり、ミッシェルに視線を向ければ……これみたいだな。
彼女は頷きながら見ている。
目当てのものであった事をミランダに伝えれば、彼女はそれは良かったと言う。
俺はその設計図のデータを貰えないかと彼女に聞く。
すると、彼女は問題ないと言ってきて送り先は誰なのかと聞いた。
ミッシェルは手を上げながら自分であると伝えて、二人は端末を操作してデータの受け渡しをしていた。
取り敢えずは、これで対オラース戦への準備に取り掛かれる。
奴の使う重力攻撃への対処はこれで問題ないとして……問題はそれ以外だな。
「……CK、神との戦いで導入できる戦力だが……どれほどある?」
「……そうだね。今も生産はしているから……まぁ”五十万”ほどかな」
「……”無人機”だけでか?」
「そうだね。後はバトルシップとメリウス用の輸送機に、他の兵士が使う用の有人機も含めれば……まぁ何とか戦えるレベルだろうさ」
CKは簡単に説明をしてくれた。
神の陣営の方が戦力的には上だ。
俺たちが五十万体の無人機を所有していたとしても。
彼方は俺たちの世界で遥か前からメリウスなどを生産し続けている。
単純に見積もっても倍以上の戦力差があると思った方がいい。
それに此方は兵士の数が圧倒的に少ない。
彼方はカメリア青騎軍や他の国の兵士を招集すれば幾らでも人員を確保できる。
しかし、此方には確保できる人員がいない上に元の人数から減っている。
シャンドレマへの敵の襲撃により大きく戦力ダウンした結果だ。
今更これを悔やんでも仕方が無いが……ノイマンはこれを見越してロボットを作り続けていたんだろう。
奴らの襲撃を未然に防ぐ事は出来ない。
自分が生きている間は守れても、死んだ後はそれを防ぐ術は無いからだ。
だからこそ、ノイマンは敢えて神の計画に乗っかり意図的に襲撃を起こさせた。
その結果、国民たちは速やかにシャンドレマから避難し。
この仮想世界では失った戦力を補うために、無人機の生産やロボットの開発が行われ続けた。
だからこそ、兵士の数が少なくなった現状でも神との決戦には望める。
だが、それでもまだまだ問題はある。
それは既存の技術の開発や生産に関しては問題は無いが。
これから作るものなどに関しては機械の手が借りられない事だった。
アンチグラビティフィールドを今から開発するとしても、ミッシェルたちだけでは圧倒的に人の手が足りない。
シャンドレマから逃れてきたメカニックを動員しても一月以内で開発できるものなのか……アレを使ってもギリギリだ。
やはり人の手が足りていない。
このままでは間に合わない。
「……せめて、ハーランドの人たちが……バーナー博士たちがいてくれれば……」
「……? ナナシ君、もしかして……ノイマンから聞いていないのか?」
「え? 何の事だ?」
「……そうか。彼はその情報を敢えて伏せていたのか……ふふ、朗報だよ。君が今一番欲している人材は――此処にいる」
「――!! バーナー博士たちがいるのか!?」
俺は思わず立ち上がる。
そうして、CKの肩を持ちながら必死になって質問した。
SQが思わず止めに入りハッとすれば、CKは少しだけ眉を顰めていた。
俺は彼に謝りながら、生きているのかだけ聞く。
すると、彼は静かに頷いていた……そうか。彼らも此処に……でも、何で?
「……まぁ疑問に思うのも無理はないよ……よく考えてみてくれ、彼らは我々の協力者だ。神が彼らを今まで通り野放しにすると思うかい? ハーランドグループは既に神の手に落ちた。神からの工作により、CEOであるセシリア・ハーランドは失脚され。現在のハーランドは全く別の人間が指揮を執っている。彼女の下でプロジェクトを進めていた研究者の多くも不当な罪で拘束されて行って、ノイマンはそんな彼らを逃がす為に、僕たちよりも前に彼女たちをこの仮想世界へと導いた」
「……そんな事が……どれだけの人間が此処に?」
「……約五百名あまりだね。本当はもっと多くいたけど、神の動きの方が速くてね。これが限界だった」
「……そうか……でも、それだけの頭脳が揃っているのなら」
ハーランドの研究者たちは優秀だ。
その中にバーナー博士もいるのなら尚の事だ。
彼らの協力さえあればミッシェルの作業も進む。
一週間以内。いや、もしかしたらもっと早くに完成するかもしれない。
設計図さえあれば製造はあっという間だ。
だからこそ、これでようやく不安要素が取り除けたと考えた。
兵力に関しては無人機とロボットでカバーする。
技術的な面ではハーランドの人間とミッシェルたちで対処できる。
後は襲撃を仕掛けるタイミングと……そうだな。他の人間たちの意思確認も重要だ。
俺たちは神との戦いを前提に考えているが。
そもそも、兵士やシャンドレマの国民たちに戦う意思が無ければ意味が無い。
協力者がいなければこの計画も破綻する。
だからこそ、他の人間たちの意思は最も重要な要素だ。
……彼らは戦ってくれるのか。
少しだけ不安だ。
だが、彼らはシャンドレマの国民で。
彼らは神から長年に渡って多くの仕打ちを受けてきた。
大切な故郷を奪われて黙っていられる筈がない。
きっと彼らも俺たちの同じように戦う筈だ。
これは神を殺す為の戦いじゃない――世界を救う為の戦いだ。
失った故郷を取り戻す為。
愛した世界を守る為。
命を奪うのではない。命を守る為の戦いだ。
俺はそれを彼らに説く。そして、共に手を取り合って……。
「CK、彼らは俺たちと共にある……そうだろう」
「……そうさ。彼らと僕たちの目的は一緒だ……絶対に諦められない。今までは我慢できても、これだけは譲れないんだ」
「そうだ。どんなに虐げられてどんなにひどい仕打ちを受けても俺たちは耐えてきた……今こそ立ち上がる時なんだ」
俺は拳を握る。
俺たちの話を聞いていたミランダとシリルは頷く……よし。
俺はベッドから立ち上がる。
眠るつもりだったが気が変わった。
これから無人機や他のメリウスの生産状況を確認しに行く。
それを仲間たちに伝えれば彼らも立ち上がった。
「それじゃ俺はその避難してきたっていうハーランドの人間と打ち合わせに行くぜ。任せておけよ! こんなもんすぐに作ってやっからよ!」
「じゃ俺たちはメリウスのチェックをしてきます! 行こう、ドリー!」
「勿論! 眠ってなんかいられませんから」
「うし。そんじゃ俺たちは先輩のアシストだ。勝ったら大金持ちになれるぜ! アニー、イヴ!」
「よし、それなら私は鋼鉄製の城を買う」
「なら、私は移動要塞を三つ買う」
「いや、何で三つもいるんだよ!?」
「移動用、寝る用、娯楽用」
「……物騒だな、おい」
ミッシェルたちはそれぞれの行先を明かす。
俺はゆっくりとイザベラに視線を向けた。
彼女は静かにベッドに座っていて……静かに笑う。
「私は少し休んで……酒でも探しに行くよ」
「おいおい。こんな時にも酒ですか? それは――むぐぅ!」
ベックが何かを言おうとした。
しかし、何かを察したミランダに腹パンを喰らわされていた。
何となく、その酒が自分だけで飲むものではないと分かる。
此処まで彼女は黙ってついてきてくれた。
ヴァンが死んだ時も他の仲間たちは泣いていたが。
彼女だけは決して泣く事無く静かにヴァンの事を見つめていた。
違う。彼女は泣かなかったんじゃない……泣く事が許されなかったんだ。
ヴァンが欠けた今。
この中で一番年長者であるのはイザベラだ。
彼女は一番の大人として仲間たちのフォローに回っていた。
ヴァンとの付き合いが一番長いのは彼女で。
ヴァンを失って一番悲しいのは彼女なのに、だ……。
俺は静かに頷く。
何も言わない。いや、言ってはいけない。
此処からは彼女だけの時間で、大切な別れの時間だ。
俺はそう思って、SQにカードは彼女に渡すようにお願いした。
「それじゃ、俺は先に行く……皆、後悔のないように」
「あぁ」
「勿論」
「おう」
「……」
仲間たちをぐるりと見て俺は歩き出す。
やれる事をやるんだ。
後悔なんて出してはいけない。
後悔無きように打てる手は全部打つ。
俺たちの全力で神に挑まなければ――確実に俺たちは死ぬ。
死んで後悔なんてしたく無い。
死んでも後悔しないくらいにはやるんだ。
そう覚悟を決めながら俺は部屋から出て、長い廊下を歩いて行った。