都市内に建設された兵器工場内。
無数の作業用のアームが動き、レーンで運ばれてくるメリウスを素早く組み立てて行っていた。
洗練された動きに無駄はなく。
瞬く間にメリウスが作られている様は圧巻だ。
下でパネルを見ているロボットたちは愚痴の一つもこぼさず淡々と仕事を熟していた。
「……製造ラインに問題はないな」
大量生産ラインによって増産されるメリウスたち。
それらは全て無人機であり、全てが同じ規格だった。
カラーリングは白をベースに銀色のラインが引かれている。
複眼センサーであり、大小三つのセンサーが頭部に取り付けられていた。
アレらは無人機に搭載されているAIが戦場を分析し最適な行動を取る為に三つある。
一つや二つであれば人間であれば判断が出来るが。
高性能のAIともなれば状況の分析においてはより複雑な情報を要求してくる。
その為、戦場の情報を少しでも多く取得する為にそれぞれが違う機能を有したセンサーが複数必要になる。
複眼センサーの強みはそう言った情報をより多く取得できる事だろう。
足を進めながら、完成されたメリウスを見る。
ロボットたちが最終チェックをしており。
それが済めばAIたちの統合システムに登録される流れとなる。
型式番号HODー404hiG――”フィンガークロス”。
言葉に込められた意味までは分からない。
だが、ノイマンであるのなら俺たちの旅路の成功を祈ってくれているのだろう。
全長13メートル、機体重量は16.7t。
軽量級二脚型に分類される機体で、全体的に丸みを帯びた女性的なシルエットをしている。
無駄がなく流れるようなフォルムは空気抵抗を極限まで減らす為で。
通常であれば飛び出すように展開されているスラスターなどは全て機体内に格納されている。
スラスターは機体内に内蔵された背部のメインが二つ。
高機動戦状態に突入すれば、機体の各部に内蔵されたサブスラスターも展開されて。
変則機動により敵をかく乱しながら他の機体と連携を取る。
無人機の強みはパイロットがいないからこそ実現可能な不規則な機動で。
急加速に急停止を繰り返すこともトップスピードをエネルギーが尽きるまで維持する事も出来る。
これと言った特徴も特性も無い機体であるが。
その分、無駄がなく武装のバリエーションによって無限の可能性を秘めている。
装備に関しては基本的に三パターンがあり。
近接戦用の高周波ブレード二本とマルチロック式の無反動キャノン砲二門。
中距離戦用は特殊弾対応モデルのフルオートライフル”Psー77”とチャージ式ENランチャー”Reー38”。
遠距離からのサポートタイプであれば、背中に背負う遠隔操作式の小型レーザーユニット十基。
そして、腕へと装着する実体弾装備の長距離砲撃用ロングレンジキャノン二門だ。
後は特殊兵装としてレールカノン砲や高出力エネルギーブレードもある。
これらの無人機には此方が作っている特殊なエネルギーを供給する。
それらの情報もノイマンから渡されていて、製造方法も知っていた。
過去の英霊たちの情報を元に複製された特殊エネルギーであり。
万象や神が作るものよりは劣るが、性質変化を起こす事が可能だ。
これからの戦いでは、エネルギーの性質変化が重要になってくる。
基本スペックの底上げでも、武装面の強化に関しても。
全て性質変化後のエネルギーを前提に考えている。
シャンドレマの兵士の中でも優れた異分子であれば、性質変化を使える事は記憶している。
流石に流天や灰燼を使える存在はそうはいないが。
回禄だけでも使えるのなら十分通用する。
此処から先では戦闘技術も重要であるが本人の運も関わって来るだろう。
運が悪ければ当然死ぬ。運のいい奴が最後まで生き残る……身も蓋も無い話だ。
ロボットから渡された資料を見ていく。
電子書類として保管されているそれらを読みながら。
俺はゆっくりと足を止めた。
「スラスターの反応が鈍い! もう少し上げられないか?」
「こっちはマニュピレーターの感度が少し高すぎる気がする!」
「分かった! すぐに調整をする……ライフルとランチャーのカスタムを」
そこには此処へと避難してきたシャンドレマの兵士やメカニックたちがいる。
戦闘において重要な役割を担うエースパイロットたちは他の作業を免除されていた。
その代わり、此処にて保管されている有人機の戦闘システムの最適化に協力してもらっている。
型式番号HODー222seG――”ラーマテスラ”。
先ほどの無人機が小柄で丸みを帯びていたのに対し。
このラーマテスラは全体的に角ばったフォルムをしている。
全長15メートル、機体重量は20.5t。
しかし、重装甲型のように重そうな見た目をしている訳ではない。
運動性能を向上させるために、フリーハンドオペレーションシステムを標準装備していて。
関節の稼働の抵抗を極限まで抑えより広い可動域を実現する為に球体関節にしている。
従来の機体では三百六十度の敵に対して迅速に反応する事は困難であったが。
これは上半身と下半身を繋げる部分をそれぞれ独立化させてある。
だからこそ、上半身だけを回転させて動くことも可能で。
もっというのであれば下半身と上半身を分離しての戦闘も可能である。
分離状態では下半身はオート操縦となり、飛行ユニットへの形態を変えて敵へと攻撃を仕掛ける。
また、分離した下半身を纏うような合体が可能で、その形態はメリウスというよりは戦闘機に近い形状になる。
高速飛行形態は主に長距離の移動時に活用できる。
分離した状態でなら、それぞれが別の角度からの攻撃が可能でより戦術の幅が広がる。
だが、弱点も勿論ある。
それは下半身を分離した状態では脚部のスラスターが無い為、機動力が少し下がる事だ。
後は強みである三百六十度への対応にも若干のディレイが生じる。
「……それでも、十分すぎる程の強みだ……一機で二機分の働きが出来るんだからな」
メリウス状態ではあらゆる局面での戦闘が可能で。
戦闘機形態では空中戦に重点をおいて速さによる敵へのかく乱が効果的となる。
即時分離に即時合体が可能であり、戦闘機形態で相手をかく乱し隙を伺ってメリウスに戻り攻撃を仕掛ける事も可能だ。
しかし、このシステムに関しては何も知らない彼らでは十分に使いこなすことは不可能だ。
それが分かっているからこそ、この施設にある”教育システム”を使う事になる。
瞬間的にこれらの機体のデータを頭の中に直接流し込むのだ。
まるで、何年もの間、共に戦った相棒のように感じられるようになるが。
脳への負荷は相当なものであり、恐らく何人かは耐えられずに吐くことになるだろう。
しかし、それ以外で短期間での技術の習得は不可能だ……我慢してもらうしかない。
「……カラーリングは統一しているのか」
白をベースに此方も銀色のラインが引かれている。
ラーマテスラは足回りががっしりとしている。
太もも辺りが膨らんでおり、あの内部には側面に一つと後ろに一つサブスラスターが内蔵されている。
腕回りも上腕の部分が膨らんでいて、あの中にもENシールド発生装置が仕込まれていた。
胴体部は突き出しており、コックピッド内は広く設計されてある。
圧力システムと酸素供給システムはハーランドの最新システムで。
極限まで体に掛かるGを抑えながらの飛行を可能としている。
カタログスペック上では無人機よりも性能は上だ。
スラスターに関してもフィンガーよりも出力が高いものを積んであるからな。
しかし、機動力に関してはパイロットを乗せていない分。
彼方の方が上になるだろうとは思う。
まるで火乃国の昔に使われていた鎧の甲冑のような見た目だ。
シールドが両側とも展開されれば本当に鎧に見えるだろう。
鳥のような形状をした頭部であり、そこから青く発光するセンサーが二つ見えていた。
武装に関しては此方もバリエーションは豊富であり。
ライトニングパックで使っていた超高周波ブレードやスティールワンのような可変式の特殊ライフルも装備可能だ。
あれらの装備はハーランドで既に大量生産の目途が立っていたようで。
ハーランドの人間から説明を受けたが、スペック的にはやや劣るものの安定した性能があるらしい。
流石にバスターのような兵器は大量生産は出来ないらしいがな。
……俺も決戦の日には出撃する事になる。使用するパックは”バスター”になるだろう。
かつてないほどの危険な戦いだ。
過剰戦力なんて言葉は俺たちには存在しない。
過剰と思えるようでも足りないと思った方がいい。
だからこそ、全力を出すという意味で俺はバスターを使う。
先ほどバスターを使う事を伝えれば、バーナー博士がパックの改修を行いたいと言っていたと聞かされた。
何でも、バスターに関してはまだ初期段階であったからこそ。
更なる安定性の向上を図り、手を加えたいとの事らしい。
博士にはアンチグラビティフィールドの開発に専念してもらいたかったが。
まぁ此処の設備を使うのであれば、あの人なら片手間で済ませてしまいそうだ。
それほどまでにあの人は優秀であり、きっとミッシェルも学ぶ事がある筈だ。
「……一週間の内に敵に動きがある筈だ……それまでに準備を……人員の配置も決めないとな」
作戦決行日になれば、今ある戦力を分散させなければならない。
中央を目指して全軍を投入するような事はしない。
重要なのは中央であるが、それ以外の四地方の拠点制圧も重要となって来る。
四地方と中央の全てが機能していれば、奴らの浄化は早まるが。
何処か一つでも制圧できていれば奴らの計画の進みを遅らせる事が出来る。
だからこそ、四地方のカメリアへの進軍は必須だと言えた。
……それに、アンチグラビティシステムを全機に搭載している時間はない。
どれだけ開発を急ごうとも、完成してから増産しようとすれば。
一つのシステムを機体に組み込むまでにかなりの時間を要する。
恐らくは、作戦決行日までに仕込めるとすれば精々が百機程度だ。
つまり、中央へと攻め込む事になるのは俺を含めた百人の兵士たちで……精鋭で挑む必要がある。
勿論、他の四地方のカメリアにも手練れは派遣されるだろう。
だからこそ、全ての親衛隊を中央への攻撃隊には組み込めない。
こればかりは俺の独断ではどうにもならないが。
恐らく、神は自らがいるであろう中央よりも四地方に戦力を多く分散させる筈だ。
此方の予想が正しければ一つの地方に少なくとも代行者は一人はいる。
となると、中央を守る役目を担うのは……ベン・ルイスになる可能性が高い。
予想が外れていればそれまでだが。
四地方を守り切る事が出来たとしても中央が落とされては意味が無い。
その為、最高戦力だけは必ず中央に置くだろうと考えている。
俺は顎に手を添えながら考える。
つまり、中央への部隊は百人に留めて。
そこにいるであろう敵の大半を俺のバスターで殲滅する他ない。
バーナー博士がどれほどの改修を施すのかは分からない。
しかし、バスターを使った時に見た光景を思い出すのなら……相当に強力なものになるだろう。
「……SQとCKは外せないな……後はHQとCQにも……いや、だがそうなると他への戦力が……」
中央が最も重要だ。
しかし、俺以外にも親衛隊のメンバーを四名もか……難しいな。
親衛隊のメンバーはKクラス以外では欠員はいない。
だからこそ、全部で9人であり、四人を中央への攻撃部隊に組み込むのであれば残りは五人となる。
一つの地方に一人か二人ならば……少々、戦力が乏しい気がする。
少なくとも代行者クラスが相手であれば親衛隊は二名は欲しい。
ライオットやドリスは経験を積んでいて。
シャンドレマの精鋭にも劣らない技術や発想があるが。
それでも、親衛隊クラスでは無い。
イザベラであれば親衛隊クラスと言っても過言ではない。
彼女は恐らく、災厄戦で使ったアレを使うだろうが……そうなるとHQとCQは別部隊に組み込むべきか?
此処にあるものの情報はあらかた託されている。
その中でも使える者は”転移装置”だろう……数は限られているから渡す人間は決めておかないとな。
少なくとも親衛隊全員には配り。
ライオットやドリスを始め、イザベラにも渡しておきたい。
名も知らない兵士よりも今まで一緒に戦ってきた仲間を俺は信じている。
だからこそ、四地方の制圧が完了するか緊急事態が発生する時にそれを使って改めて戦力を中央に集中させる。
……まぁそう簡単には行かないだろう。
四地方全ての制圧が出来なくても構わない。
常にプレッシャーを与えて、少しでも奴の計画の進行を遅らせる事が出来れば上々だ。
後は稼いでくれた時間を使って、俺がベン・ルイスを倒し――神に挑むだけだ。
ノイマンの情報でも、神の戦闘能力は未知数だ。
奴は破壊された”オーバード”と呼べる古代兵器を保有しているが。
それらは復元する事も、神自身が使う事も不可能らしい。
それでも安心はできない。
例え、最高の機体が使えずとも奴ならばそれに匹敵するような兵器を持ち出してくるだろう。
最も警戒すべきは奴以外にいない……それまでに、どれだけ体力を温存できるかだな。
俺のアクセスの力が完全に解放されたとはいえ、無限に等しい力がある訳ではない。
この力は他者からのエネルギーを使って足りない分を補給している。
当日までにエネルギーを蓄えておくつもりだが。
それでも代行者との戦いで全てを使い果たしてしまう恐れもある。
如何にして代行者は手早く片付けられるかが鍵で……やはり、アレも用意しておく必要があるな。
「……よし」
一つ一つの事を考えていく。
そうして、作戦会議までに必要な事を並べていく。
順序良く片付けていき、CKたちの知恵も借りよう。
メリウスも兵装も問題ない……なら、次は……。
俺は歩き出す。
時間は幾らあっても足りない。
休息だって勿論必要だ。
しかし、今は止まっている暇なんてない。
少しでも多く準備をしなければ……俺たちは敗北する。
敵の戦力は不明。相手の部隊の采配も不明。
分からないことだらけであり、勝機も薄い。
だが、諦める訳にはいかない。
愛した世界を救う事が出来るのは……俺たちだけだから。