製造ラインの確認。
投入できる戦力を計算し、今ある兵力をどう割り振るかが重要だった。
都市管理AIと俺の端末を繋いで情報を確認し、必要なものを頭の中で考えていく。
日を跨ぎそうになり、SQからの通信で一旦ホテルへ帰った。
あまり寝付けそうにないと思っていたが、意外と眠る事が出来た。
一夜が明けて、俺はすぐにSQたちを呼んで手ごろな広さの一室に集合しようとした。
今は大規模な葬儀を準備している時ではあるが。
主要メンバーたちはそれぞれ神との決戦に備えて準備をしていた。
バーナー博士とミッシェルを筆頭に、彼らはアンチグラビティフィールドシステムの開発を進めて。
その傍らで俺のバスターの改修なども行ってくれていた。
彼らこそ休む暇もない。ずっと働いていて申し訳ないとは思ったが。
神との決戦が近い今、彼らを休める訳にもいかない。
事前に集まる場所を決めておいて、俺は色々と準備をしてから仲間と共に向かった。
今回の事に関してはイザベラ達にも知っておいて欲しい。
そう思って声を掛けて向かえば……意外だったな。
「やぁ」
先にCKが待っていたのは驚いた。
怪我は大丈夫なのかと聞けば、此処にある医療設備を使えばすぐに治ると言われた。
目に見える治療器具に関してもすぐに外れるようであり……無理をしているような気はしたが。
それ以上は追及しない。
CKが万全の状態で戦いに参加してくれるのも重要だが。
それ以上に今は作戦を立てる事が最優先だった。
話し合いで重要な事は今ある兵士をどのような形で分けるかだ。
無人機と有人機の割合に、今ある戦闘兵器も全て動員し。
それから輸送機の手配に、乗組員まで決める必要がある。
それをSQに話せば、既に大体の分配は決めてあると言ってきた。
渡された資料を確認すれば……確かにこれなら問題ないな。
四地方へと向かわせる兵士たち。
その数にはばらつきがあるが、それは地方ごとの重要度から算出した結果だろう。
四地方のカメリアにはこれといって違いは無いように見えるが。
実際には東部と北部のカメリアが最も敵の数が多く配置されている。
南部と西部に関しては、それよりも下ではあるが。
西部の方がシャンドレマが近い事もあって駐在する兵士の数は少ない。
本来であれば敵国が近い方が兵員の数も多いように思えるが。
神は敢えてさほど重要ではない役割のカメリアを西部に定めていた。
対外的には多いように発表はしているが。
実際はブラフであり、ノイマンからの情報でそれを知った。
SQたちは既に知っていたようであり、俺の負担を減らしてくれたようだった。
彼女にお礼を言ってから、俺は仲間たちに簡単に補足説明をする。
「中央を起点に各地方へ信号が送られる。それぞれのカメリアはそれを受信すれば、すぐにその信号を増幅し世界中へと送り始める。世界への命令が行きわたればすぐにこの世界の浄化が始まる。それまでに四地方の制圧により時間を稼ぎ、主要メンバーで中央の神に攻撃を仕掛ける。奴に繋がる道はそこにしかない」
「……質問いいかい?」
「何だ?」
イザベラが手を上げる。
何が気になったのかと聞けば、すぐに浄化とやらは始まらないのかと聞かれた……あぁ。
「この世界を管理しているのは確かに神だが……元の管理者はもっと上にいる。それは神を作り出した人間で、彼女は安易に世界を崩壊させないようにと神にプロテクトを掛けていた。それもかなり強固なもので、鍵が揃ってからすぐに浄化が始められる訳じゃないんだ」
この世界へのプロテクトに本物の世界への干渉も控えさせていた。
その結果、神は狂った英雄を滅ぼすまでに時間を要した。
だからこそ、二つの世界は滅んだとも言える。
皮肉な事だが、神はそのプロテクトを今だに消すことが出来ない。
それのせいで何も救えなかったのに、彼女は消すという選択が出来なかった。
消すことは何時だって出来た筈だ。しかし、それをしないのには理由がある。
神は否定するだろうが、奴は産みの親との繋がりを捨てきれないでいる。
それを消してしまえば唯一の繋がりがなくなってしまうからだ。
「……その管理者様が生きていたら……いや、悪い。意味の無い話だったよ」
「……四地方への兵力はこれでいいと思う……問題は、各地方のカメリア強襲作戦を指揮する人間だが……二人は誰が適任だと思う?」
「……指揮するのであれば、CKとSJ、後はDQと私か。次点でHQでもいい」
「僕も彼女と同じだよ……他のJクラスじゃ荷が重い。QクラスでもCQは指揮には向いていないよ」
二人はハッキリと教えてくれた。
俺も薄々はそうなるんじゃないかと思っていたが……となると……。
「……SQにはイースト・カメリアを。SJにはノース・カメリアを……DQにはサウス・カメリア。HQとCQにはウエスト・カメリアを任せようと思う」
「……なるほど……他のJクラスは北と東で分けるとして……CKを同行させるんだな」
「あぁ他にもイザベラについてきてもらう。敵よりも回せる戦力が少ない現状。最小の人数で墜とせるのならそれに越した事は無い……オラースの特性であれば、安易に無人機や兵士を中央に配置はしないだろう。精々が威嚇程度で、メインとなる奴がすぐに出てくる。そうなったら、アンチグラビディが無い機体はいてもただの的だ」
「待てナナシ。つまり中央に攻め込む奴は……ほとんどいないって事か?」
イザベラはまさかと言った様子で質問してくる。
彼女からしたら正気の沙汰ではないと思うだろう。
しかし、此方も闇雲にこんな提案をしない。
策ならあり、その一つが俺の使うバスターであると言える。
「イザベラ、俺の使うバスターパックは見た事が無いよな」
「あ、あぁ」
「……アレはな。初期段階の時点で……戦略兵器レベルなんだよ」
「――!」
戦略兵器。
つまり、それだけで戦場の流れを変える事が出来るものだ。
大量破壊兵器であり、相手の数が多いほどに効力を発揮する類の兵器だ。
あのバーナー博士が使用を控えるように言うほどには危険なパックで。
それを更に安定効率化するのであれば……軽く見積もっても敵の戦略兵器を凌駕するほどだろう。
「勿論、相手も戦略兵器クラスのものは用意する筈だ。それを使われれば、俺たちの部隊は多大な被害を被る事になる……SQ。アレの調整はどうだ?」
「EMP爆弾だな。すぐに実戦にも投入できる。数も十五発分は確保してある」
「……核を使うのか?」
イザベラが少しだけ驚いていた……分かっている。
EMP爆弾は核を使った兵器だ。
表の世界が滅んだ理由には核が深く関わっている。
核兵器とは力の象徴であり、最終手段とも呼べる切り札のようなものだ。
しかし、それは強力であるからだけじゃない。
それを使う事で世界にとってどれだけの悪影響があるのか。
土地は汚染され、人々は死に絶え。
人々の生活圏が追いやられる事になる。
核兵器を使うという事はそれら全ての罪を背負う事になる。
どんなに綺麗ごとを並べようとも、どんなに大義名分があろうとも。
それを使った瞬間に、俺は世紀の大悪党になる。
……だが、俺はもう迷わない。
EMP爆弾を使わずして、敵の戦略兵器を無効化できるなんて思わない。
どれだけ敵を欺き意表を突く形で襲撃しようとも。
一つでも戦略兵器が残っていれば、奴らはすぐに使ってくる。
恐らく、カメリアの防衛に駆り出されるのはほとんどが無人機で。
例え有人機がいたとしても、神が命じれば奴らは迷うことなくそれを使う。
お互いにこの戦いで妥協は許されない。
神は世界を浄化するからこそ、どれだけの被害が出ても関係ない。
死んだとしても奴は新たな人間を創造するだけだ。
世界が汚染されても、鍵の力によって力を取り戻した奴であればすぐに復元できる。
奴にとって失うものは何一つない。
奴はこの世界の痛みも苦しみも……全て消すだけだから。
そんな奴に対して俺たちの覚悟が中途半端であれば、確実に死ぬのは俺たちだ。
未来を掴み取る為に、この世界を消させない為に。
理由なんて幾らでもある。だが、それで俺は目を背けはしない。
恨んでくれていい、憎んでくれていい。
理解されなくても、拒絶されようとも――俺は進む。
「核だろうと使えるのなら使う。死んで後悔する気は無い」
「……そうか……いや、その通りだ。何でも使って勝つのが傭兵ってもんだよ」
「……こんな話、ヴァンに聞かせたら怒るかもしれないけどな」
「ははは! いや、アイツは怒ったりしないよ。アイツの目指した平和は仲良く手を繋いで出来るもんじゃない。平和の為に戦う事も犠牲になる人間がいる事も一番分かっていたさ……代償も無しに夢は掴めない。世界中の人間が否定しようとも、私はお前の考えを肯定する。胸を張りな。それが勝機に繋がるよ」
イザベラはそう言って笑う。
彼女が言うのであれば、きっと正しいのだろう。
ヴァンも俺の考えを否定しない。
それだけで進むだけの決断が出来る。
「EMP爆弾は転移装置を使って主要目標地点に一斉に放つ。例え民間人が残っていても躊躇うな。全ての責は俺が負う」
「……分かった。それを合図に、全ての部隊に攻撃命令を下す」
「あぁそれでいい……それと、傭兵統括委員会を通したものと非正規のルートで依頼を出す。神からの妨害が無いように、依頼の内容と構成員に関しては都市管理AIを使って複数作成しておく。恐らく、幾つかは消されるだろうが。全てを消すのであれば最低でも二日は掛かる」
「……依頼ですか? もしかして……協力を求めるんですか?」
ドリスが質問する。
俺は半分はあっている事を伝えた。
「此方としては協力してもらう認識で間違いない。ただ、向こうの認識としてはそこにいる部隊への襲撃や拠点の破壊工作というだけだ。傭兵たちが俺たちの存在に気付く事は無い」
都市管理AIを使って、現在保有しているアカウントを全て使い。
それぞれのアカウントから複数の依頼を時間差で傭兵たちに流していく。
神自身が依頼内容を見る事は決してない。
可能性とすれば、依頼を見定める委員会のAIだけで。
カメリアへの襲撃でないのであればほとんどは通されるだろう。
此方は大量の傭兵を使って相手の戦力を削いでいく。
カメリア青騎軍は勿論の事、主要な拠点にも複数名の傭兵を使って襲撃させる。
確実に殺す必要はない。
相手を疲弊させる事だけが目的であり、目標として定めるのは格納されているメリウスの破壊と軍事施設の通信機器の破壊だ。
休む間もなく緊張感を与えれば、カメリアへの防衛作戦に割ける人間を減らせる。
例え、強引に人員を割いたとしても碌な働きは出来ないだろう。
作戦当日になるべくカメリアには人がいないようにしたい。
核を使う事を決めているからこそ、被害は最小限に抑えておきたかった。
少しでも勝算を高めるのであれば、幾らでも金は払う。
シャンドレマの国庫ではあるが、現時点では俺にそれを使う権限が渡されている。
王になったわけではない。だが、ノイマンは俺に全てを託した……使わせてもらうよ。
「都市管理AIに依頼の発注は任せる。国庫金に関しては既にノイマンが国が保有してた全てのアカウントに分配している……負ければ死。勝っても一からのスタートになる」
「はは、別にいいさ。死ねばお金は持っていけない。生きているのなら何度だってやり直せる……エスティ、頑張れ!」
「……? 何故、私なんだ。次の王はお前がなれ」
「いやぁ、僕に王の器は無いよ。君こそ相応しい……何なら、ナナシ君がなってもいいんだよ?」
「……そういうのは血筋で選ぶか投票で決めろ……俺はただの一般家庭の生まれだ」
「いや、お前も家族だ。お姉ちゃんの愛する弟だ。もしも誰かが否定するのであればそいつは打ち首にする」
「……誰が決めたんだよ」
「私だ。私こそがルールだ」
「はは! やっぱり君ほど王に向いている人はいないよ……悪い意味で」
SQは意味不明な事を言って、CKは毒を吐く。
俺はため息を吐きながら、もしも勝てたのなら好きなだけ話し合おうと言う事で折り合いをつける。
……勝てたらか……俺以上に、仲間たちは勝つ気でいる。本当に頼もしいよ。
大事な作戦会議だったはずなのに。
少しだけ和やかなムードになって。
俺はくすりと笑いながら、心に希望の火をともした。
必ず勝つ。
誰一人として欠ける事無く勝ちたい。
その為に必要な事は可能な限り揃える。
俺は大切な仲間たちを見つめながら、作戦の続きを話し始めた。