【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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199:貴方の良き友人として

 都市内にある大規模施設。

 何の用途で作られたのかはシャンドレマの国民たちは知らない。

 椅子と机以外に物は存在せず。

 ただ広いだけのそこは、元々は大勢の人間が集まり重要な会議をする為に作られた施設だった。

 もしも、この世界が完成されて第二の仮想世界となっていたら。

 シャンドレマの政治を担う役職の人間たちが集い国の方針を考えていただろう……だが、今は別の用途で使用している。

 

「……」

 

 静かな会場の中では、国民一人一人が悲しみに暮れている。

 全員が花を手向けに行きたい気持ちで一杯だったが。

 彼らを代表して百人の国民が花を手向けていた。

 今此処にはシャンドレマから無事に避難する事が出来た国民全員が集まっている。

 唯一いないのは、メカニックなどの人間くらいで。

 その中でも大切な人を亡くした異分子だけは特別に参加してもらっている。

 

 ……誰もこんな結末は望んでいなかった。

 

 涙を流しながら、傍にいる人に体を預ける人。

 怒りに染まった目で英霊たち祭る祭壇を見つめる人。

 何が起きたのかも理解できず母親に抱かれる赤ん坊。

 それぞれがこの場にいて、色々な感情を巡らせていた。

 

 悲しみ、怒り、後悔、憎悪……受け入れられない。

 

 誰も好き好んで戦いをしたいとは思わないだろう。

 平和でいられるのならそれに越した事は無い。

 だが、彼らは愛する人を奪われた。

 それもこの世界を統べる存在に、だ。

 

 許せる筈がない。

 否、許していい筈がない。

 

 大切なものを奪われた人は冷静でいられる筈が無いんだ。

 彼らは怒りや悲しみと共に戦う意思を固めている。

 ノイマンから貰った力。それが覚醒した事によって、此処に集まった異分子たちの感情が伝わって来る。

 全員が戦う事を決めていて、誰一人として抗わない選択を持っていない。

 

 戦うんだ。

 彼らは絶対に戦うこと以外考えていない。

 俺もだ。俺も神と戦う事を誓った……だが、少しだけ違う。

 

 俺は神と戦うつもりだ。

 しかし、奴を殺す為に戦う訳じゃない。

 この場にいる全員が神を殺そうとしていても、俺の目的はそうじゃない。

 

 ……神は必ず倒す。だが……。

 

 この考えを此処で明かすのは簡単だ。

 しかし、それを話してすぐに納得してもらえるとは思っていない。

 この考えは俺一人の考えではない。

 寧ろ、ノイマンの全てを知ったお陰でたどり着いた答えだ。

 国民一人一人に聞いている暇も同意を求める事も出来ない。

 

 ……もしもこの結果で、シャンドレマの国民から恨まれれば……いや、いい。

 

 ノイマンは言った。

 此処から先は自分で選べと。

 だったら、彼の言った通りに俺は俺の考えの下で動くだけだ。

 神の計画を止めて世界を救ってそこからは……あぁ。

 

 俺は自分の意思を固めた。

 そうして、静かに続く葬儀の中で無数の火が灯る祭壇をを見つめながら――

 

 

 §§§

 

 

 メリウスが格納された倉庫内。

 他の軍用メリウスの中に俺の愛機もあった。

 時刻は既に真夜中であり、仲間たちは既に眠ってしまっただろう。

 葬儀を終えて、ヴァンたちを見送る事が出来た。

 国民たちもすべき事を終えて、ようやく次へと進める。

 彼らを説得する為の時間を設けようとも考えていたが。

 彼らは既に自分たちで決断していたようで。

 一緒に集まっていた親衛隊のメンバーたちに頭を下げて自分たちも戦いたい事を言っていた。

 

『お願いですッ!! 俺たちも部隊に加えてくださいッ!! 雑用でも何でもいいから頼みますッ!!』

『私たちは学生時代にメリウスの整備について学びました。今からでも簡単なチェックなら!』

『僕たちはまだ学生ですけど、体力は有り余っています! 今日からでもいいので、物資の運搬作業を手伝わせてください!』

 

 今でも彼らの声が聞こえるようだ。

 誰一人として神に恐怖を抱いていない。

 どんなに強大な存在であろうとも戦うという意思が彼らにはある。

 それが分かっただけでも十分だ。

 CKたちはそんな彼らの熱意に負けて、早速、彼らを適切な作業所へと兵士に案内するように命令していた。

 恐らく、あの後すぐに色々な場所で彼らは汗水流して働いたんだろう。

 俺もすぐに行動し、自らの愛機のチェックと共にバーナー博士に会ってバスターの改修について聞いてきた。

 

 彼らは最後に会った時と何一つ変わらない。

 研究にとりつかれたように元気で、ウッドマンさんはそんな彼に振り舞わされていて……セシリアさんは少し悲しそうだった。

 

 既に彼女にはヴァンの事は伝わっていた。

 俺の口から説明しても良かったが。

 多分、彼女を前にすれば少しだけ怖くなっていたかもしれない。

 彼は軍人時代からヴァンの事を知っている。

 旧知の仲であり、ヴァン自身も姉のような存在だと言っていた。

 そんな彼女にヴァンが俺を庇って死んだと伝えればどうなるか……だが、その心配は杞憂だった。

 

『生きててくれてありがとう……ヴァンは最後まで幸せだったと思うよ』

 

 彼女は柔らかな笑みを浮かべながら俺を抱きしめてくれた。

 そうして、母親のように優しい手つきで俺の頭を撫でてくれた。

 俺はただ静かに彼女の行為を受け入れて。

 彼女はヴァンが俺の事をよく話していたと言っていた。

 俺の知らないところで二人はやり取りをしていたようで。

 シャンドレマに来てからは安易に連絡が取れなかったらしいが。

 彼女はヴァンには怒られるかもしれないと言いながら、俺の端末に彼が書いていたメッセージのデータを全て送ってくれた。

 俺は彼女の気遣いに感謝し、バスターの改修が終わり次第、また来ることを伝えてその場を去った。

 

 ミッシェルも例のシステムの進捗はかなりの速度で進んでいると言っていた。

 恐らくは、後三日ほどで完成するらしい。

 そこから各機体にそのシステムを組み込むとして……一週間は過ぎるか。

 

 一週間でもかなりの速さだと言えるが。

 神は既に鍵の複製を終えているかもしれない。

 今だに奴の力を感じられないから、まだ準備は整っていないと言えるが。

 もしも、奴の力を感じればすぐにでも出撃しなければならない。

 此方が先手を打てるのなら最高のシチュエーションだが、恐らく後手に回るだろう。

 

「……どうなるかは分からない……誰も幸せにはなれないのかもしれない」

《いえ、それはあり得ません。不幸になる者はいます。そして、幸福になる者もいます。そうでなければ、この戦いに意味などありませんから》

「……そうだな。勝った奴が笑って、負けた奴は終わるだけだ……俺たちが勝つ。ただそれだけだ」

《はい、そうです。我々が勝つ事は必然です》

「……何でそんなに自信があるんだ?」

《……? 貴方様が勝つというのです。であれば、それを信じるのは当然です……何かおかしいですか?》

「……く、ふふふ……あぁすまん。そうだな。忘れていたけど、お前はそういう奴だったなロイド」

 

 ロイドは困惑している。

 俺はこいつの事を誤解していたかもしれない。

 高性能のAIであり、計算や情報分析能力では人間よりも遥かに優れている。

 賢い存在であり、言っている事だって大体が正しい……でも、そうだったよな。

 

 こいつは何時だって根拠の無い自信を出す時があった。

 何故、そんなに自信があるのかと何度も思っていたが。

 こいつは理論に基づいた結論を言う訳でも、科学的な根拠を発表する訳でもない。

 単純にロイドと一緒に戦う俺を信じてそう言っているだけだった。

 理由はお前が言うからだ、か……本当に人間みたいだよ。

 

 俺は静かにガントレッドを撫でる。

 ロイドの奴は態とらしくくすぐったいと言うが。

 お前に感覚器官は無いだろうと言ってやる。

 

《……ナナシ様。今の発言はノンデリですよ》

「……のんでり? 何だ?」

《ノンデリカシーの略語ですよ。遅れていますね》

「……はぁ、お前の知識はネット経由なのか……もしかして黙って何か買ったりしていないよな?」

《…………いえ》

「おい。今の間は何だ。そういえば俺の端末の残高が減っていた気が……お前か?」

《ははは、必要経費ということにしましょう。別にいかがわしいものは買っていません。気になる映画があったのでレンタルしただけですよ》

 

 ロイドはあっさりと自白した。

 俺は大きくため息を吐きつつも、何の映画をレンタルしたのか聞く。

 すると、聞いたことも無いようなタイトルで。

 俺がどんな内容の物語なのかと聞けば、ロイドは嬉しそうに話してくれた。

 

《人間の少年と彼の父親が残したAIとの友情物語です。少年は常に孤独で友達が一人もいませんでしたが。唯一AIだけが少年の友達となり、二人は共に成長していきました……ネタばれはしたくはないですが。ラストがとても興味深かったです》

「人間とAIの友情か……確かに、ロイドにとっては興味深いな」

《えぇナナシ様との交流を深める為の勉強になりました……ナナシ様はもしも今よりも年老いた時……私とずっと友達でいてくれますか?》

 

 ロイドは少しだけ改まったように聞いて来る。

 俺は首を傾げながらも当たり前であると伝えた。

 すると、ロイドは暫く間黙ってしまう……何だ?

 

《……ナナシ様は……馬鹿でございますね》

「……怒るぞ?」

《いえ、褒めているんです……大抵の人間は自らは衰えて、友達が全く姿かたちが変わらなければ恐れるものです。葛藤し戸惑い恐怖し……貴方は人よりも未来が見えているのにハッキリと断言した。今と変わらず接してくれると……私は貴方の愛機と一つになれたことを心から誇りに思います》

「……何だよ。急に」

 

 俺は笑みを浮かべながら恥じらう。

 別に嫌ではない。寧ろ嬉しい言葉だったが……少し不安になる。

 

 まるで、今生の別れになってしまいそうだ。

 俺はそんな不安を押し殺すように端末を操作しようとした。

 

《最後まで共に戦います。私は貴方の剣として傍にいます。マスター》

「……ありがとう。俺もお前と一緒に戦える事を誇りに思う……生きて帰ったら、その映画……一緒に見よう」

《……死ねない理由が出来ましたね。では、最高級のポップコーンとコーラを手配しておきます》

「誰の金だ?」

《ナナシ様です》

「おまえなぁ……たく」

 

 俺は笑う。

 こいつは何時だってこの調子だ。

 初めて会った時から変わらない。

 例えこの戦いで生きて帰って、俺が平和な世界でよぼよぼになるまで生きたとしても。

 俺がロイドの友達である事は変わらない。

 姿形が変わらず。今日みたいに話しかけてきたとしても……ずっと友達だ。

 

 俺は端末を操作し、ヴァンがセシリアさんに送ったメッセージを表示する。

 ロイドが見せて欲しいと言ってくるかと思ったが。

 意外にもロイドは静かにしていて……本当に人間みたいだよ。

 

 気遣いが出来る友人。

 彼の胸の中でリラックスしながら。

 俺は心の中の相棒の言葉と共にメッセージを脳内で再生していく。

 

 優しくて、強くて、頼りがいがある……俺の友人たちは皆が輝いている。

 

 釣り合うとか釣り合わないとかじゃない。

 俺は彼らとずっと一緒にいたい。

 ずっとずっと一緒にいて、眠りにつくその日まで世界を見ていたい。

 

 ……誰も死なせはしない。その為に、俺は……。

 

 怖い。恐怖で震えそうだ。

 これから隠れて行う事。

 ”自らを傷つける”行為であり……狂っているよな。

 

 常人では思いつかない発想。

 しかし、俺であるのなら実現可能だ。

 力をこんな形で使えるなんて神もノイマンも思いつかないだろう。

 狂気に身を落とせば、神の思考を一時的にでも上回る事が出来る。

 

 やれ、やるんだ……それしか勝算を上げる方法は無い。

 

 俺は震えをロイドに悟られないように隠す。

 そうして、ヴァンのメッセージで勇気を貰いながら。

 俺は服の下に隠した”ナイフ”を静かに撫でた。

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