【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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202:恐怖を超えた先(side:ライオット)

 やばいやばいやばいやばいやばい――やばいッ!

 

 空を覆いつくすほどのメリウスたち。

 そのほとんどが敵で、俺たちは今ノース・カメリアで戦っている。

 次々に襲い掛かる敵たちのセンサーは真っ赤に光っていて。

 それがモニターでちらつく度に心臓の鼓動が跳ね上がる。

 まだそれほど時間は経っていない筈なのにめちゃくちゃ息が苦しい。

 まるで、フルマラソンでもしたみたいで――ぅ!!

 

「あああぁ!!?」

 

 すぐ近くで爆発が起きた。

 驚きながらも距離を取り確認した。

 すると、空中でメリウスが爆散して残骸が飛び散っていた。

 

 誰だ――敵か。味方か!?

 

 分からない。何も分からなかった。

 既に乱戦状態に突入し、同じ部隊だった仲間たちは散開していた。

 連携を取り合っての攻防なんて無理だった。

 他の奴らもそれが分かっていて、己の身を守る事に徹している。

 

 連携を取る事が出来る奴はほんの一握りで。

 俺やドリスはシャンドレマの兵士とそれほど交流をしていない。

 精々が訓練で顔を合わせて休憩の時間に話をしていたくらいで――!

 

 敵の気配を感じた。

 その瞬間に機体をブーストさせる。

 背後から無数の風切り音が聞こえた。

 背筋が一瞬で冷たくなる感覚――怖い。

 

「くそッ!!」

 

 背面飛行をしながらハイエネルギーガトリングを放つ。

 複数のバレルが勢いよく回転しシリンダーで練り込まれたエネルギーが弾になる。

 甲高い音を立てながら放たれた圧縮された青色のエネルギー弾が飛翔。

 そのまま攻撃を仕掛けてきた敵へと吸い込まれて――爆散。

 

 残骸がひらひらと落ちていく。

 そこには黒煙だけがある。

 俺は呼吸を乱しながら血走った目でそれを見つめていた。

 

「はぁはぁはぁはぁ……っ!」

 

 敵の気配を常に感じる。

 背筋が凍り付くような殺気だ。

 一瞬なんかじゃない。ずっとだ。

 まるで、死神が耳元で呼吸をしているような不快感。

 俺の心臓に手をかけていて今にも握り潰れそうだ――怖い。

 

 怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い――怖いに決まってんだろ!!

 

 メリウスのパイロットに憧れた。

 男ってのは単純なんだ。

 かっこいいロボットに乗って歴戦の戦士みたいに強くなりたい。

 強さに憧れているんじゃない。周りからの声援に憧れていたんだ。

 

 だけど、今の俺は何だ。

 憧れていたパイロットになったのに――この様は何だッ!

 

「何時も俺だけがお荷物だ。ドリーは俺なんかよりも優秀でナナシもそれを分かっていて……俺は何時も何時も、何も守れていねぇ。あの時だって俺の知らない所でヴァンさんは――ッ!!」

 

 疑似レバーを握りしめる。

 そうして、気配を感じて連続してブースト。

 上空から弾丸を放ってくる敵を確認。

 執拗に追いかけてくるそいつに向かって俺は突撃する。

 機体を回転させながら弾丸を避けるが、数発が被弾してシステムがダメージを報告してくる――情けねぇよな!!

 

 俺はそのまま敵の機体にガトリングをぶつける。

 そうして、そのまま敵の機体を押しながら勢いのままにトリガーを押す。

 目の前でバチバチと激しく火花が散り、敵の胴体部を貫いた。

 そのまま俺は敵から距離を取り、奴が爆散したのを確認した。

 

《――たす――ぇ――――…………》

「……っ!」

 

 一瞬だけ声が聞こえた。

 オープン回線だったんだろう。

 俺は慌ててそれを切る。

 敵の声であり、俺が撃ち殺した奴で間違いない。

 アレは無人機ではなく人が乗っていた。

 

 吐き気がした。

 が、一瞬だけだ。

 すぐに俺は正気に戻り、ブレードで斬りかかった敵の攻撃を避ける。

 そのまま空中を高機動状態で移動しながら舌を鳴らした。

 

「勝手だ。殺そうとしてきて助けてなんて――だったらこんな所に来るんじゃねぇ!!」

 

 怒りのままに銃を乱射する。

 味方に襲い掛かっていた敵は俺の攻撃を回避。

 そのまま煙の中を身を隠して別の獲物を探しに行った。

 俺はそのまま傷ついた味方から離れていく。

 

 次は、次は――次はッ!!

  

 相手のほとんどは神が寄越した無人機だってナナシからは聞いていた。

 でも、確実に相手の中にはカメリア青騎軍の機体も混じっていた。

 さっきの敵もそうだ。

 明らかに機体のモデルが違う奴だった。

 冷静になれば判別は出来るが、えり好み出来るほど俺たちに余裕なんてない。

 皆必死であり、何とか目標を破壊する為に動いていた。

 

 ナナシが傭兵たちに依頼を出してくれたお陰で敵の数を減らせたけど……全部を逃げす事なんて出来ないよなッ!!

 

 例え神の計画を知らない軍人だろうとも。

 今は俺たちの敵であり、此処で躊躇えば死ぬのは俺だ。

 だからこそ、俺はそいつらに向かって機体を飛ばしながら両手のガトリング砲を放つ。

 バレルたちが勢いよく回転し悲鳴のような音を立ててエネルギー弾が放たれ続ける。

 奴らは俺の攻撃を察知して散開――簡単にはいかねぇよな!!

 

 囲まれる前に俺もその包囲網から抜け出す。

 追ってくる事は無い。

 別の味方が奴らに攻撃を仕掛けていた。

 俺は再び隙が生まれた敵を発見しブーストで接近して――ッ!

 

 敵が此方に銃口を向ける。

 罠であり、俺は緊急回避で横へズレた。

 瞬間、奴の狙撃砲から実体弾が放たれて俺の頭部スレスレを通過していった。

 俺は呼吸を大きく乱しながらも体勢を戻し、変則機動によって相手のロックオンを躱す。

 ブーストしながら奴に向かって攻撃。

 が、奴は俺の動きを完全に読んでおり弾丸の雨を縫うように接近してくる――こいつッ!!

 

 明らかに他と動きが違う。

 白をベースに薄桃色のラインが引かれた量産型メリウス。

 機動力に特化した軽量二脚型であり、武装は特殊な形状をした狙撃砲だ。

 両足にはミサイルポッドを装備していた。

 奴の後方からは同じようなカラーリングの機体が二機追走している。

 

 ……いや、待て。あのカラーリングの機体は……そうか!

 

 聞いたことがある。

 白に薄桃色のラインの機体。

 それはカメリア青騎軍の中でも選ばれし人間にしか許されない色だ。

 ”鉄騎隊”と呼ばれるカメリアの防衛隊であり、奴らはカメリアを守護する要だ。

 道理で動きに無駄がない訳だ。

 無駄な弾丸を使わずに襲い来る敵を最小限の動きで回避。

 此方をじりじりと追い詰める様は獲物を狙う狩人だ――クソッ!

 

 相手はカメリア青騎軍のエースパイロット様だ。

 相手にとって不足は無い。

 此処で逃げてもどうせ奴らは他の味方を殺しに行くんだ。

 だったら俺が此処で奴らを仕留める他ない。

 

 俺は一瞬考えた。

 だが、此処で逃げても意味は無い。

 俺は交戦の意思を示すようにブーストを連続して敢行。

 

「――ぐぅ!!」

 

 体全体に凄まじいGが掛かり呼吸がし辛くなる。

 景色が一瞬にして変わっていった。

 が、奴も合わせるように俺を追ってきていた。

 背後の奴の仲間たちはそのまま散開し他のメリウスたちが発生させた煙に紛れていく。

 この空間を最大限利用し、俺を全力で狩るつもりだ。

 俺はヘルメットの中で汗を流しながら眼前の敵に集中する。

 今は目の前のこいつだ。集中を乱すのも奴らの作戦だろうからな。

 

 敵は狙撃砲を構えて――!!

 

 間髪入れずに三発連続で放ってきた。

 俺は機体を回転させてギリギリで回避。

 一発だけは俺の脚部を掠めていきシステムが警告を発した。

 

 問題ない――俺はそのまま敵に向かって得物を構えた。

 

「喰らえッ!!」

 

 凄まじい勢いで無数のエネルギー弾が飛ぶ。

 奴も機体を回転させながら攻撃を回避――今だッ!!

 

 機体のスラスターを一気に逆噴射する。

 サブスラスター全てを使って機体を一気に停止させる。

 すると、奴は驚くように機体を下へとブースさせようとした。

 俺はすかさずにその方向に向かってブーストする。

 エネルギーを一気に放出したことによって一瞬意識が遠のきそうになったが。

 何とかそれに耐えて目の前にいる敵のコックピッドに向かって銃口を合わせて――!

 

 ――悪寒が走る。

 

 俺は自らの勘を信じて敵の機体から距離を取る。

 瞬間、上方から弾丸が雨のように降り注いできた。

 俺はスラスターを全力で噴かせながら弾幕から逃れる――アイツらッ!?

 

 今のは罠だ。

 それも同じ部隊の仲間を餌にした。

 あり得ない。常軌を逸している。

 もしも、あのまま俺がお構いなしに攻撃をしていれば……いや、違う。

 

 奴らの攻撃の方が速かったと思う。

 既に上方にて射撃体勢に入っていたんだ。

 十中八九が俺の動きを読んだうえでギリギリのタイミングを計っていた。

 恐ろしい。恐ろしいまでの強者で――震えるよ。

 

 これが戦い。

 これが命を懸けた戦いだ。

 今までだって何度か経験していた。

 でも、今回のそれは今までの比じゃない。

 絶対に死ぬ。ナナシは此処にいなくてドリーや此処の部隊を指揮しているSJさんも俺を助けてはくれない。

 俺はたった一人でこの猛者たちを相手にしないといけないんだ。

 

 奴らから距離を取りながら弾幕を張り牽制。

 しかし、対して影響はなく。

 奴らはお構いなしに弾丸の雨を縫うように移動。

 センサーをきらりと光らせながら俺を狙っていて……は、はは!

 

「すげぇや……やっぱりこの世界は……刺激に満ちているな!!」

 

 俺の知らない世界がまだまだある。

 俺は井の中の蛙だったんだ。

 海の広さを知らない素人に毛が生えた程度の存在で――でも、今は違う!!

 

 俺は生きている。

 このクソみたいな戦場で戦っていてまだ五体満足で息をしているんだ。

 やれる。俺だってエースパイロットと互角以上に渡り合えるんだ。

 俺は震える心を戦意で満たしていく。

 そうして、疑似レバーをしっかりと掴みながら俺は全力で叫んだ。

 

「俺の命ッ!!! 獲れるもんなら獲って見やがれッ!!!!!」

 

 全力での攻撃。

 瞬間、俺の心に反応するように俺の機体に赤黒いエネルギーが駆け巡った。

 モニターでも確認できるこれは――あぁそうか。これがァ!!

 

 ようやくだ。

 俺もようやくこのステージに上がれたんだ。

 今までの震えも恐怖も、闘争本能が上書きしていく。

 俺は笑みを深めながらスラスターを噴かせて大空を舞う。

 

 視界に映る機体をギリギリで回避。

 避けられない敵は弾丸を放ち破壊。

 黒煙の中を突っ切って必死に追いかけてくる敵に向かって弾を乱射した。

 赤黒いエネルギーの塊が敵へと迫り、奴らはそれを大きな動きで避けていた。

 

 分かる。分かるぞ、俺の変化に相手は驚いている。

 それを感じながら、俺は機体を今まで以上に自由に操作する。

 落下してくる機体の残骸を蹴りつけて敵へと放つ。

 敵は驚くようにそれを回避し、俺はその回避先を読んで攻撃を放った。

 奴はその動きは読めていなかった。

 だからこそ完璧には回避できずに脚部に被弾し片足が吹き飛んだ。

 俺は手負いの敵へと迫り、ゼロ距離で射撃しようとして――その機体の下をすり抜ける。

 

《――!》

「そこだッ!!」

 

 同じ手は二度も通じない。

 そのまま煙の中に突入しそこから敵の移動地点を計算。

 弾丸を全力で放ち――僅かに遅れて爆発音が響いた。

 

 煙りから抜け出しながら確認すれば、そこにいた敵の機体がひらひらと落下していく。

 仕留めた。俺がこの手で鉄騎隊の機体を仕留めた。

 確かな手応えと共に高揚感が湧き出して――それが一気に冷めた。

 

 ブーストし迫って来た敵。

 至近距離で振られたブレードを半身をずらして回避。

 そのまま敵機体を蹴りつけながら距離を取る。

 たたらを踏む敵に向かって銃口を向け――そのままブーストで距離を取る。

 

 敵の狙撃手が攻撃を放った。

 今のは胴体スレスレであり、僅かに機体が揺れていた。

 安心も油断も出来ない。それをすれば己の最期だ。

 

 喜ぶ事じゃない。

 例え鉄騎隊であろうとも軍の一部。

 その中の一人を潰したところで大局に影響はない。

 メリスウを潰すよりもやるべき事がある。

 それはあのカメリアの街にある”白光大石”を完全に破壊する事だ。

 

 アレこそが神の信号を受信し増幅させる装置。

 ただの腐敗を防ぐだけの特殊な石なんかじゃない。

 アレこそが神の力を具現化させたものだ。

 

 巨大なそれは今も発光している。

 障壁で守られながら神からの信号を受信しているんだ。

 このまま放置していれば信号を更に増幅し神の浄化計画を早めてしまう。

 計画が完了した時には俺たちはもう既にこの世にはいない。

 何とかして全てが終わる前に俺たちの所だけでも破壊する必要がある。

 

 その為にも、こいつらは早々に片付けないとなッ!!

 

 俺はスラスターを噴かせて空中を飛ぶ。

 襲い掛かる無人機たちを避けながら追ってくる奴らを警戒。

 そうして、遥か彼方を見ればSJさんのアンブッシュと――あれは!!

 

 SJさんが戦っている敵。

 真っ赤な機体と青い機体であり、アレは代行者の機体たちだ。

 此処にも派遣されているとは思っていた。

 だけど、まさかアイツらが此処にいるなんて――俺がこの手で殺してやりたい。

 

 俺たちの社長を死に追いやった元凶だ。

 そんな奴らをぶっ殺せるのならどれほど嬉しい事か……でも、ダメだ。

 

 新たな力が手に入っても、俺ではまだ代行者たちとの戦闘には入れない。

 入ったが最期であり、SJさんの邪魔をしてしまう。

 それだけは絶対にダメで……でも、出来る事はある筈だ。

 

 考えろ、考えるんだ。

 

 敵をけん制しながら思考する。

 だが、そんな余裕を見せれば敵は襲い掛かって来る。

 俺は無人機の放つ弾丸を回転によって回避。

 そのまま眼前に迫ったそいつへとゼロ距離で弾丸を放つ。

 敵は胴体部から機体を溶断されて、俺はそのまま敵の残骸を迫って来る敵に蹴り飛ばした。

 遅れて爆散し、その中を突っ切るように敵が来る。

 奴らは向かい合う様に機体を回転させて連携攻撃を仕掛けてくる。

 俺はその攻撃を回避し、此方も攻撃を放って――え!?

 

 奴らは互いの足裏同士を重ねて蹴った。

 そうして、そのままの勢いで散開しブーストによって両側から――させねぇ!!

 

 両肩部の装甲を展開。

 そこから小型のミサイルを放つ。

 奴らは驚きながら強引に回避しようとする。

 しかし、今のミサイルは敵を狙った訳じゃない。

 それらは途中で止まり――爆発。

 

 爆風と共に煙が広がって俺の姿を覆い隠す。

 敵の動揺が手に取るように分かる。

 奴らの動きを予測し計算――そこだッ!!

 

 煙の中から勢いよく飛び出す。

 その瞬間に、相手が俺の銃口の先にいた。

 俺は奴らが移動しようとする方向に向かって銃口を向け――トリガーを押す。

 

 甲高い音が鳴り響き赤黒いエネルギーが空を翔けた。

 そうして、ギリギリで逃れた筈の敵へと触れてズクズクに溶かしていった。

 遅れて爆散した奴らはそのままひらひらと残骸となって落下していく。

 その姿を見届ける事無く俺は空を翔けて移動していく。

 

 敵と味方が入り乱れている。

 空から降って来る残骸は最早敵のものか味方のものかは判別できない。

 どれくらいの数の味方が生き残っているのか――ドリーッ!

 

 通信を繋げる。

 相手はドリーであり、少しだけ回線が乱れていた。

 

「ドリー! 無事か!」

《無事だよ!! そっちは!?》

「今、カメリアのエース機を墜としてやった。これから障壁の弱点を探して攻撃を仕掛ける。合流できるか!?」

《座標を送って!! すぐに行くよ!!》

「頼むぜ!!」

 

 俺はそう言って通信を切る。

 音声コマンドでドリーに此方の座標を送った。

 そうして、空を翔けながら障壁へと近づこうと――うぉ!!

 

 前を塞ぐように敵が躍り出た。

 黒い死神にような機体。

 外套を纏い血のように赤い単眼センサーを光らせるメリウスだ。

 こいつらはシャンドレマを襲った無人機で間違いない。

 奴はマシンガンと一体化した腕を此方に向けて放つ。

 俺はそれを寸での所で回避し、そのまま奴から距離を取って上空を目指した。

 空を見れば輸送機からこいつらが飛び出してきている。

 他にも多くの大型輸送機が此処を目指していて――先ずはあっちだな!!

 

 大空を翔ける。

 両腕を広げながら輸送船団を目指した。

 ここでの戦いを無駄にしないでくれよ――ナナシッ!!

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