【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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203:死の淵で踊る者(side:SJ)

《ほらほらァ!! どうしたどうしたァ!!》

《逃げてばかりでよく幹部を名乗れるねッ!! ははは!!》

「……」

 

 混戦状態となった戦場。

 敵の最高戦力思わしきメリウスを発見。

 即時、攻撃態勢に入れば向こうも此方に気づき攻撃を仕掛けてきた。

 赤と青の機体とは噂以上に派手だと感じた。

 戦場では不釣り合いな色だが、この二人の男にとっては相手に恐怖を与えるのが目的らしい。

 嬲るような攻撃にフェイントを織り交ぜた機動……性質が悪いな。

 

 舌を鳴らしながら奴らの攻撃を回避する。

 接近戦による格闘戦を得意としている。

 だからこそ、瞬間的な加速力は異様に高い。

 視界に入っていれば瞬きをする間もなく攻撃の間合いに入っていた。

 見ていてから反応していては遅い。

 未来視と己の勘だけで機体を操作していた。

 

 常に死の気配が濃厚だ。

 一つでも操作を誤れば死ぬ。

 それが分かっているからこそ油断は出来ない。

 

 俺は機体を更に加速させる。

 そうして、両手のブレードを振るって敵に斬撃を放つ。

 が、敵はそれを紙一重で避けて接近――ブレードの刃で敵の打撃を受け流す。

 

「――ッ!!」

《はは!》

 

 打撃を打ち込んだ瞬間。

 空間が歪んだような未来が見えた。

 だからこそ、完全に受け流すのを中断。

 ブーストによって機体を回転させながら弾いた。

 その瞬間に凄まじい突風が吹き、アンブッシュの姿勢が大きく乱れた。

 俺は弾き飛ばされながらも一瞬で姿勢を制御し。

 背後から迫る青い機体に向かってブレードを叩きつけた。

 

 甲高い音が鳴り響いて青い機体の腕のシールドで攻撃を塞がれる――硬いなッ!

 

 少し素材が欠ける程度だ。

 灰燼では無いものの流天を纏わせてもこの程度だ。

 恐ろしく硬い盾であり、相手は今だに性質変化を施したエネルギーを使っていない。

 

 そのまま敵の攻撃を察知し奴の機体を蹴りつける。

 姿勢を崩した敵から離れながら宙を翔けた。

 二人の代行者たちは俺を執拗に追ってくる。

 計画通りではあるがこのままでは埒が明かない。

 

「……使うか」

 

 どの道、此処でこの二人を倒せなければ突破口を開くことは出来ない。

 戦略兵器を潰すことが出来て入口に立てた。

 その次はカメリアを守る最高戦力の排除だ。

 刺し違えてでも討ち取らなければならない存在でその為に此方も”切り札”を用意してきた。

 

 使えば俺の肉体もただでは済まない。

 連続使用は不可能だが、初見で潰せれば最高だろう。

 使いどころが肝心で……来た。

 

 代行者の背後から忍び寄る機体が二機。

 灰色のカラーリングを基調とした脚部そのものがブースタとなった機体。

 四つのスコープと一体化した複眼が敵に向いていて分析を開始している。

 全長二十三メートルはある大きなメリウスであり、背中に取り付けた円盤から小型ユニットが飛翔する。

 その両手のレーザー砲も狙いをつけて――今だ!

 

()()

 

 HJとCJの双子の姉妹。

 彼女たちが此方の意図を読み取り同時に攻撃を放つ。

 両手のレーザー砲から真っ赤に輝く光の線が走って――回避。

 

 敵は一気に上へと逃れるが。

 そこには彼女たちが射出した小型ユニットが展開されていた。

 彼女たちの脳波から指令を受け取り攻撃が開始される。

 次々に放たれる細く圧縮されたエネルギー弾が宙を飛ぶ。

 奴らは舌を鳴らしながらそれらを避けるが――

 

《――しま!?》

「――っ!!」

 

 奴らの背後へと一瞬にして肉薄。

 そのまま薄くエネルギーを纏わせて――一閃。

 

 敵の胴体が綺麗に分かたれて――怖気が走る。

 

 俺はそのまま機体をブーストさせた。

 瞬間、奴の機体が不気味な動きで背後を向いて打撃を放ってきた。

 それはエネルギーが纏われており、まるで隕石の衝突と思えるような衝撃波を発生させた。

 

「――ぐぅ!!」

 

 触れてはいない。

 しかし、機体全体が大きく軋む。

 咄嗟に流天を機体前面に纏わせた。

 その結果致命傷は防げたが――くっ!

 

 

 大きく弾き飛ばされながらもスラスターを噴かせて停止。

 そのまま片割れが眼前に躍り出て――無数のエネルギー弾によって風穴が空く。

 

 目の前でバラバラに砕けたそれ。

 俺は一気に距離を取りながら、双子に警戒するように指示をした。

 

《りょ、了……うぅ、何あれ? きも》

《うえぇ、ドロドロしてぐにゃぐにゃしてスライム?》

「油断するな。まだ死んでいない」

 

 アレだけの攻撃を受けてまだ生体反応がある。

 破損した機体が液状化し一つに纏まっていく。

 そうして、形を成したそれは全く別の存在へと変貌していた。

 

 先ほどまでは攻防一体の打撃特化の格闘スタイルだった筈だ。

 しかし、今の形状は二機とも奇妙なブレードを二つ装備している。

 脚部にあったスラスターの類も形が変わり数が増えていた。

 全体的に機体の装甲が減り、更に機動力が増したのか。

 まるで、手から剣を生やした狼のようであり、逆関節の足と曲げられた背中。

 その後ろから生えた四つのブースターと稲妻のような形をしたスラスターは真っ赤に光る。

 

 紅と蒼の機体はけらけらと笑って――!

 

 様子を伺っていた二人。

 俺は一瞬にしてその前に躍り出る。

 そうして、ブレードをクロスさせて――うぐぅ!!

 

《ははは!!》

 

 代行者の機体が一瞬にして武器を振りかぶっていた。

 俺の剣に凄まじい力が加わり、二機の代行者の灰燼によって抉り取られていく。

 背後の二人はすぐに奴を攻撃する。

 奴らはそれらの攻撃を瞬で避けて見せた――速いッ!!

 

 音がしたかと思えば、一瞬にして移動している。

 それもかなりの距離を移動していた。

 いや、スラスターの性能上昇だけじゃない。

 あの動きの滑らかさは何だ。

 

 まるで、人間のように滑らかさだ。

 一切の乱れもディレイも無い。

 完璧な動きを反映していて、機体そのものが人の体と同じ動きを体現していた。

 いや、それ以上とも言っていい。

 

 機動力の上昇に加えて、運動性能の向上……厄介だな。

 

「注意しろ。一筋縄ではいかん」

《……了》

《うぅ》

 

 やはり、切り札を使う他ない。

 俺はそう判断しゆっくりと息を吸う。

 

「オーバーゾーン起動」

《コマンド認証――オーバーゾーン起動します》

 

 システムがコマンドを認証し俺の機体の装甲がスライドしていく。

 背部から薬剤注入器が伸びて首から薬液を投与する。

 それを受け入れた瞬間に世界の動きがまるでスローモーションのように見え始めた。

 内部のフレームが露出し、凄まじい勢いで駆動していった。

 ぐんぐんと機体の熱が高まる中で、コアの稼働限界を突破する。

 俺はブレードを構えて――すぐ目の前に二機が迫る。

 

 問題――ないッ!!

 

《――!?》

 

 連続ブースト――視界が一瞬にして切り替わる。

 

 敵の背後へと移動しブレードを振るう。

 敵はそれに反応しブレードで防ぐ。

 甲高い音が鳴り響いて互いのエネルギーが迸った。

 赤い機体は此方を攻撃する。が、俺はそれを半身をずらして回避。

 そのまま赤い機体を蹴りつけながら、横へと移動した青い機体のブレードを受け流す。

 

《こいつッ!?》

《見えてるのかッ!?》

 

 見える。見えているさ。

 手に取るように動きが分かる。

 俺はそのまま宙を翔けた。

 限界まで機体を加速させながら、道を塞ぐ無人機たちを切り伏せていく。

 敵はまるで反応が出来ない。視界に入れる事も叶わない。

 残骸が宙を舞い追ってくる敵を襲うが。

 奴らはそれらを気にするそぶりも見せずに突っ切って来た。

 

 双子も必死に追い掛けてくる。

 が、ついて来るので精いっぱいだ。

 

 アイツらは大丈夫だ。

 俺が隙を作り出してあの二人が止めを刺す。

 俺はこの命をベッドしてこの危険な懸けに勝つ。

 

 闘志を燃やせ。胸の痛みなど気にするな。

 俺は更に速度を上げながら敵を切り刻んでいく。

 俺の心に呼応し、更なる輝きを見せるアンブッシュ。

 共に行こう。お前となら何処までも飛んでいける。

 

 

 機体の速度を落とすことなく反転。

 体全体が悲鳴を上げるが痛みは少し鈍くなっている。

 そのまま敵へと斬りかかり――ブーストによって背後に回る。

 

 敵は驚きながらも防御しようとし――更にブースト。

 

「――ぁが!?」

 

 体から嫌な音が響く。

 痛い。苦しい――関係ない!!

 

 赤い機体の真横に回る。

 そうしてそのまま機体を回転させながら斬り付ける。

 全力での攻撃であり、奴はそれに対応できずに――そのまま斬られた。

 

 手応えはあった。

 奴のコアに届いた筈だ。

 そう確信し――ッ!

 

 奴の機体の中心からブレードが伸びた。

 そのブレードの切っ先が俺の肩を抉る。

 敵意を感じなかった。いや、攻撃の動作も無かったんだ。

 本能で機体をずらしたお陰で致命傷は防げたが――!

 

《つかまえたぁぁ!!》

「ぅ!」

 

 奴の分かたれた上半身が銃口を形作る。

 バチバチとエネルギーがスパークしていた。

 

 ブレードを斬り付けようとした。

 が、間に合わな――!

 

 追ってきたHJとCJが攻撃を放つ。

 それにより拘束が解かれた。

 俺はそのまま機体を下へと下降させた。

 瞬間、極太のエネルギー弾が俺がいた場所を通過していった。

 

 俺は呼吸を乱しながらも何とかその場から離れた。

 

「ぅ!!」

 

 ずきりと心臓が痛みを発した。

 思わず片手で抑えてしまったがすぐにレバーに手を戻す。

 やはり、たった一回の使用でもかなりの負荷だ。

 

 ……だが、今ので分かった。

 

 たった一度や二度殺しても意味は無い。

 アレは何度も何度も蘇生する。

 そうして、その度に姿を変えていく化け物だ。

 

 真面に攻撃を続けても埒が明かない。

 もしも奴らを殺せるとすれば同時に殺すしかない。

 それも超高火力の一撃でもって欠片すら残さずに――

 

《へぇ僕たちを殺す気なんだ?》

「……っ!」

《ふふ、じゃ見せてあげるよ。今の僕たちの本気ってやつを》

 

 奴らは笑いながら互いに近づいていく。

 心が全力で警鐘を鳴らし、放置するのはまずいと告げる。

 だからこそ、俺と双子は奴に向かって全力で攻撃を放った。

 

 奴らは避ける素振りも防御する素振りも見せずにそのまま攻撃に触れた。

 爆発音が響き、エネルギーの光が強く迸った。

 俺たちは距離を置きながら奴を見つめる。

 生体反応は――は?

 

 ”一つ消えていた”。

 二つあった生体反応が”一つ”に――まさか!

 

 

 

「離れろッ!!!」

 

 

 

 俺は全力で叫ぶ。

 瞬間、煙の中から何かが勢いよく飛び出した。

 それはCJがいた場所を通過し――!!

 

 パラパラと残骸が宙を舞う。

 砕けたメリウスのパーツであり、その色は灰色だった。

 目の前をスコープと一体化した四つのセンサーが通って――ッ!!

 

「HJッ!!!」

《――クソ野郎ォォ!!!》

 

 HJは一瞬にして状況を理解した。

 その上で敵に向かって全力で攻撃を仕掛ける。

 俺は必死にHJに落ち着くように呼びかけ続けた。

 しかし、HJは怒りの心を染め上げていて灰燼を纏い始めていた。

 

 奴の機体が見えた。

 が、それも一瞬であり奴は目にも止まらない速さで宙を翔けた。

 まるで、点から点へと飛ぶかのような速度だ。

 今までの比ではなく、これほどの速さは最早、人類では到達できない。

 

 あり得ない超速度で――迷うなッ!!

 

 俺は再び薬剤を投与した。

 そうして、二回目のゾーンに突入する。

 超速度で飛行する奴を目で追いながら、HJに迫った奴の攻撃を防ぐ。

 

 ギリギリと奴の拳から火花が散る。

 まるで獣だ。

 メリスウでも人でもない。

 こいつは獣であり、その本性は暴力といっていい。

 

 そのまま奴の全力の攻撃に耐えられず。

 後ろにいたHJ諸共飛ばされた。

 HJは俺の名を呼びながら、姿勢を制御し俺を抱えたままその場から離脱する。

 奴は大きく裂けた口を開きながら、この戦場に響き渡るような絶叫を上げていた。

 

 びりびりと空気が激しく振動する。

 耳を塞ぎたくなるような大きさで。

 その不協和音のように聞くに堪えない。

 心にある恐怖を呼び覚ますような声であり、俺の心も少し震えていた。

 

 歪んだ赤く光るセンサーにメリウスに似つかわしくない大きく裂けた口。

 体は一回り大きくなり、手足は太くなっていた。

 掌には穴が開いており、背中には円筒上の六つのブースターらしきものが。

 体を正常にと留めておく事が難しいのか。

 液状化したパーツの一部が不気味な動きをしながら浮いている。

 あの鋭利な爪のようなクローは危険だ。

 俺の愛剣が既にボロボロであり、あんな攻撃を何度も耐えられない事を示していた。

 

 危険だ。かつてないほどの危険を感じている――それがどうした。

 

「HJ。頼みがある」

《……何》

「俺が奴の隙を作る。お前はありったけのエネルギーを使って全力の攻撃を仕掛けろ」

《……SJはいけるの》

「あぁ問題ない……信じているぞ」

 

 俺はそれだけ言ってHJの機体から離れる。

 そうして、勢いよく飛んでくる奴を視界に入れながらブレードを振るう。

 奴は俺の斬撃を全て片手で弾き飛ばす。

 俺は舌を鳴らしながら、奴の攻撃をギリギリで回避。

 そのまま奴が掌を向けてくる動きを察知し、奴の手の向きを蹴りによって変えた。

 瞬間、灰燼によるエネルギー砲が放たれて、遥か彼方にまで届いていった。

 そ射線上には大きな道が出来て――はは!!

 

 危険だ。最高に危険を感じて――笑いが止まらないッ!!

 

 俺は限界を超えて空を翔けた。

 既に機体内は地獄のような暑さで。

 ぼたぼたと汗を流しながらも俺は笑みを深める。

 俺はシャンドレマの兵士。ノイマンが認めた親衛隊の一人だ。

 戦いで死ねるのなら本物――全力で出せたのなら悔いはないッ!!!

 

 

 俺は死を覚悟した。

 そうして、決死の覚悟で化け物を討ち取る事を定めだ。

 奴はガタガタと機体を震わせながら不気味な声で笑っていた。

 そんな怪物を睨みつけながら、俺は全力でエネルギーの濃度を高めていった。

 

 

 ナナシ、SQ――――絶対に俺は――――…………

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