モニターに表示されるマーカー。
それに照準を合わせて――トリガーを押す。
二つの砲塔から放たれた炸裂弾が勢いのまま飛翔し。
同じ部隊のタンク型メリウスたち一斉に砲弾を放つ。
無数の赤熱する砲弾が一直線に飛び――爆ぜた。
一瞬の強い閃光。
そして轟音と共に空気が激しく振動した。
煙がもくもくと立ち込めていてそれが消えた先には罅一つない障壁がそこにあった。
「おいおい、こいつは……ヘビーだな」
陸上を走行しながら、私はカメリアの障壁に向かって砲弾を放ち続けていた。
これで三度目の一斉発射であったが、まるで通じていない。
びくともしないエネルギー障壁には衰えの気配すらない……妙じゃねぇか。
「――散開ッ!! 上空からの攻撃に用心しなッ!!」
《了解ッ!!》
タンク部隊を散開させる。
上空のメリウスたちは執拗に私たちに攻撃を仕掛けてくる。
仲間たちは私たちを守ってはくれているが、それでも防ぎきれない数の敵が飛んでいる。
空もひどい有様だ。雨のようにパラパラと残骸が降り注ぎ。
綺麗な青空を染めちまうほどに黒い煙が立ち込めていた。
完全に密閉されたコックピッド内にも血と火薬の臭いが入ってきたように錯覚しちまう。
地獄だ。
地獄の入口であり、益々ここは凄惨な場所と化すだろう。
上空からのバズーカ砲の砲弾を避ければ、近くでそれが爆ぜる。
履帯を器用に動かしながら旋回し、私は照準を定めてトリガーを押す。
瞬間、炸裂弾が放たれて凄まじいリコイルが襲い掛かる。
その衝撃で手をびりびりとさせながら、バラバラに砕け散った残骸を一瞥する。
そうして、そのまま地上を高速で移動しながら息を吐く。
……おかしい。アレだけの攻撃を喰らって……異常なほどの頑丈さだよ。
あのエネルギー障壁の頑丈さは説明がつかない。
パルス爆弾によって効力が弱まった筈だ。
それなのに仲間たちからの攻撃にもびくともしない。
地上からのタンク部隊による一斉砲撃に加えて上空の戦闘機による爆弾の投下。
それら全てを撃っても今だに健在と来た。
上空の敵からの攻撃を避けながら。
私は分析班にすぐに障壁の解析を急がせた。
恐らくは、他のカメリアを攻めている奴らも苦戦している筈だ。
この障壁を突破しない限り、私らの勝利はあり得ない。
何としてでも突破する必要があり……何だ?
チラリと視界に何かが映った。
見え辛く米粒ほどの小ささだったそれ。
私はそれが少し気になってセンサーを操作した。
上空を飛行する無数のメリウスたち。
無人機とカメリア青騎軍の量産型メリウスが多く存在し。
仲間の無人機とシャンドレマの兵士たちが交戦していた。
だが、私が気になったのはそれではない……アイツは何だ?
センサーを動かして上空に向ける。
倍率を上げながら目標物を捉える為に敵の攻撃を避けながら。
片手間にてそれを調整していく。
交戦している敵たちよりも更に上空。
大局を見渡せるそこからグレーの小型フライトユニットに跨り狙撃を繰り返すメリウスがいた。
空に紛れるような青色のカラーリングをした機体であり。
その背中にはスラスターの代わりに大型のバックパックが積まれていた。
カメリア青騎軍の量産型メリウスに似ているが私の目はごまかせない。
所々で細かな変更が加えられている。
平均的な高機動モデルではあるが、何かに突出している訳じゃない。
あくまで汎用型であり、様々な状況に対処する為の武装をあのバックパックに隠している筈だ。
「大型の対飛行型用狙撃ライフルか。立体機動によって高速で動く敵への狙いに特化している分。砂地で動く地上の標的への照準補正に難がある奴だな……カスタムか? バレルの長さがやや長めでバッテリーの差込口が二つで大き目だな」
冷静に観察しながら対象の分析を終わらせる。
そうして、倍率を元に戻してから執拗に追いかけてくる敵を狙う。
ブーストもどきによって相手の狙いを逸らさせて。
そのまま砲塔を回転させて奴に向ける。
瞬時に狙いを定めて――トリガーを引いた。
凄まじいリコイルと共に砲弾が放たれた。
光速とまではいかないが。すぐ近くにいたら避けられない。
間抜けな無人機はそのまま胴体に風穴を開けて、偶々後ろにいた敵にも命中した。
一気に二機の敵機を墜とし私は笑みを深めながら地上部隊に攻撃を続けるように指示をした。
護衛用に残したメリウスたちはまだ生きている。
だけど、この数では全てを防ぐ事は出来ない。
私は少しだけ考えてから通信を繋ぐ。
すぐに通信が繋がれて、愛すべき弟の声が聞こえた。
「シリルッ!! 私はちょっとばかし用が出来たッ!! ここはアンタに任せるよッ!!」
《え、えぇ!!? 姉さん何言って》
「じゃあな……うし」
弟は慌てていたがアイツは馬鹿じゃない。
その気になれば私よりも冷静に物事を判断出来ちまう。
私は弟の実力を知っているからこそ、一時的にでもアイツに持ち場を託した。
もしかしたら、私の考えが当たっているかもしれない。
あの遥か彼方で狙撃している臆病者はカメリアの兵士でも無人機でもない……代行者だ。
そんな実力者が何故、大胆な動きをせずにサポートに徹しているか。
コマンダーであろうとも、力のある奴が出なければこの戦いは話にならない。
それだけ相手さんが余裕があるってんなら腹は立つが。
恐らくはそんなちんけな理由なんかじゃないだろう。
もっと重要な事であり、アイツは恐らくこのカメリアの”障壁”に関する何かを担っている筈だ。
私は地上を走行しながら一気に機体を跳ねさせた。
そうして、そのまま人型に変形させてから勢いよく大空を翔ける。
……おかしな話だ。二十四時間働き続ける障壁だ。
そんなものがあるとすれば馬鹿みたいにエネルギーを喰うだろう。
そうでなくても、それを張り続けるだけの力が無ければ意味がない。
ぺらっぺらの紙みたいに障壁なら、とっくの昔に剥がれている。
総攻撃を仕掛けても尚、そこにあり続けるっていうのなら――アレだな。
私はその技術を知っている。
ノイマンという男だけが使えた都市を守る為の力。
二十四時間ずっとそこにあり続ける障壁とは神の力によるものだ。
だとすれば、神が今、浄化の為に全ての力をそれに集中させているっていうのなら――お前しかいないよなッ!!
私は無人機の攻撃を躱していく。
機体スレスレに弾丸が飛び。
それを紙一重で回避して、攻撃を仕掛ける事もなく突っ切っていく。
目指すべき場所。優先的に排除すべき対象がそこにいる。
私の考えが正しければ、アイツさえ倒す事が出来れば障壁はもっと簡単に壊れる筈だッ!!
もう少し、もう少し――ッ!
スナイパーが此方に気づく。
フライトユニットを動かして距離を離しながら。
此方に向かって狙撃ライフルを構えて来た。
私もボタンを操作しながら、砲弾の種類を変更する。
これもこの戦いの為に用意した特殊弾だ
一か八かこの距離で――命中させるッ!!
互いに狙いをつける。
奴の攻撃のタイミングを計る。
まだだ、まだ、まだ、まだまだ――ここッ!!
敵の攻撃の気配を感じた。
私はすぐにブーストする。
その瞬間に攻撃は――来ない。
「――!!」
やられた。
今のはブラフ。
本命はこれであり――だったらッ!!
私はトリガーを押す。
ロックオンもしていない状態だ。
此方の手動での狙いであり、敵よりも速くに私の攻撃が放たれた。
奴は少し驚いたように攻撃を放つ。
奴のエネルギー弾が真っすぐに飛び――うぐ!!
脇腹を掠めていく。
致命傷は免れた。
だが、すぐそこから強い熱を感じた。
システムが警告を発してきて、機体の安全を保つ為に装甲内に仕込まれた”保護液”が展開された。
これにより機体は密閉されて、機体外の放射能も防げた。
コックピッド内の汚染は……無い。
「奴は――!」
奴を見る。
すると、フライトユニットに命中していた。
それがひらひらと黒煙を上げながら落下していく。
奴はそれから飛び降りてから空中で静止した。
狙撃ライフルを此方に構えてきて――私は動く。
即時攻撃を放つ敵。
ブーストによって回避すればまたしてもスレスレに飛ぶ。
今度は装甲を抉り取られる事は無かったが……何て精確さだ。
面白味の欠片も無い。
実直なまでの行動であり、此方に一切近づこうとしない。
適切な距離からの狙撃に徹している。
何とも軍人らしい嫌らしい戦い方で……そうか。こいつは!
「ジョット・カルローネか。例の”砂塵の白狼”とはな……運がねぇな!」
手練れ中の手練れ。
場数で言えば私なんかじゃ足元にも及ばない。
危ない橋を渡る事を止めた老兵であり、その判断はずば抜けて高い。
遊び心が欠片もない訳だ。そんなのはとっくの昔に卒業しているだろうさ。
奴へと砲弾を放つ。
が、奴は危なげなく私の攻撃を回避。
そのまま流れるようにエネルギー弾を放ってきた。
精確な狙撃に対して私は大きな動きで回避する。
対して奴は無駄のない動きだ。
あんなにも重そうなバックパックを背負ってこれだ。
やはり老兵ほど怖いものは無い。
機械から音がする。
奴の攻撃を警戒しながら確認する……そうか。
SJの所には例の双子の代行者が。
ナナシの所にはまだ誰も現れてはいない。
DQの野郎は此方に情報を寄越さない。脳筋ジジイがぁ!
「……SQは……っ!!」
SQからの報告を確認する暇はない。
奴は私の隙を察知して連続して弾を放ってきた。
ギリギリで攻撃を回避しながら、私はSQからの報告は後回しにする。
音声コマンドで仲間たちに此処にはジョット・カルローネが現れた事を知らせた。
ジョットと双子。
中央にはベン・ルイスが濃厚だ……だとしたら、二人の所には……っ。
思考する間もない。
奴からの攻撃を回避。
ブーストしながら他の無人機からの弾丸も避けた。
そうして、斬りかかって来た敵の攻撃を機体をずらして避けてからそいつを蹴り飛ばしその勢いで下がる。
やや下からの狙撃を避ければ、私を攻撃してきた無人機だけが攻撃に触れて爆散した。
そうして、攻撃直後の奴を狙って特殊弾を飛ばす。
速さに特化した砲弾であり――はぁ!?
目にも止まらない速さで飛んだ砲弾。
奴はそれを避けずに――”撃ち抜いた”。
あり得ない。本当にアイツは人間か?
遊び心が無いと言ったことは訂正する。
アイツほどに遊びを知っている奴はいない。
私はヘルメットの中で冷汗を流しながら笑うしか出来なかった。
こいつは骨が折れる。
こんな奴と戦って綺麗な勝利なんて望めない。
こいつは何処まで行っても軍人であり、ミッションさえ達成できるのなら勝ち方に拘らない。
他の代行者たちが率先して攻撃をしても、こいつだけは私たちのタイムリミットが終わるのを待つだけだ。
――だったら、行くしかねぇッ!!
向こうが逃げの姿勢であるのなら。
こっちは防御を捨てて攻めるしかない。
私はそう判断し、追加装甲を全てパージする。
ガシュリと音がして私の纏っていた鎧が勢いよく飛ぶ。
タンク形態で必要な装甲だ。
これが無いとただに砲身がついただけの車だが――構いやしねぇ!!
格好をつけても死ぬだけだ。
だったら、ダサくても勝利に拘ってやる。
重しを外した事によって機動力が増す。
私は奴へと接近し、奴の攻撃を縫うように回避。
そのまま接近し、奴の胴体部に目掛けてゼロ距離砲撃を――!
何かを感じた――いや、迷うなッ!!
私はトリガーを押して砲弾を放つ。
その瞬間に私の砲弾は奴に命中する。
バラバラと奴の機体の残骸が舞い。
背負っていたバックパックはバラバラに砕けて――あれはッ!!
バックパックにあった中身。
それは武装でもエネルギータンクでもない。
アレはナナシが使っていたような”強化外装”だ。
砕け散った奴の機体が動く。
私に纏わりつこうとしたそれ。
私は危険を感じてブーストにより距離を離す。
その瞬間に、奴は元の機体へと瞬時に復元した。
そうして、空中に浮遊する強化外装はスラスターを起動させて飛ぶ。
空中に浮かぶ奴のメリウスへと向かい。
そのまま奴はそれを装着した。
ナナシのどのパックにもないものだ。
見かけの変化で言えば装甲が増して幾分がごつくなっている。
特に腕回りと足回りが太くなっていて、腕には箱型の何かと足には妙なブースターらしきものがふくらはぎの両隣にある。
武装の類は両手の横に取り付けられたあの妙な箱型だろう。
一瞬にしてそれがパイルバンカーのような装備であると理解した。
装甲を増やしたのは此方の攻撃で致命傷を防ぐ為。
スラスター別にあったことからメインとサブも強化された筈だ。
おまけに武装は一撃必殺のパイルバンカーであり、私にとっての”天敵”だ。
追加装甲はネイビーであり。
奴の単眼センサーがオレンジ色に発光する。
拳を構えながら奴は闘争本能を掻き立てていた。
感じるよ……あいつから今まで感じた事のないような鋭い殺気を!
この機体は接近戦にめっぽう弱い。
自ら近づいてのゼロ距離攻撃ならいい。
だが、相手が懐に入ってくればこの長い砲身では対処できない……やられた。
オープン回線で渋みのある男の声が聞こえて来た。
《名も知らぬ兵士よ。互いに終わりが迫ってるが。最後まで兵士としての務めを果たそう》
「……冗談。私は終わりなんてまっぴらごめんだね!!」
そう言いながら砲撃する。
奴は機体をずらして回避――速いッ!!
奴はそのままブーストし眼前に躍り出る。
が、私は本能でその動き合わせてブースト――私も全力で距離を離す。
奴を追い込んだんじゃない。
私が奴に追い込まれた。
空中で狙撃に徹していたのも私というコマンダーが向かってくるのを待っていたからだ。
代行者と分ければ自分よりも技術の低い仲間を向かわせる事なんてしない。
こいつはそれを分かっていた。
「クソッ!」
仲間と孤立した事によって、こいつは私とサシで戦える。
助けを呼びに行こうとすればその瞬間に奴の攻撃で串刺しだ。
背を向ける事も通信を繋げる余裕もない――流石だよ。引くくらいにな。
本物の軍人だ。
用意周到であり、此処に来るのが私たちだと分かっていたようだ。
神が助言をしたのか。あるいはこいつが独自に導き出したのか。
考えている暇はない。今も奴がじりじりと距離を詰めている。
私は砲弾を変更し、牽制する為の電磁パルス砲弾を放つ。
奴の目の間で爆ぜたそれは周囲に強力な電流を迸らせて――奴はお構いなしに突っ込んできた。
「――っ!!」
効いていない。
パルスの類に耐性があるのか。
そう考えた瞬間に、奴は私のすぐ目の前に――奴が離れる。
私と奴の合間に砲弾が飛ぶ。
奴は距離を取りながら、連続して下から飛んでくる砲弾を避けていた。
《ね、姉さん!!》
「シリルッ!! お前何で此処にッ!!?」
《い、嫌な予感がしたから。だ、大丈夫だよ! 地上の部隊はキャシーさんに任せたから! へ、へへ》
「あんたって奴は……全く」
こいつの勘はよく当たる。
今回はその勘に救われた。
ひとまずはそれでお相子だ。
奴は黒煙の中に身を隠して此方の様子を伺っている。
「用心しな。アイツが代行者のジョットだ……ナナシの話じゃ。アイツがヴァンの奴を」
《……っ!! 分かった。だったら、僕も全力で行くよ……ヴァンさんの仇だ》
シリルがいつになく燃えていた。
少々危険な感じもするが問題ない。
友達を殺されてこいつもむしゃくしゃしてたんだ。
盛大にぶっ殺してやらなきゃ気が済まない。
私は弟の機体に背を預けながら周囲を索敵する。
此処が私たちの戦い。
この戦いの結果で中央の動きも変わって来る。
いい流れを掴むんだ。
風に乗りさえすれば勝機はある。
私はかつてないほどの闘争心を滾らせながら、黒煙を抜けて出てきた代行者にサイトを合わせた。
奴のセンサーがきらりと光る。
恐れるな。吞まれるな――アイツを殺せるのは私たちだけだッ!!