眼前に躍り出る敵たち。
ライフルを構えて一斉に弾丸を放つ。
閃光が何度も走り、それに合わせるように横へとスライド移動する。
スラスターから音色が高くなっていく。
コアの稼働が安定し、パフォーマンスが向上していた。
もう何機のメリウスを撃破したか分からない。
近くで味方が戦っていて、すぐそばで襲われた味方の戦闘機が破壊された。
バラバラと残骸が舞い。その中を突っ切ってブレードを持った敵が襲い来る。
ブーストを連続して行う。
敵の機体に肉薄し、肩を勢いよくぶつけた。
敵の無人機はそれだけで攻撃動作を中断されて。
俺は間髪入れずにゼロ距離から弾丸を見舞った。
ガスガスと連続して音が響く。
コアを砕かれたそれを突き放す。
瞬間、それは空中で爆ぜてパーツを散らせていった。
背後からの敵の気配を察知――後ろで破壊音が聞こえた。
「CK。助かった」
《いいさ》
互いに背中を預けあいながら周りを警戒する。
敵は一定の距離を離しながら攻撃を仕掛けてきた。それを互いに上昇する事で回避。
そのまま互いに機体を回転させながら、俺は弾丸を精確に撃ちこむ。
ギリギリで避ける敵。
命中した敵もダメージは浅い。
それらは俺たちを追ってきて、俺は背部センサーで敵影を確認しながら更に機体を加速させる。
「……キリがないな」
《あぁ終わりが見えないね》
確実に敵の数は減っている筈だ。
しかし、それを全く感じさせないほどには空は無数のメリウスで埋まっていた。
敵味方が入り乱れる中で、それらを避けながら高速飛行を繰り返す。
右へ左へ避けながら、襲い来る敵を牽制する為に弾を放つ。
後一発……いや、二発もあれば此方に流れが傾く。
風の流れを読む。
敵がブーストをして接近してきたのを察知した。
死角から攻撃してくる敵を未来視で確認し、敵の放つ弾丸を見る事もなく回避。
軌道を変えて、垂直に降下する。
敵はその動きについてこれず。頭上で減速してしまった。
「――シィ」
間抜けをロックオンしてから、連続して弾丸を放つ。
リコイルを掌で感じて、そのままマズルフラッシュと共に弾丸が飛ぶ。
敵はそのまま腕を弾かてコアも砕かれた。
センサーから光を消したそれは力を失いひらひらと落下していく。
それを一瞥してから、別の獲物を片付けたCKと共に再び乱戦状態の戦場を翔けた。
システムの表示を確認……。
「……まだか」
《焦っちゃいけないよ!》
CKと共に敵を殲滅していく。
近くを飛行する味方のメリウスたちも戦っている。
見たくない光景も目に映るが、全員死に物狂いで抗っていた。
地上では散らばったメリウスの残骸で埋め尽くされていて。
炎を巻き上げながら、黒煙が立ち込めている。
地上部隊も激しい攻防が繰り広げられていて。
何処もかしこも自分の事で手一杯だった。
俺は地上部隊に障壁への攻撃を命じる。
そして、戦闘機隊の一部には地上部隊の支援に回るように命令をした。
視覚情報からでは上部からの攻撃よりも側面からの攻撃の方が有効だと感じた。
メリウスたいが敵の殲滅に力を注ぐ分。
地上部隊は砲撃により継続して障壁に攻撃を行ってもらいたい。
戦闘機にはまだ支援が出来るだけの対地ミサイルが残っている筈だ。
「……」
命令を終えて、障壁に視線を向ける。
アレへの攻撃を続ける戦闘機部隊と地上の機械歩兵隊と戦車隊。
爆撃でも砲撃であろうともビクともしない……いや、分かっている。
感じるんだ。
あの障壁から神の力を感じる。
アレは神が自らの力で作り出したものであり、その効果は絶大だ。
今ならあの中央都市で見た障壁も同じ類のものだと分かる。
ノイマンが連れ去られた事によって消滅したが。
もしも、生きてあの場にいたのなら国民たちを守れていただろう。
……だが、妙だ。
神は今、浄化の為に必要なプロセスを実行している筈だ。
その間は如何なる事であろうとも力を使えない。
あの障壁を維持する事も不可能だった。
だが、あの障壁にどれだけ攻撃しても消える気配はしない。
確かに障壁の効力は薄まっている。
目では分からなくとも俺にはその情報が見えていた。
しかし、明らかにその減り方が異様に少ない。
もしも、敵がいなくて全機が総攻撃を仕掛けられたのなら障壁を破る事も出来たが……そうか。
神は力を使えない。
だからこそ、力を使える者を意図的に増やした可能性が出てきた。
つまり、神が行えない事を代わりに人間が行っている事になる。
……だが、アレだけの障壁を維持するのであればただの人間では耐えられない。
神の力は絶大だが。
それに耐えるだけの器でなければ肉体は消滅する。
俺やSQは徐々に相応しい器へと慣らしてきたが。
これほどの障壁をずっと維持するのは明らかに俺たちであっても耐えらる筈がない――”奴ら”を除いてな。
「CK。分かったぞ……あの障壁を維持しているのは代行者たちだ」
《何だって?》
敵の攻撃を回避。
そのまま機体を加速させながら戦場を舞う。
すれ違う敵と味方の機体を避けながら、俺たちは互いに隣あいながら通信する。
「神の機体だ。アレは人を捨てて半分不死身になれる。つまりだ、肉体が消滅しかけても自動的に肉体は修復される……奴らは消滅と復元を繰り返しながらあの障壁を強引に維持しているんだ」
《……つまり、代行者を倒せばあの障壁は勝手に消滅するんだね》
「そうだ。恐らく、総攻撃で破壊するよりもそっちの方が速い……問題は、代行者の気配を感じない事だが」
モニターに映る情報を確認する。
それぞれの戦場の状況はメッセージで確認できた。
SJたちはあの双子と戦闘中で、ミランダたちはジョット・カルローネだ。
DQに至っては何の音沙汰も無いが……交戦中なんだろう。
SQも交戦中であり、誰なのかは現時点では不明と書かれている。
見た事も無い機体であり、”人馬一体”となったかのような機体と書かれている。
その謎の機体は中々に脅威だが、現時点での情報を整理すればそれはオラースでは無いと断言できる。
つまり、残された選択肢で言えば”セラ・ドレイク”かもう一人の代行者である”アラン・シーモフ”だ。
セラ・ドレイクの乗る機体は通常のメリウスの見た目をしたジ・アンサーだが……乗り換えた可能性が高い。
アラン・シーモフと呼ばれる代行者に関しては情報がまるでない。
ただ名前だけが記録されていて、ミランダにその事を聞けば。
諜報班が代行者の名前が書かれたリストを偶然発見し。
解析をした結果、唯一、アラン・シーモフという名前だけが出てきた。
そもそも存在するのか。
いや、名前だって正しいか分からない。
交戦したシャンドレマの兵士はおらず。
親衛隊であろうとも接触した機会は無い。
そんな存在が何処に派遣されたのかは不明だが……DQは大丈夫か。
もしも、そのアラン・シーモフが相手であれば少々不安だ。
ノイマンからの情報でDQの戦闘スタイルや経験は知っている。
武人であり、腕だけで伸し上がってきた男だ。
実力は本物であり、指揮官としての適性だってある。
だが、戦いに集中すると周りが見えなくなる弱点も持っていた。
熱くなりやすく中々冷めにくい男で……信じる他ないか。
敵のエネルギーブレードを回避。
そのままその背中に弾丸を三発撃ち込む。
吸い込まれるように命中したそれ。
敵はそのままスラスターを破壊されて落下していった。
次から次へと敵が襲い掛かって来る。
それら全てを回避しながら俺はエネルギーチャージ完了の知らせをロイドから受ける。
俺はCKに指示をしながら上空へと加速する。
なるべく多くの敵を消滅させる。
その為にも大局が見える上空から狙い撃つ。
俺はぐんぐんと加速していき――急停止をする。
体全体が押しつぶされるような感覚。
それに耐えてから機体を回した。
そうして、銃口を乱戦状態の中へと向けた。
《エネルギー充填率百パーセント――いけます》
「……これで障壁諸共ッ!」
俺はトリガーを押した。
瞬間、世界が白で塗りつぶされた。
機体全体に凄まじい衝撃が掛かり俺はその光景を見つめて――は?
光が一瞬にして消える。
弾の発射され着弾したからか――いや、違う。
弾は発射された。
確実に射線にいた敵を葬った。
しかし、障壁にまで届いていない。
何故ならば、開かれた道の先にはたった一機のメリウスが立ちはだかっていたからだ。
純白の機体。
穢れ無き天使のような姿で。
羽のように広がった分厚い盾のようなものがエネルギーの鎖に繋がれ宙に浮いている。
真っ赤な二つの線となったセンサーが赤々と発光し。
黄金の角からは不思議な力を感じさせていた。
両手を広げながら、空中に形成した漆黒の渦を消し去る。
赤黒い光のラインが機体の表面で脈動しこの場にいる全ての兵士に恐怖を振りまいていた。
奴だ。間違いなく奴こそが――ベン・ルイスだ。
《さぁ始めよう。正義の名を借りた純粋な殺し合いを――ナナシ君》
「……っ!」
凄まじい圧。
常人であれば呼吸すら出来ないだろう。
それを受けながらも俺たちは得物を構えながら交戦の意思を示す。
CKとアイコンタクトを交わし、俺たちは互いに反対方向へと飛んだ。
奴は静かに片手を翳して――来るッ!!
空間が歪むような気配。
それを感じた瞬間に機体内のシステムが自動で作動する。
圧死させるほどの重量が一瞬にして相殺された。
俺はそのまま機体をオラースへと近づけて奴に向かってハンドキャノンを放つ。
奴はその場から動くことなく――ッ!
弾丸が不自然な機動で曲がっていった。
全ての弾丸が逸らされてあらぬ方向へ飛ぶ。
奴は驚く俺へと視線を向けて――ッ!!
怖気が走る。
俺は本能のままに機体前面に流天の防壁を張った。
瞬間、目の前から強い衝撃波を感じた。
機体がみしみしと軋み悲鳴を上げていた。
凄まじい力であり、まるで巨大なハンマーで殴られたかのようだ。
「ぐ、うぅぅ!!!」
それに耐えながら姿勢を制御する。
そうして、奴へと視線を向けて――いない。
《此処だよ》
「――!」
奴の気配を感じた。
すると、俺よりも上の位置で機体を浮遊させていた。
あり得ない。超スピードなんて次元じゃない。
転移装置を使った気配もしなかった。
それなのに、一瞬にしてあそこまで移動している。
絶対に不可能だ。そんな事が出来る筈がない。
俺は大きく目を見開きながらただ奴を見つめていた。
そんな中でCKは機体を加速させてブレードを振るう。
奴の手前でブレードが勢いを失う。
CKは何度も何度もブレードを振るうが、それがオラースに届く事は無い。
《邪魔だ》
《――ッ!!?》
奴が片手を振るう。
その瞬間にCKの機体は凄まじい勢いで落下していった。
CKの名を呼ぶ。
彼はアンチグラビティを起動させて姿勢を制御した。
地上へ追突する寸前で上昇し、そのまま奴へと迫っていく。
奴はただ悠然と両手を広げながら周りを見渡して――
《失せろ》
短い言葉。
それを発した瞬間に、凄まじい勢いで周りの空間が歪む。
目に映る景色が歪み、俺は本能で白銀を発動させた。
CKも一瞬にして流天を纏わせていた。
歪みに耐えながら、俺は奴へと攻める。
奴の近くにいた敵と味方の機体がねじ曲がっていく。
奴を中心として強力で歪な重力の流れが発生している。
アンチグラビティでも耐えられないほどの重力だが。
俺とCKであればエネルギーを駆使して耐えられる。
俺は白銀をハンドキャノンに流し込む。
そうして、弾丸を放ち奴へと差し向けた。
勢いのままに弾丸が飛翔し、奴はそれを片手を前にして防ぐ。
が、先ほどのように軌道を逸らすことは出来ない。
ギリギリと音を立てながら、奴の重力の壁を破ろうと弾丸が迫る。
俺はその光景を見つめながら一気に奴へと近づき、エンドポイントを向ける。
まだチャージは完了していないが。その分を白銀によって補う。
「――シィ」
奴が笑ったような気がした。
が、俺はそれを無視して攻撃を放つ。
エンドポイントの銃口から今までの比ではない光が溢れ出す。
ゼロ距離から戦略兵器に匹敵する一撃を見舞ったんだ。
機体全体が激しく揺さぶられる。
手はびりびりと振動し、息が苦しくなる。
凄まじい熱量であり、白銀によってそれを防げていた。
俺は目を大きむ見開きながら、眼前の白を見つめて――収まった。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……奴は?」
そこには何もいない。
オラースも他の敵もいない。
残骸も無く、奴のエネルギーの残滓も無い。
俺は荒い呼吸を整えながら、周りを――背筋が凍り付く。
手を叩くような音が聞こえた。
俺はゆっくりと振り返る。
そこには機体の手で拍手をする奴が立っていた。
まるで人間のような動作で、その両隣には奴と全く同じ姿をしたオラース・ヴェルネが”二体浮遊”していた。
《流石だ。ノイマンの力を完璧に使いこなしている……それでこそ、我が敵となるに相応しい》
「……お前も、アクセスが使えるのか」
《あぁ勿論さ。まだまだ不慣れではあるが我慢してくれ》
奴はそう言って両手を下げる。
そんな奴の背後に回ったCK。
奴へと斬りかかればバチバチとエネルギーが激しく散っていった。
CKの攻撃はまたしても重力の壁に阻まれるが。
流天の濃度を高めた事によって徐々に押している。
ベン・ルイスは静かに吐息を吐く――来る。
隣に浮遊していたオラースの分身体が動き出す。
虚空から長大なハンドキャノンのような武装を取り出し。
それをCKの機体に向けて乱射する。
灰燼を纏ったエネルギー弾であり、CKは危険を察知して大きく距離を離す。
エネルギー弾は追尾性能でもあるかのようにCKを追い詰めていた。
俺は彼の援護に向かおうとする。
が、目の前に灰燼のエネルギー弾が飛んできてそれを白銀の弾丸によって相殺する。
強大なエネルギー同士がぶつかり衝撃波が発生した。
びりびりと空気が揺れて、俺は攻撃を仕掛けてきた奴の隣に浮遊する分身体を睨む。
「Access――Summon thirteen butlers」
アクセスの力を使い英霊たちを顕現させる。
白銀のエネルギーを吸収し形を成した十三機のメリウスたち。
ベン・ルイスはそんな俺を見つめながら自らもアクセスの力を使う。
奴の灰燼を吸いあげて、オラース・ヴェルネの形を成した黒く淀んだ機体が合計で十三機になる。
俺たちは互いを見つめながら、静かに英霊たちに命を下す。
「――戦え」
《――殺せ》
英霊たちが動き出す。
俺自身も空を翔けて、奴に向かってエンドポイントを構える。
奴も特殊な形状をしたハンドキャノンを構えた。
互いに殺気をぶつけ合いながら。
俺たちは互いにエネルギー同士をぶつけ合う。
甲高い音が鳴り響き、衝撃波が空気を激しく揺らす。
周りの敵も味方も大きくを距離を離していっていた。
俺たちの間に入る事は出来ない。
入れば守り切る自信は無いからだ。
奴のセンサーが赤黒く発光し。
ロイドは奴のエネルギーが溢れ出している事を告げる。
奴は最早、戻れないところまで行ってしまっている。
神の力を受け取り人間を止めてしまった。
理性が残っているのが奇跡であり、時が経てば自我すら消えるだろう。
……終わらせる。一人の人間として誇りある戦士であったお前を……これ以上、穢させはしない。
感じる。
アイツの心の中には、まだ本来の奴がいる。
だが、神から植え付けられた別の心が奴を狂わせていた。
アイツを元の姿に戻す事は出来ない。
二つの心が一つになり、切り離せないほどに融合している。
切り離せば最期であり……眠らせる事しか出来ないんだ。
奴は笑っていた。
狂ったように笑い。本気でこの戦いを楽しんでいる。
俺はそんな悲しき戦士を見つめながら、白銀の濃度を更に上げていった。
無数の光が迸り、空はまるで宇宙のような輝きに包まれていく。
オーロラのような光のカーテンを抜けながら、互いに連続して攻撃を放ち続けた。
互いに命を削りながら、俺たちはただひたすらに目の前の”魂”を見つめていた。