黒き閃光――走る。
一条の光が空間を切り裂き飛翔する。
全てを焼き尽くす太陽の如きそれが私の心を強く揺さぶる。
地上より放たれるそれは此方を精確に狙っていた。
レバーとペダルを使いこなして、ブーストにより大きく回る。
真っすぐに伸びるそれは射線に入った全てを消し去った。
後に残るのはエネルギーの残滓だけだ。
瞬き一つ許されない。限界まで目を見開き未来視を発動し続ける。
ギリギリではダメだ。確実に避けなければ――死だ。
「――っ!」
エネルギーが奏でる不気味な音。
連続して響く心を凍り付かせるそれ。
それを聞くよりも速く機体を操作する。
右へ左へ――連続してブーストもして完璧に避ける。
グローブを嵌めた手がひどく汗ばんでいた。
機体内の熱は蒸し暑いほどなのに体は常に寒気を感じている。
心臓が激しく鼓動して、死神の吐息が聞こえていた。
両の眼を動かし続ける。
カラカラに口内が乾こうとも呼吸は荒さを増していく。
限界だ。限界を超えて戦っている――それは皆も同じだ。
私一人ではない。
違う戦場で仲間たちも命を懸けて戦っていた。
音を上げている暇はない。
死ぬ気で勝って、死ぬ気で目的を達しろ。
死ぬのはその後でいい。
「――!!」
放たれる光の軌跡。
それを見る前に機体を操作した。
激しく機体が揺さぶられて風切り音が耳にこびりつく。
遠い筈なのに熱が伝わって来る。
危険だ――絶対に触れるな。
常に敵を視界に入れながら、無人機たちからの攻撃も回避。
奴らには死への恐怖は微塵もない。
仲間たちはそんな敵の妨害を必死に止めてくれていた。
そこにいれば死ぬ。私の周りを飛んでいれば流れ弾に当たる――分かっているんだ。
彼らは自分たちが死んだとしても私を守ろうとしている。
それは単純に私が生き残った方が勝率が上がるからだ。
誇張でも見栄でもない。自分自身でも分かる簡単な事……それでも!
「……っ!」
歯を強く噛み締める。
その間にも敵はエネルギー弾を撃ち続けていた。
それを回避すれば近くの無人機や味方のメリウスを巻き込んで消滅する。
仲間たちの命の火が消されていく瞬間を見つめながら、私が血が滲むほどにレバーを握り込んだ。
乱戦状態の中で地上を走行する獣。
四脚の足で地面を蹴りつけながら、タンク型でも追いつけないほどの速さで駆ける。
神話のケンタウロスのような外見だ。今まで見た事も無いような形態のメリウス。
だが、その性能は恐ろしいほど高く。隙を見つけて攻撃しても簡単に往なされるほどだ。
奴は一切敵と味方を区別していない。
ただ闇雲には撃っていない。
が、奴の目には私しか見えていなかった。
回避、回避、回避回避回避回避回避回避――避け続ける。
エネルギー切れを知らないのか。
奴は機体の出力を墜とすことなく高速で地上を走行している。
此方は掠めただけでも危険な攻撃に怯えて。
回避に徹しながら攻撃の隙を伺っていた。
地上から放たれるエネルギー弾。
通常のエネルギー弾とは訳が違う。
限界まで濃度を高めて圧縮と膨張を繰り返した結果。
一発一発が凄まじい熱量を放っていた。
近くにいたメリウスたちは一瞬にして装甲をズクズクに溶かされていく。
どろどろになったそれが地上へと落ちていき、地面には金属が溶けたそれらが冷え固まっていた。
恐ろしい。恐ろしいまでの威力。
警戒しない方が愚かであり、警戒のし過ぎは無い。
敵も味方も関係ない――”あの女”の目には私しか映っていなかった。
機体を回転させながら回避。
大きく距離を離しながら回避して、地上を疾走する四脚の特殊な形状をしたメリウスを狙う。
隙を見つけブレードを大きく振るいながら斬撃を放てば、女は機体のブースターを使って加速。
音速を超える動きで地上を走行しながら、腕部と一体化した砲を此方に向ける。
まるで人馬が一体化したようなメリウス。
白銀のそれは青い双眼センサーを光らせていた。
腕部は両方ともが武器化しており、片方は恐ろしく長大なハイエネルギーライフルと化していた。
放てば最後、視界に映ってから回避しては遅い。
掠めただけでも致命傷となるだろう。
そう考えて連続してブーストし奴へと迫る。
機体ががたがたと揺れて激しく振動。
レバーを握る手を痺れさせながら、奴の死角に回る。
背後からブレードを振るい――かち当たる。
「……っ!」
ぐるりと上半身を回転させた。
そうして、此方の攻撃の軌道を読んで合わせて来た。
奴のもう片方の武装。
それはエネルギーブレードであり、灰燼に特化したそれは私のブレードであろうとも容赦なく浸食しようとしていた。
ギャリギャリと音を立てて互いのブレードがつばぜり合いをする。
僅か一秒にも満たない時間。
奴の腕部の銃身が伸縮し、此方に向けられて――回避。
ブレードをずらして奴の力を受け流す。
そうして、ギリギリで奴の弾を避けて見せた。
が、至近距離から攻撃であったからか外套の一部が焼け焦げていた。
システムからの報告を聞き流し、そのまま連続してブレードを振るう。
奴は驚異的な反応速度でそれら全てを受け流す。
そうして、此方に向かって一撃必殺の砲撃を放ってきた。
「――チッ」
ペダルを強く踏みつける。
レバーを持ち上げながら機体を上昇。
一気に距離を離す。
やはり接近戦はリスクが高い。
外套と流天を纏わせていなければすぐに溶かされる。
そう判断して一時的に距離を離せば、奴のライフルは再びロングレンジに変形した。
あれが厄介だ。
遠近両方に対応できるような機構を持っていた。
合わせて、此方が遠距離から斬撃を放てば驚異的な加速で避けて見せる。
あれ以上に速い攻撃をするともなれば、腕に掛かる負荷は相当なものになる。
……いや、ダメだな。”今の状態”でより速い攻撃は現実的じゃない……ならば。
私は瞬時にそう判断し、アクセスの力を使う決断を下した。
本来であれば神との戦いまで温存しておくつもりだった。
しかし、此処で出し渋っても機体のエネルギーを不必要に消費し続けてしまうだけだ。
だったら、より早くに決着がつく方に懸ける他ない。
「Access――double over」
エネルギーが輝きを増す。
機体の表面を白い稲妻が走るようにスパークしていた。
スラスターの音色が洗練されて、機体のパラメーターが飛躍的に上昇する。
そうして、コアの稼働限界が一時的に底上げされた。
耐久力を上げて機体のスペックも軒並み上げる。
これにより、サンドリヨンは単純計算で本来のスペックの二倍となる。
「――行くぞッ!!」
ペダルを踏みつけた。
そうして、レバーを全力で倒す。
両手のブレードをクロスさせる。
そうして、爆発的な加速でもって再び奴へと接近する。
奴はライフルによる攻撃を三発放つ。
それを瞬時に回避して、避けられない攻撃は斬撃を飛ばして墜とす。
目の前で黒い光が駆け巡り、その中を突っ切ってブーストして逃げる奴を追う。
此方も連続してブーストして奴へと迫る。
瞬間、奴は機体の後ろ脚を此方に放ってきた。
鋭い蹴り――ブレードをクロスさせて受け止める。
「ぐぅ!!」
衝撃が機体全体を襲い。
腕がびりびりと激しく振動した。
みしりと嫌な音が聞こえてきてたらりと汗を流す。
凄まじい威力だ。
ブレードが悲鳴を上げている。
気を抜けば腕ごと持っていかれそうだった。
そのままの力で機体が一気に後方へ吹き飛ばされた。
システムが異常を申告し、すぐさま姿勢を制御する。
一瞬奴から引き離されて、奴はそのまま体の上半身を回転させて此方に向く。
銃口は向けられていた。エネルギーが銃口に集まって――私は斬撃を放つ。
瞬間、互いの攻撃がかち当たる。
白と黒の光が互いを塗りつぶさんと暴れまわり。
輝きで世界が満ちていくように激しく視界が点滅した。
そんな中で奴が動いたのを感じ取り、瞬時にブレードを横に振るう。
――が、そこには誰もいない。
「しま――ッ!?」
背後から殺気を感じた。
その瞬間に背中から焼けるような熱を感じた。
熱い、熱い熱い熱い熱い――焼け死ぬッ!!!
コックピッドまで迫る激しい熱。
まるで、鉄板の上で熱せられるようで――流天の濃度を更に高める。
ジリジリと流天が削られていき、機体はエネルギー弾と共に飛ばされていく。
私はその衝撃に必死に耐えながら、必死にレバーを掴み――動かす。
「あああぁぁぁぁ!!!」
重く硬いレバーを操作し、力一杯にペダルを踏みこんだ。
なけなしの力でエネルギー弾から逃れて地面を転がっった。
何とか機体を逸らしてその攻撃から逃れる。
脚部を地面につけて滑りながら、何とか機体を停止させた。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……やら、れたな」
コックピッド内は赤い光で満ちていた。
回線が焼き切れて火花が散っている。
ヘルメットのシールド部分は割れていて、私は邪魔それを展開した。
システムは強く警告を発していて、機体が深刻なダメージを負った事を知らせてきた。
それを受けながら機体を確認すれば、背中の外套が完全に消されていた。
背中のメインスラスターもボロボロであり、ギリギリで流天が間に合ったことで一命は取り留めた。
奴は機体を旋回させながら、此方へと向かってきている。
私は呼吸を整えながら、静かに自らの心臓に手を置いた。
使う他ない。
私にとっての最大の切り札を。
”命を代償に”得られる”力”だ――
「Access――complete repair」
《――!》
機体が一瞬にして白い光に包まれた。
破壊された部分が凄まじい速度で復元されていく。
失った外套もエネルギーが形を変えてその一部になっていった。
そうして、光が消えれば今までのダメージが嘘であったかのように消えていた。
「――かはぁ!」
私はがふりと血を吐き出した。
手にはべったりと赤黒い血がついていて――関係ないッ!!
ずきりと痛みを発する心臓を無視する。
そうして、勢いのままに奴へと向かっていく。
ヘルメットのシールドが展開されているからか奴がハッキリと見えている。
猛然と進む奴に向かって連続して斬撃を放つ。
驚いた様子の奴は瞬時に此方に攻撃を――そう来るだろうな。
私は機体を連続してブーストさせる。
そうして、奴の攻撃に合わせるように地上をスライドして移動した。
派手に砂を巻き上げながら奴の視界を潰す。
そうして、巻き上げられた砂の中に突入した奴を別の視覚を通して認識する。
奴自身も此方の反応を精確に感じ取っていた。
だからこそ、私は再びアクセスの力を使い私のデータを別の空間に飛ばした。
奴はそのデータを負い狙いをつけて弾丸を放つ。
――が、それはダミーであり私は奴の側面から躍り出た。
《――!》
「お返しだ」
奴の側面からそのボディーに向けてブレードを振り下ろす。
甲高い音が鳴り響き、奴の硬いボディーに罅が入る――想像以上だなッ!!
完全に切断できず。
奴のライフルそのものによる打撃を回避しながら距離を取った。
奴はそのまま砂煙の中を突破して静かに機体を停止させた。
装甲が展開されて蒸気が噴き出している。
愛剣でも切れないほどの硬度。
こんな素材があった事を私は”あの男との戦いまでは”知らなかった。
唯一、これでも容易く切断できないともなれば”オーバード”以外にはないと知っていたが。
ベン・ルイスのオラースにこの女の乗る特殊な機体……だが、そんなものを使えば……。
常人ではオーバードには乗れない。
否、オーバードの技術ですら使えない。
それが出来るものは適性があるものか。
無理矢理に適性を植え付けられたものだけだ。
本物には遠く及ばない贋作でも、それを無理矢理に使うのであれば……苦しんでいる。
奴をこの目で見る事によて状態が分かる。
痛みと苦しみの連続であり、その度に無理矢理に修復していっている。
想像を絶する苦しみであり、それに耐えられるだけでも相当な精神力だ。
だが、こいつはベン・ルイスのような純粋な戦士ではない。
適性を後で無理矢理埋め込まれた事で、強引に使えるように設定されているだけだ。
だからこそ、オーバードの技術を使ったメリウスに対して心が拒絶反応を起こしていた。
怖い。痛い。助けて――私にはそう聞こえる。
「何故、そこまで……そこまでしても、お前たちの信じる神はお前たちを消すんだぞ!!」
気づけば勝手に声が出ていた。
聞かなければいけない。
聞かぬまま命のやり取りを続ければ、死んだものは無価値な存在になってしまう。
決して相容れなくともその想いだけは――
《黙、れ》
「……っ!」
《分かる筈がない。理解しようともしない……私の苦しみも、痛みも……あの方の為なら、私は……》
ノイズ交じりの女の声。
最早、心を正常にしておく事すら難しい。
奴は上へと上昇してから、機体を変形させていった。
後ろ脚はは二つに分かれて背中に回り、ボディーの一部はそれに纏わりついてそこから六つの灰燼の羽が生える。
両腕の武装も変形しライフルは銃身を短くし太さを増して覆われていた装甲はむき出しとなる。
その下には血管のように広がる赤黒いライン状の光が走っている。
片方のエネルギーブレードはより大きくなり刀身は細く研ぎ澄まされていた。
奴の青い双眼センサーは真っ赤に染まり、静かに私へと殺気をぶつけてきた……最早、言葉は通じないな。
此処まで来れば、もう引き返せない。
最後の思いを言葉として聞く事も手心を加えてやる事も出来ない。
私は静かにアクセスの力を使い、より力を強化して更なる戦闘へと望もうとした。
三倍……いや、四倍までなら問題ない……だが、それ以上を使えば神との戦いで――ッ!!
奴が羽を動かす。
その一瞬の内に奴の機体が目の前に迫る。
至近距離で奴の真っ赤なセンサーを見つめながら。
私はブレードを振るって対応した。
漆黒よりも黒いそのエネルギーのブレードが得物に触れる。
凄まじいほどの熱量であり、機体内の私にもその熱が伝わって来るほどだ。
《死ねッ!!!!》
「――ッ!!」
怨念のような叫び。
奴の機体の出力が格段に上がっていた。
此方も三倍まで引き上げているのに押し負けそうだ。
エネルギー同士が散っていき。
亡者の悲鳴のような不気味な音が響き渡った。
これは奴の心の叫びだ。
愛する人の為に、最期の力を振り絞ってでも守ろうとする純粋な思いだ――同じだな。
勢いのままにブレードを振るう。
互いに後方へと弾き飛ばされながらも空中で姿勢を制御し。
そのまま空中を駆け抜けながら、味方たちから離れて行った。
漆黒の灰燼を纏う奴と、白き流天を纏う私。
互いに激しくぶつかり合いながら、互いの気持ちを認識した。
感じる。言葉で聞けずとも、その想いが伝わって来る。
アイツは神の為ではなく。
一人の男の為に、命をささげようとしていた。
同じだよ――アイツと私は同類だ。
好きで好きでたまらないんだ。
だからこそ、自分の命だって平気で捧げられる。
「――私の方が、お前よりも想いは強いッ!!!」
《――ッ!!!!》
互いに譲れない。
否、譲ってはいけない。
正しさの押し付け合いなんかじゃない。
私たちは愛の強さで勝負をしている。
最後に生き残るのは想いの強い者だけだ。
だからこそ、私はこいつに対して手加減はしない。
それがこいつとの戦いでの礼儀であり、私がしてやれる手向けだ。
来い。最後まで付き合ってやる――愛を叫べ。
獣のような声を発する女。
そんな女と互いの得物をぶつけ合いながら。
私は笑みを深めて更なる闘争本能を呼び覚ましていった。