【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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207:喰らい増幅する暴力(side:SJ)

 化け物が腕を振るう。

 全身が凍り付くような殺気。

 大振りに振られただけのそれはまるで隕石のようで――回避。

 

 暴風が吹き機体が激しく揺さぶられる。

 風の衝撃波であり、それだけで今の乱暴な攻撃が取れほど危険であったかを知らしめる。

 そのまま連続して攻撃してくる奴。

 それを全て回避し、避けられないものはブレードで受け流す。

 攻撃の向きを少し変えるだけだ。

 しかし、それだけでも頑丈な愛剣がへし折られそうなほどの威力だ。

 

 全力で歯を食いしばりながら、その衝撃を往なす。

 手は感覚が無いほど痺れていた。

 喉はカラカラで眩暈と吐き気がしている。

 全身から出し尽くしたと思えるほどの汗を吐き出し。

 機体内は熱によって地獄と化していた。

 

 迫る攻撃。

 当たれば即死。

 だからこそ、全神経を集中させて回避。

 スローモーションに感じる世界でも奴の攻撃は速く鋭い。

 何度も何度も肝を冷やしながらも避けて。

 機体を回転させて奴に蹴りを放つ。

 胴体を強く蹴り上げてからそのままの勢いで空を翔けた。

 

《――!!!!》

「グゥ!!!」

 

 咆哮――怪物が迫り来る。

 

 音を置き去りにするほどの飛行。

 そんな中で俺自身も限界を超えて奴と戦う。

 機体全体が激しく揺れて計器が何度も異常を知らせてくる。

 そんなものに構っている暇はない。そんなものを見ていられない。

 

「――っ!!」

 

 ブレードを構えながら振り続けて背後の奴に向けて放ち続けた。

 流天を纏わせた半月上のそれが合計で六つ。

 そのどれもが触れれば重装甲型であろうとも容易く切断する切れ味だ。

 

《――!!!》

「――くッ!」

 

 奴が腕を乱暴に振るう。

 それに触れた斬撃は意図も容易く打ち消された。

 バラバラと残滓が待って、奴は目を赤く発光させながらカタカタと笑っていた。

 

 まるで効いていない。

 玩具で遊ぶ子供のように楽しげでさえある。

 アレは暴力そのものであり、台風の中に弾丸を放つようなものだ。

 意に介さない。否、そもそも攻撃とすら認識していない。

 

 

 ――それならッ!!

 

 

 俺はブレードを腕に折りたたむ。

 密着するように構えながら、更に薬剤を追加で投与する。

 その瞬間に今まで感じていた眩暈や吐き気が嘘のように消えた。

 世界が止まっているように幻視し、音すらも聞こえないほどで――ありったけを此処でッ!!

 

 心を奮い立たせる。

 そうして、自らの殻を破り機体のリミッターを完全に解く。

 無音だった空間にコアの激しい駆動音が響いてきた。

 耳をつんざくような音を聞きながら、俺は全力でペダルを踏みつけた。

 瞬間、止まっていたように感じた機体は一瞬にして移動した。

 くるりと旋回しながら、少し遅く感じる化け物を見つめて――突き進む。

 

 両腕を構えて流天を解除。

 そのまま灰燼を纏わせながら、奴への殺意と破壊で心を埋め尽くす。

 危険な笑みを浮かべながら、俺は絶叫した。

 

《――!!!!》

 

 怪物は腕を振るう。

 そんな奴の攻撃を瞬時に避けて、そのまま奴の胴体部を浅く削る。

 今までのように回避も破壊もされていない。

 効いていた。僅かであったが確実にダメージが通っている。

 それを確認して、俺は機体を変則機動で動かしていく。

 

 無理矢理に軌道を変えれば体から嫌な音が連続して響いていた。

 骨が軋み、全身の肉が今にも千切れそうで――関係、ないッ!!!

 

 機体を無理矢理に旋回。

 そのまま奴へと突っ込んでいき、奴の攻撃を回避して攻撃を浴びせる。

 

 

 突っ込み、回避、攻撃し、旋回、そのまま攻撃し――また旋回する。

 

 何度も何度も何度も何度も何度も何度も――何度もだッ!!!

 

 

 ひたすらに灰燼を纏わせた攻撃を浴びせ続ける。

 それを繰り返していけば、怪物が声を一気に張り上げた。

 音の衝撃波であり、至近距離で聞いていた俺の耳は強い痛みを発していた。

 機体の調整でも間に合わないほどの音量。

 機体にもダメージが入っていて、今の一瞬で動きが僅かに鈍った。

 その瞬間、化け物の手が眼前に迫って――抉り取っていく。

 

 バラバラと片腕の残骸が飛ぶ。

 根元から削られたそれが宙を舞っていた。

 システムが警告を発していた。

 機体内は真っ赤に光っていて、回路の一部が弾けて火花が散る。

 今の一発は重い――が、まだ動ける。

 

 

「アアアァァァァ!!!!!!」

 

 

 限界まで――否、限界を超えろッ!!

 

 

 もう片方の片腕を振るう。

 化け物の懐へと潜り込み回転をしながら一気に抉り取る。

 途中で奴の装甲に阻まれた。

 が、更なる破壊と殺意を込めれば灰燼の濃度が高まる。

 目が真っ赤に染まっていく中で、俺は叫び続けた。

 そうして、そのままの勢いで化け物の胴体を深く抉っていった。

 

《――!!!!》

 

 怪物は悲鳴を上げた。

 それほどの深い傷で、濃度を限界まで高めた灰燼だ。

 回復が追いついていない。

 明らかに今の一撃が響いていた――まだだッ!!!

 

 

 俺は更に速度を高める。

 そうして、機体を一気に旋回させた。

 体から何かが折れる音が響き、ぶちぶちと肉の裂ける音も聞こえた。

 俺は血を噴き出しながら、限界まで目を見開く奴へと突っ込む。

 

 片腕だけだ。

 片腕の折れかけのブレードを振るい続けた。

 

 

 斬撃、斬撃、斬撃、斬撃斬撃斬撃斬撃斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬――斬り続ける。

 

 

 奴の体には無数の切り傷が出来ていた。

 癒せないほどの傷であり、奴の体が形を保てなくなっていた。

 ぐずぐずになっていて揺れ動いていて。

 それを視界に入れながら、俺は朦朧とする意識の中で攻撃を当て続けて――!!

 

 奴の目がきらりと光る。

 その瞬間に、奴はその場から一瞬にして移動した。

 そうして、空を舞う他の敵や味方へと向かっていき――まさか!!

 

 奴はそのまま口を大きく開けた。

 そうして、空を飛んでいたそれらを一気に喰らう。

 敵も味方も関係ない。

 全てを平らげる勢いで捕食していった。

 俺は奴へと向かっていきそれを止めようとした。

 が、他の無人機が俺の前に立ちふさがる。

 俺は舌を鳴らしながら、それらを切り払っていく。

 

 一瞬だ。しかし、少しだけ遅れた。

 その結果、奴は食べた機体を消化しそれを己の傷の治癒に当てていた。

 無理矢理だ。傷を癒したと言うよりは、開いた傷に肉を植え込んだだけだ。

 だが、先ほどまで感じていた弱弱しさは消えていた。

 

 まるで生き物。生きているかのようだ……いや、実際アレは生きている。

 

 神の機体とパイロットの魂が混ざり合った。

 その結果、別の生き物としてあれはこの世に存在している。

 最早、理性などは欠片も残っていないが。

 アレは神からの命令に従って邪魔な敵を殲滅する事だけを考えている。

 だからこそ、邪魔をするのなら誰であれ殺す。

 そして、傷を癒せるのなら敵も味方も関係なく捕食する。

 

 合理的だ。合理的なまでに――アレは獣だ。

 

 奴は肥大化した両腕を広げながら吠えた。

 雄叫びのようであり、これから全てを殺すという合図だろう。

 俺は向かってくる奴に合わせるように動く。

 

 先ほどよりもスピードが速くなっている――適応したのかッ!!

 

 俺のスピードに適応してきた。

 だからこそ、俺が限界を超えた状態であっても対応しきれない。

 奴は両腕を振るい。俺のように斬撃を飛ばしてきた。

 それを紙一重で避ければ、前にいた別の無人機に触れて一瞬で消える。

 

「――!」

 

 触れただけだ。

 それだけなのに、まるで水が蒸発するように消えた。

 恐ろしいまでの浸蝕力であり、アレは受けるという考えも起きない。

 

 どうする。もっと薬剤を投与するか――いや、これ以上は戦う事すら出来なくなる。

 

 薬剤の投与を連続して行えば、それだけ後から来る副作用もひどくなる。

 これ以上の投与は危険であり、植物状態になる恐れすらある。

 中和剤は積めてある。これさえあれば薬の副作用をリセットする事が出来る……が、デメリットもある。

 

 

 中和剤を注入すれば、”十分”の間は真面に戦えなくなる。

 エネルギーの性質変化も今までのような思考も出来ない。

 心が強制的に鎮静化される効果の為だ。

 そうなれば、一瞬にして奴に殺されてしまう。

 

 ……せめて、十分の間、時間を稼いでくれれば……機体の武装を”アレ”に換装する事も出来る。

 

 輸送機は安全空域にて待機している。

 呼べばすぐに換装に戻る事は可能だ。

 代行者との戦いを終えた後に、ナナシの救援に向かう為の装備であったが。

 此処で使わなければ確実に負ける。

 

 換装すれば勝機は一気に高まる。

 傷を完治させてパワーアップした奴にも勝てる。

 だが、それをするには腕の立つ兵士が奴を十分もの間ひきつける必要がある。

 

 HJは動かせない。

 アイツは最後のトドメの切り札だ。

 奴以上の高火力を出せる機体は、この戦場の何処にもいない。

 HCが倒されれば、あの化け物を一気に仕留める事も不可能だ。

 

 

 誰が、誰が――ッ!!

 

 

 奴の背後から攻撃が飛ぶ。

 無数のエネルギー弾が空を翔けて奴の背中に当たって弾けていた。

 その機体はネイビーのカラーリングの機体だ。

 二つの同種のメリウスであり、アレはハーランドの軍用モデルだ。

 

 バランスのいい機体体形。

 背中にはバックパック型のスラスターが取り付けられて。

 一機は両腕にEN型ガトリングガンを装備している。

 もう一機は大きな特殊なタワーシールドと長大な狙撃ライフルを装備していた。

 

 ハーランドの軍用メリウス――”フォローハート”。

 

 カスタムモデルだろうそれ。

 全てのスペックが平均以上であり、バランスの取れた機体だ――だが、相手が悪い。

 

「下がれッ!! お前たちではッ!!」

《分かっていますッ!! でも、俺たちにも出来る事はありますッ!!》

《行ってくださいッ!! SJさんが戻って来るまでなら大丈夫ですッ!!》

 

 ナナシの連れて来た二人のパイロット。

 教練場で見た事はあった。

 二人は優秀であり、すぐに他の兵士の訓練メニューにも慣れていた。

 経過報告を聞かされた時はそれほど興味は無かった。

 だが、この二人の強みは個の強さではない――連携だ。

 

 化け物が視線を二人に向けた。

 その瞬間に、化け物は一瞬でライオットに迫り――ドリスが弾く。

 

 機体をブーストで加速させて、そのままの勢いを利用しタワーシールドを叩きつけた。

 化け物は一気に弾かれて、その隙を埋めるようにライオットが攻撃を放つ。

 その弾丸は赤黒くなっていて、ライオットは性質変化を使っていた。

 

 化け物には一切ダメージは入っていない。

 奴は目標を変えて二人を追う。

 機動力では勝てない二人。

 だが、二人は互いに穴をカバーしあっていた。

 

 ライオットが攻められればドリスがシールドでカバー。

 ドリスに攻撃を仕掛けようとすれば、ライオットがその動きを見抜き攻撃を放つ。

 化け物にとって二人は脅威ではない。

 だが、攻撃が大して効いておらずとも理性の無い獣にとっては”煩わしい”だろう。

 

 上手い――見事なまでの連携だ。

 

 俺は二人の動きに一瞬で納得させられた。

 そうして、二人に頼むと心の中で言う。

 背を向けて加速し、一気に戦線を離脱。

 輸送機は既に呼んである。

 すぐに換装の準備に掛かっている頃で――保ってくれよ。

 

 俺は二人の無事を心から願う。

 もしもの時は、HCも動くだろうが。

 出来る事なら俺が来るまで耐えて欲しい。

 

 大丈夫だ。

 あの見事な連携なら必ず耐えられる。

 俺は乱戦状態の戦場を抜けて、少し躊躇ったが中和剤を注入した。

 首筋から薬液が注入されて、今までの副作用が嘘のように消えていく。

 朦朧としていた意識も安定し、気持ちよさすら感じていた不気味な感覚も消えた。

 昂っていた気持ちも鎮静化させられて、戦闘の事について考えていられない。

 

 不安も恐怖も消えたが。

 この状態では絶対に判断を誤ってしまう。

 打ってしまえば、十分経つまでは戻れない。

 

 この選択は正しかったのか。

 俺は不気味なほど冷静な頭で少し考える。

 そうして、視界に映った輸送機を目指して機体を更に加速させた――

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