「――グゥ!!」
《――!!!》
化け物がカタカタと震えて笑う。
それは俺を敵として見ていないからか。
それとも、これからじっくり弄んでやると言う事か。
何方にしても最悪であり――常に心が休まらない。
迫り来る拳。
それを避ければ機体に少なからずダメージが入る。
吹き荒れる暴風。そして、至近距離での灰燼のスパークがじわじわとダメージを与えてきた。
ただ近くを飛んでいるだけでこれであり、回禄の防御では意味がない。
奴はずっと笑っていた。
笑って笑って嬲るような攻撃をしてくる。
遊んでいる。いや、遊ばされている。
だが、今はいい――このまま時間を稼ぐんだッ!!
俺は機体を操作し、奴から距離を離す。
奴も俺を追い掛けようと腰を屈めて、横合いからドリーの機体が飛び出す。
タワーシールドによる打撃であり、奴は溜まらず吹き飛ばされた。
ダメージにはなっていない。
だが、姿勢が乱れた奴に向かって俺は弾を乱射した。
悲鳴のような音と共に無数のエネルギー弾が奴の装甲に弾かれる。
バチバチと赤黒い閃光が迸り。
すぐに黒い光で消されて行った。
俺は舌を鳴らしながらも、すぐに向かってくる化け物へと銃口を向け続けた。
ナナシからの情報で分かった。
あの障壁を破るには代行者を倒すしかないと。
敵を送り込んできた輸送機はあらかた落としてきた。
これ以上敵が増える事は無い。
他の味方には既に指令が行っているようで、此処から距離を取って別の場所から障壁へと攻撃を行ってもらっている。
他の敵も軒並み向こうへ行き、残っているのはこいつの栄養となる奴だけだ。
後は、この代行者と思わしき敵を仕留めるだけだ――あぁ分かってるよ!!
俺やドリーではアイツには敵わない。
逆立ちしたって傷一つ付けられないさ。
でも、こんな俺たちでもやれる事はある。
それは此処で命を懸けて仲間の為に時間を稼ぐ事だ。
俺は機体を激しく操作する。
敵の視線を感じれば、一気にブーストしてその場から移動。
すぐ傍に迫る腕に恐怖を感じながらも、ドリーが体を張って俺を守る。
弾かれた奴に向かって全力で弾を放つ。
バチバチと音がしても一瞬で搔き消され、当たった個所には傷一つない。
エネルギーの残量だけが減り、俺の機体も少なくなダメージを負っていた。
パワーアップした俺の攻撃であっても奴にはまるで通じていない。
だけど、少しも喰らっていない訳じゃない。
確実に奴の神経を刺激するくらいの攻撃にはなっている。
だからこそ、奴は俺を嬲りながらも苛立ちを積らせながら執拗に俺へと向かってきた。
避けて、避けて、避けて、避けて避けて避けて避けて避けて――避け続ける。
あの巨大な腕が通過した瞬間に暴風が吹く。
機体全体が激しく揺さぶられてシステムが警告を発する。
ただの風だ。それでも機体が危険だと告げていた。
心臓がバクバクと鼓動して全身の穴という穴から汗が噴き出す。
口内はカラカラに乾いて今にも目を閉じそうだった。
だが、ダメだ。
今目を閉じて集中を切らせば確実に殺される。
どれほど経った。
どれほどの時間が経過した。
危険な行為を繰り返すたびに寿命が減っていくようだ。
体感時間で何時間も経過しているように感じる。
張り詰めた緊張の糸を切らせないように――俺は限界を超えた。
「アアアアァァァァァ!!!!!」
叫ぶ。叫ばずにはいられない。
迫り来る化け物も咆哮を上げて更に速度を速める。
迫り来る攻撃なんてもうほとんど見えていない。
それなのに体が勝手に機体を動かしていた。
これは何だ。まるで自分の体じゃないようだ。
ドリーも同じだ。アイツもほぼ勘で機体を動かしている筈だ。
俺たちの目で捉えきれない敵の動きを――そうか!
ドリーと俺は何時も一緒だった。
戦いの時も休む時も同じだった。
一緒に訓練に臨み、一緒に苦楽を共にしていた。
その結果、俺たちは既に互いの事を全て知っていた。
――分かる。分かるよ、ドリーッ!
ドリーがどう動くのかが手に取るように分かる。
アイツが右に動けば俺は左で。
アイツが盾を構えれば俺が化け物を引き付けて――あぁそうだ。
これが、これこそが――俺たちの到達点。
「ドリーッ!!!」
《ライッ!!!》
互いの名を叫ぶ。
その瞬間に、俺たちの機体は白い輝きに包まれる。
とても温かくてとても優しくて――勇気が沸き上がってきた。
恐怖に覆われそうな心を熱くさせて。
闇に覆われそうになる思考に光を灯す。
これがナナシやSJさんが使っていた流天。
一人では絶対に出せない力も、俺とドリーの二人なら出せる。
俺はカッと目を見開く。
そうして、速さを増して変則機動をする敵に突っ込む。
ドリーが横に並び互いに機体を回転させる。
化け物はそんな俺たちへと掌を向けて来た。
その掌に高熱源反応を感知――横へとズレる。
轟音と共に黒い光が駆け巡った。
太い光の線であり、それは全てを焼き尽くす威力を持っている。
が、当たらなければ――怖くなんてないッ!!
光の線の縫うように回避。
添うようにギリギリを翔けながら奴へと迫る。
放たれるタイミングを完璧に察知出来た。
そのまま互いに側面から同時に攻撃を仕掛ける。
流天を使った弾丸であり、奴の装甲に少しだけ罅が入った。
効いている。今までのSJさんたちの攻撃の積み重ねの結果だ。
俺たちは連続してブーストし奴を囲うように攻撃を行う。
奴は一瞬にして此方に飛び掛かって来た。
瞬間、後方からドリーの弾丸が飛び、化け物の頭を精確に射貫く。
奴の攻撃モーションが僅かにブレた。
その動きを完全に読んで、機体を逸らして回避した。
――が、完全には避け切れずに胴体部を軽く抉られた。
流天を纏わせても防ぎきれない。
ナナシたちのようにはまだ出来ていない。
だけど、この力は大きな武器だ。
そのまま奴の背後に回り両手のガトリングガンを奴に向ける。
そうして、勢いのままに乱射した。
無数の白い弾丸が奴の背中に殺到し、奴はぐるりと体を回転させた。
「――来るッ!!」
奴の目が光った。
瞬間、爆発音のようなものが響く。
一瞬にして遥か上空へと飛び上がり。
連続して爆発音が響いて、奴は空気を蹴り上げて瞬間移動の真似をした。
見えない――まるで動きが捉えられない。
俺はぞくりと背筋を凍らせる。
何かが来ると察知して、その場から飛びのいた。
瞬間、上空から灰燼を纏ったエネルギー弾が飛ぶ。
いや、弾丸ではない。まるで雷のように天から降って来た。
見れば、上空には化け物から分離した装甲が浮いていた。
それは機体の手となり、中心には黒い穴が開いていた。
アレだ。アレが攻撃を行った武器で――まずいッ!!
危険を察知し、エネルギー残量も無視してブーストを行う。
無数の黒い稲妻が目の前を走り。
俺は体全体が押しつぶさされそうなGに耐えながら空中を舞う。
稲妻は執拗に俺を追いかけてくる。
目の前が黒い光に覆われて、激しい音が俺の心を強く揺さぶる。
ブースト、ブースト、ブーストブーストブーストブーストブースト――ブーストだッ!!
ガタガタと機体が激しく揺れる。
景色に映るものを正しく認識できない。
味方や敵が出てきても構っていられない。
時折、何かを掠めながらも俺は必死に敵の攻撃から逃れる。
何度も何度も稲光がして、何度も何度も黒い閃光が走って――
「――ぁ」
空気が凍り付く。
今までの攻撃は俺を仕留める為じゃない。
アレはまるで遊んでいるようだった。
必死に逃げて必死に避けて――奴は大きく口を開いていた。
目の前には真っ赤な目をした怪物が浮遊している。
大きく口を開いて飛び込んできた俺を喰らう為にそこにいた。
そうだ。こいつは最初から俺を喰うつもりだった。
俺は失敗した。俺は死ぬ。俺は――――
《馬鹿ァァ!!!!》
「――っ!」
ドリーの声が聞こえた。
瞬間、片腕を失ったドリーが奴へと体当たりをする。
シールドを機体事を押しこんでいて、奴は俺から距離を離された。
ドリーは俺を助ける為にあの黒い稲妻に被弾する覚悟でこっちに来た。
そうして、化け物はそんなドリーを両手で掴み口を――ぶつりと糸が切れた。
「――ふざけんじゃねェェェェッ!!!!!!!」
俺は全身からスラスターから限界を超えてエネルギーを噴射する。
一気に化け物との距離はゼロになり、そのまま奴の口の中へとガトリングガンを二つともぶち込んだ。
そうして、そのまま全てのエネルギーを込めて弾を放つ。
バチバチと激しくスパークし強い光が迸った。
視界が全て白く塗りつぶされるほどで。
俺は怒りのままに奴に向かって全力の攻撃を続けた。
「くたばれェェェェェッ!!!!!!!」
全力での攻撃。
奴の機体が激しく揺れてドリーから手を放す。
俺はそのまま奴へと銃口を押し込みながらトリガーを押し続けた。
スラスターから鳴る甲高い音。
それが止んで爆発音が聞こえた――イカれたかッ!!
武装も煙を噴きだしていて、システムが戦闘システムの異常を知らせる。
コックピッド内は赤く染まり、配線が焼き切れてスパークした。
体に火花が降りかかるが無視する。
俺は今、こいつにムカついている。
俺が世界で一番愛している女を喰おうとしたんだ。
こいつだけは絶対に殺す。何が何でも殺す。
その為ならこの命くらい差し出してやるよッ!!!!
連れて行ってやる――地獄ヘなッ!!!
「アアアアアアァァァァァッ!!!!!」
《――ッ!!!!》
限界を超えて弾を撃ち続ける。
機体から爆発音が聞こえて炎が舞い上がる。
モニターにノイズが走っていて、機体の熱は最高潮に達していた。
熱い、熱くて熱くて溜まらない――まだまだァ!!!
死ぬまで。いや、死んでも戦う。
俺は炎となって空を舞いながら奴に向けて弾丸を――べきりと武装が砕かれた。
奴が開いていた口を閉じる。
そうして、俺の壊れかけの機体をがっしりと掴んだ。
目の前で鼓膜が破れるほどの絶叫を上げて力を込めて俺の機体を圧壊させようとした。
フリーハンドオペレーションはもう反応しない。
俺はゆっくりと両手を下げながら笑った……此処までだ。
「……後は、任せましたよ」
《――任された》
瞬間、奴の両腕が切断される。
化け物は絶叫し、俺の機体はゆっくりと落下していく。
誰かが俺の機体を受け止めてくれて戦線から離脱していく。
見なくとも分かる。ドリーの機体であり、ノイズの走るモニターの向こうでは――”漆黒の機体”が浮遊していた。
背部には四つの盾のようになった大きなハイブースターが伸びている。
顔は丸みを帯びていてその中心には青い輝きを放つセンサーが。
逆関節の足は細くしなやかで、その脇には射撃用の武装が折りたたまれていた。
両腕には真っすぐに伸びる銀のブレードが伸びている。
無駄がなく洗練されたフォルムであったが――格好いいなぁ。
化け物はそんな彼に対して咆哮し空気を蹴りつけて激しく移動をした。
やはり見えない。俺の目では何も見えない。
空気が激しく振動し、奴の目の光が残像となって見えていた。
そんな中でも彼だけは落ち着いていた。
まるで、水面に浮かぶ木の葉のように静かで――動き出す。
化け物が彼に背後から襲い掛かった。
機体が化け物の手で貫かれて――消える。
まるで蜃気楼――幻だ。
彼は化け物の背後に立っていた。
余裕を感じさせる動きで、静かに俺たち二人を見つめてくる……あぁ、安心だ。
俺はゆっくりと瞼を閉じる。
あの人がいれば問題ない。
俺たちの役目は此処で終わりだ。
眠いな……すごく、眠いよ……ドリーには後で謝ろう。
彼氏がこんなんじゃ申し訳ないよな。
そんな事を思いながらも眠気には勝てない。
俺は戦場の音が遠のいていくのを感じながら、そのまま闇の中に意識を沈めていく。
大丈夫。
あの人は負けない。
なんたってあの人は、ナナシにも、一回、勝ったほど、の――――…………