【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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210:ただ殺し合うだけだ(side:ミランダ)

 迫り来る青い獣――攻撃動作が限りなく短い。

 

 連続して放たれる拳。

 まるでボクシングの要領で放たれるそれを紙一重で避けていく。

 薄く撫でられた装甲が大きく軋み上げてシステムがダメージを報告する。

 完全には避けられない。それだけの運動性と機動力を相手は持っていた。

 

 何とかそれらをギリギリで躱しながら、奴に向けて照準を定める。

 が、距離を離そうとすれば一息で肉薄される。

 此方は余分な装甲をパージしているからこそ運動性能は上がっているが。

 それでも、奴の方が明らかに動きが滑らかな上に動作が速い。

 

 一発一発が必殺の一撃。

 喰らえば最期であり、その中にはフェイトも混ぜてある。

 私は必死になってそれを躱す。

 全力でレバーを握り、奥歯が砕けると思えるほどに噛み締めて。

 そんな中で弟のシリルは必死に此方を援護する。

 砲弾を放てば流石の奴でもブーストによって距離を離すが。

 その隙に奴は再び乱戦状態の空の中で舞う黒煙に紛れて姿を消す。

 

 レーダーは当てにならない。

 奴からは一切の反応が消えていた。

 生体反応すらもロストしていて居場所を特定する事は不可能だった。

 このまま奴の攻撃をずっと躱し続ける事は不可能だ。

 何れ集中力が切れれば確実に奴に殺されるだろう。

 そうなれば、此処で奴の相手を出来るものはいなくなる。

 部隊の統率も乱れて一気に殲滅さるのがオチだ。

 

 任務失敗イコール神の計画が早まるということで――それだけはダメだ。

 

 私は通信を繋ぐ。

 相手はシリルであり、弟はすぐに出た。

 

「シリルッ! ”アレ”を使うぞ!」

《アレって……まさか、”超長距離用速撃砲ハヌマーン”!?》

「一々、名称を言わなくていい……お前が起動させて撃て。私は此処でアイツの注意を引き付ける」

《で、でも! 姉さんよりも僕の方が》

「無理だね。お前はサシの勝負には向いていない。それよりも、遠くからの狙撃がお前には似合っているよ」

 

 私はそれだけ言って通信を切る。

 弟はまだ何か言いたそうだったが無視。

 私はそのまま一気に弟から距離を離して宙を翔けた。

 恐らく、アイツ自身も分かっているんだろう。

 このまま此処で援護を続けても意味が無いと。

 アイツは無駄の無い動きで此方を翻弄するように立ち回っていた。

 必ず殺すという意思はある。しかし、危なげない動きはしていなかった。

 

 危険な橋を渡ってまで此方を始末しようとしない。

 それはつまり、このまま戦いを続けて私たちを足止めしておく事こそが真の狙いだと分かる。

 恐らく、奴は勘づいている。

 私たち二人が今まで何を研究し開発を進めてきた。

 ”アレ”は神との戦いで必ず役に立つ。

 そうだろうと確信したからこそ、何が何でもアレだけは此処まで運んできた。

 多少のリスクはあったものの、無事に運び込むことは出来て。

 今はナナシのいる中央にて待機させてある。

 私たち二人があそこへ合流すればすぐに使えるようにと準備も進めているが……私たち二人が行けなければ意味がない。

 

 こいつは私たち二人を殺す必要はない。

 ただ足を止めさせるだけでも、二つの任務が達成される。

 一つは神の計画が成されるまで白光大石を守り切る事。

 もう一つはアレを使わせない為に、私とシリルの二人を此処に留めさせておく事。

 

 ……何処まで計算高いんだ。こいつは本当に凄腕らしい。

 

 私がそんな事を思っていれば、横合いから何かが飛んできた。

 それに向かって砲弾を放つ。

 真っすぐに飛んだ砲弾はそのままそいつをバラバラに砕いた――奴じゃないッ!!

 

 背後から殺気を感じた。

 その瞬間に私は一気に下へと機体をずらす。

 ブーストにより全身に強い負荷が掛かり、一瞬にして目の前に拳が飛んできた。

 ギリギリであり、かなり危険な賭けで――ッ!!

 

 奴のサブスラスターから音が鳴る。

 爆発的な音であり、奴はそのまま機体を回転させた。

 そうして、踵落としの要領で足を上げて――まずいッ!!

 

 私は一瞬にして弾を変える。

 そうして、流天を砲弾に纏わせた。

 そのまま奴の攻撃に合わせるように放ち――ッ!!

 

 奴の蹴りには命中しない。

 その代わりに特大の砲弾による衝撃で機体が一気に下がった。

 合わせてスラスターを噴かせた事で機体は一気に下降する。

 が、完全には避けられずに奴の脚部が機体の胸部に触れた。

 

 瞬間、大きな音を立てながら胸部装甲が凹んでいった。

 まるで、深海に一気に引きずり込まれた様にべきべきと。

 

「――ガァァッ!!!!」

 

 私はそのまま下へと墜とされて行き、その衝撃に耐えながら全てのスラスターを噴かせて地面スレスレを滑るように移動した。

 奴は此方を追ってきていて、そんな奴に対して砲塔を構える。

 奴は機体を左右に振って此方の狙いを逸らさせようとしていた。

 

 私はぐんぐんと加速する奴を静かに狙い――放つ。

 

 激しいスパーク音を奏でながら飛んだ砲弾。

 奴はその砲弾を紙一重で躱し――砲弾の方へと機体が吸い込まれた。

 

《――!》

「電磁界弾――確実に当たるんだよ。メリウスならな」

 

 そのまま奴は逃れる事が出来ずに弾に当たる。

 瞬間、砲弾はカッと光を放って爆発した。

 白い光が溢れて視界を満たし、奴はそのまま電磁界によるパルスとエネルギーの両方のダメージを負う。

 決して安くないダメージであり、私は奴から距離を離し――ッ!!

 

 光が消える間際。

 奴が中から飛び出してきた。

 片腕は吹き飛んでいたが、もう片方は無事で――片腕を犠牲にして本体を守ったのかッ!!

 

 あの一瞬でその判断を下した。

 奴はそのまま連続ブーストにより迫って来る。

 奴の機体はぐにゅぐにゅと動いていて、壊れた筈の腕は一瞬で再生する。

 五体満足の状態で奴は拳を構えて灰燼を纏わせていた。

 私は流天を機体全体に纏わせながら、スラスターの出力を底上げする。

 

 此処からは恐怖の鬼ごっこだ。

 シリルの事を考えるのなら、一定の場所に足を止めさせたい。

 しかし、そんな事をすれば奴の得意とする肉弾戦に持ち込む事になる。

 そうなれば先ほどのように大きなダメージを負う事になるだろう。

 システムからの報告を聞けば、胸部全体の損傷がかなり激しい。

 後一撃でも掠めればコックピッドは保たないだろう。

 

 ……いや、そうなるさ。相手はあの伝説の兵士で代行者だ……命を懸けなきゃ勝てないよ。

 

 奴へと牽制目的で連続して砲弾を放つ。

 拡散鉄球砲弾であり、空中で分裂したそれらが奴の前に展開された。

 奴はスピードを緩める事無く拳を構えて――放つ。

 

 箱形の武装が起動し、前方の何もない空間が歪んだように見えた。

 瞬間、全ての鉄球が一瞬にして吹き飛ばされた。

 そうして、飛び散った奴の灰燼が一つに集まり大きな口を開けた怪物となった。

 イメージをそのまま具現化したようなそれが私を襲う。

 私は全身に流天を纏わせる。

 全力であり飲み込まれる覚悟を決めた。

 

「グゥゥゥゥゥ!!!!!」

 

 迸る黒いエネルギーの嵐。

 バチバチと表面を激しい光が駆け巡り。

 私の愛機を焼き尽くさんと襲い来る。

 何重にも重ねた防御が徐々に浸食されて行き、私は全身が焼けるような痛みを疑似的に味わう。

 それに必死に耐えながら、私は目の前に砲塔を一気に向けた。

 

《――!!》

「爆ぜろッ!!!」

 

 気配を殺し迫っていた敵。

 そんな奴の狙いを看破して私は奴に照準を合わせる。

 この距離なら外しはしない。

 私は特殊弾を装填し、そのまま奴のコアに――撃ちこむ。

 

 轟音を立てて放たれた砲弾。

 以前に私たちが倒した黒腕の代行者との戦いで使った砲弾。

 それをこいつにも撃ち込めば、周りのエネルギーを吸収しながらそいつは目の前の敵すらも飲み込んだ。

 奴は必死に両手でそれを抑え込み爆発させまいとしていたが。

 触れたが最期であり、もう逃れる事なんて出来やしない。

 

 私は機体の四肢をだらりと下げながら、ヘルメットの中で溜まる汗も無視して奴を睨んだ。

 太陽の如き強い熱を発するそれは遥か彼方へと進んで――ッ!!

 

 強烈な閃光。

 目の前が全て白い光に染められた。

 私は思わず両目を閉じて、機体の腕で目の前を塞いだ。

 何も見えない。次の瞬間には凄まじい暴風が発生し。

 機体がその場で留まる事が出来ずに後ろへと流されて行った。

 私は慌てて全てのスラスターを噴かせてその場に留まる。

 

 爆発は暫く続き……やがて、収まった。

 

 爆発の中心から周囲一帯には大きなクレーターが出来上がっていた。

 それを見ていた敵も味方も動きを一瞬だけ止めて茫然としていた。

 今の攻撃は私でも予測できないほどの威力となって……すまない。

 

 恐らく、今の攻撃に巻き込まれた味方もいただろう。

 アイツらの事を気にかけてやれなかった私の責任だ。

 もしも、冷静にこの状況を分析する日があったのならその時はどんな罰も受ける。

 私はそう覚悟しながら、中心にて煙を上げる何かを見つめていた。

 

 煙――いや、違う。アレは蒸気だ。

 

 機体の中で何が起きているのか。

 中心にて立つ代行者は機体を一気に変貌させていた。

 ズクズクに溶けて黒くなった装甲はずるりと落ちて。

 残ったのは本体となるメリウスだけだった。

 最初に見た量産型のメリウスから所々、装甲が抜け落ちたような見た目で。

 砕かれたフェイスアーマーの一部からオレンジに光るセンサーが露出していた。

 

 その手には近接武装となるアレは取り外されている。

 両肩にはミサイルポッドらしきものとランチャーが。

 例の特殊武装の代わりに標準的な装備であるライフルと盾が携行されていた。

 

 ……妙だ。明らかに、”装備が貧弱”になっている……いや、そもそもアイツからは積極的に相手を殺す意思が無い。

 

 今までの戦いを通して奴の事が分かり始めていた。

 奴は私を此処に足止めする目的で戦っていたと思っていた。

 しかし、その行動は何処か控えめ過ぎている気がしていた。

 もしも、私が強引な手段を使って中央に合流しようと思えばどうする?

 

 確実に殺しておいた方が奴らにとってはいい筈だ。

 だからこそ、神もそれぞれのカメリアに代行者を向かわせた。

 そうだ。奴らの根本にある狙いは邪魔な存在の排除。

 此処で殺さずに留めさせて置くことにほとんど意味なんて無い筈だ……まさか。

 

《やめろ。その思考に意味は無い》

「――ッ! お前、やっぱり」

《……構えろ。我々は結局の所、分かり合える道など無いんだ……理想を叶えたいのなら、俺を殺して見せろ》

 

 奴は腰を屈めてスラスターの出力を高める……確かにそうだ。

 

 私が此処でアイツの本音を暴いたところで意味なんてない。

 アイツは既に人を止めちまっていて、アイツは代行者として戦う道を選んだんだ。

 引き返せなかったのかもしれない。誰もアイツを救えなかったのかもしれねぇ。

 でも、そんな話は今更だ……終わらせよう。こんな戦いはいますぐに。

 

 私は砲弾を変える。

 そうして、奴に狙いを定めた。

 奴はセンサーを光らせて一気に跳躍する。

 爆発的な加速で迫る奴は私に銃口を向けて来た。

 そんな奴に対して私は砲弾を放つ。

 奴はそれを眼前に捉えながら、機体をひらりと回転させた避けてみた。

 私はそれを確認する前に機体を移動させて、奴の放つ弾丸を回避した。

 

 砲弾を切り替えて拡散鉄球砲弾を放つ。

 空中で分裂したそれを奴は盾で受け止めた。

 がりがりと奴の盾を削るが、すぐに表面は復元して。

 奴はスピードを落とすことなく迫って来る。

 ライフルから火薬の爆ぜる音が何度も響き、銃弾が空を飛翔した。

 灰燼を纏ったその銃弾を機体を回転させて回避しながら、私は奴に向けて再び電磁界弾を放つ。

 

《――!》

「――チッ!」

 

 同じ手は二度も食わないか!

 

 奴は大きく機体を移動させてそれを回避。

 そのまま肩のミサイルポッドを展開してミサイルを放つ。

 ロックオンされた状態で追尾してくるそれを連続ブーストによって躱していく。

 次々と目の前でミサイルが爆ぜて、最後の一発が爆ぜて――怖気が走る。

 

 すぐ後ろに敵の気配を感じた。

 私は機体の脚部でそれに向かって回し蹴りをする――が、いない。

 

 攻撃が空を切り、姿勢が大きく乱れた。

 私はそのまま大きく目を見開いて――未来が見えた。

 

 私は一瞬で機体の姿勢を崩す。

 瞬間、死角から何かが爆ぜる音がしてそれが機体の腕をごっそりと抉っていった。

 システムが警告を発して、機体内がレッドに染まる。

 うるさいシステム音を聞きながら、揺れる機体を制御して音の聞こえた方に砲弾を放つ。

 

 そこには奴がいて、奴は盾を構えて砲弾を受けた。

 触れた瞬間に強い閃光が発生し奴が弾かれた。

 奴は勢いよく後方に吹き飛ばされて行き、半壊した盾をぐにゅりと変化させてライフルを生成した。

 そうして、二丁のライフルを携行しながら機体を旋回させて再び此方を狙ってくる。

 

 私のヘルメットは一部が砕けていた。

 頭がずきずきと痛みを発していて血が垂れて片方の視界が赤く染まる。

 垂れて来た血を舌で舐めてから、私は大きく笑みを浮かべた。

 

「上等だッ!!!!」

 

 やってやる。やりあおうぜ――殺してやるよッ!!

 

 どっちかが死ななきゃ勝負がつかないのなら。

 どっちかが不幸にならないといけないのなら。

 お前が死んで不幸になればいい。

 私は勝って幸福を掴む。情けなんて掛けない。

 

 それが、それこそが――戦いだッ!!!

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