【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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211:恐怖を乗り越え放つ輝き(side:シリル→ジョット)

 超長距離用速撃砲ハヌマーン――姉さんが設計し、僕が手を加えた兵器だ。

 

 専用の無人輸送機の下部に取り付ける事によって運用する大型のEN用狙撃固定砲台。

 これを使えば一気に多くの敵を殲滅できる事が可能となる。

 単体への攻撃モードと複数の目標に対応した二つのモードが備わっている。

 本来はあの障壁を破る為に姉さんがアレと一緒に運んできたものだけど。

 僕も姉さんも一目見た瞬間にこのハヌマーンの攻撃をもってしてもあの障壁は破れないと判断した。

 だからこそ、安全な後方にて待機させていたけど……使う他ないよね。

 

 メリウスを輸送機の下へ運べば、固定砲台が展開されたハッチから降りて来た。

 長大で黒光りするごついそれは兵器の顔をしていた。

 開いた空間にメリウスを運びながら、開かれた穴へと両腕を差し込む。

 固定する為のバーが降りてきてガチャリと音が鳴る。

 ドッキングが完了し、モニターからの光の色が変わる。

 モニターとハヌマーンのシステムが同期して遠くの敵を狙えるようになった。

 

 距離にして30キロ以上の距離を離している。

 障害物が一切ない状態であり、此処からなら理論上では直線で攻撃を当てる事も出来る。

 しかし、相手は手練れの代行者であり、避けられる可能性が高い。

 

 正直、僕なんかの腕で代行者を仕留める自信なんて欠片も無い……でも……。

 

 ギュッとレバーを握る。

 そうだ。姉さんは僕に任せるって言ったんだ。

 あの人だけは、ずっと僕の傍にいてくれて僕の事を見てくれていた。

 

 弱虫で泣き虫の僕を勇気づけてくれて。

 ”血の繋がりだって無い”のに、あの人だけは僕の姉でいてくれた。

 僕が寂しさを感じないように、慣れていないのに僕と同じ髪の色に染めようとして……そうだ。

 

 ミランダ姉さんだけじゃない。

 ナナシさんもヴァンさんも僕を信じてくれた。

 姉さんと一緒だったけど、ナナシさんは僕をこんな重要な場所に派遣した。

 ヴァンさんだって僕の事を高く評価してくれて……一緒に部屋で僕が書いた設計図を見ていた時に言っていた。

 

 

《お前はスゲェよ! その若さでこんなに頭がいいんだぜ? きっとその頭脳が仲間たちを救うぜ!》

「……ヴァンさん……その時は今みたいです」

 

 

 スコープを横から持ってきて覗き込む。

 遥か向こうでは未だに無数のメリウスが激戦を繰り広げていた。

 敵と味方が激しく入り乱れていて、その中心では姉さんと代行者が戦っていた。

 僕は冷汗を流しながらその光景を静かに見つめる。

 

「ハヌマーンの単発攻撃はフルチャージで……外れた後に掛かるリチャージの時間は約十五分……初撃で仕留めなきゃ気づかれて他の敵も襲ってくる筈だ……そうなったらハヌマーンを放棄して……何言ってんだ」

 

 僕は自分で自分のネガティブさに呆れる。

 姉さんが僕に全てを任せてくれたのに、僕は失敗した後の事ばかり考えていた。

 こんな事では絶対に失敗する。

 このままでは絶対に代行者を仕留める事なんて出来ない。

 

 

 

 僕は何だ――ミランダという女性の弟だ。

 

 僕は何だ――親衛隊のメンバーの一人でHCのコードネームを与えられている。

 

 僕は何だ――僕は男で、タンク乗りで、それで――だからだろッ!!

 

 

 

 お前は親衛隊の一人で、ミランダの弟だ。

 世界で一番頼りになって、世界で一番僕を理解してくれている姉が信頼してくれている存在だろう。

 弱虫でもいい。泣き言だって沢山言うよ。

 それでも、世界で一番愛するたった一人の家族の信頼だけは――裏切っちゃダメなんだッ!!

 

 僕は両頬を勢いよく叩く。

 乾いた音が鳴り響いて頬がじんじんと痛みを発した。

 今までこんな事したことなかったけど。

 これはアニメで見るよりもかなり痛かった……でも、気持ちは定まった。

 

 考えろ。考えるんだ――お前にはヴァンさんが認めてくれた頭脳がある。

 

 単発で代行者を仕留められる可能性はざっと見積もっても六十パーセントくらいだ。

 甘く見積もってそれであり、避けられる可能性は半分はある。

 それだけあの代行者は用心深い。この距離であっても未来視を使えば勘付かれてしまうかもしれない。

 避けられれば最後、たった一度のチャンスだ。

 少しでも成功率を高めて、相手の意表を突くのなら単発ではなく――オールレンジ攻撃しかない。

 

「”ショットプリズム射出機”は問題ない……でも、システムの自動調整だったら誤差が出る!」

 

 ショットプリズムは放たれるエネルギー弾を拡散する為の特殊なプリズム球体。

 本来であればシステムがロックオンをした敵を撃ち落とす為に自動で計算する。

 だけど、これはまだ実戦段階では無かった上に、完成したとしてもあれほどに敵味方が入り乱れていれば使用は出来ない。

 それだけプリズムによる拡散を精確に計算する事は難しい。

 そもそも、環境によっても左右されるのに……それでも!

 

 泣き言は終わりだ。

 この手を使わなければ絶対に奴には勝てない。

 ヴァンさんの仇を取る為にも、僕自身も命を懸ける必要がある。

 幸いにもハヌマーンの情報処理能力とセンサーはかなりのスペックがある。

 戦場の全体像を観察し、彼らの動きを予測するんだ。

 

「……味方がかなり減っていたから……っ!」

 

 そんな理由で計算が少しだけ楽になるなんて思いたくない。

 僕はその事実を頭から消す。

 そうして、コンソールを手繰り寄せてシステムにアクセスする。

 ぶつぶつと独り言を零しながら、視界に映る情報を全て分析する。

 

 味方の動き、現在の風力に、発生している炎による気流の乱れ。

 展開されている敵と味方の弾幕に、姉さんの動きと代行者の動きと――

 

 ――頭が痛い。

 

 強い熱と共にずきりと痛みが発した。

 忙しなく手を動かしながら視線も動かし続けて。

 全ての情報を一つずつ処理していく。

 味方だけでも退避させられたらどれ程よかったか。

 しかし、それだけは絶対に出来ない。

 奴の周りから味方を退避させれば勘の良い代行者はすぐに異変に気付くはずだ。

 そうなれば奴は更に警戒して、此方をすぐに発見する場合もある。

 

 

 今の状態で、今の乱戦の中で――奴だけを仕留めるんだ。

 

 

 神業。いや、最早不可能と言っても過言じゃない。

 膨大な情報をコンピューターも使わずに僕の頭だけで処理している。

 絶対に出来ない。絶対にそんな芸当が実現できる筈がない――分かっているさ。

 

 

「でも、それでも――無理を通す時が今なんだッ!!」

 

 

 頭の雑念を全て消す。

 そうして、限界まで目を見開きながらコンソールを叩く手を早める。

 熱が一気に増していき、鼻から何かがぼとぼとと垂れていた。

 それが口の中に入り、鉄錆の味が口内に広がっていった。

 その不快感ですらも無視して、僕は機械となったように分析を進めて――!!

 

 

 姉さんの機体が破壊された――いや、違う!!

 

 

 片腕が吹き飛ばされただけだ。

 まだ、生きている。

 心臓の鼓動が一瞬だけ止まったように感じた。

 冷たく恐ろしい感覚で、それを味わった瞬間にぴたりと手が止まる。

 

 

 ぶるぶると全身が震え始めて、僕は短い呼吸を繰り返す……怖いよ。

 

 怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い――どうしようもなく怖いんだ。

 

 

 体が寒くて、全身が震えている。

 僕はその震えを抑えようと必死に体を掻き抱いた。

 止まれ、止まれ、止まれ……だけど、全然止まらない。

 

 歯をガチガチと鳴らす……あぁ、”また”これだ。

 

 僕は何時も震えていた。

 怖くて仕方ない時は赤ん坊のように体を丸めて。

 そんな時は決まって姉さんが僕を助けてくれた。

 温かくて強くて……僕は一人じゃ何も出来ない。

 

 

「姉さん、ごめん……僕は、やっぱり……」

『――シリル。お前は強いよ。私が認めてやる。世界で一番格好いい男になれ!』

「……っ!」

 

 

 姉さんの声が聞こえた。

 僕は思わず顔を上げて周りを見る。

 でも、周りにも誰もいない上に通信だって繋がっていない。

 

 今の言葉は過去に姉さんが僕に言ってくれた言葉だ。

 めそめそ泣いていた僕に姉さんはそう言っていた。

 殴られて蹴られて耐えるしか出来ない僕にあの人だけはそう言ってくれた。

 

 ……ヴァンさんも僕を認めてくれた……そうだ。僕は一人じゃない。

 

 勇気が沸き上がって来る。

 恐怖に支配されかけた心が熱くなる。

 震えは気づけば収まっていて、僕は再びコンソールに手を置く。

 

 

 

「なるよ。姉さん、ヴァンさん――世界で一番格好いい男にッ!!」

 

 

 

 瞬間、僕の目には未来の光景が映る。

 全ての機体の軌道に、発生する現象などが映っていた。

 未来の景色は一瞬で収まり、僕はすぐにその情報を反映させる。

 カタカタとコンソールを叩いて――レバーを握った。

 

 

「――シィィ」

 

 

 スコープを除きながら、激しく動いている代行者を見る。

 姉さんの機体は満身創痍であり、もうほとんどエネルギーは残っていない筈だ。

 これで決める。この攻撃で、僕がこの戦いを――終わらせるんだッ!!

 

 

「プリズム――射出ッ!!」

 

 

 スイッチを押してプリズム体を発射した。

 勢いのままに放たれたそれが遥か彼方の戦場へと飛翔する。

 それが代行者へと迫って――!

 

 奴は気づいた。

 そうして、驚異的な反応速度で上昇し躱した。

 奴はぎろりとセンサーを此方に向けていて――読み通りだッ!!

 

 

「――ファイヤーッ!!!!!」

 

 

 全力で叫ぶと同時にスイッチをもう一度押す。

 その瞬間に限界を超えて溜められたエネルギーが一気に放たれた。

 凄まじい光が視界を埋め尽くし、一条の光が真っすぐに飛んでいった。

 機体全体が激しく振動し、レバーがガタガタと揺れて手が痺れていた。

 僕は耳が痛くなりながらも全力で奥歯を噛み締めて血がにじむほどにレバーを握りしめた。

 奴は完全に気づいていて連続したブーストでそれを紙一重で回避し――光は拡散する。

 

 プリズム体にあたったエネルギー弾が増幅されて一気に拡散される。

 飛び散ったプリズム体に触れればそれも更に増幅されて何本もの白い光となって拡散。

 それを一瞬にして次々と繰り返していき、奴の周りには白い輝きを放つ光の網が形成されていた。

 奴は動けない。全ての場所に光があって、抜ける事は出来ない。

 

 拡散されたエネルギーたちは奴を囲いこみ。

 そして、一気に中心の奴へと延びていった。

 四方八方からのエネルギーであり、それは逃れられない奴へと殺到した。

 強烈な光の中で、微かに見えた奴の機体のシルエット。

 それが無数の光の線に触れて一気に蒸発していく。

 僕はその光景を見つめながら、尚もボタンを強く押し続けて――叫んだ。

 

 

 

「――イッケェェェェェェッ!!!!!」

 

 

 

 鼻から流れる血が勢いよく噴き出す。

 目の前のシールドが血に染まっても尚、僕は叫び続けた。

 限界まで。いや、限界なんて僕たちにはない。

 

 届け。勝利へと未来へとこの声が――届くように。

 

 

 〇〇

 

 

 機体全体を覆うような光。

 逃れる事は絶対に出来ない。

 咄嗟に流天で防御をしたが、それも一瞬で破壊された。

 全身を激しい熱が襲い。塵も残さずに焼かれていく。

 

 終わりだ。この戦いは俺の負けで……あぁ、ようやく眠れる。

 

 心から臨んだ戦いではない。

 代行者となってこうなる日が何時か来ると思っていた。

 異分子たちを殺し、神の命令のままにあらゆる命を消してきた。

 そんな私が家庭を持ち、孫の顔まで拝む事が出来たんだ……十分だ。

 

 妻にも息子にも何も言っていない。

 今頃は安全な場所で私の帰りを待っている事だろう。

 だが、私は帰る事は出来ない。

 私の行先は天国でも地獄でもない――”虚無”だ。

 

 殺して、殺して、殺しを繰り返して……そんな殺人鬼の最期にはお似合いだ。

 

 全身を焼かれる想像を絶する痛み。

 それを受け入れながら、私は静かに瞼を閉じる。

 

 後悔はない。

 残してきた命たちが守られるのなら幸せだ。

 

 神が勝っても、彼らが勝っても。

 きっと私の家族だけは平和に生きられる。

 神を信じている訳でも、彼らの勝利を願っていた訳でもない。

 

 

 

 ただ一瞬だけ。家族が俺に――微笑んでくれたような気がするから。

 

 

 

「あぁ、最後に――妻の、ラタトゥイユが、食べ――――…………」

 

 

 

 手を必死に伸ばす。

 

 しかし、指先から溶けるように消えていく。

 

 それを見つめながら、俺は光の先へと――――…………

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