【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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212:超えていく姉の愛(side:SQ)

 空を翔ける。

 ブーストも併用しながら大空を翔けて行った。

 一瞬にして迫る敵の攻撃。

 特大のエネルギー弾が装甲を掠めていき、流天が一気に剥がされて行った。

 凄まじい熱量であり、空間が歪んで見えるほどだ。

 それが何発も連続して放たれれば、私は機体を更に加速させて避けざるを得ない。

 

 翔ける――機体が線になって見える程に空を翔けた。

 

 限界までスラスターを稼働させて。

 コックピッド内が激しく熱せられるほどにコアが動き続けていた。

 切り札の一つを使ったことで、機体のダメージは回復できたが。

 心臓が未だに鈍い痛みを発していた。

 それを無視するようにペダルを踏みつけてレバーを操作し機体を回転させる。

 奴の放つ黒色の弾丸を避けながら、此方もブレードを振るって斬撃を飛ばす。

 

 真っすぐに飛翔する斬撃。

 機体の性能を三倍にまで引き上げた一撃だ。

 それを奴は片手のエネルギーブレードを展開して受け止める。

 真っすぐに伸びる細く研ぎ澄まされた刀のような形状のそれ。

 流天の刃とぶつかり合い、激しい閃光を発していた。

 

 ギリギリと奴の機体を押し込む。

 そのまま私は機体を旋回させて連続して三つの斬撃を放つ。

 白き刃が空を翔けていき、最初の一撃と重なり混じり合う。

 大きさを増したそれが奴の黒い刃に乱れを生じさせて――奴のセンサーが光る。

 

「――ッ!!」

 

 奴のエネルギーブレードが私の流天の刃を浸蝕した。

 それが奴のブレードに吸収されていき、奴の放つエネルギーの羽がより大きさを増した。

 

 奴の力が増大した。

 エネルギーを吸収し、それを自分の力に変換して見せた。

 奴の機体の特性は相手の放つエネルギー攻撃を吸収する事に違いない。

 

 

 ――分が悪い。明らかに、私にとっての天敵だ。

 

 

 私の攻撃はそのほとんどがエネルギーを纏わせたものだ。

 斬撃を飛ばす攻撃でも、接近戦での攻撃でもエネルギーを消費する。

 それら全てを吸収されるともなれば、この先の戦いでは明らかに劣勢となる。

 攻撃を繰り返す度に奴は強さを増していき、今まで以上の速度で増大したエネルギーをぶつけてくる筈だ。

 

 私は奴がブーストする瞬間に合わせるように機体を加速させる。

 明らかに速度が増しており、纏う空気も更に禍々しくなっていた。

 

 強くなっている。

 確実に時間が増すにつれて進化していた……だが、違う。

 

 アレは無理矢理に成長しているだけだ。

 明らかにベースとなった魂が苦しんでいる。

 それが放つ叫びは悲鳴に近く。

 痛みに苦しみ藻掻いているのが分かる……そこまでしてお前はッ!

 

 愛する人の為に命を懸けて戦う。

 その姿勢を私は否定しない。

 私だってもしも同じ立場であれば、同じ道を歩んでいただろう。

 それほどまでに愛とはその人間の全てを狂わせてしまう。

 

 アイツは自らの愛を貫く為に私の前に立っている。

 恐らく、このまま逃げ続けていても奴は時が経てば自滅する。

 だが、その滅ぶ時に何をするのかは私にも予想がつかない。

 愛する人の願いを叶える為に、奴が最後に取る選択は――”道連れ”か。

 

 敵も味方も巻き込んで消滅する。

 私であればそうするだろうと思えた。

 だからこそ、奴を仲間たちの下から引きはがしたのだ。

 もしも、こいつを仲間たちと共に向かい討てば必ず全滅させられる。

 

「……そうか。お前の任務はカメリアの守護ではない……”私の抹殺”か」

 

 奴の放つエネルギー弾を避けながら答えに行きついた。

 奴は答えない。ただ呪いのように殺意を言葉に載せるだけだ。

 理性がほとんど消えていて、精神が汚染されている。

 危険な状態であるが、その敵意や殺意は私にだけ向けられていた……やはりか。

 

 このまま奴の自滅を待っていれば、神の計画が成される方が速いだろう。

 他のカメリアの状況は一切不明だ。

 だからこそ、私が最初にカメリアを墜とす勢いで臨まなければならない。

 そうでなければ全てが手遅れになってしまう。

 

 奴は全てのエネルギー攻撃を吸収する――だったら、接近戦しかない。

 

 どうせ吸収されるのなら、接近戦にてダメージを与えてやればいい。

 私は数秒足らずで思考を完結させる。

 そうして、逃げるのを止めて機体を一気に反転させた。

 奴はそんな私に連続してエネルギー弾を放つ。

 私はそれをギリギリで回避し、そのまま流天を纏わせた斬撃を繰り出した。

 

 奴のエネルギーブレードとかち当たり、凄まじい光が目の前で迸る。

 その間にも私のエネルギーは浸食されていく。

 私は必死にその浸蝕に抗いながら、連続して奴に攻撃を放った。

 

 上下から、左右から――流れるように振るう。

 

 無数の閃光が迸り、粒子がはらはらと舞う――更に加速。

 

 私のブレードによる斬撃を奴は全て捌き切る。

 理性がほとんど消えた状態でも、私の太刀筋を見切るのは流石だ。

 もしも、理性が残っていた状態であればもっと厄介な敵だっただろう。

 そう考えながら、更に速度を上げて攻撃を続ける。

 

 徐々に浸食されていく流天。

 それを一気に切り捨てながら、私は奴のエネルギーブレードを上へとかちあげた。

 凄まじいスパークと共に奴の胴体ががら空きとなる。

 奴は片方の武装を此方に向けて――放つ。

 

 私はその攻撃を先読みし、ブーストしながらスライド移動をした。

 そうして、機体を回転させながらその遠心力を利用して奴に斬りかかる。

 攻撃を防ぐ術は無い。ブレードは中途半端な位置で止まっていた。

 そのセンサーだけは私をしっかりと見つめていて――怖気が走った。

 

「――ッ!!」

 

 一瞬、嫌な光景が見えた。

 

 私は本能のままに攻撃を中断しその場から離れた。

 瞬間、奴は自らを起点とし周囲に灰燼を一気に展開した。

 球体状に広がるそれは私の機体を焼き尽くそうと迫り――ギリギリで逃れた。

 

「はぁはぁはぁはぁ……危険だな」

 

 今の攻撃は全く予想だにしていなかった。

 アレはエネルギーフィールドに似た攻撃だった。

 だが、違いがあるとすれば全くの予備動作がない上に。

 そのエネルギーの熱量は遥かこいつの方が上だった。

 

 ……だが、違う。アレは奴の機体本来の攻撃方法ではない……っ。

 

 空中を移動しながら奴の機体を見つめる。

 機体の装甲は黒く汚れていて、ポロポロと表面の一部が落ちていた。

 明らかに自分自身にもダメージが入っている。

 予備動作がない上に強力な範囲攻撃ならば、弱点が無い筈がない。

 奴は自らのダメージと引き換えに先ほどの攻撃を実行した。

 

 傷ついた奴へと一気に迫る。

 弱った状態の奴であれば――奴のセンサーが強く光る。

 

 瞬間、奴の機体のダメージは一瞬で回復する。

 そうして、羽をばさりと広げれば周囲に灰燼の羽が宙を舞う。

 私はスローモーションに感じる世界で、その羽の一枚一枚を見ていた。

 

 かつてないほどの警鐘が心の中で鳴り響く。

 私はなりふり構わずに機体の全身に流天を纏わせた。

 瞬間、全ての羽が一瞬にして動き出して私の機体に殺到した。

 

「ぐああぁぁぁぁ!!!!」

 

 バチバチと機体を激しく打ち付けるそれら。

 流天へと当たったそれらがエネルギーを削り取るのではなく。

 浸蝕していきサンドリヨンと私自身の精神に強烈なダメージを与えてくる。

 

《――――ッ!!!!!》

「うあああぁぁぁぁ!!!?」

 

 頭が割れるほどの殺意と憎悪。

 呪いのような声が脳内に響き渡って。

 私は思わず両手で頭を押さえた。

 

 痛い、痛い、痛い痛い痛い痛い苦しい痛い苦しい苦しい苦しい痛い――あああぁぁぁ!!

 

「――っ!」

 

 私は自らの手の指を折った。

 鋭く強烈な痛みを受けて、一時的に思考が戻る。

 すぐ目の前では奴がエネルギーを増幅させて武装を向けて――私は機体をブーストさせた。

 

 一瞬で放たれた敵のエネルギー弾。

 私は精神汚染から逃れてその場から離れた。

 だが、少し遅れた事によって機体にそれが触れた。

 

「ぐぅぅぅぅ!!!」

 

 左足に触れたそれがゴリゴリと装甲を削っていく。

 機体が激しく揺さぶられながらも姿勢を制御し。

 その攻撃から逃れながら奴から距離を取る。

 荒い呼吸を整えながらシステムをチェックすれば……左足を持っていかれたか。

 

 半ばから失った左足。

 バランサーを調整しながら、私は空を翔ける。

 接近戦を仕掛ければ、先ほどのような即死級の攻撃が来る。

 遠距離からの攻撃であれば、全て奴に吸収されてしまう。

 

 奴の自滅を待つのは論外だ。

 遠距離からの攻撃もそればかりでは意味が無い――やはり、使うしかないッ!!

 

 三倍でもダメならば、その上の――四倍にする他ない。

 

 私は短い思考で決断を下す。

 体と精神が保つかは分からない。

 だが、これを使わなければ奴を倒す事は不可能だ。

 

 

 

 静かに息を吸い――カッと目を見開く。

 

 

 

「Access――quadruple overッ!!」

 

 

 

 機体全体にエネルギーが駆け巡る。

 バチバチとスパークしながら、機体のスペックが更に底上げされた。

 最早、スーツを着ていなければ火傷しているほどの熱を感じる。

 私は深く笑みを浮かべながら、機体を激しく操作した。

 

 一気に三回、機体を直角で曲げる。

 そうして、奴の死角から斬撃を飛ばした。

 

 奴はそれを纏わせた灰燼で受けるが。

 あまりの衝撃に機体が大きく押されて行った。

 私はそんな奴へとブーストで一瞬にして迫り――ブレードを叩きつけた。

 

《――ッ!!》

 

 奴の機体からくぐもったような声が聞こえた。

 私はそのまま全力でブレードを振るう。

 奴の機体の表面には亀裂が走って、そのまま奴は大きく弾き飛ばされていった。

 

「まだまだッ!!!」

 

 更に加速――奴に肉薄した。

 

 奴はブレードを振るって此方に攻撃を仕掛けてきた。

 私はそれをレバーとペダルを細かく動かして滑るように避けた。

 そうして、奴の真下から特大の斬撃を放つ。

 奴の機体の灰燼に阻まれるも、吸収するのが間に合わないほどに機体に罅が入っていた。

 それ確認しながら、私は奴から離れて機体を停止――ブーストする。

 

 

 刺突の姿勢で奴へと迫り――危機を感じた。

 

 攻撃を中断し、再び距離を取り――眼前に”赤い光が揺らめいていた”。

 

 

「――しまッ!?」

《死ねッ!!!!》

 

 

 

 奴がブレードを上段から振り下ろす。

 

 冷たい死の気配を感じて体が凍り付く。

 

 すぐそこに命を終わらせる一刀が迫っている。

 

 

 回避――間に合わない――攻撃――意味は無い――ならばッ!!

 

 

 機体の熱が一気に高まる。

 呼吸するだけで灰が焼き付いたような痛みを感じた。

 歯が砕けんばかりに噛み締めながら、私は全力でペダルを踏む。

 

 瞬間、目の前の景色が一瞬で切り替わる。

 飛んだ。たった一度の踏み込みで、奴の遥か後方へと飛んだ。

 体中が遅れて痛みを発して、がふりと血を噴き出す。

 

 これが限界を超えた――”五倍”の力。

 

 奴は私のエネルギーを全て吸収した。

 増大したエネルギーが耐えきれずに噴き出している。

 機体全体が悲鳴を上げているような不気味な音色を奏でていた。

 機体の表面には赤黒い線が血管のように這っていて。

 それが激しく鼓動し、奴は私へと飛び掛かる。

 

 私は機体全体を激しくスパークさせていた。

 そうして、奴を静かに見つめながら――翔ける。

 

 一瞬にして奴から距離を取る。

 瞬間、奴も速度を高めて私を追う。

 遥か上空を目指して飛行して、私と奴は白と黒のエネルギーを全身から溢れ出していた。

 

 私は奴を静かに見つめる。

 全身が痛みを発していて、気を抜けば意識がぶつりと消えそうだ。

 苦しくて辛くて……お前も同じなんだな。

 

 

「私の全力で――お前を眠らせる」

《ホザクナァァァァ!!!!!》

 

 

 ノイズ塗れの絶叫。

 それを聞きながら、私の両手のブレードを広げて空を舞った。

 何処までも飛んでいける。何処までも翔けていける。

 この太刀は目の前の敵を等しく終わらせるもの。

 

 決意を力に変え、愛する家族の顔を思い浮かべる。

 今も私の愛する弟は命を懸けて戦っているんだ。

 

 

 そんなアイツの――彼の元へ――行かなければならない――何故ならば――――

 

 

 

「私はアイツの――お姉ちゃんだからだァァァァ!!!!」

 

 

 

 流天の輝きが更に増す。

 身を焦がすほどの熱を感じながら。

 私は大空を翔けていく。

 そうして、成層圏の中で機体を翻し奴へとブレードを叩きつけた。

 

 奴も己が愛を力に変えて、そのエネルギーブレードを更にどす黒く発光させる。

 互いの想いを激しくぶつけ合いながら、私たちは互いを正しく見つめていた。

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