【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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213:想いを力に変えて(side:SQ)

 空に無数の光が迸る。

 まるで星の爆発であり、その衝撃が機体全体を激しく揺らす。

 黒と白の光が衝突し、二つの輝きが空に軌跡を描いていった。

 敵である代行者の女は叫び、羽を大きく広げて加速。

 激しい音を奏でる敵のブレードが蠢き、迫り来るそれを愛剣で迎え撃つ。

 

 空中でぶつかり合い、互いに得物を振るう。

 瞬きの合間に互いのブレードが残像を生むほどにぶつかり合った。

 弾き、受け流し、逸らし、突き――互い攻撃の先を読む。

 

 何百何千という斬撃を繰り出して、互いに敵の装甲を削っていった。

 切っ先が触れるだけでも装甲が溶かされ。

 相手も触れただけで装甲が弾き飛んでいた。

 

 触れて抉られ、装甲の一部がはじけ飛ぶ。

 パラパラとエネルギーの粒子が舞い。

 敵は叫ぶようにノイズ混じりの声で怒りを発散させていた。

 対する私はそんな奴を見つめながら、自然と声を出していた。

 

「お前の愛は伝わったッ!!! 退けとは言わないッ!!! 生きろとも言わないッ!! 悔いなく――死んでみせろッ!!!」

《黙れ黙れ黙れッ!!! 黙れェェェ!!!》

 

 奴の怒りが増大する。

 危険な光を放つ黒色のエネルギーは羽となって広がる。

 無数の羽が宙に散らばって、次の瞬間には私を追い掛けてくる。

 

 無数の黒い線が軌跡を作り。

 それらが奇妙な機動で迫って来た。

 触れれば最後、またあの時のよう精神が汚染される。

 強い危機感を抱きながら、私はレバーを強く握る。

 

 それを視界に入れながら、私は更に機体を加速させた。

 体中が悲鳴を上げていて、既に骨は何本も逝っていた。

 口からはだらだらと血が流れていて満身創痍で――それでも私はこいつと戦うと決めた。

 

 レバーとペダルを操作して機体を回転。

 追いつこうとする羽を回避しながら、ブレードにエネルギーを纏わせる。

 そうして、何度も振り斬撃を飛ばしてそれらを掻き消した。

 最後の羽を払いのければ、奴が私の飛ばした斬撃を弾きながら突進してくる。

 奴は攻撃をするでもなく私の機体に体当たりをして――

 

《何故死なないッ!! 何故抗うッ!!! お前たちが神に敵う筈などないッ!! 苦しむ時間を延ばす事に何の意味があるッ!!》

 

 奴は叫んだ。

 ほとんど理性が無くなっている筈だ。

 それでも今の言葉には此方への気遣いを感じた……そうか。

 

 こいつも私と同じで、相手の気持ちを理解したんだ。

 そして、思わず口から言葉が出ていた。

 同じ愛の為に戦場に立った者同士。

 互いに思い遣る心が残っていたんだ――だからこそ、私はその言葉を否定しなければならない。

 

 両腕を動かして、奴の羽による攻撃を弾く。

 そうして、奴の機体に膝蹴りを浴びせて離れた。

 

「それは違うッ!!! 私たちは負けないッ!!! 必ず勝つッ!!!」

《何を根拠にッ!!!》

 

 奴の言葉に、私は張り裂けんばかりに叫ぶ。

 

 

「――信じているからだッ!!! 世界で一番愛しい弟の事をッ!!!」

《――ッ!!》

 

 

 私は信じている。

 弟は、ナナシは――絶対に勝つと。

 

 アイツは言っていた。

 必ず勝つと。

 どんな方法を使ってでも、最後に勝つのは自分たちだと。

 そんな弟の言葉を姉である私が信じないでどうする。

 

 例え、危険な懸けであっても。

 私の魂が跡形もなく消え去る結果になったとしても。

 私は最後まで弟を信じて共に戦う。

 

 私は血を流しながら笑みを浮かべた。

 あぁ、そうだ。信じる。

 他の誰でもないアイツの事を私が――信じてやるんだ。

 

「例えこの身が朽ち果てようともッ!! 愛する人を信じて共にあれたのならば――後悔はないッ!!!」

《――だったらッ!!! その愛諸共、私が此処でお前を消し去ってやるッ!!!》

 

 奴は更に加速して私の機体を追い抜いた。

 

 そうして、遥か上空で停止してから一気にエネルギーを増幅させていった。

 膨大するエネルギーは一瞬にして大きく膨れ上がっていく。

 それはまるで、巨大な星のようになっていった――まずいッ!!

 

 機体を停止させて後ろを見る。

 遠く離れているとはいえ、その射線上にはカメリアがある。

 障壁を破壊できるのなら良いが、敵と味方を全て巻き込んでしまう。

 すぐに味方たちを退避させようと通信を――何ッ!?

 

 通信が繋がらない。

 味方たちに声が届かない。

 恐らく、この光に何名かは気づいている筈だ。

 しかし、通信を妨害されて連携が取れなくなっている今。

 彼らは敵の猛攻を退けて退避する選択を取れない。

 もしも、敵に背中を見せれば確実に殺される。

 

 

 

 つまり、あのエネルギーを私が避ければ――”仲間たちは全員死ぬ”。

 

 

 

「……考えたな」

《さぁどうするッ!!! 避ければお前の仲間は全員死ぬッ!!! 後味の悪い勝利とちんけな偽善の何方を取るかッ!!》

 

 奴は狂ったように叫ぶ。

 アイツは死ぬ気だ。

 もうほとんど魂は形を保てなくなっているんだろう。

 だからこそ、最期に私を試そうとしている。

 

 私の愛が本物であるのか。

 私が望む勝利をそれで勝ち取れるのかを――ならば、受けるしかあるまいッ!!!

 

 私はブレードをクロスさせる。

 そうして、全身にありったけの流天を纏わせた。

 練り上げ高め、更に増幅させていく。

 機体全体が激しく振動し、バチバチと激しくスパークしていた。

 限界を超えて自らの意思を研ぎ澄ませていった。

 

 エネルギーの性質変化とは。

 己が心によってその性質を変える事を指す。

 

 破壊に呑まれ全てに呪いを振りまければ、その色は淀んだ黒となる。

 だが逆に、誰かを守り救いたいと願えばその色は澄み切った白となる。

 

 己が心を正しきあり方に変える。

 誰かを呪うのではない。

 誰かを守りたいでもない。

 

 

 ――私の今の心はただ一つの愛する家族の為に。

 

 

 アイツはもう私がいなくとも一人で戦える。

 私が守ってやらなくとも、一人で走っていけるんだ。

 

 出会ってからそれほど時間は経っていない。

 周りから見れば、弟だ何だと言ってもその程度だと笑われるだろう。

 

 だが、それは違う。

 人の愛とはその人間と過ごした時間で決まるものじゃない。

 その人の事をどれだけ信じて、どれほど一緒にいたいのかと思える心だ。

 例え血の繋がりが無くとも、例えアイツが私を姉だと思っていなくとも、私は――

 

 

 

「――ナナシのお姉ちゃんでありたいんだッ!!!!」

《――ッ!》

 

 

 

 流天の輝きがより一層増した。

 体を包み込む優しい光。

 体が心から温まるような熱を感じれば。

 今まで感じていた痛みや吐き気がすぅっと収まっていった。

 傷が治っている訳ではない。

 だが、この光が私を戦えるようにしてくれていた。

 

 ありがたい――これで私は全力を出せる。

 

 奴のエネルギーは空を覆いつくほどに広がっていった。

 その中心にいる奴は機体をゆっくりと自壊させていた。

 奴は天を仰ぎ見ながら、全ての憎悪と殺意を込めて叫んだ。

 空間が激しく振動し、常人であれば命を失うほどの凍てつくようなオーラを浴びせられる。

 私はそれに耐えて奴に向かって羽ばたいていった。

 奴もゆっくりと降りてきて、巨大な星のような灰燼の塊となって振って来る。

 

 近づくにつれて私の流天が剥がされそうになる。

 それでも、私の愛に応えてくれたサンドリヨンは更に流天の輝きを増やした。

 一条の光となり天を翔けて、私はブレードをクロスさせながら強く歯を食いしばった。

 

 

 眼前が全て黒い光に染まる。

 そうして、ぶつかり合った私と灰燼の塊は激しく閃光を迸らせた。

 

 

 熱い、熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い熱い――強烈な熱だ。

 

 

 激しく渦を巻くような負の感情。

 ブレードが触れただけで奴の力が私をのみ込もうとしてくる。

 私の愛を全て黒く染め上げて無に帰そうとする奴の心。

 それを拒絶し、私は全力で機体のスラスターを噴かせた。

 

 少しでも気を抜けば、一瞬で機体は消滅させられる。

 少しでも意識を削がれれば、私の流天を突破されてしまう。

 

 精神汚染の波動に耐え、じりじりと押し込まれて行く機体の腕を限界を超えて押し込み続けた。

 サンドリヨンの機体装甲に罅が入る音が聞こえた。

 システムは機体の出力が不安定になっている事を告げる。

 マニュピレーターの関節が限界を感じて、機体の各部から煙が上がっている。

 コックピッド内は真っ赤になっていて、焼き切れた回路がスパークしていた。

 

 頑張れ、頑張れ。

 サンドリヨン、お前は私の愛機だ。

 お前とずっと多くの苦難を乗り越えてきた。

 共に傷つき、共に成長し、共に多くの障害を突破してきた。

 

 どんな敵であろうとも、どんなに数が多くとも――お前は成し遂げて来た。

 

 脳が熱い。

 鼻から何かが流れていき、ぼたぼたと落ちていく。

 私は口にそれが入るのも気にせずに笑みを深める。

 レバーを強く握りしめて、私は相棒に声を掛けた。

 

 

「サンドリヨン、一緒に戦おう」

《――》

 

 

 ――コアが奏でる音が少し高くなる。

 

 

「サンドリヨン、共に死地へ向かおう」

《――!》

 

 

 ――スラスターから噴き出す流天の勢いが高まる。

 

 

「サンドリヨン、私はお前を――愛しているッ!!」

《――!!!!》

 

 

 ――センサーが強く発光する。そして、私は愛機の声を聞いた。

 

 

 

「――アクセスッ!!! セェクステュゥープルッ!!!!」

 

 

 

 機体全体が叫ぶような音を奏でる。

 瞬間、サンドリヨンは光そのもになった。

 流天が増大し研ぎ澄まされて、私は大きく目を見開いてペダルを全力で踏む。

 瞬間、巨大な灰燼の塊が大きく凹む。

 私とサンドリヨンは一気にその中を突き破っていった。

 

 バラバラと機体の装甲が崩れていく。

 センサーの映像が激しく乱れるが――見えている。

 

 サンドリヨンの意思が、私に敵の位置を正しく認識させている。

 吹き荒れる憎悪の暴風を超えて、私は中心で揺れ動く奴を捉えた。

 最後の力を振り絞り、流天を纏わせながら私は強く叫んだ。

 

 

「これがッ!!! 私たちの――愛の力だァァァァ!!!!!」

《――ッ!》

 

 

 奴にブレードが当たる。

 奴は全ての武装で私の攻撃を防ぐ。

 しかし、耐える事が出来ずに奴のブレードは砕け散った。

 ライフルもぱきりと罅が入り、ガラスのように砕け散る。

 奴を守る羽も私の流天で掻き消されて――奴のコアに届く。

 

《そんな――そんな筈は――私は、私は――ルイス様に――ッ!!》

 

 奴の声が聞こえた。

 私はそれを無視して機体を更に押し込んだ。

 奴の機体全体に大きく亀裂が走り、奴のコアに罅が入った。

 それを見つめながら、私は奴に対して最後の言葉を贈る。

 

 

「お前は強い。お前の愛は紛れもなく本物だった――あの世でお前が愛した人の話を聞かせてくれ」

《――――馬鹿な、奴だ――――こっちには、来るな――――お前になんて、会いたくない――――》

 

 

 声が掠れていた。

 だが、一瞬だけ笑っていたように聞こえた。

 私はそんな奴の最期の言葉を聞き届けて、更に機体を加速させた。

 

 スラスターから圧縮されたエネルギーが勢いよく噴き出し。

 私のブレードは奴の機体にめり込む。

 そうして、奴のコアと機体全体に広がる亀裂が大きくなって――突破した。

 

 奴の機体を穿ち、私はそのまま上空へと飛ぶ。

 砕けた奴の機体はパラパラと舞い、そのまま灰燼となって消えていった。

 本体を失ったことで、空を覆いつくすほどのエネルギーが粒子となって消えていく。

 私は遥か上空で機体を制止させてから、空を舞う黒い光の粒たちを見つめていた。

 

 遠く離れたカメリアの障壁も消えて行っている……終わった。

 

 代行者の名前はセラ・ドレイク。

 名を聞かずとも奴との戦いで奴の心は伝わっていた。

 その中には、奴の愛する男との思い出もあった。

 奴の過去は凄惨なものであり、そんな中で出会った奴だけが彼女の唯一の光だった。

 

「……もしも、出会い方が違っていれば……いや、そんな未来は無かった」

 

 私たちは敵となる運命しか無かった。

 もしも、この運命ですらも神が定めたものであったのなら……。

 

 私はレバーを握りしめる。

 神との決着をつける。

 その為に、私たちは無数の屍を超えて来た。

 

 くそったれな運命も、奴の駒としての生も必要ない。

 

 私たちは抗う。

 アイツの好きなようにはさせない。

 これ以上、悲しむ人間を生まない為にも。

 この世界を正しいあり方にする為にも――私たちが決着をつけるんだ。

 

「……っ」

 

 流天を解除した瞬間に全身を痛みが襲ってきた。

 凄まじい激痛であり、今にも意識を失いそうだった。

 機体も見えてはいないが、腕などは取れかけている筈だ。

 コアも今にも止まりそうなほど音が弱弱しい。

 私は必死に呼吸をしながら、聞こえてくる声に耳を傾けた。

 

《――ま――さま――SQ様ッ!!》

「……ラント、か?」

《あぁご無事でしたか! カメリアの障壁の喪失を確認しました! 味方たちが総攻撃仕掛けています! 直に、作戦目標を破壊できるでしょう! 今、そちらに向かっています! すぐに治療と機体の整備を――》

 

 ラントの声を聞きながら私は薄く笑う。

 私の任務はこれで一つは達成できた。

 次は本命となる神との戦いだ。

 私はゆっくりとパイロットスーツの上からナナシに貰ったものを撫でる。

 中身は何かは分からないが、弟は絶対に肌身離さず持っていてくれと言っていた。

 他の仲間たちにも渡していたが、これは後で絶対に必要になるとも言っていた。

 

 大切なものであり、私はそれを撫でる。

 

「……今すぐに、行きたいが……少し、眠い……すまん。ナナシ……少し、遅れそう、だ」

 

 私は遠くから向かってきている輸送機を見つめる。

 そうして、朦朧とする意識の中で輸送機を目指して移動を始めた。

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