【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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214:時よ戻れ

 敵の間合いに入り――刃を発生させた。

 

 アクセスの力を使い、纏う白銀の力を変質させる。

 一瞬にして千を超える白銀の斬撃を奴に向けて放てば。

 ベン・ルイスは霞のように機体を消す。

 それは幻術でも精神攻撃によるものでもない――純粋な速度だ。

 

 背後からの静かな殺気。

 それに反応し、俺も速度を高めてその場から離れる。

 炸裂音が響き空を飛翔する奴の灰燼。

 光の線となり蠢くそれが一瞬にして眼前に迫り。

 俺は手にしたエンドポイントの弾を放つ。

 迫って来たそれらを飲み込み、ベン・ルイスの機体へと降り注ぐエネルギーの本流。

 それを受ける奴は何もせずに――消えた。

 

 死んではいない――奴の力を感じる。

 

 すると、四方八方から奴の生み出した影が襲い掛かって来た。

 俺は静かに目を細めて、”彼ら”に命じる。

 瞬間、奴の放った攻撃を弾き俺を守る十三体の英霊たちが躍り出た。

 彼らはそのまま奴の影を弾き飛ばし、奴らを滅ぼさんとブレードを振るっていた。

 そうして、俺はエンドポイントの弾を虚空へと放つ。

 

 真っすぐに進む一条の光が何かに触れて飛び散る。

 そこから現れたのはベン・ルイスのオラースヴェルネだった。

 奴は纏った灰燼で俺の攻撃を掻き消し、くつくつと笑っていた。

 

 全て奴の機体による技だ。

 重力を操る事で奴は機体のスピードを一時的に高めていた。

 その結果、俺の目には奴が一瞬で移動したかのように見えていた。

 そして、先ほどのように姿を完全に消していたのは光を曲げる事によるものだ。

 光学迷彩ではない。それ以上の技術を用いた技であり、やはり侮れない敵だと感じた。

 

 最初の時の大技は恐らくはブラックホールのようなものだろう。

 そう考えれば、奴は重力に関するあらゆる技が使える事になる。

 そう、”全ての法則を捻じ曲げる”ような事すらも――奴が動く。

 

 見当違いの方向にエネルギー弾を撃ち込んだ。

 合計で四発の灰燼の弾であり、それが真っすぐに進み線となって――揺れ動く。

 

「――!」

 

 まるで、天に昇る竜のように蠢く。

 そうして、それが一気に中心へと集まったかと思えば。

 ぐるぐるとその場で勢いのままに回転を始めた。

 輪っかとなったそれがどんどん速度を高めていき、その内に内包するエネルギー濃度が高まっていく。

 加速を繰り返すことで熱量が上がっている。

 俺は危険を感じてそれに向かってエンドポイントによる射撃を開始した。

 

 白銀により相殺しようと放ち――直前で曲がる。

 

 大きく曲がったそれは天へと向かう。

 そうして、空中でそれが弾けて粒子が舞った。

 奴の力の影響を受けないと思っていたが。

 奴自身も時が経つにつれて成長しているのかもしれない。

 

 このまま時間を掛ければ掛けるほどに。

 奴は神から与えられた力に適応していく。

 もしも、完全に適合しその力を全て出せるようになれば……俺でも敵わないだろう。

 

 早々に決着をつける。

 そう考えながら、奴自身にエンドポイントの照準を向けて――激しく回転していたアレが音を奏でた。

 

 耳をつんざくような音であり。

 それが一気に膨張し、膨れ上がったそれが生き物のように蠢いていた。

 奴は手を動かしながら、それを俺へと向かわせる。

 凄まじい熱量を放つそれが俺へと牙を剥く。

 襲い掛かってくるそれから逃れながら、エンドポイントによる攻撃を見舞う。

 

 が、俺の攻撃は奴の体に弾かれ消えた――まさか!

 

 俺の攻撃をただのエネルギーが弾ける筈がない。

 だとするのなら、アレは灰燼では無いと言える……そうか。至ったのか。

 

 流天でも灰燼でもない。

 俺の白銀のように更なる高みに存在する物質に。

 奴の放つ灰燼は最早、通常のそれとは大きく異なる。

 殺意と破壊の概念そのものであり、アレはそう簡単には消せはしない。

 

 大きく口を開けながら、立ちふさがる全てを飲み込みながらどんどん大きさを増すそれ。

 喰らい消化し成長するかのように内包する負の感情も高まっていた。

 激しく空気が振動し、俺自身の手も痺れを覚えるほどだった。

 そんな恐怖の塊から逃げながら、俺はゆっくりと力を高める。

 

 エンドポイントに対してアクセスの力を行使。

 放たれる一撃を更に強化し研ぎ澄ませていく。

 練り上げ圧縮し、更に高めて貫通力を上げていった。

 エンドポイントはエネルギーを練り上げながら甲高い音を奏でる。

 それを聞きながら、俺は背面飛行で奴を見つめる。

 そうして、すぐそこに迫った漆黒の竜に向けて――放つ。

 

 一瞬だ。一瞬の強い煌めき。

 それが終わる頃には口を開けた竜を穿っていた。

 奴は飲み込んだエネルギーを吸収できずに体を膨張させる。

 そうして、内側から破裂したそれが衝撃波と共に周囲に熱をまき散らした。

 近くにいた無人機たちは一瞬にして塵も残さずに消滅し。

 離れていた味方から恐怖と困惑の感情が伝わって来た。

 俺はそれを無視して、浮遊するベン・ルイスへと迫る。

 奴は長大なハンドキャノンを俺へと向けていた。

 互いに高濃度のエネルギーを練り上げて――放つ。

 

 漆黒と白銀の光が衝突し、凄まじい熱が発生した。

 周囲に空間が大きく歪むほどで。

 時空すらも捻じ曲げてしまうほどのそれを互いに至近距離で受けながら。

 俺たちは互いに機体の目を通して相手を見ていた。

 

 奴の中で渦巻く破壊衝動。

 そして、俺の中で沸き立つ勇気。

 互いの感情が相手を刺激し成長させていく。

 俺たちは限界を超えてエネルギーを撃ち込んで――それが爆ぜた。

 

 まるで、無数のミサイルを撃ち込んだかのように巨大な爆発が発生した。

 中心にいた俺たちはその衝撃波を諸に受ける。

 機体が一瞬にして消し飛んでしまいそうなほどの衝撃だ。

 しかし、俺もベン・ルイスも機体全体にエネルギーを纏わせる事によってダメージを回避していた。

 遠く離れていた味方たちですらも、その衝撃波によって飛ばされそうになっていた。

 俺は心の中で彼らに謝りながら、衝撃波の中を突き進んでいった。

 

 視界を埋め尽くすほどの光と煙。

 まるで、雷雲の中のようにエネルギーが駆け巡ってスパークを起こしていた。

 そんな中でも、奴は動いていた。

 奴の魂を読み取り、そこに向けて連続して攻撃を放つ。

 奴はそれをブーストによって回避し、奴自身も攻撃を放ってきた。

 一瞬にして至近距離に迫るそれをギリギリで回避すれば。

 それが不自然な機動でねじ曲がり、死角から迫ってくる。

 俺はアクセスの力を使って羽を展開した。

 瞬間、機体の速度は更に高まり一瞬にして煙の中から飛び出す。

 奴自身も重力を操り加速していて、互いに限界を超えて大空を舞う。

 

 奴が連続して放つエネルギー弾。

 それらを機体を回転させて回避。

 蛇のように揺れ動き、速度を上げて追尾してきた。

 それを視界に入れながら、羽を大きく動かして一気に飛ぶ。

 触れあった奴のエネルギー同士は混ざり合い。

 肥大化したそれが眼前に迫る――目の前に障壁を展開。

 

 白銀のバリアを展開。

 それに阻まれた奴のエネルギーが一気に四散する。

 俺はそのまま奴を――いない。

 

 気配が完全に消えた――いや、違うッ!!

 

 気配も殺気も感じない。

 だが――そこだッ!!!

 

 すぐ真横に向かってエネルギー弾を放つ。

 遠慮なしの全力の攻撃であり、そこにいた何かはがりがりと削られていた。

 空間が歪み現れたのはベン・ルイスの――機体ではない。

 

「――これは!!」

 

 アレは無人機の中の一つ。

 ダミーであり――背中に何かが触れた。

 

《チェックッ!!》

「――っ!!!」

 

 背中から特大のエネルギーが降りかかる。

 機体の背中が激しい熱によって焼かれて行く。

 強化外装の装甲を溶断するほどの勢いで。

 俺は羽でそれを防ぎながら、機体を回転させた。

 

《――クゥ!!!》

 

 振り向きざまに奴に向かってエネルギー弾を放つ。

 碌な照準も定めていなかった。

 だからこそ、奴の脇腹を掠めるだけだ。

 それでも確かなダメージとなり、奴の機体が大きく弾かれた。

 

 システムの警告音を聞きながら、俺はスラスターをチェックし……まずいな。

 

 かなりのダメージだった。

 スラスターに異常は来していないが。

 パフォーマンスが一気に低下していた。

 俺はすぐさまに白銀の力を使って機体を修復し――

 

《甘いッ!!!》

「――くぅ!!」

 

 奴が眼前に躍り出た。

 そうして、機体事俺に蹴りを放ってきた。

 大きく機体が凹み、システムがダメージを報告。

 俺は奴からブーストによって距離を離し攻撃をした。

 奴はそれをひらりと交わし、銃を此方に向けて来た。

 

 俺は奴の攻撃を察知し、機体をスライドさせて回避した。

 が、すぐさまそれが軌道を変えて襲い掛かって来た。

 俺は舌を鳴らしながらそれから逃れて、エンドポイントにて打ち消す――キリがない。

 

 回復する間もなく奴は攻撃を仕掛けてくる。

 自分自身の回復もせずに、ひたすらに俺を追い込んできた。

 つまり、奴自身もこの戦いを長引かせる選択を取ろうとしていない事になる。

 

 ……恐らくだが、あの機体は此方以上にエネルギーを消費するのか。

 

 無尽蔵にエネルギーを生み出しているように見えるが。

 それを使い続ければ機体のパーツが酷使されて使い物にならなくなる。

 だからこそ、大技なども連続しては使えないんだ。

 もしも使えるのなら、ブラックフォールのようなものを幾つも作り出せばいい。

 

 ……回復は出来ない。だが、相手も同じなら……やりようはあるッ!!

 

 俺は羽へと回すエネルギーを更に増やす。

 それにより、失った性能をカバーするように羽が機体を軽くした。

 奴は笑みを深めながら、手にした銃を変形させた。

 そうして、エネルギーブレードを発生させながら奴は俺へと接近してくる。

 俺自身もエンドポイントをアクセスの力で変質させて、ブレードへと切り替えた。

 互いに接近し、一瞬にして斬り合う。

 

 無数の斬撃が繰り出されて、互いに機体が残像を生み出していた。

 一撃でも当たれば死が近づいて来る。

 だからこそ、互いに意識を集中させて攻撃を放ち続けた。

 

 斬って斬って斬って斬って斬り斬り斬り斬り斬り斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬――振るい続けた。

 

 互いに渾身の力を込めてブレードを押し込む。

 お互いのエネルギーがバチバチと反発しあい目の前で閃光が迸る。

 攻撃を通して奴の破壊衝動を感じていた。

 完全に吞まれてしまっている。

 植え付けられた別の人格に魂が塗り替えられようとしていた。

 俺は一か八かでそんな奴の精神へと干渉しようとした。

 アクセスの力で奴へと思念を飛ばし――掴まれる。

 

《殺せ、殺せ、殺せ、殺せ――殺せッ!!》

「ぐ、うぅぅ――此処まで精神がッ!!」

 

 かなり深く汚染されている。

 魂から溢れ出す黒い瘴気が亡者のような形を作り、俺の思念を追い出そうとしてくる。

 別の人格が殺意を振りまいて、灰燼の性質すらも歪めている。

 俺の白銀ですらも塗りつぶさんとする深さで。

 俺はそんな奴の手を振り払いながら、奴の中に眠るCKの兄を呼んだ。

 

「レオン・クラウンッ!!! 闇に染まるなッ!!! お前の父と弟は生きているッ!!!」

《壊せ、壊せ、壊せ、壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せッ!!!》

「これ以上、罪に怯えるなッ!!! 自分を過ちを認め受け入れて――お前が本当にしたかった事を思い出すんだッ!!!」

 

 俺は必死に叫ぶ。

 すると、奴の力が一瞬だけ弱まる。

 その隙を使い、俺は奴のブレードを弾いた。

 胴体ががら空きとなり、俺はそこに向かって機体を回転させて斬撃を――奴が避けた。

 

 が、攻撃は触れていた。

 奴の胴体部には大きな亀裂が走っていた。

 俺はそれを確認しながら奴を追う。

 

《ぐ、うぅぅ……無駄だ……私は、ベン・ルイス……神に仕える者……世界の破滅を……願う者だ》

 

 奴は苦しんでいる。

 だが、殺したと思っていた父と弟が生きている事実に反応した。

 まだ、奴に俺の声は届いている。

 俺はそう認識し、奴が放つ斬撃を避けながら必死に声を掛け続けた。

 

「レオン・クラウンッ!!! 失ったものは戻らないッ!! お前が殺した親衛隊のメンバーも、お前が殺してしまったシャンドレマの国民たちも蘇らない――でもッ!! 死んでいった人たちに報いる事は出来るッ!!」

《世迷言を……報いる事など出来ない。殺した人間たちは、命を奪った者を恨み続ける。人を殺すという大逆には、人の呪いでももって返されるのだ……救われない。お前も私も、永遠に》

 

 奴はそう言い切る。

 そうして、俺と同じように羽を展開した。

 黒く淀み切った漆黒の羽であり、俺はそれを見つめながら奴とブレードをかち当てた。

 

「それでもッ!! 罪から目を逸らすよりはマシだッ!!! 認めて受け入れて、少しでも多くの人の魂が報われるように生きる事こそがッ!!! 全ての命への救いになるんだッ!!! 死んで罪から逃れるなッ!!! 呪いなんかで全てを諦めるんじゃないッ!!! 本当に謝りたいのなら――今すぐその体を取り戻せッ!!!!!」

 

 俺は声の限りに叫ぶ。

 すると、ベン・ルイスから力の揺らぎを感じた。

 奴は力を一気に弱体化させる。

 そうして、一瞬だけ奴の思念が飛んできて俺に何かを伝えようとしてきた。

 

《――忘れるな》

「――!」

 

 レオンの思念を受け入れた。

 そうして、俺は両手を広げて奴へ飛び掛かる。

 その隙を使って、俺は奴に対して体当たりをした。

 

 奴の機体を掴みながら、ぐんぐんと速度を上げていく。

 カメリアから大きく離れて、そこへと戻っていった。

 一瞬して何十キロもの距離を超えて、すぐそこに地面が迫り――俺は奴から手を離す。

 

「レオンッ!!!!」

《――ッ!!》

 

 俺は奴の体に白銀を纏わせた斬撃を放つ。

 奴はそれを防ぐ事も出来ずに飲み込まれていった。

 奴の機体は一気に落下していく。

 そうして、勢いのままに地面に激突した。

 ガリガリと地面を滑っていき、障壁に阻まれて機体が止まった。

 土煙が舞い上がり、奴の機体からの力がどんどん弱まっていく。

 それを感じながら、俺は静かに上空から奴を見つめる。

 

 

《……あり、がとう……ナナシ、君》

「――! レオン?」

 

 

 小さく掠れるような声が聞こえた。

 それからは優しさを感じた。

 レオンの声であり、確かに俺の名を呼んでいた。

 俺はブレードを下げながら中心で立つオラースを見つめた。

 彼はボロボロの体で静かに俺を見上げる。

 そうして、笑みを浮かべるような息遣いで――

 

《ごめん……もう、僕は、ダメなんだ……》

「――!」

 

 オラースの動きが変化する。

 奴の周囲の空間がねじ曲がっているように見えた。

 何をしている。何をしようとしている。

 俺はそんな奴を見つめて、特大の危険を感じていた。

 だからこそ、レオンへの言葉も与えずに斬撃を飛ばす。

 

 

 

 中心で立っている奴は、謝罪をして――静かに言葉を吐く。

 

 

 

《時よ――戻れ》

「――!」

 

 

 

 奴の周囲の空間。

 否、全ての空間が大きく捻じ曲がる。

 まるで、パンの生地をこねて薄く引き伸ばすように全てが広がっていく。

 奴との距離が一向に縮まらない。

 奴がどんどん遠くなっていき、全ての景色が線となって――――…………

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