一瞬、意識が途切れていた――歯を噛み締める。
オラースへとブレードを押し込んだ。
力のある限り押し込めば奴も全力で退けようとする。
バチバチと激しくエネルギー同士がスパークし、宙に舞う粒子を見つめる。
互いの想いが形となり、エネルギーの性質を変えた結果だ。
それらが散っていくのを見ながら、俺は更に力を加える。
遥か上空、成層圏の中で互いに戦う。
限界まで。否、限界を超えて俺たちは戦っていた。
奴を真っすぐに見つめながら、俺は奴に――何だ?
違和感――妙な引っ掛かりを覚えた。
何かは分からない。
だが、同じような景色を見た気が――ッ!!
ベン・ルイスが機体の全身から進化した灰燼を放つ。
それの浸蝕を白銀で防ぎながら、俺も更に力を加えた。
激しい鍔迫り合いであり、気を抜けば一瞬で腕ごと持っていかれそうだった。
それに耐えながら何とかして突破口を開こうとする。
奴だって限界の筈であり、これ以上戦闘が長引けば機体そのものが保たないだろう。
必ず勝機はある。奴を倒せる隙がある筈であり、俺は白銀を勢いよくスラスターから噴き出した。
推力を力に変えて奴へと少しずつ迫る。
互いにエネルギーの鎧を纏いながら、相手の全てを塗り替えようとしていた。
考えている暇も、思考にふける余裕もない――彼に、レオンに呼び掛けるんだッ!!
「レオン・クラウンッ!!! 闇に染まるなッ!!! お前の父と弟は生きているッ!!!」
《壊せ、壊せ、壊せ、壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せ壊せッ!!!》
「これ以上、罪に怯えるなッ!!! 自分を過ちを認め受け入れて――お前が本当にしたかった事を思い出すんだッ!!!」
俺は必死に叫ぶ。
アクセスの力で彼の深層心理へと潜りながら。
その深い闇の中で抗う彼へと必死に声を掛け続けた。
すると、奴の力が一瞬だけ弱まる。
その隙を使い、俺は奴のブレードを弾いた。
思い切り勝ちあげた事によって、奴のエネルギーの刃は揺らめき両手は上に持ち上がっていた。
胴体ががら空きとなり、俺はそこに向かって機体を回転させて斬撃を――奴が避けた。
が、攻撃は触れていた。
奴の胴体部には大きな亀裂が走っている。
確かなダメージであり、傷口からは奴のエネルギーが噴き出していた。
俺はそれを確認しながら奴を追う。
奴の声が聞こえる。
うなされるような低い声で、必死に抗っているような様子だ。
《ぐ、うぅぅ……無駄だ……私は、ベン・ルイス……神に仕える者……世界の破滅を……願う者だ》
奴は苦しんでいる。
だが、奴の中に存在するレオンは殺したと思っていた父と弟が生きている事実に反応していた。
まだ、彼に俺の声は届いている。
俺はそう認識し、奴が放つ斬撃を避けながら必死に声を掛け続けた。
「レオン・クラウンッ!!! 失ったものは戻らないッ!! お前が殺した親衛隊のメンバーも、お前が殺してしまったシャンドレマの国民たちも蘇らない――でもッ!! 死んでいった人たちに報いる事は出来るッ!!」
《世迷言を……報いる事など出来ない。殺した人間たちは、命を奪った者を恨み続ける。人を殺すという大逆には、人の呪いでももって返されるのだ……救われない。お前も私も、永遠に》
奴の深層心理の深くに潜るが。
ぶわりと奴の破壊衝動が沸き上がって来る。
荒れ狂う殺意の波動の中で俺は藻掻きながらも、必死にその先にある小さな光に手を伸ばす。
奴は言い切った。
そうして、俺と同じように羽を展開した。
黒く淀み切った漆黒の羽であり、俺はそれを見つめながら奴とブレードをかち当てた。
「それでもッ!! 罪から目を逸らすよりはマシだッ!!! 認めて受け入れて、少しでも多くの人の魂が報われるように生きる事こそがッ!!! 全ての命への救いになるんだッ!!! 死んで罪から逃れるなッ!!! 呪いなんかで全てを諦めるんじゃないッ!!! 本当に謝りたいのなら――今すぐその体を取り戻せッ!!!!!」
俺は声の限りに叫ぶ。
すると、ベン・ルイスから力の揺らぎを感じた。
《――ッ!!》
奴の動きが一瞬止まる。
体が硬直しており、奴の相反する二つの魂が反発しあっているのが分かった。
奴は力を一気に弱体化させる。
漏れ出してた灰燼が勢いを衰えさせていた。
そうして、一瞬だけレオンの思念が飛んできて俺に何かを伝えようとしてきた。
《――”忘れるな”》
「――!」
忘れるな――彼はそう言った。
その言葉を聞いた瞬間に、俺の頭の中に何かが勢いよく流れて行った。
ほんの一瞬。一秒もかからずにその何かは消えていった。
俺は全てを理解し、アクセスの力を使い”思念”を飛ばす。
一秒にも満たない時間。返事も待たずに、俺はすぐに奴へと意識を戻しカッと目を見開く。
レオンからの思念を受け入れた。
そうして、俺は両手を広げて奴へ飛び掛かる。
奴は苦しそうに藻掻いていて、俺はその隙を使って奴に対して体当たりをした。
機体全体から白銀を迸らせて、片手を向けてそれを”遠くへ放つ”。
そうして、奴をがっちりと固定しながら更に機体を加速させる。
ぐんぐんとスピードを上げながら、俺たちはカメリアへと戻っていく。
成層圏から脱し、世界の中心にあるカメリアが見えて来た。
そこには未だに障壁が展開されていて、味方たちは離れた場所から攻撃を行っていた。
敵の数と味方の数を確認し、そのまま奴を障壁の前へと運んでいく。
奴は必死に藻掻いていて、機体全体から灰燼を迸らせていた。
機体が焼かれるような熱を帯びる。
白銀で防いでもこの距離であればじわじわと内部へ浸蝕してくる。
精神を汚染する不気味な言葉が脳内に響き渡って。
俺はそれを自前の精神力で耐えながら、目標ポイントの上空で奴の機体を蹴りつけた。
「ベン・ルイスッ!!!!」
《――ッ!!》
ブレードに白銀を纏わせる。
輝きを増したエネルギーの刃が形成されてそれが伸びていく。
そうして、勢いのままにそれを振る下ろせば、ベン・ルイスのオラースへとかち当たった。
《――あああぁぁぁぁ!!!!!?》
オラースの装甲の表面が焼きただれていく。
ズクズクに装甲が溶けていき、奴は痛みにもだえ苦しんでいた。
そんな奴を見つめながら、俺は更に力を込めて――刃を障壁へと叩きつけた。
奴は機体全体でそれを受け止める。
苦しそうな声を上げながら勢いのままに地面に激突した。
ガリガリと地面を勢いのまま削っていく。
そうして、障壁が激しく振動しながらも俺の刃をそれは耐えていた。
奴自身はそのまま障壁まで転がっていき、激しい衝突音を上げながら強制的に停止していた。
ぶつかった瞬間に、激しい突風が巻き起こった。
俺はそれを白銀の羽で防ぎながら、その場で静止していた。
煙が濃い……奴は身動き一つしない。
《……》
「……やった、か?」
ジッと奴が座る場所を見つめる。
砂煙がひどく見えないが。
そこには確かに奴の反応がしていた。
弱弱しく吹けば消える暗黒の火であり。
それは静かに揺らめいて小さくなって――消えた。
俺は静かに目を閉じる。
そうして、レオン・クラウンに対して言葉を送った。
「ありがとう――”お前に救われた”」
《――ッ!!》
そう呟いた瞬間に、俺の背後から凄まじい光が迸った。
轟音と共に天より飛来する雷が如き閃光。
遥か上空から放たれた極太の赤黒いエネルギー弾であり。
そこには進化したカグツチを見に纏うワンデイの姿があった。
一つであった砲身は二つに増加されて。
それに合わせるようにコアの数自体も増産していた。
コア自体もハーランドの人間たちが作りあげた最新のものを組み込んでことによって。
エネルギーの精製効率も飛躍的に上がり、継戦能力も3.2倍にまで引き上げられた。
機動力も損なわれる事無く進化したそれは、イザベラのパーソナルカラーのワインレッドに塗装されて――俺は頷く。
極大のエネルギーに身を焼かれながらも不意を突こうとしたオラースは何とかそこから抜け出す。
機体はボロボロであるが、白銀では無かったからこそしぶとく生き延びていた。
そうして、此方へと形状を戻した銃を向けて――背後から斬撃を放たれた。
《――ッ!! お前はァ!!!》
「忘れてたか? 兄さんならそんなミスはしないよッ!!」
”白銀を纏った”CKの機体。
ぶっつけ本番で俺がSQの能力を真似て飛ばした思念をイザベラとCKは正しく受け止めてくれた。
そうして、俺が空から撃ちこんだ白銀をCKは受け取ってくれた。
彼はそれをブレードに纏わせて、死角からオラースを攻撃した。
不意を突かれた奴は怒りを露にしながら、CKを攻撃しようとして――俺は奴の前に飛んだ。
「CKッ!!!」
《ナナシ君ッ!!!》
《――ッ!!》
互いに白銀を纏う。
そうして、息を合わせるように連携攻撃を仕掛けた。
奴は一瞬にして得物を再びブレードに切り替える。
そうして、此方の連撃を捌こうとしてきた。
俺たちは一太刀一太刀に強い想いを込めた。
必ず勝つと。勝って、この世界を守ると――強く願う。
瞬間、俺たちの纏うエネルギーは輝きを増した。
そうして、更に速度を上げて奴へと斬撃を放つ。
奴は俺たちの攻撃を捌き切れていない。
攻撃が奴の防御を突破して、灰燼で守られた装甲に傷をつけていった。
斬る斬る斬る斬る斬る斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬斬――斬り伏せるッ!!
《ぐ、うぅぅぅぅぅ!!!?》
「――ッ!!!
千を超え万を超えて放たれる斬撃。
無数の像が生まれて、俺たちは機体のスペックを超えていく。
機体が、コアが俺たちの想いに応えてくれていた。
限界なんて無い。俺たちは自由であり――何処までも行けるんだ。
強い想いと願いを力に変えて。
俺たちは奴へと斬撃を放ち続けた。
奴は機体に無数の傷を作り、その傷口からは内包された漆黒のエネルギーが噴き出す。
何度も何度も、全ての力を出し切るほどに――振るい続けた。
俺たちは叫ぶ。
全力で叫びながら、全ての力を振り絞った。
奴は俺たちの気迫に押されて――周囲に灰燼を発生させた。
「――ぐぅ!!」
《クソッ!!》
球体状に広がるエネルギーの波動。
防御の姿勢を作り、俺たちはそれをギリギリで凌ぐ。
奴を見れば姿を消していた。
奴は今の攻撃で隙を使って俺たちから逃れていく。
俺はCKとイザベラに思念を飛ばし、アクセスの力で”情報”を浮遊させる。
奴は英霊たちの相手をしている影を呼び寄せようとしていた。
影は英霊の攻撃を回避し、目くらましのエネルギー弾を放つ。
英霊はそれに追尾されて動けず。フリーになった影はベン・ルイスに迫る。
回復するつもりだ。アレを吸収して、一時的に力を戻すつもりで――空から再び極太の光が放たれた。
影は光に呑まれて、奴は危機を察知してギリギリで避けた。
奴は怒りを露にしながら、イザベラへと一瞬で迫る。
彼女は薄く笑みを浮かべながら、奴に言葉を贈る。
《間抜け――私に構っていいのか?》
《――ッ!!》
浮遊させた情報の塊を操作する。
ぶわりと殺気を放たせれば、奴はすぐにそれに反応した。
オラースが下を見た。
しかし、そこに俺たちはいない。
「――シィ!!」
俺たちはイザベラの背後から躍り出る。
奴が影を吸収しに向かった瞬間に俺たちはイザベラの背後に移動した。
情報だけをその場に固定させてな――終わりだッ!!
奴はすぐに反応できない。
俺たちはそのままブレードを奴のコアに突き刺す。
機体全体から白銀を放ち、それをブレードの切っ先に集めていく。
銀色の輝きが切っ先に集まり、大きく強い光となって周りを照らした。
奴の灰燼はその光を浴びて溶けるように消えていく。
俺とCKは互いに全ての力を振り絞ってブレードを押し込む。
「ベン・ルイスッ!! お前の負けだッ!! お前は俺たちに負けたんじゃないッ!! レオン・クラウンに負けたんだッ!!」
《馬鹿、なッ!!! あり得ないッ!! 奴は私で、私は奴をッ!!!》
《違うッ!!! お前は兄さんじゃないッ!!! 兄さんは最後まで僕たちと共にあったッ!! お前なんかに兄さんの意思は穢させないッ!! ベン・ルイスッ!! お前は兄さんに負けたんだッ!! 兄さんの強い意志と願いが、お前に打ち勝ったんだッ!!》
二人で更にブレードを押し込む。
その瞬間に奴の機体全体に亀裂が走る。
奴は必死に抗うが、もう逃れる術は無い。
奴は必死に頭を振りながら、俺たちの言葉を否定する。
《違うッ!! 違う違う違う違う違う違う違う違う違う――私は誰にも負けていないッ!! 私は、私は、私はァァァ!!!!》
奴の言葉を無視する。
そうして、全力で叫びながら奴へとブレードを更に押し込んだ。
CKと俺のブレードがゆっくりと奴のコアに刺さり――貫く。
奴はその瞬間に機体の制御を失う。
俺たちはそのままスラスターを噴かせて――奴の体を突き破った。
《――――ッ!!!!!!》
奴の絶叫が響き渡る。
そうして、全身から灰燼を放ちながらその体を消滅させていった。
俺たちはブレードを払いながら、互いに地面を滑るように移動した。
ゆっくりとその場に停止し、俺は奴が消滅したその場所を見つめた……今度こそ、終わりだ。
「はぁはぁはぁはぁはぁはぁ……CK、満足か?」
《……どうかな……でも、僕にも兄さんの声が聞こえた気がしたよ……ありがとう。ナナシ君》
奴はゆっくりとブレードを持った拳を突き出してきた。
俺はそれに応えるように拳を突き出してこつりと当てた。
ベン・ルイスの火は完全に消えた。
これで、中央のカメリアの最大の脅威は消えた……っ!
システムが知らせを送って来た。
それを受け取れば、それぞれのカメリアにて目標の破壊を達成したと報告が来ていた。
未だにDQからは一切メッセージは届いていないが……生きてはいるな。
彼の反応を探れば、生きている事が分かる。
ただ少しその火が揺らいでいた。
恐らく、何者かと激しい戦闘を繰り広げているのだろう……きっと大丈夫だ。
四つのカメリアの内、三つは墜とした。
それにより、神の計画は大幅に遅らせる事が出来ただろう。
後は中央にアクセスし、神の元へと行けば……?
《どうかしたのかい? ナナシ君》
「……変だ。ベン・ルイスが死んだのに……何で、”障壁が壊れない”んだ?」
《……!! まさか!!》
CKが何かに気づく。
すると、英霊たちの反応が一瞬にして消えた。
慌てて視線を向ければ、そこにはベン・ルイスが解き放った影たちが浮遊していた。
それぞれの影の力が増大していて、胴体に風穴を開けられた英霊たちは静かに消えていく。
奴らは禍々しいオーラを発しながら、一瞬にして一つに重なっていった。
影たちの空気ががらりと変わり――”ベン・ルイスの反応が復活する”。
奴は蘇った。
それもほぼ全快の状態でだ。
奴はくつくつと笑いながら、武装を消して両手を叩く。
笑っていた。
この状況を心の底から楽しんでいる。
奴は次元が違う。明らかに他の神の機体とは一線を画している。
《凄いじゃないか。まさか、私を”二度”も殺すなんて……だが、私もこれ以上の戦闘は出来ない。私は無事だが、この機体はもう限界を超えている……あぁ、ハッタリでもなんでもない。ただの事実だ》
「……だったら、どうするんだ」
《簡単だ。私の本来の願いを――叶えよう》
奴は徐に両手を広げた。
俺たちは何をするのかと警戒した。
すると、行き成り空が暗くなった。
太陽が隠れた。否、太陽を遮る”巨大な穴”が出現していた。
全てを飲み込む漆黒の風穴。
地獄へ繋がる大穴のように開かれたそれが全てを飲み込もうと蠢いていた。
俺はすぐに仲間たちの退避を命じた。
が、すぐそばにいた仲間たちは逃れられずに吸い込まれて行った。
戦闘機もメリウスも関係ない。全てを等しく飲み込み消していく穴。
闇より深いそれを見つめながら、俺はたらりと汗を流す。
激しく渦を巻くそれを見つめていれば、CKが一瞬して飛び立っていった。
彼は今の状況を一瞬で分析し、奴自身を今すぐに仕留めようと動いた。
しかし、奴は一瞬にしてその場から消える。
そうして、穴の前に移動してからゆっくりと語り掛けた。
《この大穴は私を殺すか、全てを飲み込むまで消えない……ゆっくりとこれは大きさを増していく。放っておけば宇宙全てを飲み込むだろう。君たちは私を殺す他ないだろうが。私はすぐにこの穴の中へ飛び込むよ。あぁ心配はいらない。私が生み出した穴だ。これと一体化するだけで私そのものは消滅しない……来るなら拒まない。だが、私を殺した瞬間にどうなるかは君たちなら分かるね? ふふふ、主には申し訳ないが……こういう幕引きが私は心の底から見たかったんだよ》
「――ベン・ルイスッ!!! 逃げるなッ!!!」
俺は叫ぶ。
しかし、奴の元へは飛べない。
あそこまで穴に近ければ俺は一瞬で引き込まれてしまう。
アクセスの力を使おうとも、アレを消すことも逃れる事も出来やしない。
奴はそんな俺を見つめながら、最後まで不気味な笑い声をあげてゆっくりと穴の中に吸い込まれて行った。
……まずい。かなりまずい状況だ……俺が行くのが一番だろう。だが、神の元へ行けるのは……っ。
白銀を纏っていなければ、あの穴の中では耐えられないだろう。
少なくとも、流天や灰燼でなければ数秒も耐えられないと思う。
そんな中へと飛び込ませるという事は……死んでくれと言っているようなものだ。
俺は必死に頭を働かせる。
しかし、時間が経つにつれて大穴は大きさを増していく。
英霊を呼び出すか――いや、意味は無い――懸けに出て奴を倒してアクセスで――リスクが大き過ぎる。
考えて、考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて――機体を小突かれた。
その小さな衝撃でハッとする。
すると、目の前にはCKの機体が立っていた。
彼は笑っている。しかし、彼から感じる視線は何かを覚悟した人間の視線で――まさか。
《……ナナシ君、君にお願いがある》
「――ダメだ。まだ時間はある。だから」
《まだ何も言ってないよ? はは……でも、それこそダメだ。今すぐに、僕にありったけのエネルギーを纏わせてくれ》
CKはあの穴の中に自らが飛び込もうとしていた。
それをすれば、CKは生きて帰って来る事が出来なくなる。
俺は迷っていた。CKであれば、ベン・ルイスを速やかに見つけて殺せるだろう。
彼には迷いはない。だからこそ、適任とは言える。
でも、彼は俺たちの仲間で神との戦いでもいてもらわなければ――彼の手がアンブルフの胸部に触れる。
《ナナシ、君は何故、此処にいる》
「……世界を救う為だ」
《そうだ。なら、この先の戦いでいなければならない存在は誰だ」
「……俺とSQ……でも、CKは」
《――それは違う。僕はいてもいなくても変わらないんだ。情なんかで判断を誤るな》
「……っ」
彼は淡々と事実だけを話す。
分かっている。彼が行くのが最も適していると。
だけど、こんな形で……こんな形で別れるなんて……そんなの……。
彼は笑う。
そうして、俺に対して言葉を送ってくれた。
《ありがとう。君と出会えて良かった。大丈夫さ。君たちなら絶対に神に勝てる……最後に僕の事を信じてくれないか》
「……っ……分かった……俺も貴方に会えて良かった……絶対に忘れない。貴方は俺の戦友だ」
《……戦友か……未来の救世主に言って貰えてとても光栄だ……さぁ始めてくれ》
CKは俺に白銀を流すように促す。
俺は静かに頷いてから、彼の成功を祈ってありったけのエネルギーを送った。
一度は送れたんだ。
手が触れているのであれば送る事なんて造作もない。
俺は彼の機体へと白銀を流し込んでいき――彼の機体は銀色の光で満たされた。
彼は両手を開け閉めしてから頷く。
そうして、静かに俺の下から離れていく。
腰を少し屈めてから、彼はスラスターを調整していた。
《……ナナシ君……もしも、もしもだ……エスティに……SQに会えたのなら……ふふ》
「……何だ。言ってくれ」
《……いや、何でもない……ストーカー行為はやめるようにだけ言っておいてくれ……まぁ止めないだろうけど》
「……分かったよ……っ」
俺は疑似レバーを握りしめる。
最後まで掴みどころのない男だ。
確実に死ぬと言うのにまるで恐怖を感じない。
最後に何故、SQに言葉を伝えたかったのかは分からないが……絶対に伝えるよ。
《それじゃ――また会おう。戦友》
「――あぁ絶対にな」
彼は勢いよく飛び立つ。
そうして、一条の光となって暗黒の中へと進んでいく。
彼の光が暗闇を照らし、俺はそんな光となった彼の機体を見続ける。
絶対に会おう。
来世でも、その次でも――俺はお前に会いたいから。