【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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217:名状し難きもの

「黒い穴が……消えていく……っ……CK」

 

 空を覆うほどに広がっていった漆黒の大穴が。

 縮小していき消えようとしていた。

 今まで感じていた身が凍り付きそうなほどの圧も消えている。

 それはつまり、CKがベン・ルイスを倒した事に他ならない。

 彼が帰って来る可能性は……無いんだ。

 

 俺はギュッと疑似レバーを握りしめる。

 もしも、もしも俺が行けたのなら……いや、ダメだ。

 

 俺が穴に飛び込む選択肢は無かった。

 CK以外に、ベン・ルイスを倒せる存在もいなかったんだ。

 彼の覚悟を無意味なものにしてはいけない。

 彼のお陰で俺たちは神との戦いに臨める。

 もう、俺たちの道を阻む者はいない。

 

「ありがとう……CK」

 

 近くに降り立つイザベラ。

 彼女は俺に仲間たちも準備が出来ている言う。

 周りを見れば、空間がぐにゃりと歪む。

 そこから現れたのは俺が転移装置を渡した仲間たちで……激しい戦いだったんだな。

 

 それぞれの機体を見れば分かる。

 破損が激しかったんだろう。

 パーツの交換などはしてあるが。

 深いダメージまでは完全に修復出来ていない。

 いや、それ以上にパイロットの消耗が激しい。

 

 中でも、SQの消耗が一番激しい。

 恐らくは、あの力を使ったんだろう……大丈夫だ。

 

 彼らには俺のとっておきを渡しておいた。

 これより神は姿を現し、俺たちは奴との戦いに臨むだろう。

 その時に、俺が渡したアレが彼らの助けになる筈だ。

 俺はそう信じながら、障壁が無くなったセントラル・カメリアを見る。

 

「……静かだな」

《……そりゃそうさ。あの穴にほとんどの敵は吸われちまった。残った奴らは私と他の仲間が掃除したからね。今此処にいるのは、私たちと生き残った精鋭たちだけだよ》

 

 仲間たちはぞれぞれの武器を手にして警戒している。

 最初に投入した戦力からかなり減っていた。

 転移装置で来た彼らを除けば、メリウスは百機にも満たないだろう。

 

 多くの仲間たちの犠牲があった。

 しかし、代行者たちは倒れ。

 今、神の座すセントラルの障壁も消えた。

 総攻撃を仕掛けるのは今であり、神が姿を現さないのであれば――!

 

 

 地面が揺れている。

 その揺れは徐々に大きくなっていった。

 全員が空へと飛び上がる。

 そうして、空中からセントラルを見つめた。

 

 

 都市一つ分の大きさのそれ。

 それが徐々に形を変えて行っている。

 建物たちがブロックのように動き始めて。

 その一つ一つが激しく動いていた。

 仲間たちは何が起きているのかと動揺していた。

 だが、俺には今から何が起きるのかが分かっていた。

 

 

「来るぞ……奴が戦う準備を始めた」

 

 

 今から奴は都市一つの形を戦闘の為の姿に変える。

 それが終われば俺たちは奴との戦闘を迎える事になる。

 だが、俺は此処でそれと戦う事は出来ない。

 事前に彼らに説明した通り、神を倒す為の方法は一つしかない。

 それは表と裏の両方の世界にて攻撃を浴びせ続ける事だ。

 何方か一方で倒しても意味は無い。

 何方の世界でも奴を倒さなければ、奴はすぐに復活する。

 

 奴が眠る場所は裏であり、此処は表の世界だ。

 裏にて存在する奴を叩かなければ、俺たちに勝利は永遠に来ない。

 だからこそ、唯一ノイマンとの繋がりで向こうに行ける俺とSQの内で。

 俺だけが向こうの世界へと渡り、奴との決着をつけてくる。

 SQには此処で仲間たちと共に戦ってもらう。

 

 俺はゆっくりとSQに視線を送る。

 彼女は俺が何も言わずとも理解してくれていた。

 俺は静かに頷いてから、変化する都市へと一気に接近した。

 

 此処は彼らに任せる。

 俺は俺の最後の任務を――果たすだけだッ!

 

 都市へと接近し、そこにある白い塔に突っ込む。

 アクセスの力を使い、奴の気配を探れば確かに存在していた。

 どんな存在よりも大きく、どんなものよりも力に満ちている。

 それへと道を繋げながら、俺は機体を粒子に変えていく。

 パラパラと機体も体も砂のように溶けさせながら、俺は白い塔へと入っていった。

 

 後方では仲間たちが俺に視線を向けている。

 誰もが無言であったが、彼らの視線から確かな信頼を感じた。

 

 大丈夫。俺は必ず神に勝つ。

 そして、俺は――――…………

 

 

 

 

 …………――――意識が戻る。

 

 全てが白に満ちた世界。

 穢れ無き清浄なる世界が目の前にある。

 何時か見た神が作りし世界であり、俺はゆっくりとアンブルフを下へと降下させる。

 

 地面らしきものが存在している。

 他の人間には分からないそれも俺の目にはハッキリと見えていた。

 そこに機体を着地させてから周りに視線を向ける。

 

 神の気配はしっかりと感じられている。

 全ての空間から奴の強いオーラが流れていた。

 もしも常人が奴と相対すれば一瞬で理性を失い茫然と立ち尽くすだろう。

 それほどの存在であり、流れるオーラですらも人にとっては強力な毒だ。

 

 俺は周りを見るのを止めた。

 そうして、視線の先へと目を向ける。

 そこには無数の黄金の鎖に繋がれた奴がいる。

 玉座のようなものに座りながら、奴はゆっくりと顔を上げた。

 

《やはり、至るか……間違ってなどいなかった。狂ってもいなかった……ノイマンは正しく、未来を見ていた》

「……っ!」

 

 奴は口を動かすことなく、俺の脳内に直接言葉を送り込んできた。

 そうして、繋がれていた鎖が音を立てて崩れていく。

 奴は自由となり、ゆっくりと玉座から立ち上がる。

 

 瞬間、奴の纏う空気が一変した。

 強力な波動であり、突風が吹いているような錯覚を覚えた。

 思わず、機体の脚部に力を込めてしまう。

 奴の放つそれは最早武器であり、それがカタカタと装甲に力を加え続けていた。

 

《神が動くことを禁ずる縛り。人間たちへの干渉は”特例”を除き行われない……お前は自らの意思で死にに来たのだ》

「……!」

 

 奴が天へと手を伸ばす。

 奴の言う特例とは、人間が神に対して危害を加えた場合だ。

 その可能性はほぼ無かっただろう。

 しかし、その特例を発動させる時は今だった。

 奴の命に手が届く位置にいる俺。

 つまり、奴はその力をこの瞬間だけは最大で行使する事が出来る。

 

 俺は動く事が出来ない。

 今動けば一瞬にして殺される。

 本能がそう理解していた。

 だからこそ、奴が行う事をジッと見つめていた。

 

 奴の翳した掌に赤黒いエネルギーが集まっていく。

 空間から溢れ出すそれらを奴は吸収していた。

 それはこの世界に生まれ落ち、死んでいった人間たちの”魂”だった。

 奴はそれを保存していて、今、それら全てを此処で使おうとしていた。

 

 無限にも等しいエネルギーだ。

 本来であれば、そんなものを使われれば勝機なんて万に一つもない――だが、違う。

 

 

「……力を貸してくれ」

 

 

 俺は彼らに呼び掛ける。

 すると、青いエネルギーが俺の機体へと流れ込んでくる。

 それは死んでいった異分子たちの魂であり。

 彼らは俺の声に応えて力を貸してくれていた。

 

 これが奴との勝負での切り札の一つ。

 奴が全ての人間の魂からエネルギーを得るように。

 俺も同胞である異分子たちから力を借りる事が出来る。

 ノイマンが用意した策の一つであり、それは正常に機能していた。

 

 奴はエネルギーを吸収しながら――くすりと笑う。

 

《……ノイマンの力か……それで私に勝てると思うのならば、使えばいい……死ぬ間際の後悔ほど意味の無いものはないがな》

「……後悔なんてしない……俺は一人じゃない。多くの仲間たちの意思によって此処に立っている……その意思の全てでお前の計画を打ち砕くッ!!」

 

 俺は同胞の力を白銀へと変える。

 バスターのスラスターから銀色の光が上がる。

 そうして、両肩には銀色の翼が広がっていった。

 奴はそんな俺を見ながら笑みを消す。

 

 

 

《ならば、示して見せろ。人の意思が、神の力を覆せるか――試してやろう》

「――ッ!」

 

 

 

 奴が吸収したエネルギーを一気に増幅させた。

 漏れ出したそれが巨大な波のようになって襲い掛かる。

 機体が激しく揺さぶられながらも前を見れば、奴がゆっくりとメリウスの形を作っていく。

 

 銀色の装甲を纏う人に近いシルエットの機体。

 その表面には黄金の文様が走っていた。

 丸みを帯びたシルエットに、メリウスとしては小柄な体形。

 まるで、人間の女性をメリウスにしたようなそれは優しさと柔らかさえ感じた。

 背中からは短い柱のような黄金の円柱が三本飛び出している。

 それが奴の背中にエネルギーの波動を発生させていた。

 虹のようでそうではない。不思議な色味をしたそれが背中から出ている。

 アレから凄まじい力を感じて、畏敬の念すら抱きそうだった。

 

 奴は体を丸めた姿勢から、ゆっくりと体を持ち上げる。

 奴は静かに両手を広げながら、何も無い顔を此方へと向けた。

 その顔にはセンサーも何もなく。

 銀河のようなものがその中で形作られていた。

 

 全てにおいて規格外。

 凡そ、人類が辿り着く事が出来ない何かだ。

 アレはメリウスでも人でもない。

 遥か高みにて全てを見下ろす者の衣であり。

 奴を見ているだけで本能が恐怖という感情を呼び覚ましてくる。

 

 怖い、怖い、怖い――意識を失いそうなほどの圧。

 

 規格外の化け物を前にして、理解しがたい感情に襲われる。

 しかし、俺はそれを抑え込む。

 そうして、仲間たちの意思と共に奴に挑む覚悟を決めた。

 

 

 これだ最後。

 これで未来の結果が変わる。

 世界を救うか。奴が世界を変えてしまうか……決着をつけよう。

 

 

 俺はエンドポイントを構える。

 奴は静かに両手を広げながら、首を傾ける。

 

 

 

《さぁ始めましょう――願いを形にする為に》

「――!」

 

 

 

 奴がそう言った瞬間に俺はエンドポイントのフルチャージ攻撃を仕掛ける。

 白銀を練り上げたそれ一直線に飛び。

 奴はそれを片手で受け止める。

 バチバチと凄まじいスパークが発生し、奴の周囲に膨大なエネルギーが流れていった。

 俺は歯を食いしばりながら衝撃に耐えて――!!

 

 怖気が走る。

 それを感じた瞬間に、俺は攻撃を止めてその場から飛びのく。

 瞬間、奴が受け止めたエネルギーを弾き返してきた。

 それも俺のエネルギーを更に高めた一撃だ。

 それが宙を舞い、一瞬にして消えていく。

 

 何も無い空間で放たれた一撃。

 しかし、その威力は見ただけで分かるほどに強力だ。

 

 やはり桁違いだ。

 今まで会ったどんな敵よりも強大で。

 比べる事自体がおこがましいと思えるほどの力。

 それを感じながらも、俺は奴の周りを高速で飛びながら連続して攻撃を放ち続ける。

 

 奴はその攻撃を見えない何かで受け止める。

 そうして、ノータイムで増幅し反射してきた。

 ギリギリでそれを避けながら、奴の圧倒的な防御力に舌を巻く。

 

 ……先ずはアレを突破しないといけないな。

 

 きっと何か仕掛けがある筈だ。

 この日の為に用意してきた切り札はまだある。

 それら全てを使って、必ず奴を倒す。

 

 俺は確かな決意を込める。

 そうして、奴が徐に手を上げたのを見て――全力で動く。

 

 ひらりと奴が手を動かせば。

 空間が歪み。一瞬にして無数のエネルギーが放たれた。

 凄まじい熱量のそれが空間を駆け巡り。

 俺はそれをギリギリで避けるが。

 その一つ一つは追尾機能があり、執拗に俺を追い掛けてくる。

 羽を纏わせた状態でも追いつけるほどの速さで――だったらッ!!

 

 俺はアクセスの力を使う。

 そうして、十三体の英霊たちを呼び覚ます。

 彼らは俺の意思に応えて、迫り来るエネルギーたちを剣にて打ち払う。

 彼らの間を縫うように迫ったものは、エンドポイントによる攻撃で相殺する。

 

 閃光――はらはらと粒子が舞う。

 

 奴の放つエネルギーは虹のような色だ。

 流天でも灰燼でもない。

 見た事の無い輝きであり、恐ろしい何かを感じる。

 だが、攻撃自体にはそれほどまでの脅威は感じない。

 恐らく、アレは防御に特化したものであり。

 あぁやって纏う事で真価を発揮するのだろう。

 そう冷静に分析しながら、俺は英霊たちに指示を出す。

 

 彼らは四方に散らばり、奴に対して攻撃を仕掛ける。

 それぞれの得物が奴に振るわれて。

 寸での所で目に見えない障壁に阻まれる。

 俺はそれを見つめながら、奴の背後から攻撃を仕掛ける。

 すると、奴は衝撃波のようなものを発生させて英霊たちを大きく弾き飛ばす。

 そうして、奴はくるりと回転し此方を見つめて来た。

 

 遅れて放たれた俺の攻撃。

 奴の障壁に阻まれて全てが散らされた。

 そうして、一瞬にして襲い掛かる奴の攻撃を回避――やはりか。

 

 高速で動きながら、奴の弱点らしきものを発見できたと考える。

 今、奴は背後からの攻撃を察知し。

 周りの敵を弾きと飛ばしてから、態々此方へと向いてきた。

 それはつまり、背後からの攻撃だけは弾けないからではないのか。

 つまり、奴にとっての弱点は背後の――あの三本の円柱の可能性が高い。

 

 俺はそう当たりをつける。

 そうして、体勢を戻した英霊たちに指示を出す。

 彼らは空中を高速で移動しながら、奴に向かって斬撃を飛ばす。

 奴はそれを見る事も無く弾きながら、俺をジッと見つめていた……警戒しているな。

 

 今の動きで、俺が弱点を発見したと察知したのか。

 だからこそ、俺だけの動きを注意深く観察している。

 そう認識しながら、俺は英霊たちに連携を取らせて背後を狙うように指示する。

 彼らは変則機動にて奴をかく乱し、ブーストによって背後に迫ろうとする。

 しかし、背後へと回る前にエネルギー攻撃がノータイムで放たれる。

 彼らはそれを瞬時に回避するだけで精いっぱいだった……簡単には取らせないか。

 

 何とかして奴の意表を突く必要がある。

 そう認識し、俺は更に機体の速度を高めていった。

 

 もっと速く、もっと機敏に――奴を翻弄するんだッ!!

 

 変則機動をしながら、奴の視線を動かし続けた。

 奴が放つエネルギー弾も回避し接近――衝撃波によて弾かれる。

 

 空中で姿勢を戻し、ノータイムで放たれるエネルギー弾をブーストで回避。

 そのまま奴に向かって連続で攻撃を放つ。

 奴はそれを余裕で防ぎながら、此方へと休む暇も与えないように攻撃をしてきた。

 

 奴は余裕だ。

 何処までも強者のそれであり……その余裕を崩してやる。

 

 俺は目を細めながら奴の動きを分析する。

 そうして、奴の意表を突く為に更に機体を大きく動かした。

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