【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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220:力の根源

 迫り来るエネルギーの攻撃。

 ギリギリで躱せば、それが一気に方向を転換し追尾してくる。

 速度を高めながら襲い来る蛇ような動きをするそれを見つめた。

 横に並び立つ二体の英霊たち。

 それがブレードを翻し、襲い来るそれを打ち払っていく。

 が、数本がその間を抜けて飛び。俺はエンドポイントにてそれを打ち払おうと――ッ!!

 

 虹のエネルギーが変化する。

 一瞬にしてそれが周りへと飛んでいく。

 四散した――いや、違う。

 

 四散したかのように見えたそれは一つ一つが別の形を作る。

 鳥や蝶の形を取ったそれは空中に振りまかれた。

 襲い掛かって来る意思は感じない。

 俺はそれから一気に距離を取っていった。

 

 嫌な予感がする。

 ただの飾りには見えない。

 警戒心を持ちながらそれから背面飛行をしながら距離を取れば神の気配を強く感じた。

 背後から感じる気配に振り向く。

 すると、神が片手を俺へと向けて――間一髪で避ける。

 

 本能が働いたお陰で、神が放つ極大のエネルギーを回避できた。

 放たれたそれは俺が飛んできた場所に向かう。

 そうして、そこに飛んでいた蝶や鳥に当たり――それらが一気に変化した。

 

 凄まじいエネルギーを受けた事によって。

 蝶や鳥の大きさは一気にメリウスほどになる。

 そうして、凶暴性が増したかのように此方に目掛けて飛んできた。

 恐ろしいほどのエネルギーを内包するそれだ。

 当たれば一溜りもないだろう。

 俺は一瞬で攻撃の判断を取り、エンドポイントにて攻撃を放つ。

 眩い銀色の輝きと共に一直線に飛ぶ光の線は奴らに当たり――弾かれる。

 

「――ッ!」

 

 エネルギーを無効化した。

 それも触れればどんなメリウスであれ一瞬で消滅するほどのエネルギーをだ。

 俺の危機感が強く警鐘を鳴らす。

 得体の知れない何かから一気に距離を離していく。

 その間にも、英霊たちは神の注意を引きながら攻撃を仕掛けている。

 奴は周りにエネルギーの攻撃を放ち。

 時折、弾き飛ばすようにエネルギーの波を発生させていた。

 空間を激しく揺らすほどの熱量であり、英霊たちもその危険性をよく理解していた。

 ベン・ルイスの影にはしてやられたが。

 彼らも理解さえしていれば遅れを取る事は無い。

 何せ、彼らのベースとなったものは旧時代に存在した手練れたちだからだ。

 

 アクセスの力は神の権利を行使するもの。

 その中でも召喚に関わるものは、過去に存在した英霊を呼び覚ますものだ。

 ノイマンはそれを保有していたが。

 今の神でも使える筈だ。

 ベン・ルイスは実際に英霊ではなく己が分身を召喚していたからな。

 その気になれば、俺も自分自身を呼び出せるが――それは危険だな。

 

 大きく距離を離しながら、奴を注意深く観察する。

 神の権利を行使できる力。

 アクセスは万能に近いものではあるが。

 そのオリジナルは神の他にない。

 唯一、ノイマンは同じ力を有していて俺やSQも使えるが。

 何処まで行っても奴の力のコピーでしかない。

 オリジナルである奴ならば、もっと効率よく力を使うだろう。

 

 英霊を召喚して手数を増やさないのにも理由がある筈だ。

 俺はそれを分析しようと奴を見つめて――息を飲む。

 

「アイツ、俺と戦いながら――浄化のプロセスをッ!!」

 

 おかしいと思った。

 本来であれば奴の力全てを使えば、俺なんかは一瞬で死んでいたかもしれない。

 しかし、お互いに決定打を与える事も無く戦いは続いていた。

 俺は勝機があると思っていたが。それは全くの見当違いだった。

 

 奴は自らのリソースの半分を世界の浄化に必要なプロセスの消化に費やしている。

 つまり、奴は本気で俺と戦っている訳じゃない。

 アレで半分であり、奴はまだ力を隠している……ふざけるなよ!

 

 俺は奴を睨みつけながら一気に加速。

 一瞬にして奴の背後を取る。

 そうして、そのがら空きの背中を狙い――奴が此方を向く。

 

 まるで、時が止まっていたような動き。

 その一瞬の動きを――俺は読んでいた。

 

 俺自身も加速し、奴の背後に再び移動していた。

 そうして、そのまま慢心している奴の背中に目掛けて弾を撃ち込む。

 衝撃が襲い掛かり機体が大きく揺れた。

 眩いばかりの光と共に、奴の背中の柱にエネルギーの塊が触れてバチバチと激しくスパークする。

 目の前で火花のように光が散るのを見つめていた。

 しっかりと目を見開いて――衝撃波が発生する。

 

「ぐぅ――ッ!!」

 

 機体が大きく弾かれた。

 空中を錐もみ回転して、俺は翼とスラスターを噴かせてその場に停止する。

 英霊たちも体勢を戻しながら、バチバチと機体の全面をスパークさせる奴を見つめた。

 背中の柱の一つが輝きを失っていた――有効だッ!!

 

 やはり俺の考えは正しかった。

 あの柱こそが奴の弱点だ。

 アレを全て攻撃し、光を消させれば奴のダメージを無効化する障壁は消える。

 理解したからこそ、俺は全ての英霊に指示を出す。

 全機による奴への総攻撃で――奴が笑った。

 

「――ッ!!」

 

 ぞくりと背筋に悪寒が走る。

 俺は一瞬にしてその場から飛びのいた。

 すると、奴はすぐ目の前に接近していてぬるりと腕が迫る。

 最大級の警鐘が心で響き、横から躍り出た英霊が俺を力の限り押しのけた。

 その結果、英霊の一体は拘束されて彼は藻掻き苦しんでいた。

 奴は自らのエネルギーを英霊に流し込んでいた。

 咄嗟に全機で奴へと攻撃を仕掛ける。

 狙うのは背中の柱で――奴が消える。

 

「――何処だッ!!」

 

 超高速で動いている神。

 その気配を探れば、遥か彼方で此方を見つめていた。

 ゆっくりと拘束を解かれた英霊はだらりと手を下げていた。

 そうして顔を上げれば、その瞳は真っ赤に染まっている。

 白銀の装甲は虹のようになっていき、英霊は奇妙な鳴き声を上げて俺たちへと飛び掛かって来る。

 

 支配権を取られた。

 すぐにそれを理解して、敵となった英霊へとエンドポイントを構える。

 チャージを手早く完了させて――放つ。

 

 が、敵はそれをひらりと回避する。

 エネルギーを縫うように移動して接近。

 すぐそこに奴の武器が振り下ろされて――弾かれる。

 

 仲間の英霊が奴の相手をする。

 彼らは遥か彼方へと進んでいった。

 狂った英霊の相手に二機。

 残された十体の英霊は連携して奴へと向かっていく。

 

 今ので理解した。

 奴の手に掴まれれば最期であり、これからはその攻撃も警戒しなければならない。

 力の半分だけであろうとも、奴は俺たちにとっては十分すぎる脅威だ。

 逆に油断している隙に奴へと攻撃を続けて奴の体力を――

 

 

《何れ体力が尽きる――本気でそう思っているのか?》

「――思考を!」

《読んではいない。ただそう思うと予測しただけだ。もしもそう思っていたのなら――お前はそこまでだ》

 

 

 神は俺の心に直接言葉を掛けてくる。

 奴は英霊たちの連撃を全て捌いていた。

 背後に迫ろうとも一瞬にして弾き飛ばす。

 残り二本であるものの、それら全てを消す事が出来るとは思えない。

 それほどまでの余裕を奴から感じる。

 

 俺はそんな奴のプレッシャーを跳ね除ける。

 そうして、奴へと迫り俺も攻撃に加わる。

 奴の四方を飛び回り背後に移動する。

 すると、奴はそれに反応した。

 俺はすぐに奴の動きを呼んで横へとスライド移動をする。

 銃口を奴の背中に向けて――直感が働く。

 

 その場から飛びのくように後方へ移動した。

 瞬間、奴の腕が俺の元いた場所にあった。

 背筋がぞくりとする。

 もしも、あのまま攻撃を仕掛けていれば終わっていた。

 そう理解し恐怖しそうになる。

 英霊たちはそんな奴の背後から斬撃を飛ばし、奴は上に一瞬で飛び上がる

 

 羽をばさりと広げれば、奴の羽から出たエネルギーの粒子が舞う。

 無数の小さな光の弾が浮遊し――まずいッ!!

 

「防御ッ!!!」

 

 思わず声にして指示を出す。

 瞬間、頭上の無数の光の弾が一瞬にして機体へと殺到する。

 白銀のエネルギーを纏わせて羽でもガードをする。

 雨のように降り注ぐそれは死の雨であり、防御を止めれば一瞬でハチの巣だ。

 ガリガリと装甲が削られて行くような音が響くが問題は無い。

 が、一瞬でも気を抜けばごっそりと抉られるだろう。

 それだけの貫通性と威力を一つ一つが持っていた。

 

 

 奴の攻撃を防ぎ――ぞくりとした。

 

 

 四方から何かの接近を感じた。

 俺は一瞬迷ったが。

 翼を展開しその場から飛びのいた。

 すると、姿を消していたエネルギーで形作られた蝶や羽がすぐそこに迫っていた。

 奴らは互いに接触した瞬間に互いと混じり合う。

 複数存在していたそれは巨大な竜となり、此方に視線を向けて来た。

 

【――ッ!!】

「――くっ!」

 

 ゆらゆらと揺れ動き、それが猛然と迫って来る。

 今の一瞬。羽の防御を解いたせいで守りの薄い部分に被弾した。

 傷跡からバチバチとスパークが起きている。

 が、俺はそれを白銀で応急処置をする。

 装甲の穴を塞ぎ、出力が落ちないように配線を繋いでおいた。

 迫る竜はぐんぐんとスピードを上げて口を開く。

 

 俺はそれから逃れて――絶望を見た。

 

 英霊たちが大きく弾かれる。

 そうして、一瞬の内に二体の英霊が頭部を掴まれていた。

 俺は叫びそうになった。

 が、それよりも早くに奴は自らのエネルギーを流し込んで彼らを支配した。

 

 仲間がまた二人やられた。

 英霊たちはそんな仲間を倒す為に動いていた。

 二体の相手をする為に、四体の英霊が攻撃を仕掛ける。

 彼らは神から遠のいていって視界から消えていった……まずい。

 

 神との戦いで投入できる英霊の数は……残り三体。

 

 もしも、彼らの中で一体でも支配されてしまえば。

 俺たちの形勢は一気に不利になってしまう。

 いや、一体ならまだ対処できる。

 しかし、二体を超えれば……やるしかない。

 

 俺は竜が迫ったのを感じて一気に上に飛ぶ。

 そうして、神よりも高い場所まで飛んでいった。

 奴は英霊たちの攻撃を捌きながら、じっと俺を見つめていた。

 余裕たっぷりの奴を見ながら、俺はアクセスの力を使う。

 

 

「Access――quadruple overッ!」

 

 

 機体のスペックを底上げする力。

 それを行使すれば、機体の表面にスパークが発生した。

 光となれ。より速く、より鋭く――空を翔けろッ!!

 

 俺はそう念じながら、機体の速度を一気に高めた。

 竜を一気に突き放し、瞬間移動の如き速さで神の背後を取る。

 奴はゆっくりと俺を見つめて攻撃を仕掛けた。

 一瞬にして放たれたエネルギー弾が俺の機体を貫き――消える。

 

 今のは質量を持った残像だ。

 俺はそこにはもういない。

 奴の背中に張り付いていて――攻撃を放つ。

 

 エネルギーを最大まで込めた。

 その結果、奴の背後の柱には亀裂が入る。

 輝きを失うどころか二本は砕け散って――すぐに飛びのく。

 

 本能が働いてその場から飛びのいた。

 その結果、一瞬にして見えない何かの力が働いて。

 俺と同じように退避しようとしていた英霊たちはぐしゃりと潰される……今の技は……。

 

《ベン・ルイスの技。といいたいのですか……奴が使えて、私が使えない筈が無いでしょう?》

「……っ」

 

 奴の底がまるで見えない。

 確実に攻撃を当てていて。

 残り一本の柱を失えば、奴は守りを失う筈だ。

 それなのに、今だ消えない余裕は何だ。

 まるで、今までの全てが想定の範囲内だと――

 

 

《――全て想定内です》

「……嘘だ」

《そう思うのなら――死ぬまで思っていればいい》

 

 

 奴が笑ったような気がした。

 そうして、手を動かしたかと思えば空中に無数の手が出現した。

 その背後には巨大な竜も控えている。

 あれらの大きな手は全てが神の手であり、触れる事も出来なければ破壊する事も出来ない。

 アレらには凄まじい力を感じて、恐怖以上の感情がこみ上げてくる。

 

 まだだ、まだまだだ……奴の余裕を剥がすのならば、これ以上にッ!!

 

 たらりと汗が流れる。

 呼吸が乱れてきていた。

 仲間たちに渡した切り札と。

 ベン・ルイスとの戦いで消耗した体力。

 今奴と戦えているのは精神力と此処で得られる力があるからだ。

 もしも、それが底を尽きてしまえば……いや、ダメだ。

 

 弱気になりそうになる。

 それほどまでの強大な敵だ。

 全身が震え始めて今にも魂が泣きだしそうで。

 それを必死に押し殺しながら、俺は仲間たちの顔を思い浮かべる。

 

 託されたんだ。

 此処に至るまでの道のりで、多くの人間の希望を見た。

 死んでいった人間に、今も必死で生きている人間。

 戦う覚悟を決めた異分子に、明日を行きたいと願う異分子。

 

 見えているさ……感じられるさ。

 

 どんなに遠く離れていようとも。

 今までで出会ってきた全ての人の心が見えている。

 彼らはどんなに心が闇に染まろうとしても。

 立ち上がり再び前を向いて歩いていた。

 

 俺だけじゃない。

 皆も同じだ。

 心が壊れてしまいそうな絶望に怯えながらも。

 今も何処かで戦っている。

 

 俺は一人じゃない――仲間たちがいるッ!!

 

 奴と相対しながら、羽を広げる。

 そうして、エンドポイントを変質させて二振りのブレードに変えた。

 白銀の刀であり、奴はそれを見つめながらゆっくりと首を傾げた。

 

 

 

《その心が、あとどれだけ持つのか――興味が沸きました》

「お前に勝つッ!! それまで俺の心は死なないッ!!」

 

 

 

 奴の無数の手が動き出す。

 俺は一気に機体を加速させる。

 それでも追いつこうとするそれは掌を開けてエネルギー弾を連続して放つ。

 それを機体を回転させて避けて、触れそうになった攻撃をブレードで弾く。

 一気に迫れば、更に機体を加速させて回避。

 前方を塞ぐように躍り出れば、機体を九十度に旋回させる。

 

 ジグザグに移動しながら、無数の手の猛攻を往なす。

 前方に躍り出て来た竜は口を大きく開き。

 俺はそれをブーストで回避し、その体を縫うように移動する。

 そうして、竜の尻尾から飛ぶように動き一気に奴の元へと戻り――奴の背後に回る。

 

「――シィ!」

 

 全力でエネルギーを巡らせた。

 そうして、回転の勢いのままに奴に叩きつけた。

 が、奴は此方をいつの間に向いていた。

 そうして、俺のブレードによる攻撃は目に見えない障壁に阻まれる。

 凄まじい光と熱量でブレードが激しく振動し、奴は笑っていた。

 

《あまり時間を掛ければ……いいんですか?》

「……黙れッ!!!」

 

 奴の手が迫る。

 その瞬間にエネルギーを爆発させた。

 その衝撃を利用し、後ろへと飛ぶ。

 奴は手を虚空に向けた姿勢で固まって――ッ!!

 

 機体の姿勢をずらす。

 のけぞるように機体を逸らせば、スレスレを細長いエネルギーが走っていった。

 ノーモーションであり、貫通に特化していた。

 俺はそれを避けてから機体を加速させた。

 連続して奴は速度の速いそれを放ち続けた。

 そうして、追いついてきた無数の手も攻撃に加わる。

 

 機体のスペックを底上げしてようやく並び立つ。

 しかし、その状態でも奴は力の半分しか出していない。

 

 ……だが、勝機はまだある。

 

 ノイマンから託された情報。

 彼の計画通りに事が運ぶのであれば。

 あの背中の柱さえ破壊できれば、形勢は一気に――逆転するッ!

 

 奴は俺の動きや言動からその次の手を予測している。

 しかし、心を読んでいる訳でも正しい未来が見えている訳でもない。

 今俺たちは互いの力に干渉していた。

 だからこそ、未来視であろうとも互いに万全の状態では使えない。

 

 もう少しだ……もう少しで、イーブンに持ち込めるッ!!

 

 俺はノイマンを信じていた。

 だからこそ、希望を胸に奴と全力で戦う。

 全ての攻撃を回避しながら、奴に向かって斬撃を放つ。

 奴はそれを障壁で受けて、発生した煙の中に消えた。

 そんな奴の背後を取る為に、俺は機体を更に加速させて残像を生み出す。

 

 迫り来る手たちは情報が埋め込まれたそれに攻撃を放つ。

 が、それは霞のように消えていく。

 一時的に動きを止めた奴ら、その隙を使って俺は連続してブーストを行う。

 

 一気に下へと迫り、地面を滑りながら移動する。

 そうして、煙の中の奴の背後を取り――ッ!!

 

 

 気が付いた。

 

 接近したことで勘づく。

 

 そこには何も無い。

 

 いや、精確に言うのであれば情報を植え付けられた――”残像”だけだ。

 

 

「――しま」

《遅い》

 

 

 奴の手が俺の機体の頭部を掴む。

 奴に触れた瞬間におぞましいほどの情報が流れ込んできた。

 俺はそれを受けて一気に意識を沈められて――――甲高い音が響く。

 

《ほぉ》

「――っ!」

 

 意識が覚醒する。

 その瞬間に、俺は奴の体を斬り付けた。

 すると、障壁に阻まれていた筈の体に僅かながらに傷が出来た。

 初めてのダメージであり、俺はそれを確認し一気にその場から逃れる。

 

 見れば、戻って来た二体の英霊が同時に攻撃を仕掛けていた。

 奴は浄化にリソースの半分を割き。

 俺へともう半分の意識を割いていたからこそ油断していた。

 既に二体は支配された英霊を倒して戻ってきていた。

 俺は彼らに指示を出し、極限まで気配を消した状態で待機させていた。

 周辺に溶け込むように隠れていた英霊たちは煙の近くに移動していた。

 そして、奴は気が付かないままに背後から攻撃を受けた。

 

 俺が餌じゃなければ、奴は気づいていただろう。

 命を懸けた懸けであり、俺はそれに勝った。

 

 背後の最後の柱には大きく亀裂が走り――砕け散った。

 

 パラパラと黄金の粒子が砂のように流れていく。

 奴はそれを手で受け止めながら静かに拳を握る。

 これで、奴の障壁は消えた筈だ。

 先ほどもダメージが通っていたからこそ――奴の傷が一瞬にして消える。

 

 

《だから――どうした?》

「……自己再生……あって当然か」

 

 

 奴は受けた傷を一瞬で治せる。

 それも完璧にであり、奴には一切の攻撃が通じない事を意味している。

 俺はそんな奴を見つめながら、ノイマンの作戦が発動するかを見ていた。

 

《――?》

 

 奴が異変を感じる。

 首を傾げながら、俺へと迫っていた無数の手が動きを止めたのを確認した。

 奴の中から揺らぎを感じる。

 まるで、その中に全く異なる二つの巨大な魂がいるようで――ぶわりとエネルギーが噴出した。

 

 奴の中にあった膨大なエネルギーが消えていく。

 解放された魂たちは笑みを浮かべていた。

 それを見ながら、俺は作戦が成功したのだと理解する。

 

 奴の中にあった無数の魂たち。

 それらがノイマンの残された意思によって解き放たれた。

 彼が最後に自らが命を懸けて行う事。

 それは敢えて神に吸収される事によって、彼がその内から縛られている魂を解放する事だと言っていた。

 

 これは懸けだった。

 本当に出来るのかも分からない希望で。

 失敗する可能性の方が高いと彼は俺に伝えていた。

 しかし、彼の鋼のような精神力が今――不可能を可能にした。

 

 

 奴は静かに己の手を見つめる。

 今が好機だ。俺は奴へと――怖気が走る。

 

 

 体が心から凍り付く。

 まるで、体が氷となったように動かない。

 奴の姿を見て、奴の心を認識して動きを強制的に止めさせられた。

 

 

 

《ノイマンか…………最後まで、私の邪魔を…………》

 

 

 

 奴の気配が変わる。

 瞬間、解き放たれていたエネルギーの流れが止まった。

 奴が強引に穴を塞ぐように止めたんだ。

 それが出来たと言う事は――体が震えた。

 

 奴の纏う空気ががらりと変わる。

 今まで感じていたプレッシャーとは比べ物にならないほどの力だ。

 奴はそれをぴりぴりと放っている。

 奴は浄化のプロセスを中断した。

 

 

 つまり、今の奴は――”百パーセントの力を出せる”。

 

 

 ゆらりと奴の体が揺れた。

 そうして、両手を下げながら静かに俺を見つめる。

 感情が、心が、荒れ狂う波のように蠢いていた。

 怒り、悲しみ、憎悪、殺意――それが一つになっていった。

 

 

 

《遊びは、終わりだ……お前はこれ以上……生かす価値など――無い》

「……っ」

 

 

 

 奴から放たれるプレッシャー。

 体が震えて、歯をガチガチと鳴らした。

 俺はそれを必死に抑え込み、奴への闘争心を高める。

 

 恐れるな、退くな――挑み続けろ。

 

 一歩でも退けば、確実に俺は消される。

 それが分かっているからこそ、俺は恐怖を掻き消すように叫ぶ。

 そうして、一瞬にして目の前に現れた奴へとブレードを振るう。

 奴の掌に当あった瞬間に、ブレードが激しく揺れ動いた。

 眩い閃光が迸り、奴との衝突で今にも機体が弾かれそうなほどの衝撃を浴びる。

 俺は全力で歯を食いしばりながら、奴との衝突を続けた。

 

 全身の筋肉が悲鳴を上げていた。

 機体もみしみしといっていて、今にも砕けそうだ。

 奴の放つプレッシャーと純粋な力が俺たちを沈めようとしている。

 ロイドも俺に機体が限界を迎えている事を知らせる。

 

 

 が、それはただの情報――彼は笑う。

 

 

《――まだまだ、いけますよ》

「……強がり、か!」

 

 

 ロイドの軽口を聞きながら、俺たちは更に力を込める。

 そうして、奴の手をはじき返しながら空を舞う。

 奴も羽を広げて此方を追ってきた。

 最早、そこに留まって手を汚さないなんて考えはないんだろう。

 余裕はまだ僅かに感じるが、確実に勝利へと近づいている。

 

 もっと、もっとだ――自由に空を舞え。

 

 俺は心で強く念じる。

 そうして、ばさりと翼をはためかせて白い空間の中を舞う。

 奴は空間を捻じ曲げて、エネルギーによる攻撃を連続して放つ。

 俺はそれを回避しながら此方も攻撃し。

 奴はそれを片手で弾きながら更に速度を高めた。

 

 虹と白銀の光が激しくぶつかり合う。

 互いの想いをぶつけ合いながら、俺たちは天高く舞う。

 多くの命が繋いできた道が、俺を勝利へと導く――俺は絶対に諦めない。

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