【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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221:絶望の中の光(side:SJ)

 空を全速力で駆け抜けていく。

 敵から放たれる無数のエネルギー弾が迫り。

 それをブレードで弾きながら、HQに視線を向ける。

 彼女たちも必死になって回避しているが危険であり――加速。

 

 HQの機体に迫るエネルギー弾をブレードで全て弾く。

 ブレードは高温に熱されて蒸気を放っていいるほどに赤い。

 それを見ながら、巨大な化け物へと一気に近づく。

 その間にも背後から対防壁用に匹敵するほどの高火力のガトリングガンをHQは奴へと放ち続けていた。

 赤熱する巨大な砲弾にも匹敵するそれらが飛び敵はバチバチと装甲から火花を散らせていた。

 

 効いている――確実にダメージとなっている。

 

 先ほどの化け物の変化を思い出す。

 突如、苦しみ悶えたかと思えば奴の背中の人型から無数の魂が放出されていった。

 別の形態への変化か。それとも、何かの技を繰り出すのかと警戒したが。

 奴は一気にエネルギーを失ったことによって明らかに弱体化していた。

 目に見える変化であり、罠でないのなら――ナナシが何かをしたに違いない。

 

 詳しい説明は聞かされていない。

 だが、アイツには何か考えがあったに違いない。

 渡されたこれもその内の一つであり……それでも、奴はまだまだ倒れない。

 

 どれだけの攻撃を浴びせようとも傷は回復している。

 一瞬で治る事は無くなったが、少しでも攻撃の手を緩めればじわじわと傷が塞がっていく。

 だからこそ、奴への攻撃を続けながら奴の放つ攻撃も避けていった。

 

 中でも危険なのはあの特大のエネルギーの剣であり。

 アレを振り下ろされでもしたら、確実に俺たちは死ぬだろう。

 それほどの熱量と質量であり、ギリギリであろうとも回避を選択する他ない。

 だが、エネルギーの残量が見え始めている事からアレをずっと展開する事も出来ないだろう。

 冷静にそう分析しながら、俺は一瞬にして奴の周りを翔ける。

 そうして、連続で斬撃を放って奴へと攻撃を繰り出した。

 

 無数の剣波が奴へと降り注ぐ。

 白き光が奴の装甲を抉っていった。

 そうして、抉れた装甲の一部が飛び散った。

 無数の傷であったが――まだ浅い。

 

 やはり、SQのように直接攻撃を当てた方が効率的かもしれない。

 そう感じて奴へと接近しようとし――その場から一気に後退する。

 

 瞬間、怪物の周りが激しくスパークした。

 漆黒のエネルギーが迸って、全ての機体を焼き尽くそうとする。

 アレだ。アレがあるから迂闊に近づけない。

 SQが攻撃を当ててから、奴は自らの体を守る為の策を講じていた。

 少しでも体に何かが直接触れようものなら、奴はあぁやって激しいエネルギーを機体全体に駆け巡らせる。

 これでは誰も近づくことは出来ない。

 だからこそ、ダメージは与えられても大きなものは与えられていなかった。

 

 可能性があるとすればHQの特殊タンク型メリウスであり……だが、まずいな。

 

 奴の視線は常にアレに向いている。

 そうして、今まで受けたダメージから奴は学習を積み重ねていっている。

 その証拠に障壁が消えてから二発目の砲撃からは、ダメージ量が明らかに少ない。

 注意深く観察していたから分かるが。

 奴はHQからの砲撃による弾道を一瞬で計算し、その着弾点にエネルギーを集中的に纏わせていた。

 ダメージ無効化の障壁が消えたからこそ、己がエネルギーのみでアレを防いでいる。

 このまま行けば、奴はエネルギーの壁の強度を更に上げていくだろう。

 完璧に防がれるようになれば、俺たちは確実に消耗戦を強いられる。

 

 ……だが、長時間の戦闘は明らかに俺たちに分が悪い。

 

 ただでさえ、此方は強敵との戦闘を終えてすぐに此処に集まったんだ。

 機体の消耗も僅かに残っていて。何よりも、体力と精神力をかなり削られていた。

 碌な回復もできないままの連戦であり。

 短期決戦にて勝負が決まらなければ、俺たちの勝機はどんどん減っていくだろう。

 

 奴の目が光る。

 その瞬間に、俺は奴へと接近する。

 奴の目はHQの大型タンクに向けられていた。

 そして、その口に膨大なエネルギーが集中していると機体から知らされる。

 その攻撃を食い止める為に俺は一瞬にして奴の横に――!!

 

 

 奴が此方を向く。

 

 全身の毛が逆立ち、心臓が締め付けられたような感覚を覚えた。

 

 俺の脳内に走馬灯が一瞬にして駆け巡り――機体を動かす。

 

 

 リミッターを一時的に解除。

 そして、セル・ブースターの出力を限界まで上げた。

 轟音に近い爆発音が一瞬で鳴り響く。

 コックピッド内の仮死状態の己の体に少しダメージが掛かる。

 その痛みが意識体の俺にフィードバックされてずきりと頭痛がした。

 ブーストを連続して使用する事で一気に奴から離れ――閃光が迸る。

 

「ぐぅぅ!!!」

 

 凄まじい熱を背後から感じた。

 そして、それが迫っている。

 俺は更に機体を加速させる。

 セル・ブースターが危険な音を立てて、全身が激しく振動し――抜けた。

 

 奴の攻撃から逃れた。

 が、少し攻撃を喰らっていた。

 システムがセル・ブースターのダメージを知らせてくる。

 ブースターの一部が損傷し、機体の機動力が二十パーセントほど低下していた。

 すぐさま自動修復機能が働き、ブースターの修理を開始した。

 それを受けながら、俺は奴の殺気を視線を通して感じる……嫌な予感がする。

 

 奴は何かを待っていた。

 先ほどの攻撃も、俺が接近するのを待っていたようだった。

 まるで、本命は他にもいたと言わんばかりだ。

 

 ……何だ。この違和感は……何故、SQでもHQたちでもなく……俺を……いや、違う。

 

 奴の視線を辿る。

 すると、奴はHQを見ているようで空を飛ぶ他の仲間たちも見ていた。

 奴は明らかに全ての仲間を視界に入れていて――数えている?

 

 いや、分からない。

 数えているように見えただけだ。

 しかし、そう感じたのであれば……警戒した方がいい。

 

 俺はSQに通信を繋ぐ。

 そして、奴に抱いた違和感について報告した。

 

《……何かを狙っているのか》

「恐らくは……リスクはあるが、同時に仕掛けるか?」

《……分かった。タイミングは合わせる》

「了解」

 

 通信を切り、俺はSQの反対へと移動する。

 彼女をセンサー内に収めながら、俺は奴に向かって流天による剣波を飛ばす。

 奴はそれを受けながらくぐもったような声を出す。

 そんな奴を見ていれば明らかに動きが鈍っていると分かる。

 明らかにダメージが蓄積されていて弱っている……だが、妙な違和感がある。

 

 ダメージが蓄積されているのは確かだ。

 傷の治りも遅くなっていて、奴の装甲には無数の傷が残っていた。

 先ほどから大きな攻撃を繰り出していて、エネルギーも激しく消耗している筈だ。

 罠である可能性もあるが。

 奴が今、罠を張ったところで意味などない。

 

 奴は確実に限界であり――好機は今しかない。

 

 俺はSQに視線を送ってから加速する。

 SQもそれに合わせるように加速した。

 奴の周りからは激しいスパーク音が響いていた。

 俺たちの動きを警戒し、防御の姿勢を取っている。

 その動きを察知し、俺はゾーンに入る。

 

 視界の中で、全ての動きがスローモーションになっていった。

 そうして、黒い紫電の中でタイミングを見極める。

 ゆっくりとゆっくりと稲妻が走り――そこだッ!!

 

 俺は一気に加速する。

 セル・ブースターからエネルギーが噴射されて。

 機体は一瞬にしてその僅かな隙間を潜り抜けていった。

 が、僅かに装甲に触れたようでブースターの一部がダメージを受けた。

 ゆっくりとシステムの警告を聞きながら、俺はSQとほぼ同時にブレードを奴の装甲に突き刺す。

 

 全力で流天を流し込む。

 そうして、更に機体を加速させた。

 ぐぅんとスピードを上げながら、奴の体の表面を削り取っていく。

 ギャリギャリと音が鳴り響き、激しく火花とエネルギーが散っていった。

 化け物は痛みに苦しみ絶叫していた。

 そんな奴への確実なダメージとなった事を認識し俺たちは――駆け抜けていった。

 

 ずばりとブレードを敵の装甲から抜く。

 そうして、一気に安全圏まで飛び上がりながら奴を確認した。

 すると、その装甲には深々と切り傷が横に広がっていた。

 

 怪物は体全体にエネルギーを集中させる。

 再び、周りへとエネルギーの波を放つつもりで――

 

《私を――忘れてないかい?》

 

 イザベラのカグツチが一気に奴の腹の下に潜り込む。

 一瞬見えた彼女のカグツチには膨大なエネルギーが練られていた。

 そうして、彼女は化け物の下から激しい光を発して――化け物の足が地面から離れる。

 

 凄まじいエネルギーの圧によって体が持ち上がった。

 体を貫通する事は出来なかったものの、彼女は大きなダメージを奴へと与えた。

 だが、怪物の巨体はゆっくりと落下を始めて――爆音が響く。

 

 勢いのままに、怪物の顔に砲弾が当たる。

 着弾と同時に怪物の顔がぐしゃりと歪む。

 そうして、遅れた爆音が響いて怪物は大きく体をのけ反らせた。

 その隙にイザベラは奴の体の下から這い出す。

 

 

 凄い。凄いぞ――これなら、勝てる!

 

 

《――ゥゥ――ァァ――ゥゥ――》

 

 怪物の弱弱しい声。

 最初の頃の気迫は感じられない。

 満身創痍であり、今までのダメージで真面に姿勢を維持出来なくなっていた。

 

 怪物は明らかに力が減退していた。

 連続して意識外からの攻撃を受けた事により。

 奴は全ての傷を修復する事も出来なくなっていた。

 だからこそ、その巨体はゆっくりと地面へと落下し――倒れる。

 

 凄まじい地響きと土煙が舞い上がる。

 空気もピリピリと振動し、俺たちはその場に機体を停止させた。

 化け物は全身をスパークさせながらぐったりとしていた。

 確実に隙が生まれた。今こそ畳みかけるチャンスだッ!!

 

「行くぞッ!!」

 

 仲間たちの声を掛ける。

 そうして、俺は全てのエネルギーをブレードに練り上げる。

 奴へと向かって飛翔し、全力の攻撃を見舞おうとする。

 これで決める。これでこの戦いを終わらせるッ!!

 

 決意を込めてエネルギーの性質変化を促す。

 白い輝きが溢れ出し、俺たちは光となって奴へと突っ込み――怖気が走る。

 

 

 奴の背中のそれが上へと飛び上がった。

 それも一瞬であり、凄まじい速度で上昇していく。

 一瞬、何が起きたのか理解できなかった。

 視線を向けた先には瞳から光を消した機体だけがあって――システムが警告を発する。

 

 

 俺たちは機体を停止させて上を見上げた。

 すると、そこには魂の集合体が空を覆い隠すほどに広がっていて――降り注ぐ。

 

 

 

「――守れッ!!!」

 

 

 

 それぞれが一瞬で自分たちの役割を理解する。

 生き残った仲間たちはHQの駆るタンクへと飛ぶ。

 そうして、彼女の機体の周りで停止し全てのエネルギーを防御に回す。

 ありったけであり、後先なんて考えられない。

 今はただ生き残るために――眼前を無数の黒と赤の光が覆いつくす。

 

 瞬間、それらが一気に機体へと降りかかり。

 機体全体が激しく揺れて不快な音を奏でた。

 俺たちは全力で歯を食いしばり、その攻撃に必死に抗った。

 

《親衛隊を守れッ!!!!》

《SQ様ッ!!! SJ様ッ!!! HQ――……》

《アアアァァァァッ!!!!!」

「――ッ!!!!」

 

 生き残った精鋭たち。

 彼らが俺たちよりも上に飛ぶ。

 そうして、全てのエネルギーを命を燃やして受ける。

 ガリガリと装甲が削られて行き、彼らは機体をバラバラにして――掻き消される。

 

 俺は彼らの死を受け入れた。

 そうして、彼らに心の中で感謝をする。

 が、今は悲しんでいる暇はない。

 今の尚、振り注ぎ続けるエネルギーの雨。

 俺たちは限界を超えてエネルギーを放出し続けた。

 

 

 一瞬。ほんの一瞬でも気を抜けば――死ぬ。

 

 

「――アアアァァァァッ!!!!!」

 

 

 全力だ。

 残っていた全ての力を振り絞る。

 耐えろ。耐えるんだ。

 心を絶やすな、命を繋げ。

 抗え。全力で、全身を襲う痛みと苦しみに――戦えッ!!!

 

「――ッ――!!!」

 

 仮死状態の肉体がダメージを負う。

 システムが強く警告を発して。

 フィードバックされた痛みが全身を襲った。

 今にも意識がぶつりと消えそうで。

 それでも俺は残された意識だけで精神を繋ぎとめた。

 

 機体がバキバキと鳴っている。

 一部の装甲が砕けて火花が散った。

 それでも尚、その場に留まり抗い続ける。

 

 

 何秒、何分経ったか――光が消える。

 

 

「……っ」

 

 

 俺たちは体から力が抜け落ちた。

 互いの機体はボロボロで、原型をとどめていたのが奇跡だった。

 全てのエネルギーを使い果たし、地面に落下していった。

 

 着地もままならずにごろごろと地面を転がり停止。

 俺はシステムが今にも消えそうになりながらも。

 必死になって仲間たちに声を掛けた。

 

「皆……返事を……っ」

《……生き……いる……大丈……っ……》

 

 ノイズ混じりだがSQの返事が聞こえた。

 他の仲間たちもまだ生きていた。

 だが、俺たちは全てのエネルギーを使った。

 HQとCQも全ての力を使って防御をしていた。

 その結果、その機体は生きているが……俺たちは、もう……。

 

 化け物を見る。

 すると、天からゆっくりと降りて来たそれは。

 静かに倒れ伏す機体へと浸透していく。

 やがて、カタカタとそれが揺れたかと思えば余分なパーツをがらがらと落としていき……あれは。

 

 ゆっくりと上空へ出て来たもの。

 その手には白い槍が握られていた。

 銀色の装甲のそれは背後から歪な円状にエネルギーを広がらせていた。

 筋肉のついた男の体のような滑らかな機体のフォルム。

 最初の姿と違ってその機体の大きさは百メートルほどしかないだろう。

 顔にはセンサーの輝きは一切ない。

 深い闇が渦を巻いているようで恐怖を感じた。

 まるで能面であるが、アレからは視線と殺気を感じる。

 

 ……アレが、奴の最終形態……クソ、立て、立つんだ!

 

 機体のレバーを静かに揺らす。

 しかし、もうほとんどエネルギーは残っていない。

 これ以上の戦闘は物理的に不可能だ。

 今からエネルギーの補給を要請しても意味は無い。

 奴は確実にそれらを葬る事が出来てしまう。

 

 

 

 完全なる”詰み”――――俺たちの――――”敗北”だ。

 

 

 

「ぐ、うぅ……まだ……まだ……っ……」

 

 必死に機体を持ち上げようとする。

 しかし、機体に力は入らない。

 ずるりと機体の腕から力が抜けて機体が地面に倒れる。

 俺は悔しさを滲ませながら奴を睨む。

 

 こんな所で……こんな結果で……俺たちは……っ!!

 

 奴が白い槍を回転させる。

 そうして、それを天へと掲げれば空間が歪んでそこからバチバチと黒いエネルギーの塊が出る。

 来る。あの攻撃で俺たちを始末する気だ。

 HQは咄嗟に奴へと攻撃をしようとする。

 が、奴は一瞬でそれ見抜くタンクへと攻撃を浴びせた。

 

《ぐああぁぁぁ!!!!》

《ああああぁぁぁ!!!》

「HQッ!!! CQッ!!!」

 

 無数の灰燼が彼女たちの機体の装甲を抉っていく。

 彼女は必死に抵抗したが……沈黙。

 

 機体全体から煙が噴き出し。

 だらりと手が下がる。

 センサーの光が弱弱しく点滅し、彼女たち二人の生体反応が弱まっていく……まずい。

 

 このままでは確実に彼女たちは死ぬ。

 いや、俺たちも殺されるだろう。

 全滅であり、それは最悪の結末で……何か、何かないのかッ!!!

 

 

 

『これを絶対に持っていてくれ……必ず。皆の助けになる筈だ』

「……っ!!」

 

 

 

 俺はナナシが渡したものを思い出す。

 仲間たちに声を掛けて、それを持っているかを聞く。

 すると、全員が持っていると返事が返って来た。

 

 俺は仲間たちにそれを握るように伝える。

 彼らは困惑しながらも指示を聞いてくれた。

 

 これが何かは分からない。

 本当に何が起きるのかも分からない。

 だが、きっと、これが俺たちに――!!!

 

《――》

「――ぅ!」

 

 化け物が槍を振り下ろす。

 そうして、特大のエネルギーが俺たちの元へと飛んでくる。

 視界が全て黒に染め上げられそうになりながら。

 俺たちは奴の渡したこれを握りしめる。

 

 

 

 助けになるんだろう。

 

 役に立つんだろう。

 

 だったら、信じてやる。

 

 お前とは最初は敵同士だったが。

 

 今のお前なら――信じられるッ!!!

 

 

 

「――――ナナシッ!!!!!」

 

 

 

 目の前が光に覆われた。

 黒い光を打ち払う”白銀”の光。

 それを見ながら俺たちは――――

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