【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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エピローグ:人間たちは世界を知る
0:三年後の世界で(side:ミッシェル)


「はぁ……あちいなぁ」

 

 パタパタとスーツを動かしながら、私は雲一つない青空を見る。

 黒い羽根の鳥たちが羽ばたいていき、街に目を向ければ自然が豊かで。

 カップルでソフトクリームを食べたり、老人たちが犬の散歩をしていたり。

 当たり前の日常が目の前に広がっていた。

 

 綺麗な青空には燦燦と輝く太陽が……今日は少し暑いなぁ。

 

 スーツのボタンを一つだけ開ける。

 流れる汗をハンカチで拭いながら、俺は手に茶色の薄いカバンを持っていく。

 今日は大事な予定があるって言うのに……全く。

 

 新会社を起ち上げて、周りからは無謀な若造だと冷ややかな目を向けられながらも。

 根性と熱意だけで、俺は会社を回してきた。

 まぁアイデアは腐るほどあった上に、前々から作ってみたい物もあった。

 それが活かせると思えたのは、ノイマンが作り出した仮想世界だった。

 

 仮想現実世界の構築……とまではいかないが、それをより簡略化したものを俺は創り上げた。

 

 協力してくれたのはハーランドのバーナー博士とウッドマンさんで。

 技術指導を受けながら開発したそれの名は――”ブルー・スカイ”。

 

 あらゆる人間の願いを形にするVRMMO技術を進化させたものだ。

 一人一人の願いを叶えられる世界を簡易的に構築し。

 彼らはその世界で自らの望む存在になれる。

 バレリーナでもパティシエでも、映画スターにも格闘技の世界王者にもだ。

 

 元々は、やむを得ない理由で夢を諦めていた人の為に開発したもので。

 手足が動かせない人間も、その世界では手足を自由に動かせる。

 体の不自由な人間であろうとも、そこでは何処までも駆けていける。

 開発期間はたったの一年だ……まぁ仮想現実にあった”アレ”を拝借したお陰でもあるけどよ。

 

 専用のヘッドギアとチョーカーを販売し、マスコミにも大きく取り上げられた。

 最初は未知の技術に対して懐疑的で、これを使用するのは危険だと言う輩もいたもんだ。

 しかし、これは単にその人間に対して都合のいい夢を見せ続ける訳ではない。

 

 手足の神経が完全に死んだ人間が、手足が動かせる世界で動き続ければ。

 現実世界でもそれはフィードバックされて、死んだはずの体の機能も蘇っていく。

 失った神経が蘇り、体の機能だって蘇るんだ。

 努力すればそれだけの価値を現実に持ち帰る。

 そして、挫折も苦労もそこには存在する。

 ブルー・スカイはただのゲームではなく。

 自分にとってのもう一つの物語を提供するものだから。

 

 世界中の人間は自分だけの世界に今も没頭している頃だろう。

 行く行くは、お互いの世界を共有できるようになったらいいが……ま、それは先の話だ。

 

「……それにしても、あのクソ爺め」

 

 恨めしそうに眼を細めながら、今日の出来事を思い出す。

 

 メカニックとして経験の浅い新人が起こしたミスだと思われたそれ。

 彼がセッティングをしてきた大型のブルー・スカイ専用の全身用機材。

 嫌みったらしいデブから五台発注されて、噂以上だったらもっと買ってやると上から目線で言われた。

 俺は必死に営業スマイルを心掛けながらよろしくお願いしますと言ったんだ……それなのによぉ。

 

 朝一で電話が掛かってきて、その爺が電話越しに怒鳴るように言ってきやがった。

 何でも、一月も経たない内に壊れて動かなくなったらしい。

 すぐに金を返せだの喚いていて、取り敢えず、設置を担当した新人と教育係を連れて俺はその会社に出向いた。

 カンカンに怒っている取引先の髭親父の元へと態々出向いて謝って来た。

 だけど、実際に不調を起こしたっていう機械を見れば――なんて事は無い。

 

 あの髭親父が新人の説明通りに機械を停止させずに使っていて起きた事だとすぐに分かった。

 掃除も碌にしていないようであり、菓子のカスやジュースが零れた後もあった。

 俺はその事を笑顔で懇切丁寧に教えてやったが、あの爺はますます怒って来た。

 この程度で壊れるポンコツ、こんな産業廃棄物が何であんなに高額なのかと――俺はキレた。

 

 俺は満面の笑みで奴のこれまで悪行は全て聞いていると伝える。

 その上で、てめぇのような愛情もねぇクソ野郎がこいつを使う資格はねぇと伝えてやった。

 高い金を払えば神様にでもなれると思うなんて大馬鹿はてめぇくらいであり。

 金を返してほしければ喜んで返す。その代わり、二度とうちの商品を使うなと忠告してやる。

 奴はそんな権利は無いと言ってきたが、この技術は特許を取っている上に。

 俺たちの会社の許可が無ければメンテナンスも発注も出来ないのだと教えてやる。

 その上、これを使う為のアカウントは此方が全て管理しているから。

 もしも、無断で使おうものなら一発でバレる事も伝えてやった。

 

 奴はガタガタと震えながら、言葉も出なくなっていた。

 これ以上、唾を吐くのなら出る所に出てやるよと脅してやればようやくアイツは自分の非を認めた。

 しゅんとした様子で社長室に帰っていく奴を見届けてから、俺たちはさっさと帰っていく。

 心を入れ替えて次から丁寧に扱うと言うのなら、直しに来てやってもいい。

 流石に俺の凶悪な笑みで怖気ついた奴はもう二度と機械に対してぞんざいな扱いはしない筈だ……うん、大丈夫だろう。

 

 恐らく、今までどの会社の奴も下手に出ていたからつけあがったんだ。

 あの会社の若い連中も不満が溜まっていたようで。

 帰り際に指摘してくれたことの礼を何故かそいつの社員たちから言われた。

 別に正義の味方でも何でもなく、言いがかりを正してやっただけだが。

 うちの新人も元気を取り戻して、次の取引先に行った。

 

 俺は急いで約束の場所に行く為に。

 荷物を纏めて退社し、そそくさと列車に乗り込んだ。

 揺れも無く、外の景色を眺めながらお茶をちびちびと飲み。

 そうして、目的地へとつけば人通りがかなり多く。

 何とかホームから出て、メインストリートまで来たが。

 此処も人で多く、若者も老人も関係なく人で密集していた。

 

「……はぁぁ、賑わっているのはいいが……変わるもんだなぁ」

 

 がやがやと人通りの多いメインストーリート。

 東部地方での仕事を終えて、ヴァルハラから列車に乗り込み。

 ホームから降りて歩いていけば、こんなにも人が多いんだ……まいっちまうよなぁ。

 

「にしても、増えたよなぁ。人」

 

 遂最近……と言っても三年前までは此処はだいぶ荒れていた。

 

 あの日、神との戦いに決着が着き。

 俺は空に無数の光が流れていく光景を見た。

 それはこの世界の人間すべてが見ていた光景だった。

 とても神秘的な青い光の群れは、学者によれば流星群のようなものらしいが……多分、違う。

 

 その星々の輝きが人々の記憶に残り。

 カメリアの地には長らく人がいなかった。

 だけど、破壊された白光大石の効力で汚染されていた土地も一年で完全に除染されていた。

 今はまばらであるが人も戻ってきているらしい。

 

 三年だ。三年の月日が流れて、俺たちの生活も変わった。

 それぞれの未来へ向けて歩みを進めて。

 神が象徴となったあの日から、人々は本来の生活を送り始めた。

 

 

 戸惑い、不安に思いながらも――彼らは今を生きている。

 

 

 俺はメインストリートを流れに沿って歩いていく。

 鼻を鳴らせば香ばしい香りが漂ってきて。

 思わず足を止めてしまう。

 一つの屋台で、大きなソーセージが何本も鉄板の上で焼かれている。

 へらを持っているのはふくよかな見た目の女性で――”人間”が立っている。

 

 彼女はシャンドレマの住人であり。

 恐らくは、かつて異分子と言われた人間だろう。

 しかし、三年もの時が流れて異分子と呼んで彼女たちを蔑む風潮はすっかり消えていた。

 今では同じ人間で、異分子となるウィルスそのものも害はない事が発表されいた。

 それも神直々の発表であり、多くの人間は困惑しながらも今ではすっかり信じていた。

 

 確かに、最初は皆戸惑っていたさ。

 今まで迫害していた連中を真面に見られないからな。

 だけど、歩み寄ったのは異分子と呼ばれていた彼らで。

 人間たちは過ちを認めて彼らに謝罪し、異分子と呼ばれていた人たちもそれを受け入れた。

 今では一緒に店を開いたり、子供たちも同じ学校に通って……平和ってやつだ。

 

 俺は屋台の大きなソーセージをボケっと見つめる。

 すると、店主の女性は俺の視線に気が付いて一つどうかと尋ねて来た。

 俺はハッとしてまた来ることを伝えて足早に去る……あぶねぇ。

 

 あそこでアレを買って食べていたら、約束のランチで腹に入らなくなる。

 ライオットやドリスなら笑って許してくれる。

 しかし、他でもない姐さんの前でそんな無礼な真似は出来ない。

 他でもないあの人が私たちに奢ってくれると言うんだ。

 絶対に遠慮なんて出来ないしさせてくれないよ。

 

 歩いて、歩いて、歩いて……あそこだな。

 

 青い屋根のこじんまりとした店。

 喫茶店として存在しているそこでは、ランチメニューも豊富らしく。

 姐さんは私に得意げにその店を紹介してくれた。

 電話越しだったが、また遊びに行くことを約束して……今日がその日だ。

 

「それにしても久しぶりだな……アイツら、元気にしてるかなぁ?」

 

 久しぶりに会うメンバーは、あの日の戦いに参加した仲間たちだ。

 その中でも、L&Pのメンバーは全員集合する事になっている。

 

 あの戦いが終わって、世界では全ての争いが消えた。

 まるで、闘争という魔法が解けたように北部の奴らは交渉の席で和平を結んだ。

 テレビで見た情報では、何方とも終わりの見えない戦いに嫌気がさしていたらしい。

 目立った争いも無く。互いににらみ合いながら時間が流れて。

 そんな時に偶々、自分たちの子供たちを招かれたパーティ会場に連れて遊ばせていたらしい。

 そこには敵である国のトップも来ていたが、そこはパーティ会場でもあった事からどちらも不干渉を貫いていた。

 しかし、子供たちの笑い声が聞こえて視線を向ければ。

 そこには一瞬の内に仲良くなった戦争を起こした両国のトップたちの子供が笑っていた。

 彼らは互いに視線を合わせながら、もうやめようと決断したらしい……まぁいい事だ。

 

 異分子の問題も消え、北部での戦争も終わり。

 今は世界中では戦災孤児への支援や街の復興が進んでいる。

 それを率先して行っているのは、ハーランドのCEOに返り咲いたセシリア・ハーランドで。

 彼女はより多くの人間から人望を集めて衰退していたハーランドを不死鳥の如く蘇らせた。

 今ではハーランドは他の企業よりも頭一つ抜きんでている。

 まぁ大安はメリウスよりも最近では飲食業界で活躍していた。

 何でも、こんな時代で武器を打っても儲けは少なく批判が多いかららしい。

 奴らは多くのレストランや火乃国の食文化を学ぶ為に役員たちを研修させていた。

 

 ……問題はSAWだったが……こいつらは……まぁうん。

 

 結局、SAWは万象の件で大きく力を失った。

 奴らは資金面での援助も経たれて、碌な研究も出来ない環境になり。

 多くの優秀な研究員はハーランドや大安に流れていった。

 と言っても、倫理観がやばい天災様方は、裁判に掛けられて獄中生活を送っている。

 内部からガタガタになった奴らは神からも見捨てられて現在では――何故か、娯楽の分野で活躍していた。

 

 元々、頭がいい奴らの集まりで。

 残された奴らは兵器などに関してはあまり興味が無かったらしい。

 だからこそ、奴らはどうせ終わってしまうかもしれないならばと。

 自分たちが本当にやりたかったゲーム開発や玩具の製作を始めた。

 その結果、最初はきわどい内容のものやマニアックなものばかりでコアなファンを獲得し。

 より大衆向けのゲームや今までにないような奇妙な玩具を生み出しいくつかは大ヒットしていた。

 その結果、三年の間にSAWは昔のようなメリウスの兵器を開発するやばい企業ではなく。

 性癖がねじ曲がったある意味でやばい奴らの総本山と呼ばれるまでになってしまった……まぁ、うん。

 

 別にいい。

 SAWは嫌いだったが、その中で働く社員全てが悪とは言わない。

 現社長だって今は三十代の若い奴らしいし。

 まぁ新しい風となって経済を回していけばいいさ。

 

 バーナー博士も私たちの集まりに呼ばれていたけど。

 彼は長年の夢だった宇宙に行っている。

 セシリアさんもそうであり、彼女たちは新しいプロジェクトを起ち上げていた。

 何でも人類の宇宙の進出に加えて、月や火星で暮らせるようにする計画らしい。

 既に月と火星の権利を手に入れていて、誰もが出来なかった月の開拓を彼女たちは進めている。

 バーナー博士は何時もハイテンションであるようで、ウッドマンさんが通信越しにげっそりとしていたのは記憶に新しい。

 

 それぞれの人生がある。

 俺もそうであり、皆はこの世界で未来へと進んでいた。

 だけど、時にはその道が交わる時もある。

 それが今日であり、俺はこの日を楽しみにしていた。

 

「さぁ、いるかなぁ……お!」

 

 そんな事を思いながら、俺は店の窓から中を覗く……いるいる!

 

 中からざわざわと微かに声が聞こえる。

 俺はもう集まっているんだと思って静かに呼吸を整える。

 ちょっと緊張しているかとも思ったが……うし。

 

 俺は笑みを浮かべる。

 そうして、ゆっくりと扉の取っ手を掴んだ。

 さぁ会いに行こう。仲間たちに、大切な家族に。

 

 俺はゆっくりと扉を開けていく。

 そうして、そこにいる仲間たちからの視線を受けながら――ニッと笑って片手を上げた。

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