【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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1:約束はすぐそこに(side:ミッシェル)

 俺はゆっくりと取っ手を掴んで扉を押す。

 カラカラとベルが鳴って扉が開かれた。

 中を見えば、三年の時が経っても変わらない仲間たちが立っていた。

 

 入って来た俺を見て、仲間たちは笑みを浮かべる。

 

「よ! 久しぶり!」

「ミッシェル! 元気だったか?」

「おぉ! ミッシェルさんじゃん! 変わらねぇなぁ」

「うるせぇよ!」

 

 片手を上げながら、中に入る。

 シャンドレマの兵士たちは俺の事を知っていた。

 この国に来て俺自身も仕事の関係で、多くの基地に出入りしていたからな。

 当時はメリウスの修理から武装類のカスタムなんて馬鹿みたいに色々やっていた。

 でも、家に帰るのは俺が一番であり……思えば、あの時から料理の勉強を始めたんだよなぁ。

 

 皆には言っていなかったけど、ナナシたちには美味しい料理を食べてもらいたかった。

 だからこそ、俺が料理を作る時には簡単そうなものでもちゃんとこだわって作っていた。

 ヴァンの奴は何でも美味いとしか言わねぇけど……ナナシの奴は分かってくれてたな。

 

 昔を思い出しつつ、仲間たちに声を掛けていく。

 誰もがジョッキを持ちながら他の仲間と話していたが。

 俺に気が付くと笑って歓迎してくれた。

 メカニックもいて、彼らは俺に片手を上げて挨拶をしてくれた。

 そんな奴らの声に応えながら、一番最初に見えた大切な仲間の元に近寄る。

 

 眼鏡を掛けて、髪を団子のように結っている女。

 清楚と言った感じの白を基調とした服を完璧に着こなし。

 コップを片手に視線をカウンターに向けていた儚げな美女。

 三年前から成長して、その体も凹凸が激しく……いけねぇ。

 

 スケベ親父みたいな感想が出かかってぐっと飲み込む。

 そうして、俺は”ドリス”の近くまで寄っていけば気づいたようでパッと笑ってくれた。

 

「あ! ミッシェルさん!」

「よ! 久しぶりだなドリス! ライオットは……何してんだ?」

「あ、ははは、そのぉ……ははは」

 

 ライオットらしき人間はカウンターに座っていた。

 その両隣にはベックとDQのおっさんが座っている。

 

 そういえば、あの戦いで生き残っていたDQのおっさんとDJ。

 どうやら俺たちがセントラルで派手に戦っていた時も代行者の一人と戦っていたようで。

 結果は勝てた……と言うよりも、相手が”逃げていった”らしいが。

 

 代行者らしきそれは行方をくらまし。

 追い掛けようとしたものの、障壁が消えた事を確認しておっさんたちは任務を優先した。

 任務を達成しすぐに来たらしいが、DQのおっさんたちが駆けつける頃には全てが終わっていた。

 おっさんは一番悔しがっていたが、まぁ生きているだけ良かったと俺たちは思っていた。

 

 にしても、ベックは分かるが。何故、あのおっさんまで怖い顔をしてライオットを睨んでいるのか。

 俺が怪訝な顔をしていれば、ドリスがちょいちょいと肩をつつく。

 

 彼女は俺の耳元に手を当てて静かに呟く。

 

「その、実は私たち……結婚することになりまして……二人がそれを聞いて無言で座らせて」

「……っ! へぇ、結婚するのか……そいつはめでたいな……よし、俺に任せろ。あの阿保共は俺がこの手で沈める」

「お、お願いします」

 

 彼女に任され、俺は馬鹿どもに声を掛ける。

 すると、奴らは人殺しのような目で俺を睨む。

 俺はボキボキと拳を鳴らしながら、人の幸せくらい快く祝えと言ってやる。

 すると、二人は互いに見つめ合って――滝のような涙を流す。

 

「な、何だよ。気色悪いな」

「何ィィ!!! 我らの涙が気色悪いだとォォ!! お、俺たちはこんなにもライオット君を祝福しているというのにィィ!!!」

「そうだッ!! 俺は、俺はぁぁ!! 今、猛烈に感動してんだよォォ!!」

 

 二人は顔をくしゃりと顔を歪めわんわんと泣く。

 大の大人が二人号泣している様はホラーでしかない。

 俺は必死に二人を宥めながら、ライオットに心当たりはあるのかと聞く。

 すると、奴は照れ笑いを浮かべながらぽつぽつと語る。

 

 どうやら、最近の仕事でこの二人と共に行動する事が多かったそうで。

 仕事の休憩時間などによく相談に乗ってもらったらしい。

 ドリスへのプレゼントにどんなものがいいか、最近そっけない気がするとか。

 彼女が好きだっていう花を買っていこうと思うけど、どのタイミングで渡せばいいか……あぁぁ。

 

 ベックとおっさんはがばりとこいつの肩を抱く。

 そうして、奴の顔が潰れる程に顔を近づけた。

 

「なぁぁ!!? こいつがどれほどの奥手でピュアァァな心の持ち主か分かるだろぉぉぉ!!?」

「そりゃ俺たちも最初はクソリア充だと思っていましたよぉぉ!!? でも、こいつ十年以上も一緒に生活していてチューすら出来たのが二年前何ですよぉぉぉ!!? どんだけピュアァァァなんだよクソ野郎って思いながら早く結婚しやがれクソボケがぁぁって思ってて遂にこれで嬉しいに決まってるじゃないですかぁぁ!!」

「うるせぇぇ!!」

 

 奴らは滝のように涙を流し。

 ライオットは頬で顔をぐりぐりされて。

 涙と鼻水でべたべたになっていた。

 凄く汚い上に絵面が最悪だったが、まぁ嫌がっていないからいいかと放置する。

 ドリスを見れば彼女も嬉しそうに笑っていた……はぁ。

 

 俺はその場から去り、ドリスに問題なさそうだと伝える。

 彼女も安心してくれたようで、俺はそんな彼女に念の為に言っておくことを伝えた。

 

「……結婚式、呼んでくれよ?」

「はい! 勿論です……ナナシさんも」

「……ナナシか……アイツも誘ったら来るよ。きっとな」

 

 俺はそう言ってドリスの横を通り過ぎる。

 そうして、見ればアニーとイヴが離れた席で山のように盛られたカレーをドカ食いしていた。

 その前にいるのは……HJとCQか。

 

 ガヤガヤと他の兵士たちが騒いでいた。

 何故か、この四人は大食い大会を開催していた。

 HJは顔面蒼白で口元を抑えている。

 CQは既に気絶していて泡を吹いていた。

 

 アニーとイブは既に二人よりも半分以上を平らげていた。

 こいつらの胃袋はブラックホールであり……お代わりするんだろなぁ。

 

「ほどほどにしておけよ……ふふ」

「うむうむうむ……うぐ」

「はむはむあむ……水」

「へ、へい!」

 

 歴戦の兵士を顎で使うメカニック。

 面白い絵面だと思いながら、俺は奥の席で優雅に座る一団を見つけた。

 そこにはSJとSQ。そして、イザベラの姐さんが座っていた。

 彼女たちの前には何故か、ジョッキに並々と注がれた黄金の液体が……何で喫茶店に酒が?

 

 俺は少しだけ恐怖を感じながら三人の前に立つ。

 最初に姐さんが俺に気づいて手を上げる。

 やっぱり、姐さんは姐さんで全く変わっていない。

 あの頃のように若々しくて力強く、温かな笑みを浮かべていた。

 

「よぉ、久しぶりだね……景気はどうだい?」

「まぁボチボチですよ……そっちはどうですか?」

「ふふ、聞きたいかい……最近、威勢のいいガキ共が入ってね。何でもかなりの問題児だって言うんだ。この私にもたてついてきてね。半殺しにしても、私の寝込みを襲う気概がある。今はそんな愛すべき馬鹿どもを教育しているところでね。退屈だったけど、少しだけ張り合いが出てきたところさ」

「……お前、絶対に殺すなよ……教官が訓練生を殺すなんてシャレにならん」

「ははは! そんなへまはしないよ。精々が埋めて一日放置するくらいさ」

「……うぅ、胃が痛い」

 

 SJは腹を抑えながら苦しむ。

 L&Pが傭兵派遣会社の役目を終えて。

 事実上の解散となった時に。

 ライオットとドリスは互いにあらゆる地方での支援作業に従事する事になった。

 ベックも何故か、率先してやりたいと言っていて。

 アニーとイヴはその腕が買われて、今ではシャンドレマでお抱えメカニックをしている。

 彼女たちは気まぐれであり、仕事を選ぶらしいが作業の速さと正確さから重宝されていた。

 時々、ベックが人手を募れば何故か、アニーとイブがいるらしい。

 ベックがアイツらはばかすか食うから財布がすっからかんだと嘆いていたな。

 

 イザベラの姐さんは傭兵を引退した。

 そうして、今までの経験を活かせる軍学校の教官にSQとSJの推薦でついていた。

 その教育はスパルタであり、ついてこられる生徒は限られている。

 彼女が育てるのはエリートの中のエリートだったらしいが。

 今ではどこでも扱え切れないような札付きの悪のたまり場になっているらしい。

 彼女はそんな悪党連中を一人で教育していた。

 その影響力は絶大であり、彼女の教育を受けた者の中には彼女をボスのように崇める者もいるらしい……こえぇ。

 

 SJは推薦した手前。

 今のシャンドレマの軍を統括する部署から何度もお小言を言われているらしい。

 立場的には彼もそれなりに上ではあるが。

 政治を担っていたりする人間たちは、言う事はハッキリと言う人間が集まっているようだ。

 彼は毎日毎日、そんなクレームに対応し、相棒であるSQにも振り回されている。

 彼女は今でもナナシを探していて、任務と評して世界中を飛び回っているらしい。

 ちゃんとそこで起きた暴動などは速やかに鎮静し。

 空いた時間で探しているらしいが……そういえば、進展があったって言っていたな。

 

 俺は姐さんの隣に座るSQを見る。

 すると、彼女はパソコンをじっと見つめていた……ん?

 

「……そのパソコン、あまり見ねぇモデルだな……何処で買ったんだ」

「……貰った。怪しげな機械人から……これを持って此処に来れば、想い人に会えると言っていた……」

「……何だそれ。すげぇ怪しいけど……どう思う?」

 

 俺は二人に問いかける。

 すると、SJは胃薬を飲んでから「知らん。どうでもいい」と言う。

 姐さんだけはビールを飲みながら「信じてもいいだろう」と笑う。

 

 俺はそれもそうだと思い。

 SQに断りを入れてから、パソコンに俺の端末のケーブルを指す。

 そうして、指で端末を操作して……よし。

 

「これで、何かが出れば皆にも見える筈だ……で? 何時頃出るんだ」

「……待て……後、五秒、四、三、二、一……」

 

 SQは血走った目をパソコンに向ける。

 しかし、画面は真っ暗なままだった。

 SQは絶望したような顔でパソコンへと負の感情を浴びせる。

 今にも叩きこわそしそうな奴に怯え――画面が乱れる。

 

「……ッ!!」

「何だ? 画面が急に――!」

 

 画面が急に乱れた。

 そうして、画面の向きを全員が見えるように変えて。

 その中をのぞき込めばパソコンのレンズから映像が投射される。

 それは黒いスーツを着た人間を映し出していて――

 

 

 

《……んん……あ、あぁ……これ、映ってるよな?》

《映ってる映ってる……ほら、ミッシェルの間抜け面が見えてるだろ? ぷふふ》

《……ヴァン、やめろ。彼女は今、困惑していて》

「「「「――ナナシッ!!!!?」」」」

 

 

 

 ナナシとヴァンの声が静かに響く。

 一瞬店の中はシーンと静まり返った。

 しかし、すぐに全員がこいつに視線を向けて駆けよって来た。

 

 ナナシはぎょっとして後ずさる。

 俺たちは互いに押し合いながら矢継ぎ早死に質問する。

 俺自身も碌な連絡もせずに何をしていたのかと聞いた。

 しかし、ナナシは目を動かすだけで何も言わない。

 だらだらと汗を流しながら硬直し――がばりと頭を下げる。

 

 

《すまなかったッ!!!! 訳あって皆に連絡が取れなかったんだッ!!!!》

「「「「…………」」」」

 

 

 全員が動きを止める。

 そうして、ジッと奴を見つめていた。

 奴は恐る恐る顔を上げて……俺はぷっと噴き出す。

 

 全員もつられて笑っていた。

 ナナシは困惑していたが、横から現れたヴァンの腕があいつを小突く。

 

 俺は目元の涙をぬぐいにしりと笑う。

 

 

 

「おかえり――待ちくたびれたぜ」

《……っ! ただいま》

 

 

 

 皆は笑う。

 あの戦場で共に戦った男の帰還を喜ばない人間なんていない。

 ナナシは無邪気な笑みを浮かべて――咳払いが聞こえた。

 

《んん!! 俺も!! 俺もいるぜぇぇ!! 皆の愛する社長様は此処にぃぃ!!》

「……てぇ!! 何でヴァンがッ!!?」

「ヴァヴァヴァヴァンさんッ!!? ゆゆゆぅゆぅ幽霊ッ!!?」

「……っ……おぉ? アイツめぇぇ。遂に化けて出て来たのかい? 本当にしぶとい奴だねぇ」

《……あのさぁ……何か。ナナシと扱い違くない? ねぇ泣くよ? むっちゃ泣くぞ?》

 

 ヴァンはがっくりと肩を落とす。

 俺はそんな奴に謝っておいた……よく分からねぇけど、生きてたのなら嬉しい事だ。

 

 姐さんは何ともなさそうに振舞っているが。

 俺の目には明らかに喜んでいると分かる。

 CQも幽霊だとビビりながらも笑っていた。

 

 ナナシが生きていて、ヴァンも生きている。

 今日は最高の日であり、俺は映像でなくてすぐに来るように言う。

 皆も主役がいないと盛り上がりに欠けると言っていた。

 すると、ナナシは困ったように笑う。

 

《……実は、今、重要なプロジェクトを進めていてな……まだ、皆の所にはいけそうにない》

「……何だよそれ? 言えない事か?」

《……そうだな……もう一つの世界に関する事だ……俺はそこへ行かないといけない》

「……! ナナシ、お前があそこに……だが、どうやって……」

《方法はある。ヴァンも一緒に来てくれるから大丈夫だ……それで、ミッシェル……ユーリは》

 

 ナナシは不安そうに聞いて来る。

 俺はハッとして少し困ってしまう。

 俺が口ごもったのを見て、ナナシは小さく笑う……すまん。

 

《……大丈夫だ。ユーリはきっと何処かで生きている……神との戦いの時に、彼女の声が聞こえたんだ》

「ユーリの声がか?」

《あぁ、皆の声が聞こえた中で。ユーリの声とその鼓動がペンダントを通して感じられた……俺は信じている。彼女は生きていると》

「……そっか……あぁそうだな……俺も信じているぜ!」

 

 俺は親指を立てて笑う。

 すると、ナナシはしっかりと頷いた。

 

《言いたい事はそれだけだ。仕事に目途がついたら、すぐに会いに行く……その時に、ミッシェルに伝えたい事がある》

「……何だよ……今は、言えねぇのか?」

《……そうだな。少し、此処では》

「……っ……そっか……」

 

 俺は何となく分かっていた。

 いや、期待していたのかもしれない。

 アイツの顔も映像越しだが赤くなっているような気がする。

 俺たちは互いに視線を背けて――

 

《おや? おやおやおやおやおやぁぁ? ご両人、お顔がお熱いようで? ぷふふふふ!!》

「……モテない男はつらいねぇヴァン」

《うううううるせぇ!! 俺だって本気を出せば彼女の一人や二人ィィ!!》

「は、あり得ないね。お前みたいな男をうまく扱えるのは私くらいだよ」

《ぐうぅぅぅぅ!!!!》

 

 姐さんはけらけらと笑い、ヴァンは歯ぎしりをする……気づいてないのか?

 

 今のは明らかに姐さんからの告白だ。

 チラリとドリスを見ればにまりと笑っている。

 姐さんを見れば少しだけ耳が赤いような気がした。

 それは酒による酔いなのか……そっとしておこう。

 

 俺はこほりと咳ばらいをする。

 そうして、ナナシに――何だ?

 

 端末が震えていた。

 俺はケーブルを抜いてから、何のメッセージが来たのかを確認し…………へぇ。

 

 俺は薄く笑う。

 ナナシがそんな俺の横顔を見つめて首を傾げていた。

 俺は気にするなといいながらにやにやと笑う。

 

《……? 兎に角、そういう事だ……映像越しでも、皆の顔を見て声が聞けて良かった……次に会う時は、俺が皆にたらふく飯と酒を奢るよ》

「おぉ!! ナナシ様からのお恵みだよ!! 野郎ども喜べ!!」

「「「「オオオォォ!!」」」」

 

 ナナシは皆の声を聞いて喜んでいた。

 俺はそんなアイツを見つめながらにやりと笑う。

 

 

「それじゃ――”またな”」

《あぁ、またな》

 

 

 アイツは手を振りながら通信を切る。

 俺は静かに息を吐く……さて。

 

 俺は踵を返して店を出ようとした。

 すると、姐さんは何処に行くのかと聞いて来る。

 飯だって食っていない上に、まだ仲間たちと話していない。

 話したいし、もっといたかったが――やるべき事が出来ちまった。

 

 俺は足を止めて振り返りながら、すっと上を指さす。

 

「ちょっと――”外を見に行ってくる”」

「……あぁ、そういう」

「……外? 何だ。どういう意味だ」

「んん? さぁ?」

「おい、教えろ。おい!」

 

 イザベラの姐さんは何かに気づいていた。

 SQは気づいていないようで、必死に姐さんの肩を揺らす。

 姐さんはけらけらと笑って顎を動かす……ありがとう。

 

 俺は走り出す。

 そうして、店から出てメッセージのさす場所に向かう。

 またな、だって――あぁ、そうさ。”また”だよ!!

 

 アイツの顔を想像しながら、俺は駆けていく。

 平和になった世界でも、俺にはアイツがいなくてはいけない。

 好きで好きで、愛しているから――待ってろよぉ!!

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