【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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050:神の選定

 愉快な仲間ユーリ・ミヤフジ26歳。

 端正な顔立ちで、統括委員会所属の三級調査員。

 それだけの情報だけなら、とても優秀でさぞや人望がある人間だと思うだろう。

 俺も情報だけ見ていたら、絶対にそう思っていた……だが、実際はそうじゃない。

 

「違う違う違うぅぅ!! 私は本物の三級調査員で! 傭兵統括委員会の所属なのぉぉぉ!! 何で信じないのぉぉぉ!!」

「……いや、ですからね? 何でそんな恰好をしているのかを聞いてるんですよ」

 

 先程から地団駄を踏みながら鼻息を荒くして説明しているミヤフジ。

 神殿の前に立っていた警備員は困り顔で俺たちに助けを求めていた。

 彼らの意見は至極まっとうであり、彼女の格好は最初の時の綺麗なスーツでは無く。

 自分の趣味で購入した服を着ていた。

 

 太陽をイメージしたカラフルなTシャツを着て、その上には袖を千切ったようなデニムのベスト。

 下はダボダボの目がチカチカするような黄色のズボンを履いている。

 靴は厚底のサンダルであり、これでもかとデコレーションが施されていた。

 

 誰がどう見ても、あの誰もが知る傭兵統括委員会の調査員だと思わない姿で。

 彼女は何故か、自信満々で先ほど俺たちに渡した名刺を警備員に渡していた。

 俺やイザベラは何度も聞いたのだ。

 本当にその格好で行くのかと。すると、彼女はこれでいいのだと言っていた。

 

 馬鹿だとは思っていた。

 しかし、こいつはやはりただの馬鹿ではない。

 世界チャンピオンクラスでは無く、こいつこそがチャンプだろう。

 

「格好なんてどうでもいいでしょ!? いいから偉い人を呼んでください!!」

「……はぁ、そのですね。あまりこういう事は言いたくないんですが……その歳でこういう悪ふざけはね、辞めた方がいいですよ? お連れの方々もね。困っていますし……これ、飴ですけど。良かったら食べてください」

「ううううぅぅぅぅぅぅぅぅううううぅぅ!!!!」

 

 彼女よりも年上の男の警備員。

 彼は優しい笑みでポケットから袋に包まれた飴をミヤフジの手に載せる。

 ミヤフジは頬を風船のように膨らませて目に涙を溜めていた……あ、まずい。

 

「うあああぁぁぁぁああぁぁぁ私はああぁぁぁああぁぁ本当にぃぃぃ調査員だもぉぉぉんんああぁぁ!!!」

「あぁ、ちょっとちょっと……あぁ困ったな。どうしたもんか」

「……ナナシ、俺今、すげぇ恥ずかしいんだけど」

「……俺もだよ」

 

 ヴァンと一緒に子供のように泣きじゃくるミヤフジを見つめる。

 神殿の近くを通りかかる人間たちは可哀そうなものを見る目で彼女を見ていた。

 イザベラたちはどうなんだろうと思って隣に目を向けて……いない。

 

 周囲に目を向ければ、彼女は遠く離れたベンチで座っていた。

 一切此方を見ずに、あたかも他人であるかのように二人で談笑している。

 俺もそっちに行きたかったと思いながら、ミヤフジに声を掛けた。

 

「ミヤフジ、もういいんだ……その、ありがとう」

「えぐ、うぐ、で、でもぉ。わ、私は、ま、まだぁ」

「……アンタは良くやったよ。だからさ。ほら、今日は帰ろうな? 何か奢ってやるからさ」

「……ハンバーグが食べたいです。目玉焼きがのってるやつ」

「あぁ、いいよいいよ。何でも食え。さっさと離れようぜ……視線が痛いからな」

 

 騒ぎを起こし過ぎて悪目立ちしている。

 ヴァンもそれが分かっていて、一刻も早くこの場から去ろうとしていた。

 ミヤフジは泣きはらした目を俺たちに向けながら、静かに頷いた。

 彼女の手を掴んで起き上がらせて、俺たちは早速帰ろうと――

 

 

「お待ちください」

「――そ、そのぉ。な、何か?」

 

 

 別の警備員の男が俺たちを呼び止める。

 ヴァンと俺は重い首を動かしてその男に視線を向ける。

 すると、耳につけた通信機を通して誰かと話しをている様子だった。

 何かの確認をしていて、俺たちはその間、バクバクと心臓の鼓動を速めていた。

 まさかとは思うが、業務妨害で捕まえられるのか。

 あり得る話であり、此処はカメリアの重要な神殿だ。

 その前で泥を投げつけるが如き愚行をしたのだから、最悪の場合俺たちは――死刑。 

 

 汗がダラダラと流れて行って、俺たちはがくがくと震える。

 そうして、警備員の男が連絡を終えて――ニコリと笑う。

 

「大神官様が中でお待ちです。どうぞ、中へ」

「本当ですか!? ふふふ、どうですかナナシさん。これが私のじつりょ――っ!!」

 

 ミヤフジの口を塞ぐ。

 そうして、ヴァンはへらへらと笑いながらペコペコと頭を下げた。

 

「へ、へへ。せ、折角の申し出ですが。ぼ、僕たち急用を思い出して。そ、そのぉ、ま、また今度」

「――いえいえ、是非にと。大神官様が仰っていますので」

 

 満面の笑みで警備員が言う。

 心なしか、その笑みに影が見えていた。

 本能的な恐怖を煽り、内なる殺意を見せる表情だ。

 先人も言っていた。笑みとは本来、攻撃的な意味を持つのだと。

 

 ゆっくりと後ずさりをする。

 すると、背中に何かが当たり太陽の光を遮った。

 俺は不安を大いに感じながら頭上を見上げた。

 そこには満面の笑みで俺たちを見下ろす別の警備員がいる。

 

「さぁ行きましょうか。我々がご案内します」

「は、はは、ははは……死んだ」

 

 ヴァンは乾いた笑みを零す。俺は真顔で全てを悟る。

 逃げようとすれば、背後に屈強な警備兵が立つ。

 その手には最新のライフルが握られていて。

 彼らは白い歯を見せながらニカリと笑っていた……終わったな。

 

 短い生涯だったと思いながら、俺は観念した。

 脇を持ち上げられて、反対のヴァンも持ち上げられた。

 中心のミヤフジは宙に浮いて、ヴァンは必死に首を振りながら助けを求めていた。

 

「嫌だァァ!! こんな所で終わりたくねぇぇぇぇ!! ごめんなさいごめんなさいぃぃぃぃ!! お願いだから助けてぇぇぇ!!」

「……? ロペスさんは何を言っているんですか? 折角、入れるのに」

「……今に分かる。そう、すぐにな」

 

 俺は遠い目をしながら全てを諦めた。

 イザベラたちが助けに来る気配は無く。

 俺たちは白く巨大な神殿の中へと強制的に連れて行かれる。

 この先で待つ大神官。普段は優しいであろうその方も、今の俺たちにとっては終わりを与える死神だった――

 

 

 

 

「ははは、そうですか。やはり、ミヤフジさんでしたか。たぶん、そうだとは思っていましたが……ふふ」

「もぅ大神官様ひどいですよぉ。気づいておられたのなら、出てきてくれても良かったのに」

 

 豪華な部屋に通された俺たち。

 中には純白の法衣を来た七十代くらいの大神官が座っていた。

 対面に座らされて、背後にはSPが立っている。

 俺たちの事を無言で見つめるそれらの人間たちは、見ただけで相当な訓練を積んでいると分かった。

 

 最初はビクビクしていた俺たちだが。

 大神官はミヤフジの顔を見た瞬間に笑みを浮かべて対応していた。

 どうやら顔見知りのようであり、口調からして親しい関係だと分かる……本当に入れるんだな。

 

「い、いやぁ。それにしても、ミヤフジさんが大神官様とお知り合いだったなんてなぁ。す、凄いよねぇナナシ君!」

「……大神官様は何処で彼女と?」

「あぁ、それはですね。以前に私がとある街にて行われる式典に参加した時に偶然お会いしましてね。記者の方にはあまり良い印象は無かったのですが、彼女は私の好きな物や好きな映画などを聞いてきまして……それが面白くて、偶に話し相手になってもらってるんですよ」

「そうです! ヨウヘイ=サンのネタを求めて私は大神官さんと接触し、特集を組んだのが私なのです!」

「……大神官様は元メリウスのパイロットだったんですか?」

「ん? いえ、私は生まれてからずっと神官になる為の教えを受けていたので。争いごとは何も」

 

 俺は訝しむような視線をミヤフジに向ける。

 すると、彼女は慌てて俺の疑問を解消する為の説明を始めた。

 

「確かに、大神官様は傭兵ではありません。ですが! 傭兵と神官は切っても切れない関係なんです! 何故だか分かりますか!?」

「……それは……いや、分からない」

「でしょ!? それはですねぇ…………えっと、手帳は…………あれ、部屋に置いてきたかなぁ」

 

 ポケットを漁るミヤフジ。

 どうやら、大切な事を書き記した手帳を失くした様だ。

 俺は何をやっているのかと思いつつ、大神官様に目を向ける。

 すると、彼は俺の意図を組んでくれて説明を始めた。

 

「遥か昔。それこそ、人類が観測できないほど大昔の話ですが……その時代にも、メリウスに似たものがあったと言われています」

「……それって確か……神様のように扱われていたっていう、アレですか?」

「おぉ詳しいですね。そうです。その時代は、乗るのではなく祀る為にそれらは存在しました……今でいう御神体のようなものでしょうか……だからこそ、我々神官を志す人間は、メリウスに乗るパイロット。つまり、軍人さんや傭兵の方々を同じ神の眷属であると認識しています……私たちが信仰しているのは創造主様ですが。恐らくは、それらも創造主様を模したものであると我々は考えています」

「……ですが、その考えでいけば我々は神に乗り操っている事になるのでは?」

 

 俺は思わず失礼な質問をしてしまう。

 しかし、彼は怒る訳でも無くくすりと笑い「そうとも言えますね」と言う。

 

「捉え方は様々です。中には無礼だと言う方もいますが……私は神より生まれし人が、神の一部となったと解釈しています……元は神の一部。それが元に戻っただけです……傭兵さん達との関りはあまりありませんが。優秀な方々には必ず、神より招集が掛かります。その時は、この教会に皆が集まり、神の命に従うでしょう……こういう事もあり、我々は傭兵の方々を選定する人間だと皆さんは解釈しているようですね。因みに、このノース・カメリアを守る方々も、元カメリア青騎軍人であったり傭兵であったり……自慢ではありませんが、カメリアの防衛隊に志願する方は多いんですよ?」

「そうなんですねぇ。それは確かに、関係ありですね」

 

 ヴァンは頷きながら納得していた。

 傭兵と神官の関係は確かに存在して。

 多くのパイロットがカメリアの防衛隊を志願するのも頷ける。

 もしも、神に見初められるのであればその膝元が一番可能性が高いだろうからな。

 

 しかし、それよりも気になるのは……その選定というワードだ。

 

「選定……もしかして、”代行者”の事ですか?」

 

 俺は一つの噂話を思い出す。

 神に選ばれし人間たち。

 代行者の任を与えられた彼らは、神の命にのみ従うと。

 地上において神が行う筈のあらゆる事を代わりに行う彼らを、俺たち傭兵は”代行者”と呼んで恐れていた。

 

 存在するかも定かでは集団。

 実在すると噂さてきたが、確たる証拠は何一つない。

 そんな存在がいるかもしれないワードが選定で。

 神は自らの手下を自分や神官たちを使って集めさせているのか?

 

 俺がそういう意味合いで尋ねれば、彼は困ったように笑う。

 

「……あまり詳しくは言えませんが……今の話は他言無用で……」

「……もしかして、”生誕祭”の時に行われる”デュエル”も……」

「……それで、ミヤフジさんたちはどんな御用で此方に?」

 

 俺の呟きは聞こえなかったようだ。

 

 話を変えられたが、それは仕方のない事だ。

 彼としてもその話をこれ以上深堀されたくないのだろう。

 しつこく聞けば色々と印象が悪くなってしまう。

 俺はそれ以上の言及を止めて、彼に説明を始めた。

 

「実は、碧い獣と呼ばれる傭兵がこの街に出現するという話を聞きまして……何かご存じですか?」

 

 俺が奴の事を話せば、彼は目を開いて驚いていた。

 

「……何処でその情報を……いえ、知っているのであれば……そうですね。見てもらいましょうか」

「見てもらう?」

「……お時間を頂いてもよろしいですか? お見せしたいものがあります……異分子である貴方なら、何か感じられるかもしれません」

「――ッ!」

 

 彼は立ち上がりくすりと笑う。

 首には布を巻いていてバレている筈がないのに。

 彼は俺の事を異分子であると見抜いた。

 一体どうやって知ったのかは分からない……いや、ミヤフジとも知り合いだったんだ。

 

 恐らくは、他の人間から情報を得ていたのかもしれない。

 大神官は碧い獣の事も知っていた。

 それはつまり、奴の仲間と交戦した俺の情報も持っていた筈だ。

 つまり、彼は今の今まで異分子である俺の情報を持ちながら、すんなりと神聖な場所に入れた事になる。

 

 何が狙いか。何を見せるつもりなのか……いや、大丈夫だ。

 

 この人からは邪な感情を感じない。

 優しい目であり、俺の事も一人の人間として見ていた。

 言葉からも少しの憐れみも侮蔑も感じなかった。

 だからという訳では無いが、今更、この人が俺に何かよからぬ事をさせるとは思えない。

 

 彼は踵を返して歩いていく。

 俺たちの背後のSPも動き出して、何方にせよ帰れる空気ではない。

 ついていくしか選択肢は無く、俺は扉を開けて出て行く大神官についていった。

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