カタカタと小刻みに揺れる中で、俺は静かに目を閉じる。
輸送機にアンブルフとワンデイを載せて、すぐに俺たちは街を離れた。
最後にマーサさんに会いに行こうとしたが……やめた。
あの人に合わせる顔は無い。
大切な子供を失い、信じていた人から撃たれた。
その二つの事実を受け止めるには時間が必要だろう。
俺なんかではどうしようも出来ない。
頼りになるのは同じ孤児院の仲間たちだけだ。
時刻は既に夜で、砂嵐の中を飛んでいく。
敵の姿は見えず。ヴァンは何も言わずに操縦をしているのだろう。
空を飛びながら、俺たちはヴァレニエを目指す。
ヴァンは何も言わないが、アイツの考えは分かる。
絶対に奴と俺を合わせない為に、スケジュールを押してでも飛び立った。
少しでも距離を稼ぎ、安全な航路を選んで……でも、無駄なんだ。
奴はAランクの傭兵で、殺しのプロだ。
此方の情報は筒抜けであり、奴は必ず俺たちが移動している時を狙って襲ってくる。
街にいた時ではダメで、ヴァレニエに入ってからでは遅い。
移動中であるのなら事故に見せかける事が出来る。
この広大な世界で、大した身分でも無い俺たちの死を調べに来る変わり者はいないから。
俺が奴であるのなら、絶対にそうするだろう。
「……」
俺はそう確信して、コックピッドの中で奴を待つ。
知らせはすぐに来る。何時でも出撃の準備は出来ていた。
今度こそ、奴を確実に殺す。
もう二度と奴の所為で悲しむ人間が出ないように。
そして、俺自身のケジメの為に、この手で奴の息の根を止める。
時間が流れていく。
静かに、ゆっくりと――機体が揺れる。
軽い衝撃音であり、すぐにヴァンから通信が入った。
俺はゆっくりと目を開けてから、奴に対して出撃させる様に言った。
ヴァンは静かに決意に満ちた声で言葉を発した。
《……約束してくれ。絶対に帰って来るって……今はそれだけでいい》
「……約束する。絶対に帰って来るよ」
《……健闘を祈ってる》
ヴァンからの通信が切れる。
そうして、底のハッチが展開されて行った。
風が勢いよく吹き荒び、機体が下に出ればまた輸送機全体が揺れた。
見れば後方より複数のメリウスが迫っている。
大型のバズーカ砲を持った重装甲型が執拗に此方に攻撃を仕掛けていた。
輸送機はそんな攻撃を回避する為に、大きく機体を揺らしていた。
右へ左へと揺らしていて――イザベラとの通信が繋がる。
《雑魚は任せな。アンタは親玉を撃て》
「分かった……巻き込んですまない。この借りは」
《――絶対に返すんだ。死んだら承知しないよ》
イザベラの言葉に頷く。
そうして、通信は切れる。
攻撃の回避が間に合わずに、敵が放った弾が被弾する。
機体から黒煙が上がっているが、まだ大丈夫だと確信する。
本当に危ない時であれば、ヴァンたちから通信が入るから。
俺は仲間たちを信じながら――戦闘システムを起動した。
コックピッド内が光に満ちる。
周囲のモニターに映像が投影されて。
俺はレバーを強く握った。
これで決める。
これで終わらせる。
俺の復讐は――此処で果たすッ!
ガコリと音がして、機体が落ちていく。
イザベラの機体も放されて、俺たちはすぐにスラスターを点火した。
エネルギーを放出しながら、俺は両手のショットライフルを構えた。
敵の機影は五機。視界に入った二機に向けて、俺はショットライフルの弾丸を放った。
がすりと音が響き、勢いのままに弾が拡散する。
敵はそんな俺の攻撃を予測して散開する。
が、避けた先にはイザベラが先回りしていた。
イザベラはそのまま片手のチェーンブレードを勢いのままに振るう。
敵は回避が間に合わずに、バズーカを盾にした。
イザベラのチェーンブレードはそんな敵のバズをバターのように断ち切り。
そのまま敵の胸部装甲をギャリギャリと大きく削り取った。
火花が散り、深手を負った敵はそのままイザベラの機体を蹴りつけて大きく距離を取る……生きているか。
奴らの中でも強そうな傭兵二名がイザベラの方に向かう。
奴らはバズを捨ててブレードを取り――砂嵐の先に消えていった。
寸での所で、死を回避した。
咄嗟の判断力は、やはり手練れであるからか。
俺はそんな事を考えながら、背後から迫って来る敵三機を見る。
砂に紛れるようなデザートカラーの機体が二機で。
中心にいるのは白と黒のカラーリングの機体――奴だ。
両手をだらりと下げていて、見せびらかすように奇妙な形をしたブレードが取り付けてある。
紛れもなく奴の機体であり、俺が殺すべき相手だ。
俺は奴らを睨みつけながら、機体を更に加速させる。
奴らも俺を追って来ていて取り巻きがライフルを俺へと向けた。
俺はその攻撃の瞬間を見極めて――機体を停止させた。
加速からの逆噴射による急停止。
奴らは弾丸を放っていて、その弾丸は俺の機体の脇を掠めていく。
奴らも機体を停止させようとしたが、それは間違いだ。
俺はブーストによって一気に奴らと距離を縮める。
視界が一気に変化して、奴らの機体がすぐそこに迫った。
ピエロは既にいない。俺の動きを察知して散開した。
俺は見捨てられた間抜けに向けて――弾丸を放つ。
強い衝撃と共に、至近距離から連射した。
ガスガスと音を立てて、デザートカラーの機体に無数の穴が空く。
コックピッドを貫通し、中の人間をミンチに変えて。
その機体達はセンサーから光を消して墜ちていった。
瞬間、俺は機体を加速させた。
《ははははは!!!》
仲間を殺した瞬間に、奴が砂に紛れて斬りかかって来た。
俺はその動きを察知して、一気に距離を取る。
奴はケタケタと笑いながら、俺に向かってくる。
不気味なピエロのような顔であり、嫌悪感しか抱けない。
俺はくるりと機体を回転させながら、奴について来いと言わんばかりに加速する。
砂の中で飛行し、大嵐の中のように機体が揺さぶられる。
バチバチと砂が機体に当たって音を立てるが。
そんな音など気にならないほどに、俺の思考はクリアだった。
もっと怒り狂うと思っていた。もっと感情的になるかと思っていた。
しかし、奴と相対して気持ちがリセットされたようだった。
ただ戦いたい、ただ殺したい――それだけだ。
砂嵐の中を抜ける。
そうして、眼前に迫った地上をスレスレで飛んだ。
ぶわりと地面の砂が舞って、俺が飛び立った後に壁のようになる。
そんな壁を吹き飛ばして、奴は向かってきていた。
背後から迫る奴は機体を回転させながら迫って来た。
《待ってくださいよぉぉぉぉナナシさぁぁぁぁんんん!!!》
「……」
奴の装甲が展開されて、無数の小型ミサイルが放たれた。
エネルギーを噴射しながら飛ぶそれが俺を追って来る。
俺は更にペダルを踏み機体を限界まで加速させる。
そうして、機体を回転させながら迫りくるそれを迎撃しようと銃口を向けた。
視界が激しく動き、迫りくるミサイルを全て目で捉える。
そうして、ロックオンも使わないままに弾を放つ。
連続して射撃しながら、無数のミサイルを迎撃していく。
避けられないものはブーストによって回避。
至近距離で爆発したそれが衝撃波を生み出し機体が揺れる。
空中で姿勢が乱れそうになりながらも、爆発の波から抜け出す。
そうして、限界まで飛翔し――一上に飛ぶ。
《はは!!》
奴がブーストによって真横に躍り出た。
その気配を察知して、俺は上へと逃れる。
奴の大振りの攻撃は空振りで――ッ!!
奴は機体を回転させながら、出鱈目な動きで飛び上がる。
人間の動きでは不可能な動きで。
奴はそのまま俺へと迫る。
眼前に不気味な顔が近づいて、両目のセンサーが桃色に光っていた。
そうして、三日月のように笑みを浮かべながらブレードを振るい――肩部のブレードで防ぐ。
激しい鍔迫り合い。
ギャリギャリと音を立てながら、俺のブレードでせめぎ合っていた。
が、長くは保たず。俺の機体は弾かれるように距離を取った。
俺は右手のライフルと肩部のブレードを切り替える。
長物の近接武装であり、格闘戦を得意とする奴との勝負では分が悪いかもしれない。
しかし、距離を離せば奴は此方が予想できないような動きをしてくる。
そして何よりも、距離を離し過ぎればまた逃げられる可能性もあった。
それだけはダメだ。奴は此処で終わらせる。
俺は左手にショットライフル、右手にブレードを持つ。
そうして、ブーストして迫って来た奴の攻撃に合わせるようにブレードを振るった。
《ひははははは!!!》
「……っ」
奇声を発しながら、奴は両手のブレードを振るう。
俺はそれを全て片手のブレードで往なして。
攻撃が当たる度に甲高い音が響いて激しく火花が散った。
奴の意表を突くように、至近距離から散弾を放つ。
しかし、奴は機体を踊りでも踊る様に回転させて俺の攻撃を避ける。
そして、絶対に攻撃できないような位置からブレードを振るうのだ。
予測が出来ない。
対処するだけで精いっぱいで――関係ない。
《おぉぉ?》
ペダルを踏む。
そうして、奴から距離を取る。
奴は驚きながらも追走して来て。
俺は機体を連続させてブーストさせた。
爆発音を響かせながら、機体の方向を一気に変えていく。
体に掛かる負荷はかなりのもので、呼吸を止めていなければ吐き出しそうだ。
俺は息を止めながらブーストし続けて。
奴の背後を取り、そのまま攻撃を――しない。
さらにブースト。
すると、奴は俺が攻撃を仕掛けて来るものだと思い込んでいたのか。
何も無い背後へとブレードを振るって固まっていた。
「――シィ!」
《ひひ》
更ににブースト。
瞬きする時間も無いまま、俺は一気に奴の懐へと迫る。
そうして、俺はがら空きの奴の腹へとブレードを突き立てる。
そのまま刺突の姿勢で奴のコックピッドを――悪寒が走る。
背筋が凍り付き、俺は攻撃を止める。
そうして、己の勘を信じて機体を一気に横へとずらした。
その瞬間に、奴の胸部から何かが破裂するような音が響いた。
無数の火花が散っていて、避けきれなかった一部が半身を傷つける。
損傷は軽微であるが、表面が熱くなり中にまで熱が伝わる。
そして、煩いほどにシステムが警告を発していた。
あの攻撃の正体は高温に熱された金属片であり、パイロットへのダメージの為の武装だ。
懐へと入って攻撃を仕掛けていれば、そのまま操縦困難な状態に追い込まれていただろう。
嫌な戦い方だ。
無数のギミックを搭載していて、まるで手品でも披露するように使ってくる。
恐らくは、まだ他にも武装を搭載しているに違いない。
奴はそれらを使って多くの傭兵を屠って来た。
俺は奴のその狡さを警戒しながら、そのまま一気に下へと降下する。
地面へと近づいて、脚部を地面につけて滑って行く。
ガリガリと地面の砂を抉りながら停止して、丘の上に着地した奴の機体を見る。
ダメージは受けていないのに。
奴の機体はボロボロで、展開された装甲や胸部は黒ずんでいた。
奴はそんな機体のまま、両手を広げる。
そうして、笑みを深めるように笑ったかと思えば――装甲がはじけ飛ぶ。
勢いよくはじけ飛んだそれら。
まるで、ヴェールを脱ぐようであり――奴の姿が露わになる。
白と黒のカラーリング。
半分は白、もう半分は黒で。
ゆっくりと背中から何かが広がって行く。
それは透明の羽のようであり、目を凝らせば青い光が走っていた。
六枚の羽の中にはエネルギーが巡っていて。
月の光を受ける奴は、まるで妖精にでもなったかのように笑う。
《これが、SAWの新兵器ですよナナシさん……さぁ踊りましょう。美しい月の下で》
「……踊らない。俺はお前を殺しに来ただけだ」
《――クハ!!》
奴が羽を動かす。
その瞬間に奴の機体は浮かび上がり――目の前に奴の機体が。
俺は反射的にブレードを振るい奴の攻撃を受け止める。
しかし、奴の機体の出力は上がっていて。
そのまま後ろに機体が強制的に動かされる。
俺は歯を食いしばりながら、激しく振動するレバーを握る。
そうして、脚部を動かして奴の機体を蹴りつけようとした。
奴は羽を動かして上へと飛翔した。
俺はそんな奴を追って飛び上がる。
砂を巻き上げて飛翔し、逃げるように上へ上へと向かう奴を追う。
透明の羽の中を巡る青い光は、心臓の鼓動のように脈打ち。
月へと手を伸ばす奴は機体を回転させながら、笑っていた。
《あぁ、いい。いいですよぉ!!! これこそが――戦いです!!》
「狂人が」
奴の耳障りな声を今すぐに黙らせたい。
頭の中で奴の機動を予測しながら、俺は奴へと迫ろうとブーストする。
しかし、奴が羽を動かせば奴の機体は更に加速して。
羽から出る青い光の粒子は、ハラハラと舞って奴の軌跡を彩る。
あり得ない。アレほどの推力をどうやって――ッ!!
奴が上昇を止めて此方に向かってくる。
俺は咄嗟にライフルを向けて弾丸を放つ。
しかし、奴は機体を軽やかに動かして弾丸の雨を潜り抜ける。
そうして、そのまま俺の機体に蹴りを放ってきた。
「ぐぅ!!」
《はははぁぁああ!!》
機体が激しく揺れる。
システムが警告を発したが、それほどのダメージは無い。
速度は出ていたが、相手が軽量だったのが幸いした。
だが、ダメージを与えられたのは事実で――遊んでいる。
奴はケタケタと笑いながら腕を振るって空を飛ぶ。
楽団を指揮する人間のような動きで、此方の神経を逆撫でしようとしてくる。
それも奴の作戦だ。此方をイラつかせて短絡的な行動を取らせる為の。
俺は奴を睨みつけながら、此方も再び変則機動による攻撃を仕掛けようとした。
高機動の上に変則的な動きで。
体に掛かる負荷はかなりのものだが――体は慣れてきている。
SAWの新兵器がどんなものであろうとも関係ない。
俺はそれすらも踏みつぶして、奴を殺す。
確かな殺意の炎を滾らせながら俺は奴を睨む。
奴はそんな俺の殺意を嘲りながら、羽を広げて粒子を飛ばす。
エマの為に、マリアの為に――俺は必ず勝って見せる。