【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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068:神のみぞ知る(side:???)

 コツ、コツ、コツと靴の音が響いていく。

 静かな空間であり、中央にある巨大な螺旋階段以外は何も無い。

 柱となるものはなく、段となる黒い板が宙に浮いているだけだった。

 

 主が待つ場所。

 我々と対面する為にだけ用意された空間で。

 この地位を与えられた瞬間に、我々は神の寵愛を一身に受ける事となった。

 

 誰もが羨み、誰もが望む存在。

 それが我々であるが……それはどうでもいい。

 

 代行者となった人間たちは、神の愛も金も関係ない。

 彼らは己が信念の元に、あの方の僕となった。

 強制ではなく自ら進んでこの道を選んだのだ。

 それぞれの忠義の形はあれど、誰一人としてあの方を裏切ろうと思う人間はいない。

 そう断言出来てしまうほどには、我々は互いの事を知っていた。

 

「……」

 

 階段を静かに上がって行く。

 一段一段、時間を掛けて登って行く。

 この時間が私は好きだ。

 あの方が私を待っているのにも関わらず。

 私はこうして時間を掛けて階段を登って行くのだ。

 それでもあの方は怒る事も咎める事もしない。

 

 焦り、不安、恐怖――そんなものに意味は無い。

 

 それらは迷いを生み。

 使命を果たす上で邪魔にしかならない。

 大切な事は如何に心の静寂を保つか。

 目の前の事象を理解し受け止めて、どうやって行動するかだろう。

 

 三歩後ろをついてくる私の部下であるセラ。

 美しい顔の女性でありながら、その内に秘めた可能性は私が知る中で最も強大だ。

 長い金髪を三つ編みにして、透き通るような青い瞳で敵も味方も虜にしてしまう。

 我々の”代行者”の中でも、彼女ほど美しい操縦を出来る者はいないだろう。

 仮面越しに彼女をチラリと見て、私はくすりと笑う。

 

 何れ、彼女に相応しい人間が現れた時は……盛大に祝おう。

 

 きっと素晴らしいものを持った子が生まれて来る。

 そうなれば、次はその子供があの方をお守りしなければならない。

 何年、何十年……いや、何百年も続いていくのだろう。

 

 長い長い道のりで、あの方はそんな道の先で大願を成そうとする。

 我々が生きている内に、その結果を見る事が出来るのか。

 それとも、我々が死した先で、それは為されるのか。

 

「……ふ」

「……?」

 

 笑みが零れてしまう。

 後ろのセラが首を傾げるのが分かった。

 私は彼女に謝りながら、最後の段を上り終える。

 全てが黒で作り上げられたこの塔で。

 あの方はずっと世界に目を向けている。

 あの方の心を表すように、駆け巡るエネルギーのラインが青く発光していた。

 ゆっくりと足を進める。

 すると、扉は青い光と共に紋様を浮かび上がらせて、巨大なそれが開き始めた。

 

 我々二人は開いていく扉の先へと進む。

 ゆっくりゆっくりと進んで――足を止めた。

 

 広い部屋の中には何も無い。

 無数の青いラインが部屋の中心へと伸びているだけだ。

 しかし、そこにはあの方が座している。

 ゆっくりと中心部に目を向けながら、後ろで扉が閉まって行く音を聞いていた。

 

 私は静かにその場に跪く。

 後ろにいたセラも跪いて。

 扉が完全に閉まったのを確認してから、私は声を発した。

 

「……代行者ベン・ルイス。並びに、代行者セラ・ドレイク。召喚に応じ参上いたしました」

 

 自らの名を明かし、頭を下げる。

 すると、青い光が強さを増して、中央に人の形を作って行くのが分かった。

 光の粒子が集まって行く。音も無くただただ光を発していて。

 ジッと動かずに言葉を待つ。あの方のお許しなく喋るのは不敬だ。

 

 やがて、光が収束していき、目の前に浮遊するあの方は我々に声を掛けて来た。

 

《顔を上げなさい。報告を》

「ハッ……ノース・カメリアへの大神官の任命式を明日行います。ご指示通りにアダムを大神官の地位に……賊の捜索は継続していますが。犯人は以前逃亡中……如何いたしましょうか?」

《捜索を中断。次の命を与えます》

 

 大神官の殺害を手引きした人間。

 その人間が今だに捕まっていない事には理由がある。

 私もセラも言わないだけで、誰がしたのかは理解していた。

 理解しておきながら何も言うことなく、この茶番に付き合っている。

 主の考えの全てが分からずとも、我々が口を出して邪魔する事は絶対に無い。

 例え私やセラが殺されたとしても、それは仕方のない事だと思えてしまう。

 それだけの魅力はこの方はお持ちだ。

 そして、代行者の地位を与えられた我々の忠義と忠誠は本物だろう。

 

 捜索は言われた通り中断にするが……次の任務とはな。

 

 態々、代行者を動かしてまで行う任。

 果たしてそれがどのようなものかは分からないが。

 きっと重大な事であるに違いない。

 この方が無駄な指示を出す筈は無く。

 全てに意味があり、全てが彼女の目指す道の先へと繋がっている。

 

 私は小さく笑みを浮かべながら、彼女の命を待つ。

 

《……北部地方において大きなエネルギーの乱れを観測しましたが。気づいていましたか?》

「はい。その報告もかねて参上いたしましたが……もしや、それの調査を我々に?」

《そうです。エネルギーの乱れ程度であれば、代行者の力を使う必要もありませんが……そのエネルギーは”彼ら”が使っていたエネルギーに近いものです……全てを無に帰す破壊の黒……”灰燼”の性質を持つエネルギーです。紛い物では出せない決して届くく事もなければ扱う事すら不可能な光……”奴”で無くとも、奴に繋がる何かでしょう。速やかに現場へと向かい、貴方方二名で原因を調べなさい》

「……承知致しました」

 

 無感情に淡々と女性の声で話すお方。

 そんな主には微塵も焦りが無く、ただ気になっているだけと言った感じだ。

 この方が恐れるものなど片手の指で足りてしまう程度だ。

 その一つが、主が話した彼らであり……少し興味が湧くな。

 

 主の力は計り知れない。

 この世界で唯一の神であり、その力は本物だ。

 しかし、現在はその力も百パーセントの精度で使う事は出来ない。

 

 もう一人の神。

 この世界において存在してはいけないもの。

 その力と干渉し合い、主は世界の全てを知る為の力を失っていた。

 本来であれば我々に指示を出さずとも分かる事だが。

 奴の力の影響によって、態々、人を使って調べなければいけなくなった。

 未来視の力はまだ残っているが、それが作用するのは彼女の管理下にある”人間”だけだ。

 

 ……未来視が上手く発動しないのであれば、恐らくは……いや、まだだな。

 

 結論を此処で決めるのは間違いだ。

 現場へと行き、調べてからでも遅くは無い。

 何かしらの事が起きたのであれば、そこには確実に何かが残っているだろう。

 エネルギーの残滓もそうであり、戦っていたのであれば機体の残骸やコアの一部だ。

 それを回収し解析すれば、自ずと結果は分かるものだ。

 

 新たな任務を与えられて、報告も終えて……私は最後に重要な報告をした。

 

「……異分子の国の兵士が北部地方にて活動をしていたとの情報が入っています。SAWや我々の施設を襲い情報を盗もうとしていたようですが……こちらはどのように」

《……奴らの目的は情報ではありません。そんなものはノイマンの力で集まります。奴らの真の狙いは、我々の計画の進行を遅らせる事とそれにより生まれる時間をある事に使う事です。貴方にそれが分かりますか?》

「……少しの時間を集めてまで行う事ならば、タカが知れている――とは思いません」

《……》

「狙いは不明です。貴方様に分からない事を私如きの浅知恵では解明する事は出来ないしょうから……ただ、解明するよりも撒かれた種が芽を出す前に、全て焼き払う事こそが賢明だと思います」

《……その芽が成長し、太陽を隠すと言いたいのですか》

 

 主は何も恐れていない。

 ただ私の言葉に興味を示して、質問を投げかけてきただけだ。

 理解している。この方はそういう方だから。

 

 どんなに同じ力を持った神であろうとも。

 彼女に敵うものは存在しない。

 絶対的な存在で、世界の中心に存在するものだから。

 抵抗する事も反逆する事も、本来であれば無意味だ。

 

 撒かれた種が何かは分からない。

 しかしそれは、撒いた種が小さすぎて分からないというだけだ。

 目に見えるほどの事で無いのであれば、それが何をしようともこの方にはさして影響はない。

 隠しているつもりか。或いは出し抜こうとしているのか……興味は尽きないな。

 

 相手は紛い物であれ神だ。

 それ自体に戦闘を行う為の力が無くとも、彼女にとっての脅威には成り得る。

 そんなものが蒔いた種が芽を出し成長し、己の光を遮るほどになるのかと彼女は問うている。

 

 私はゆっくりと顔を上げる。

 そうして、微笑みながら彼女に言葉を送った。

 

「思いません。貴方様の光は如何なる障害をも越えていく。そして、我々がいる限り不要な存在が現れる事はありません……全ては貴方様の御意志のままに」

《……ならば、全力で臨みなさい。この世界を正しき世界に戻す為に》

「ハッ」

 

 主はそう言って姿を消す。

 光が四散して、小さな青い光の粒が散らばる。

 我々はゆっくりとその場から立ち上がった。

 

 全力で望め、か……彼女が望むならそうしよう。

 

 だが、代行者が全力を出せばどうなるか。

 あの方が一番よく知っているだろうに……恐ろしい方だ。

 

 セラと共に部屋から出て行く。

 開け放たれた扉を潜り、階段の前に立ち。

 ゆっくりと閉じられていく扉の先に目をやった。

 

 果たして、例の人物たちが使っていたエネルギーの正体は。

 かつて存在した英雄たち。

 いや、一人は英雄ではなく”反逆者”であるが……まぁ別にいい。

 

 反逆者であろうとも、英雄であろうとも。

 一度は神に上り詰めた存在たちだ。

 代行者であろうとも敵う存在ではなく。

 もしも、アレ等が現世に蘇ったと考えれば……武者震いしてしまう。

 

 生きている内に会ってみたかった。

 まぁ、その残滓はこの世界をさ迷っているが。

 燃えカスには興味が無い。

 だからこそ、同じエネルギーを使える人間が現れたのであれば胸が躍る。

 

 会ってみたい。

 会ってどんな人間か確認したい。

 もしもメリウス乗りなのであれば、手合わせしたいところだ。

 

「……んん」

「……すまない」

 

 考え事をしていれば、セラが咳ばらいをする。

 扉は既に閉じられていて、彼女を見れば何時ものように微笑んでいた。

 私は彼女に対してただ一言だけ言う。

 

「――面白くなりそうだ」

「……ルイス様がそう仰るのであれば、必ず……」

 

 静かに頷いてから私は階段を下りていく。

 ゆっくりゆっくりと降りて行きながら、私は自らの笑みを隠そうともしなかった。

 自然と口角が上がり、声が漏れ出しそうになる。

 しかし、それを我慢しながら、私はただただ拳を固く握る。

 

 すぐに会える。

 我々が出会うのは決まっている。

 他ならない神が命じたのだ――楽しみだ。名も知らない”異分子”よ。

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