ターゲットサイト越しに見る敵。
猛然と突き進みながら、此方を振り切ろうとしている。
奴のスラスターの音を聞きながら、必死になって機体を揺らす敵を見つめる。
一定の距離を保ちながら、無数のメリウスたちを避けながら飛行。
二つの円が徐々に重なろうとしていた。
――第三世代の量産型に振り切られるほど此方は遅くは無い。
前を翔ける敵を追いかけながら、システム音の間隔が狭まって行くのを感じる。
徐々に徐々に、重なっていき――ロックオンが完了する。
完全にサイトが重なった。
俺は静かに息を吐きながら――ボタンを押す。
肩に付けられたランチャーから弾が発射されて。
振動が機体全体に伝わり、放たれたそれが敵を貫く。
胴体から別たれたそれはバチバチとスパークを起こして爆ぜた。
バラバラと残骸が舞い、その下を通過すれば破片が機体に当たる。
カツカツと音を立てながら弾いたそれら。
そして、後方より敵が接近して来て攻撃を仕掛けて来る。
敵を倒した余韻には浸れない。
浸っていれば、その隙を狙って攻撃してくる。
敵に恐れは無い。死への恐怖も、俺への殺意も無い。
ただ一人の兵士として、俺を殺す事だけを考えている……合理的だな。
機体を回転させながら、敵の弾丸を回避。
数発が装甲を撫でるが目立った損傷はない。
そのまま俺は機体をブーストさせて、敵拠点に張られたバリアの周りを飛んだ。
巨大な拠点であり、大きさにすれば普通の街くらいの規模はある。
青い光のバリアの所為で、詳しい内部の状況は分からないが。
マップに表示されている限りでは、合計で六つのエネルギータンクが存在している。
場所が判明しているのが三つ、分からないのが三つ……クラウンは本当に全て破壊したのか?
信じられないが、奴はごく短時間の内に二十機を破壊。
そして、全てのエネルギータンクを見つけ出し破壊した。
依頼の完遂状況からして、それは正しい情報だと言える。
普通であればあり得ない。任務自体が簡単で、敵が弱かったのではないかと考えるだろう。
が、実際に彼の受けた依頼を追体験すればそれが如何に難しい事かはよく分かる。
今で、やっと三機目を撃墜したところだ。
それも、特殊弾が撃ち込まれるまでのギリギリの時間内で。
もしも、内部に入ってから一気にメリウスを撃破していったとしても。
十七機も連続して墜とすなんて不可能だろう。
それなのに、奴はそれを成し遂げて見せた。
本物の英雄であり、今の俺では到達できない頂だ。
俺はニヤリと笑う。
そうして、機体の方向を一気に変える。
後方から追走してくる敵は、俺の動きに対応できない。
別の方向から敵が迫って来る。
眼前から迫るそれはまるで巨大な砲弾のようで。
銃口を此方に向けて今にもそのガトリングガンを放ってきそうだ――させない。
俺はすぐに狙いをつける。
網膜情報とのリンクをし、ロックオンを半手動操作に切り替える。
そうして、敵の銃に狙いをつけながら息を吐き――放つ。
カチャリと音がして、ランチャーから弾が発射された。
そうして、俺が放った弾は敵の銃口に当たり大きな音を立てて爆ぜた。
敵は姿勢を大きく乱しながらも、最後の力を振り絞り突貫してくる。
俺はそんな勇敢な敵に敬意を表しながら、その下を変則機動により潜り抜ける。
そのまま奴の後ろへと出ながら、ハンドガンを奴のランドセルへと向けて乱射した。
ガスガスと音を立てて弾丸が当たり、敵のランドセルは無数の穴を空けながら爆ぜた。
黒煙を上げながら敵の機体が落下していく、その様を見てからすぐにスラスターを噴かせて移動。
時間を見れば、もう間もなく特殊弾が撃ち込まれそうだ。
未だに、敵は連携を取りながら此方を追って来ている。
息をつく暇も無いとはこの事だ。
俺はため息を吐きそうになるのを堪えながら、頬から垂れる汗を拭う。
そうして、そのまま上空に向けて大きく飛び上がった。
敵が驚きながらも、此方を追おうとする。
しかし、第三世代型と第四世代型とでは明確な差がある。
どんなに操作システムを簡略化しようとしても、第四世代型ほどに滑らかに機体を動かす事は不可能。
風の抵抗を受けて揺られているその機体では、追いつく事なんて出来やしない。
此方に向けてガトリングガンを放つも、届く訳が無いのだ。
グングンとスピードを上げていく。
もっと速く、もっと高く――何処までも。
呼吸が苦しくなっていくような間隔。
心臓が鼓動を速めて、意識が遠のきそうになる。
偽物の世界なのに、この感覚は本物のようで――俺は口角を上げた。
空へと舞い上がりながら雲の中へと突入する。
乱れるような風の音を聞き、機体が激しく揺さぶられる。
そうして、システムが周りの気圧の急激な変化を警告してくる。
が、俺はそれを無視して上昇し続けて――雲を抜けていった。
澄み渡る青の中、白い輝きを放つ太陽が一つ。
それを視界の端に捉えながらタイマーを確認した。
残り時間は五秒であり、俺は機体の向きを変えた。
見える事の無い地上を見つめながら、俺は一気にペダルを踏む。
爆音を立てて青い粒子がスラスターから飛び散り、俺の機体は急激な加速を見せた。
抜けて来た雲へと入り。
追って来たであろう敵を紙一重で避けていく。
敵は動揺しているが、此方を攻撃する事は出来ない。
そのまま呆気に取られる奴らを放置して、俺は一気に雲を抜けていった。
そうしてカウントがゼロとなり、地上を走行する要塞から砲弾が撃ち込まれた。
たった一発の砲弾であるが、それはバリアへと命中すると。
激しいスパーク音を奏でながら、そのバリアの一部を無効化して見せた。
不自然な穴が出来上がり、味方たちがそこへと入り込もうとする。
が、内部に設置された防衛装置が作動して一斉にその穴目掛けて機関砲を斉射していた。
味方の機体たちは手足を弾丸で引きちぎられて。
オイルをまき散らしながら爆炎を上げて四散する。
それでも兵士たちは突っ込んで行こうとしている。
後が無い、退く事なんて出来ないのだ。
俺はその光景を見つめながら、更に機体を加速させた。
限界まで速度を高めて、狭まって行く穴を目指す。
速度を上げて、拠点が大きくなっていき――通過した。
穴の中へと飛び込み、弾丸の雨を縫うように回避。
機体を回転させながら粒子をまき散らして、敵の狙いを乱そうとした。
しかし、完全に回避する事は出来ず。敵の弾丸が肩部に被弾してミサイルポッドが爆ぜた。
機体の姿勢が乱れそうになるも、手動で調整し減速する事無く拠点内部へと侵入。
そのまま拠点上空を飛行しながら、防衛装置へと狙いをつけて――ランチャーを放つ。
炸裂音を上げて弾が飛翔し、敵の機関砲が設置された場所に命中した。
爆炎をあげながら、機関砲の一つがはじけ飛んで。
運の良い事に弾薬庫にも影響を及ぼして、大きな成果を挙げる事が出来た。
敵の兵士が慌てふためきながら消火作業をしようとしている。
上空を飛行しながら、街の状況を把握する。
円形に作られた拠点であり、華美な装飾の建物は一切ない。
比較的大きな建物が数多く存在し、道を挟んで密集している。
メリウス一機程度であれば通れる道が張り巡らされていて、遮蔽物としての機能も十分にある。
材質は煉瓦であり、拠点として必要最低限の機能を保っていた。
防衛装置や通信装置などに注力し、住居としての機能は最低限か。
司令塔となる場所は中央のドーム状の建物だが、あの場所を攻撃しても意味は無い。
他よりも作りは明らかに違っていて、恐らくはランチャー程度の攻撃では崩れないだろう。
拠点を任された高官たちは、あのドームの中か。その下にあるかもしれない地下施設内だろうか……別にいい。
与えられた任務はエネルギータンクの破壊。
クラウンも自らの役割を理解していたからこそでしゃばる事をしなかった筈だ。
それらを見てから、俺は索敵を開始した。
スキャンの結果を待ちながら、地上からの攻撃を避けて――見つけた。
レーダーが敵のエネルギータンクの場所を特定した。
膨大なエネルギー反応を隠す事は至難の業で。
この時代であれば碌な対処もされていないとタカを括っていたがその通りだった。
俺は一気に機体を動かしながら、下へと降下して建物の影に隠れる。
地面スレスレを飛行しながら遮蔽物に隠れれば、敵は狙いをつけられずに一部の攻撃を止めた。
メリウスをすっぽりと隠せるほど建物は高くは無い。
機体の一部は露出しており建物の合間を通れば見えているだろう。
しかし、高所へ向けての攻撃を前提としてそれらは、低所への攻撃に対しては機能しない。
特に対メリウス用の機関砲のシステムは、上空への攻撃に特化している。
だからこそ、地面スレスレを飛んでいれば脅威となる防衛装置は使えない。
眼前に迫る障害物をギリギリで避けていく。
茶色の建物たちは見分けがつきにくく。
判断を誤れば正面衝突は免れない。
一瞬も気を抜けない中で、心臓の鼓動がバクバクと音を立てていく。
汗がダラダラと流れ落ちていき、ぽたぽたと太ももに落ちていく。
それらの音や感覚がやけにハッキリと感じられる中で。
俺はエネルギータンクを隠してある――倉庫へと狙いをつける。
「ロックオンはダメか――ならッ!」
スラスターを噴かせる。
そうして、再び上空へと上がった。
ギリギリまで上昇しながら、センサーをサーマルへと切り替える。
その瞬間に、倉庫内の高熱源反応を感知した。
周りには人もいるが関係ない。
「――シィ」
狙いをつけながら、ボタンを強く押す。
その瞬間に、肩のランチャーから弾が勢いよく飛ぶ。
一直線に向かって行ったそれは倉庫の天井を貫き内部へと入って――瞬間、青い閃光が迸る。
膨大な量のエネルギーが光を発して。
色鮮やかな花火を上げながら、キラキラと粒子が舞っていた。
周囲のものを吹き飛ばすほどの爆発であり、ぽっかりと穴が空いてしまっていた。
今の攻撃で周りの兵士は死んだが、誰だって何時かは死ぬ。
シミュレーターだからとは思わない。
兵士や傭兵になって戦う選択をした者に対して同情や後悔の念を抱く事は無かった。
死を覚悟していた筈だ。ただそれだけだろう。
俺はそう思いながら、残りのエネルギータンクへと向かう。
内部へと侵入出来れば、後は簡単か……いや、そうでもなさそうだ。
複数の熱源反応をキャッチした。
生体反応もあり、無人機ではなく有人機で――メリウスだ。
合計で五機のメリウスであり、此方に向かってきている。
小隊規模ではあるが、此方はたった一機だ。
真面に相手をしていれば、確実に任務を達成出来なくなる。
ランチャーの残弾も気にしなければならない。
予備弾倉は二つだけであり、なるべくエネルギータンク破壊の為に温存しておきたい。
そんな事を考えながら次を目指そうとして――ッ!
嫌な気配を感じた。
その瞬間に、一気に横へとズレる。
すると、元居た場所を弾丸が通過していく。
斜め下から飛んできた弾丸。
その方向に視線を向ければ、一瞬だけ何かが見えた。
センサーの光のようだったが、一瞬で消えた……光学迷彩か。
この時代にもそれは確かにあったと記憶している。
しかし、高価な装備であり、並の傭兵は使用しない。
それを装備した傭兵か兵士がこの戦場にいて俺を攻撃してきた。
敵であり、確実に嫌な相手だ。
レーダーが敵影を捉えていない。
攻撃を仕掛けて来た瞬間にだけ、察知できるのかもしれない。
その瞬間に此方が攻撃を仕掛けなければ逃げられる。
何処から攻撃を仕掛けて来るかも分からない敵だ。
エネルギータンクを狙い撃とうとした瞬間に、逆に狩られる恐れがある。
姿の見えない敵を警戒しながら。
俺はその場を離れようとする。
しかし、速度を緩めたせいで俺を追ってきた敵の姿が見えて来た。
ネイビーのカラーリングが施されたバッカニアに似た機体。
しかし、独自の改良が施されているのか装甲は薄く、現代の高機動モデルに似ていた。
中心の機体はネイビーの中に金色のラインが機体に入れられている……指揮官機か。
オープン回線を開いて、奴らの中の一人が話しかけて来た。
《アーサー・クラウンだな。大人しく投降しろ――なんて言葉は無粋だな》
「……」
渋い声の男であり、恐らくはあの指揮官機のパイロットだろう。
俺は無言でその男の声を聞きながら、背面へと機体を向けながら攻撃を仕掛けた。
牽制目的のハンドガンの攻撃で、敵は一気に散開した。
飛行している姿だけで分かる――相手は精鋭だな。
並々ならぬプレッシャーを感じながら、俺は笑う。
そうして、速度を上げながら奴らとドッグファイトに挑んだ。
奴らが俺を堕とすのが先か。それとも、俺が先に全てのエネルギータンクを破壊するか――勝負だ。