【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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079:妖怪博士との邂逅

 何とか時間内に案内人であるウッドマンさんと合流した。

 宿舎の前に小さな車を停めていた彼は、スキンヘッドに黒い肌をした男の人で。

 青いアロハシャツのようなものを着ていて、下は真っ白なズボンを履いていた。

 その分厚い胸板のあたりにはサングラスを掛けていて、常夏の島に来たのではないかと錯覚してしまう。

 かなりラフな格好をしていたので驚いたが、立場はそれなりに上の人のようであった……室長か。

 

 かなりガタイが良く身長は恐らくは百九十センチほどある気がした。

 怖そうな見た目であるが、かなり気の良い人でありにかっと笑った時の真っ白な歯が特徴的だ。

 趣味は筋トレのようであり、この場所にはトレーニングジムもあるようで何時か一緒に行こうと誘われた。

 

 彼は簡単な自己紹介をしながら、嬉しそうにしている俺のことを不思議そうに見ていた。

 俺が飯が美味かった事を伝えれば、彼は納得したように笑う。

 

 車に乗り込んでから説明してもらったが。

 此処での料理を担当している人間たちは火乃国から来た一流の料理人たちのようで。

 あのセシリア・ハーランドが直々にスカウトしてきた人間たちだという。

 彼らは皆、料理に関してはかなり高い誇りを持っている様だった。

 誰しもが自らの腕に自信があり、それをセシリアさんが認めて引っ張って来たらしい。

 

 俺は彼らの腕が本物であることに納得する。

 そうして、此処での生活の楽しみを見つけられたことを素直に喜んだ。

 朝飯がアレほどのクオリティであれば、昼食や夕食も楽しみだ。

 そう思いながら、俺は車から見える景色を楽しんでいた。

 

 等間隔に設置された四角い形状の白い建物たち。

 どれも巨大であり、ガラス張りのそこからは慌ただしく動いている白衣の人間たちが見えていた。

 

「此処から見える建物は、全てメリウスの研究棟になります。入り口から近い場所から第一第二と続き全部で第八棟までありますね。比較的、中央に近いエリアがメリウスに関する開発研究を行っていて。外周のエリアにはそれぞれの武装の研究を行っています。私を含めて職員たちがが利用する施設に関してはその決まりは無く。マップの各所に点在しています。此処のマップデータは受け取りましたか?」

「はい。さっき宿舎を出る前に、管理人さんからデータを貰いました……エネルギー兵器の研究もしているんですか?」

「えぇ一応ですがね……お恥ずかしい事ですが。エネルギー兵器に関してはやはりSAWの方々の造詣が深く。此方は彼方さんのカートリッジを流用する事でしか使えない武装が多いんですよ……幸いにも、SAWの方々はその事に関しては何も言ってこないので。他の企業の方々も、我々同様にそれを使用する前提の開発研究を行っていますよ。ははは」

 

 ウッドマンさんは運転しながら乾いた笑みを零す……まぁそうなるよな。

 

 悔しいが、万象によって生み出されたエネルギーはかなりの価値がある。

 もしも、材料が異分子であると知ったとしても多くの企業が手を引く事は無いだろう。

 それほどまでに、SAWがもたらした新エネルギーにも等しいそれは大きな技術革新を起こした。

 今はまだ誰もそれをメリウス自体には使用していないが、それをメリウスに使うようになればどうなるか……想像しただけでも悍ましい。

 

 窓から見える研究棟を眺めながら、俺は表情を曇らせる。

 折角、朝食で喜んでいたのにこれでは台無しだ。

 俺はSAWへの悪態を心の中で吐きながら、今日は何処に行くのかとウッドマンさんに尋ねる。

 

「今からナナシさんに見てもらうのは第四棟ですね。そこでは新型のメリウスの研究開発が行われているんですよ……恐らくですが、これから一番お世話になる場所だと思うので今の内に覚悟をしておいてくださいね」

「……? 分かりました」

 

 ウッドマンさんは顔を引き締めながら覚悟を決めろと俺に言う。

 何故、改まってそんな事を言うのかよく分からなかったが。

 俺は取りあえずは返事をしておいた。

 

 彼はゆっくりと道を右に曲がって行く。

 車は等速で進んでいき、大きな研究施設前に止まる。

 チラリと見えた銀色のプレートには”第四メリウス研究開発棟”と書かれていた。

 

 広々とした駐車場に車を停める。

 降りるように言われて降りれば、車はウッドマンさんが出れば自動でロックが掛かった。

 彼は中に入ろうと言ってきて、俺はそんな彼の後を黙ってついて行った。

 

 

 

 建物の中は広く、清潔感の漂う綺麗な空間だった。

 研究開発場の中の建物だからこそ、もっと汚れていて散らかっているのではないかと思っていたが……杞憂だったな。

 

 長い廊下を進みながら、ウッドマンさんは指を指す。

 その方向には大きなガラスが嵌められていて。

 近づいてから視線を向ければ、装甲が取り付けられていない状態のメリウスらしきものがあった。

 無数のケーブルに繋がれていて、その双眼センサーは青く発光している。

 

「下を見てください。面白いですよ」

「……?」

 

 教えられた通り下に視線を向ける。

 すると、機体の前にはゴテゴテとしたスーツをつけている人間がいた。

 近くには研究者らしき人間たちが待機している。

 ゆっくりと研究者の一人が指示を出して、そのスーツの男は右手をゆっくりと上げた――っ!

 

 男が右手を上げれば、連動する様にメリウスの手も上がる。

 その動き方もあのスーツの男と同じで。

 俺はどういうメカニズムなのかと見ていた。

 

「アレは現在開発中の”フルトレースシステム”のプロトタイプです。特殊なスーツを装着する事によって、メリウスとパイロットの動きを完全に連動させてより感覚的な動きを可能とさせています」

「……プロトタイプという事はまだ実用段階ではないんですか?」

「えぇまぁ。アレを着た状態でメリウスに乗ればそれなりのスペースの確保に加えて、専用の機器の導入により機体重量が重くなりますから。それに色々と問題点も多く、現状では戦闘中の動きを機体に反映させるにはまだまだ……ただ、アレほどではないものの。理想的な形となったシステムは存在します。ナナシさんの搭乗予定の新型にもそれを搭載する話になっていますよ」

「――!」

 

 あんなにも滑らかな動きが出来るシステム。

 それに似たものを搭載する予定だと聞かされて、俺は少しだけ興奮しそうになる。

 今でも操縦には問題ないが、どうしても人間と同じような滑らかな動きは真似できない。

 それが克服できると知れれば、誰であれ興奮してしまうだろう。

 

 メリウスが人間のような動きを再現可能となれば。

 恐らくは、あのアーサー・クラウンにも匹敵するほどの活躍が出来る。

 自らの技量を伸ばすのは大前提だが、細心の技術を取り入れる事も重要だ。

 

「……アンブルフにそれは可能なんでしょうか」

「……そうですね。現時点では何とも言えません……ですが。我々はパイロットに一番適した形のメリウスを提供したいです。ナナシさんの場合は、愛機と共にありたいという願いがあります。その願いを踏みにじれば、どんなに優れた機体であろうとも以前よりも活躍する事は難しいでしょう……それほど望みや願いは重要な物なんですよ?」

 

 ウッドマンさんはそう言う。

 彼の言葉は優しく自信に満ち溢れていた。

 恐らくは、ただの甘さで出た言葉じゃない。

 本気でそう思っている事が伝わって来て、俺は静かに頷いた。

 

 そうして、ウッドマンさんは次の場所へ行こうと言って先行する。

 俺はそんな彼の背を負いながら、メリウスと人間の動きが一体となったそれを黙って見ていた。

 

 

 §§§

 

 

 研究開発棟内には、様々なメリウスが置かれていた。

 どれも試作段階のメリウスであり、見たことも無いような形のものもあった。

 

 水中戦に特化したタイプや砂地に適したフォルムのもの。

 戦闘以外でも、宇宙空間での作業用に開発されているものもあった。

 ウッドマンさんの話では、他の企業も宇宙への進出を考えているようで。

 近々、共同での大規模プロジェクトが起ち上がるかもしれないと言っていた。

 

 長い廊下を進みながら、俺たちは重厚な扉の前に立つ。

 ウッドマンさんはパネルに何かを翳していた。

 そうして、レンズに目を近づけてから言葉を発する。

 すると、システム音がして扉がゆっくりと開かれて行った。

 

「この先にあるのが新型になります……くれぐれも驚かないように」

「……? はい」

 

 何故か目を細めながら静かに言葉を発していた。

 驚くなと言うのはどういう意味なのか。

 俺はそんな事を考えながら、開かれていく扉の前で待ち――ッ!?

 

 扉が開かれた瞬間に、中から勢いよく煙が噴き出してきた。

 白い煙であり、俺は口を押えながら目を凝らした。

 何も見えないがウッドマンさんも同じで、彼は怒声を発しながら前へと進んでいった。

 

「ウッドマンさん、これは!?」

「ごほごほ……大丈夫です! 恐らく、バーナー博士の仕業でしょうから!! 博士ッ!!!」

 

 彼は怒声を発しながら、バーナーという男の名を叫ぶ。

 すると、換気扇が勢いよく回り始めた音が響いて。

 視界を覆いつくすほどの煙が晴れていく。

 どんどん視界が戻っていき、俺は目を凝らして前を見つめて――は?

 

「んんん!! 違う違う違う違う!!! 私の求めるものではないぃぃぃ!! だが、いい!! 実に良いよぉぉぉ!!」

「バーナー博士ッ!! 今度は何をやらかしたんですかッ!!?」

 

 煙が晴れた先には、俺の”愛機”の前でカタカタとコンソールを弄る頭が異様に長い男がいた。

 その近くにはフラスコに入った薬品や試験管に入った粉末などがあり、如何にもな雰囲気だ。

 まるで、本で見た妖怪のような見た目に怪しげな薬品たち。

 危なげな雰囲気を纏うそいつはぎろりと血走った目をウッドマンさんに向ける。

 

「よく来たねウッドマン君!!! これを見たまえぇぇぇ!! 私がついさっき開発したばかりの新型スモークグレネードの試作品だよ!!! こいつはたった十グラムの混合物だけでこの部屋一つを煙で満たすほどの発煙効果を齎すんだがねぇぇなぁんとぉぉ引火してしまえばあらゆるものを焼き尽くしてしまうほどの燃焼作用を引き起こすんだぁぁぁあああぁぁ!!」

「馬鹿ですか!!? 此処を何処だと思っているんですか貴方は!!? てかまた飲んだんですね!? あのやばげなドリンクは飲むなと言ってたのに!!」

「ははははは!! 最高にハイってやつだよウッドマン君!!」

「……」

 

 完全にイッてしまっている博士。

 彼はもう此方が見えていないようで作業に戻って行った。

 その間にも、俺のアンブルフは無数のアームによって弄られている。

 丁寧に装甲を取り外してから、内部のシステムに細工をしているようだが……アレは何をしているんだ?

 

 いや、何となくは分かる。

 恐らくは、その新型のシステムを移植しているんだろう。

 だが、博士があんな状態なのに大丈夫なのか。

 

 俺は頭を抱えているウッドマンさんに近づいて。

 アレは大丈夫なのかと質問した。

 すると、ウッドマンさんは必死に笑みを作りながら大丈夫だと言ってくれる。

 

「博士はあんな感じですけど。腕も知識も此処では一番ですから。既存のシステムを組み込むだけなら、片手間で別の研究をしながら熟してしまう人ですからね……まぁ時々、別の研究職員が作った不気味なエナジードリンクを貰って飲んでいるんですけど……あぁなってしまうんです。やめろって言ってるのに。何度もね……はぁぁ」

「……」

 

 苦労が絶えない人なんだろうと思った。

 俺は掛ける言葉も無く、アンブルフを見つめる。

 ミッシェルのお陰で新品同様だった愛機は、再び内部を露出されて新たなシステムを導入されている。

 既存のシステムと言う事は、やはりメインとなるものはもう出来上がっているのか……後足りないものは何か。

 

 生まれ変わって行くのであろう愛機を見つめる。

 そうして心の中でもう一度、一緒に戦おうと声を掛けた。

 愛機は応えない。しかし、きっと俺の声に応えてくれる日が来ると信じていた。

 

「もっともっとぉぉぉぉぉ!!! フルスロットルで駆け抜けるんだぁぁぁぁ!!」

「……日を改めましょう。明日からはテスト運転になると思いますからその時に挨拶を……本当にすみません」

「……いえ……はい……」

「フォォォォォォ!!!」

 

 ピアノを奏でるように。いや、それ以上に荒々しくコンソールを叩いている。

 あまり関わりたくない人間であるが、ウッドマンさんは優秀な人間だと言っていた。

 何故、ハーランドの人間の中には変態が紛れ込んでいるのか。

 セシリアさんや、セシリアさんのような……セシリアさんだけか?

 

 これからの未来がまた少し不安になる。

 しかし、俺たち二人の懐疑的な視線などお構いなしにバーナー博士は乱舞する。

 長い頭を振り回しながら、周囲に髪から飛び散った汗をまき散らして……帰りたい。

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