【完結】死にぞこないの猟犬は世界を知る   作:オタリオン

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086:侮る事なかれ

 周りからの視線が変わった。

 些細な変化かもしれないが、バカにするようなものは感じない。

 恐れなどを感じている人間もいる中で、ほとんどが好意的に見てくれている。

 揶揄って来た先輩パイロット達も、次の日からはフランクに話しかけて来た……何故か、操縦のコツを聞かれたが……。

 

 あの日の夜の経験は、今の俺に成長を促してくれたと思う。

 ネイト・シーガーとの戦いで奴の動きなどを見て。

 脳波リンクアシストやフリーハンドオペレーションのコツを掴めた。

 

 簡単な事だったんだ。

 それらのシステムは人間が楽をする為に生み出されたもので。

 俺の機体には優れたAIであるロイドもいる。

 俺はただイメージするだけでいい。

 いや、もっというの出ればこう動けば良いと思うだけでいいんだ。

 

 あの時のネイト・シーガーはかなり恐慌状態であった筈だ。

 それでも機体は奴の思うように動いていて。

 狂気に陥った人間とは思えないような滑らかな動きをしていた。

 それによって、俺はようやく気付けたのだ。

 

 今までは丁寧にイメージの像を固めて。

 律儀に次の動作の事も鮮明にイメージしようとしていた。

 その結果、少しでもイメージが乱れれば可笑しな挙動になってしまう。

 俺はその失敗が、自らのイメージが曖昧になったからだと思っていたが少し違った。

 

 イメージが乱れたのは事実。

 しかし、それが直接的な失敗の原因ではない。

 失敗の原因は俺が”鮮明にイメージ”しようとしたからだ。

 

 脳波リンクアシストは、搭乗者の脳波とシステムがリンクする。

 搭乗者のイメージした通りの動きを再現するのだ。

 つまり、俺はシステムを信じなければいけなかった。

 己のイメージだけで動かそうとしたからこそ、鮮明なイメージが逆にシステムの動きを阻害していた。

 だからこそ、少しの乱れで可笑しくなってしまったのだ。

 

 料理で例えるのなら、肉を塩やコショウで焼けば大抵は美味い。

 しかし、そこに醤油やバターやオニオンソースなど。

 肉に合う調味料を全て入れてしまえば、情報量が増えすぎてマズくなってしまう。

 俺はそれと同じことをしていた。

 

 此処はこうでこういう動きをしてではない。

 膝を何度まで曲げてその時の地面の感触や受ける風の抵抗など。

 不要なものまでイメージしたせいで、システムが混乱したのだ。

 失敗する訳であり、俺の凝り固まった古い考えが招いた結果だ。

 

 ネイト・シーガーに感謝しながら、その日以来、俺は鮮明なイメージを止めた。

 イメージするのはただ歩いたりジャンプしたりなど。

 簡単なものであり、それらに反応してシステムは動いてくれた。

 アレほど苦戦していた動きが嘘のようであり、今では障害物を設置した場所でも難無く動けている。

 

 射撃訓練もクリアし、歩行訓練もクリアした。

 人間らしい滑らかな動きモノになり、俺はこのシステムの素晴らしさをようやく実感できた。

 もっとロイドの事を知り信頼できれば、更なる飛躍も見込める筈だ。

 そう思って、俺は訓練中はロイドと話をするようになって。

 何となくロイドという存在の考えが分かってきた気がする。

 

 

 

 現在、俺は早朝の時間に施設から離れた場所に来ている。

 真っ赤な太陽が頭上で輝いていて、ジリジリと地上にいる人間を照らす。

 遠くの方では空間が揺らめいているように見えて蜃気楼のようになっている……今日は特に暑いな。

 

 広々とした荒野であり、遠くの方には飛行船などの残骸が転がっている。

 他にも遥か昔にあったものが転がっていて、機械の墓場のようになっていた。

 遮蔽物となるものが多くあり、姿を隠しながらの戦闘にはうってつけの場所だろう。

 それらをセンサー越しに見つめながら、俺は周囲に目を向ける。

 

 遠くの方でテントが張られていて、その中にはバーナー博士やウッドマンさんがいる。

 他にも白衣を着た研究者の方々やつなぎを着たメカニックの人たちもいて……メリウスもいるな。

 

 少し離れた位置で立っているメリウス。

 全長は此方と同じ十五メートル程であり、その機体は傷だらけだった。

 元は白いカラーリングであっただろうそれは塗装が所々剥がれてしまっている。

 青い単眼センサーであり、バランスの取れたフォルムをしている。

 背中のメインスラスターは計四つであり後方に伸びるものとやや下に向いているものが二つずつある。

 サブスラスターは内部に組み込まれたタイプだろうな……中量二脚型か?

 

 丸みを帯びた頭部に、機体全体も尖りがないように磨かれている。

 ショルダーキャノンも片方にだけ搭載されてて、弾は何かは分からないが方針はやや短めだ。

 中距離用のものだろうが……アレと戦うのか?

 

 ハーランドの機体であろうそれ。

 傷跡からして中々の面構えだが、アレから感じるプレッシャーも中々の物だ。

 相当な手練れが乗っているのだろうと思っていれば、通信が繋がれた。

 相手はウッドマンさんであり、彼は困ったような顔をしながら話しかけて来た。

 

《体調はどうですか? 気分が悪ければ今の内に言ってくださいね》

「大丈夫です……アレと模擬戦を?」

《えぇ、もう一度説明しますが、今回はベテランのパイロットとの模擬戦をして頂きます……私はもう少し練習を積んでからの方が良いと言ったのですが……バーナー博士が大丈夫だと言うので……はぁ》

「……武器はそれですか」

 

 チラリと視線を向ければ、標準サイズのライフルが設置されている。

 その傍にはメリウス用の盾も置いてあり、これで戦えというのだろう。

 そう思って聞けば、ウッドマンさんは肯定する。

 

《弾は模擬戦用のペイント弾なので万が一が起きない限りは互いに怪我をする事はありません。被弾の箇所や数などに応じて此方から機体に制限を加えたりしますので注意を……制限時間は十五分で、何方かが戦闘不能になるか時間切れになれば終了。まぁ初回なのであまり気負わずに》

《だぁぁぁぁ!!! 話がなげぇよぉぉ室長さんよぉぉ!!》

《…………紹介しますね。今回、ナナシさんの相手をしてもらう事になった施設警備部のヨハンさんです……飲んでますよね?》

《あぁぁぁ? ぜぇぇぇんぜぇぇぇん飲んでませんよぉ……ヒック!》

 

 突然、大きな声を出しながら現れた男。

 ヘルメットではなくカウボーイハットを被った鼻の大きい男で。

 完全に目が据わっているその男の顔はかなり赤かった。

 へらへらと笑いながら指で鼻を擦る。

 映像越しにも酒の臭いが漂ってきそうな息遣いにでっぷりとした腹にベルトが食い込んでいて……こいつが?

 

 どう見ても戦える状態じゃない。

 こんな酔っぱらいが機体を操作すれば、確実に墜落だろう。

 俺は無言のままチラリとウッドマンさんを見る。

 彼は苦笑いをしながらも「腕は確かなので」と言っている……信じるしかないのか。

 

 どうなっても知らない。

 例え、こいつが操作ミスをして自滅をしても俺は無関係だ。

 そう自分に言い聞かせながら納得し、俺は機体を操作してハンガーから武器を取る。

 左手に盾を装備し、右手にライフルを装備すれば武器の情報がモニターに表示された。

 

 ……特に変わっている部分は無いな、よし。

 

《それでは指定の位置まで移動をお願いします。カウントダウンが完了するまで動かないように》

《へいへいぃぃわぁぁってますよぉぉっと》

《……胃が痛いなぁ》

「……」

 

 ほろりと涙を流すウッドマンさん。

 俺は何もいう事が出来ず、そのまま通信を切った。

 モニターのマップには指定のポイントが青いマーカーで表示されている。

 あの酔っぱらいは先行し、ポイントへと向かって行く……普通に操縦出来ている?

 

 不思議な事にすいすいと飛んでいってしまった。

 それは一切操縦を誤る事も姿勢を乱すことも無く……やはりただものじゃないな。

 

 俺は少し警戒心を上げながら、スラスターを噴かせて移動を開始する。

 ゆっくりと空中を飛びながら、指定のポイントへと近づいて……此処だな。

 

 ポイントの上部で止まり、ゆっくりと降下する。

 ホバーをしながら静かに着地して、改めて周囲に目を向ける。

 左方向には飛行船の一部であるプロペラや船のような形をした巨大な残骸が転がっている。

 右方向にも無数のメリウスらしき残骸が散らばっていて……。

 

 無残な光景を静かに見つめながら、カウントダウンが始まったと認識した。

 此処で何があったのかは知らないし、それらの残骸が何を意味するのかも分からない。

 しかし、形として残っているのならそれらにも歴史があったんだと――ッ!!

 

 

 強い危機感。背筋にぞくりと悪寒が走る。

 俺は咄嗟にスラスターを噴かせてその場から離れた。

 すると、一瞬にしてその場に無数のペイント弾が撃ち込まれた。

 

 ピンク色の塗料で染まった大地――酔っぱらいの声が響いた。

 

《へぇ良い勘してやがるな》

「――まだカウントダウンはッ!!」

《戦場で待ってくれる馬鹿はいねぇんだよ青二才ッ!!》

「――っ!!」

 

 ヨハンがオープン回線で俺を煽る。

 俺はそんな奴に舌を鳴らしながらその場から離れる。

 奴は銃口を俺に向けて、精確な射撃を披露してきた。

 咄嗟に盾でガードすれば、バチバチと音が鳴り衝撃が伝わって来た――こいつ!

 

 俺は奴への牽制目的で銃を乱射した。

 すると、奴は一気に下へと降下し銃弾を回避した。

 そうして、地面スレスレを飛行しながら砂を巻き上げていく――目くらまし!?

 

 俺は奴を狙おうとサイトを合わせる。

 しかし、奴は変則機動で俺の狙いを乱す。

 そうして、砂が巻き上げられたフィールドへと機体を潜り込ませた。

 

 砂が広がったせいでレーダーの精度が少し悪くなった。

 細かい粒子が残骸に当たり音での探知は不可能。

 サーマルによる探知を始めようと――何だ!?

 

 爆音が響き渡り、右方向で何かが爆ぜた。

 見れば黒煙が上がっており、残骸の一部が崩れていた。

 

 強い殺気――目の前に敵機体が迫る。

 

《ボケっとすんじゃねぇよタコッ!!!》

「――ぅ!!」

 

 一瞬だけ気を取られた。

 その瞬間に、奴は砂のカーテンを破り一気に接近してきた。

 俺は咄嗟に盾を構えたが、奴は武器ではなく足で攻撃を仕掛けて来た。

 盾が軋むような音を上げて、ベコリと凹む。

 そうして、奴は足を大きく突き出して俺の機体を弾き飛ばした。

 ガタガタとコックピッド内が揺れて、俺は姿勢を制御しながら奴に攻撃を仕掛ける。

 

 この距離なら外さない――そう思っていた。

 

《甘ぇんだよッ!!》

「――ッ!?」

 

 奴は防御を選択せず――逆に攻撃を仕掛けて来た。

 

 使ったのは腕部のライフルではなく。

 ショルダーキャノンであり――目の前が紅蓮に染まる。

 

《機外温度千三百オーバーです》

「焼夷弾だとッ!! ふざけるなッ!!」

 

 焼夷弾による不意を突いた攻撃。

 それによる動揺し攻撃の動作が遅れた。

 轟轟と音を立てて機体が燃え上がり、僅かに内部が温まる。

 コックピッド内に影響はさほどないとはいえ、目の前が火で覆われれば動揺してしまう。

 熟練のパイロット――いや、これはゲリラの戦い方に近い。

 

 奴はそのまま機体を操作して、煙に隠れるようにして攻撃を仕掛けて来た。

 盾による防御でも、半分も見えない状態では全てを防げない。

 何発かが被弾して、システムが出力の低下を知らせて来る。

 

 良いようにやられている。

 敵は卑怯であるが、戦いに慣れている人間の動きをしていた。

 

 オープン回線で奴が鼻を鳴らしたのが分かった。

 

《悔しいかッ!? だったら追ってこいッ!! 戦い方を教えてやるッ!!》

「……やってやるよッ!!」

 

 上へと上昇し機体を回転させる。

 そうして、強引に炎を掻き消して奴を見る。

 奴は機体を操作して、巨大な残骸の中へと入って行った。

 俺はそんな奴に闘志を燃やしながら追いかけていく。

 

 相手は手練れ――狡猾なパイロットだ。

 

 秒読みも無視し、爆弾や焼夷弾を勝手に使用した無法者。

 まるで、ルール無用のゲリラ兵のようであり――俺は笑みを深めてしまう。

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