原神1から   作:烏森時雨

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前回のあらすじ:まとまったお金を手に入れて気が大きくなった蛍たちは〈鹿狩り〉で腹ごしらえをし、宿屋に泊まって英気を養った。


自由の都II

 「ん、ん~……はぁ。――おはようパイモン……あれ? パイモン?」

 「んぁ? ふぁあぁ……。おはよう蛍」

 「きゃあっ!? なっ、ななんでいるの!?」

 

 ――翌朝。私はパイモンの声を『私が寝ているベッドの中から』聞いて跳ね起きた。心臓に悪すぎる……というか!

 

 「パイモンは浮いたまま寝るんじゃなかったの!? どうして私のベッドの中に!」

 「んー、オイラは別に『浮いたまま寝れる』ってだけで、絶対に浮いたまま寝るわけじゃないぞ。空気は一番ふわふわなベッドだけど、やっぱりあったかいのは普通のベッドだからな」

 「今まではずっと浮いたまま寝ていたじゃない」

 「そりゃ、ごつごつした地面とか岩とかの上でねるよりは空気の方が快適だからだろ? 今回は空気よりもおまえのいるベッドの方が気持ちよさそうだったんだ」

 「…………」

 

 もちろん、パイモンに相談せずにシングルの部屋に決めたのは私の落ち度だった。それは認める。予算の都合もあったけど、これまでの旅でパイモンは必ず浮いたまま寝ていたから、きっとこれが普通なんだろうと勝手に推測して確認も取らなかった私も悪い。――とはいえ。

 とはいえうら若き少女のベッドに無許可で入り込んで朝まで同衾するのは流石に許されないんじゃないかな……?

 

 「はぁ……女将さんに言ってツインの部屋に変えてもらうべきなのかな……」

 「昨日言ってたけど、ツインの部屋は18000モラくらいらしいな。ダブルだと15000くらいだったか? ツインだとこの部屋2泊分くらいかかるんだなあ」

 「…………」

 「よし! じゃあそんな部屋に泊まれるようにいっぱいモラを稼ぐか!」

 「いや、しばらくはこのまま変えなくていいかな」

 

 金銭的余裕がなさすぎる……。例外的にパイモンだけ、無断でないなら同衾を許すことにしよう……。その代わり、私は都合の良い大きさで暖かさの抱き枕が手に入る。これでWin-Winか。違うか。

 

 

 

 「アンバーとは、あのでっかい神像の近くで待ち合わせしてるんだったよな。『お昼前』ってのが具体的に何時頃か分からないけど、もう出発するか?」

 「そうだね。あまり待たせても悪いし」

 

 モンド城は城門、つまり入り口が一番位置が低く、奥に行くにつれて段々と階段を上っていって高くなるような形状になっている。これは城塞都市としてかなり正解の形ではないかと思う。

 当然のことながら、基本的に城壁を敵に突破された時点でその都市に未来はない。だからこそ高い城壁や深い堀、このモンドだと孤島に造ることなどで内側の街を防備している。ただ、だからといって城門を突破された後のことを何も考えなくていいわけではない。分かれ道を多くして迷わせたり、奥に行くにつれて階段によって標高を高くしたりするのも有効だ。敵にとってはそれだけで疲弊する障害になるし、防衛側としては奥に避難するだけで敵よりも高い位置を取れ、戦闘を優位に運びやすい。

 どうやら神像の奥には大きな大聖堂があるみたいだから、そこが本当の最終防衛拠点なんだろう。住民からしたら不便な場所にあってさぞ苦労しているだろうけども、これは景観以上に必要な都市経営だ。

 

 つまり、そんな「高い場所」に向かうわけなんだけど――

 

 「――ねぇ、やっぱり不公平じゃない? パイモンも地面を歩くべきだよ。前後に飛ぶのも上下に飛ぶのもあまり変わらないでしょ」

 「今それを言うのかっ! それに、オイラとおまえとの体の大きさを考えろよっ!」

 「だから今言ってるんだよ。途中からだから平気でしょ」

 「平気なわけあるかあ!」

 

 ――いや、思っていたよりも階段があって、最近階段に縁のない生活をしていたからか割としんどい。こうしてパイモンについ強くあたってしまうくらいには。

 正門からの大通りをまっすぐ進んで〈鹿狩り〉もある噴水広場に。ここまでは道の両脇に建物、お店がある感じ。なので、階段を上るのも新鮮で大して苦にならない。最上段に〈鹿狩り〉がある形。問題はここからで、大通りは噴水広場までで突き当たりになっていて、左右どちらかに分かれる必要がある。ただし上に上れる階段は左だけにしかなく、右に行くと下り階段が用意されている。左の道も、街の端の方にかなり歩かされてそれまでの倍、長い階段があり、また分かれ道。今度は右の道でまた街の中央に向かうのが正解で、左の階段を上ると立派な冒険者協会の建物があるだけで行き止まりになっている。噴水広場のほど近くまで戻ったら、今度は引き返すようにUターンして長い階段が待っている。しかもまた分かれ道だし、どっちを選んでも長い上り階段なのは確定だし……。

 私たちは分かれ道でまっすぐ進むことを選んだけど、道のり的にまた街の中心に向かうっぽいから、多分さっきのは右に曲がった方が良かったんだな……。毎回外れの道を選ぶことに加えて結構な遠回りを強制的にさせられ、その上でこの階段。前述の通り街の防備のためには必要な不便さだとは理解しているけど、肉体的にも精神的にもやっぱり堪えてしまう。

 

 

 

 「あっおい! やっと着いたぞ! 神像のある広場だ!」

 「次からはちゃんと道を覚えよう……。とてもじゃないけど足がもたない……」

 「だ、大丈夫かよ……」

 

 神像のある場所は広場になっていた。下の噴水広場よりも数倍広く、賑わっている。中心には高さが30メートル超えているのではと思われる石造りの神像が、外で見た七天神像と同じ姿勢で鎮座している。広場を囲うように、細かい装飾が施されたアーチ状の屋根があり、雨でも憩える通路と屋根を作っている。

 すぐそば、今見たらうんざりしてしまう、幅広の何十段もの階段の先に大聖堂がそびえており、ここがモンドの文化と信仰の中心地なのだと理解する。神像の足下ではひとりのシスターが教えを説き、数人の信者が熱心にそれを聞いているし、その他にも神像に祈りを捧げる人が何人もいる。

 

 「『言葉は詩となり風と共に流れる』か……」

 「ん? なにか言ったか?」

 「ううん、なんでもない。あの人たちの願いも風神に届くといいね」

 

 世界には本当に様々な人がいる。善人も悪人も、強者も弱者も。同じように、神にも様々な神がいるんだろう。お兄ちゃんを連れ去ったあの神は〈悪い神〉だけど、きっとそれだけではなく、世界には〈良い神〉もいるんだろう。それこそ、こうしてモンドの人々に慕われている風神も。

 風神像の近くで歌っている吟遊詩人を視界に映しながら、彼らの願いが無事神に届きますようにと、そう心の内で願った。口には出してないけど、風に乗って届けと願って。

 

 

 

 「あっいたいた! おーい! 蛍、パイモーン!」

 「お、アンバーはあっちみたいだな」

 

 アンバーは広場の大聖堂とは反対側、より簡単に言うと噴水広場を見下ろせるテラス的な形状のところにいた。こちらにぶんぶんと大きく手を振ってきてくれていて、頭につけたカチューシャがウサギの耳のように大きく揺れている。左手には大きめの紙袋も提げていて、服装は同じだけど昨日よりもラフな印象。

 

 「アンバーの方が早かったみたいだね」

 「そりゃ、わたしが二人を呼んだんだもん。遅れるわけにはいかないでしょ?」

 「さすが騎士だな! 心がけがオイラたちとは違うぜ」

 「パイモンと違うだけでしょ。私はちゃんとしてる」

 「おい!」

 

 私は基本的に常識人であることは何度も繰り返し主張しないといけない。確かに私はパイモンよりも口下手かもしれないし、戦うのが得意だけど、だからといってバトル脳ではないし他人のことをきちんと慮れる。約束も守るし、借りも返す。

 

 「あははっ、あなたたちって本当に仲良しなんだね――昨日『非常食』って言ってたからてっきり仲がそんなに良くないのかと思ってたけど、あれは仲が良いからこその軽口だったんだね」

 「だからといって非常食呼ばわりを許した覚えはない!」

 

 うんうんとアンバーの言葉を噛みしめるように頷いてみるけど、あまり効果はなさそう? マスコット的なかわいらしさはやっぱり年頃の女の子には効果抜群で、私の意見はあまり通らないらしい。

 アンバーもパイモンのかわいらしさにころっとやられて、私の主張には耳を貸そうとしなみたい。違うか、単に主張できるようなことがなくて、ただただパイモンが真っ当に正しいだけか。

 

 「それで、なんでオイラたちっておまえに呼ばれたんだっけ?」

 「ああそうそう。昨日のお礼を渡したかったの」

 「お礼? オイラたちって何かしたっけ?」

 「完全に部外者なのに、ヒルチャールの巣を倒すのに協力してくれたじゃない」

 「おおー、なるほど、それの話か思い出したぜ! うんうん、あれは壮絶な戦いだった……」

 

 ……パイモン何かしたっけ? 私とアンバーとで殲滅した記憶があるんだけど……。まぁ、最後大声で注意を促してくれたから無事だった、ということにしておこう。

 うん。パイモンは私の命の恩人だ。

 

 「それで、お礼っていうのはね――」

 

 アンバーは手に提げてた紙袋の中から、何やら大きめの茶色いふわふわした物を取り出した。この形状って――

 

 「じゃ~ん、〈風の翼〉よ! 偵察騎士はこれで空を駆け抜けるの。モンドに住む人たちも、みんなこれを愛用してるんだ。ここを集合場所にしたのは、あんたにこれの良さを体験してもらいたかったから!」

 「ずいぶんと熱く語るんだな」

 「『風』は、モンドの魂だからね」

 

 感心したようにパイモンが呟くと、そう言ってアンバーは胸を張る。多分他の人以上に〈風の翼〉やモンドの風を大切にする気風が好きなんだと思う。思い返せば、

 

 これは……実際の鳥の羽を使っているようではないけれど、かなり忠実に鳥の翼を模している。翼の中央にはモンドの風を想起させる淡い水色の十字があしらわれていて、そこから左右対称に、各1メートルくらいの大きさの、黒い立派な翼がある。人工物ゆえ装飾は簡単なのか、十字の周辺などは皮できれいな波打つような装飾も施されており、それなり以上には値の張る上等なものであることをうかがわせる。

 

 「わあ――めちゃくちゃかっこいいぞ! しかもこれ、新品じゃないか? ほんとにこんな良い物を貰っちゃっていいのかよ?」

 「うん、大丈夫。理由は――なんでなんだろうね? えへへ……ごめん、わたしもよく分からないや。なんとなく気分がいいのと……あんたに素質があるって感じたからかな」

 「――! 似たようなことを、昨日冒険者協会のキャサリンにも言われた」

 「へえ、そうなんだ? なら、わたしも人を見る目があるってことかな」

 

 まぁあっちは勧誘の仕事での社交辞令で、誰にでも言っている定型文だと思うけど。でも、個人的な知り合いのアンバーに言われるとかなり嬉しい。「素質がある」って、中々言われないような褒め言葉だと思う。しかも全く未経験の分野に関して……。

 

 「――にしても、風の翼かぁ。オイラには使えないってアンバーが言ってた意味が理解できたぜ。そもそも、これがなくてもオイラは自由に空を飛べるしな」

 「そういうこと。パイモンちゃんには今度別の物をプレゼントするから」

 「へへっ、オイラそういうのは絶対に忘れないからな!」

 「えっと……仲良く話してるところ割り込んでごめん、これどうやって着けるの……?」

 

 本当は自力でぱぱって着けてしまって、「プレゼントありがとう!」って見せてあげたいんだけど、それなりに大きくて重いから着脱装置を探すに一苦労なのと、なぜかそれっぽい装置が見つからないこととでヘルプを出すしかなかった。絶対裏側の中心のあたりに何かあると思うんだけど……。

 「わー! そっか、初めて見るんだもんね、ごめん何も説明してなくて!」って必死に謝ってくれるけど、どちらかというと私の落ち度だから心苦しい。

 

 「えっと、たしか昨日の戦闘的に……蛍は元素の力を使えるのよね?」

 「うん」

 「なら、着けるのだけじゃなくて持ち運びも便利よ――あんまりそうとは見えないかもだけど、これも一応魔道具なの。だから着けたりするのもフックとかは使わなくってね――」

 

 アンバー曰く、風の翼の正しい装着の仕方は肩甲骨の間に翼の中心をあてがって、魔法の力でリンクさせて取れないようにするらしい。そして、空中にいるときにリンクした部分に力を込めると翼が開いて空を飛べるらしい。どちらも詳しい原理は不明。いや、不明ではないんだろうけど、アンバーはあまり詳しくないみたい。

 まぁこういう日常的に使うものでも、改めて原理とか構造とか聞かれても困るしね――少し反省。私だって、普段使う家をどのように建てるのかとか、剣はどのようにして金属からその形にするのかとか聞かれても答えられないし。

 

 「――これでよし! もう説明し忘れてることはないはず!」

 「何から何までありがとう」

 「さあ、さっそく風の翼の性能を試しましょう」

 「ん? 今からか?」

 「ええ。操作は簡単だけど、指示はちゃんと聞いてね」

 「え、こんなすぐするの?」

 

 「風の翼の良さを体験してほしい」とは確かに言われたけど、まさかこんな勢いですることになるとは……。アンバーの風の翼にかける情熱は少なくとも十分以上に伝わっている。

 

 「とりあえず……ここから下に飛んでいって、噴水広場をゴールにしようか。私もすぐ後ろからついて行ってアドバイスとかするから大丈夫!」

 

 

 

 「何もアドバイスすることなんてなかった! びっくりしちゃった……まさか初めてなのにこんなに完璧に飛んじゃうなんて……」

 

 うん、まぁ、本来の私なら全然自前で翼を生やして自由に空を飛べていたしね。翼を出したり収納したりするのに慣れる必要はあるかもだけど、感覚としては今までと特に変わらなかったから安心。

それよりも……

 

 「『空を飛べる』って聞いてたからつい期待しちゃってたけど、これって滑空なんだね。てっきりパイモンみたいに上下左右自由に動けて、その場での静止なんかも出来るものかと勝手に勘違いしてたけど……」

 「そ、そんなこと言わないで! これがあるおかげで偵察も効率よくできるようになったし、高所からの落下事故も少ないんだから!」

 

 そう。この〈風の翼〉で可能なのは滑空のみだった。前方に滑空する、旋回する、その場でゆっくり降りる。この3つが可能なことで、例えばその場での静止や上方への飛翔、速度の調節や細かな動きには対応していなかった。……封印された力の一部だけでも元のように扱えるようになるかと期待したのに。

 

 「ま、まあまあ……探索なんかはおまえの代わりにオイラもやるよ。それに、安全に降りれるようになるだけで、だいぶ違うだろ?」

 「それはもちろんそうだけど」

 「でしょでしょ! 野外を色々見て回りたいときは、まず高い所に行って、そこから見回すといいよ! そしたら、気になるところにすぐに飛んで行けるからね。その時気をつけないといけないのが――あれ、急に曇ってきたね……」

 「それに、風も強くなったぞ。こういうことはよく起きるのか?」

 「いいえ……なんなんだろう……」




始まりの翼:風の翼のデザイン。偵察騎士の熱い期待に満ちている。
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