「戻ったよ……わぁ!」
「大丈夫!? もう……本当に心配したんだからね!?」
「だ、大丈夫だから……はは……」
神像近くに戻ると、眉尻の下がったアンバーに熱烈に迎え入れられた。語弊はあるかもしれないけれど……これが率直な感想。ハグされたとまでは言わないけど、あちこちと身体を触られケガの有無などを確認してくれた。突然のボディータッチに私はされるがまま動かないでいることしかできなかった。
パン、パン、パン、パン、と。
突然非常にゆったりとした拍手が近づいてきた。
見ると、青系統の服に身を包んだ褐色肌の青年が真意の見えない笑みを浮かべながらこっちに歩いてくる。女の子同士の感動の再会シーンをぶち壊す男なんて許せない。――というか、そもそも誰だこの男は? いかにも「知り合いです」みたいな顔して不自然に入ってきたけど全然知らない人だし。
「巨龍と戦えるほどの力を持っているとは……我々の客人となるか、それとも新たな嵐となるか?」
「あ、ガイア先輩ちょうどよかった。一緒に……」
「待て、アンバー。見たことないヤツがいるんだが?」
それはこっちのセリフですー!
――とは流石に言えない。だって私は正真正銘昨日モンドに来たばかりの異邦人。それにアンバーが「先輩」と言うということは、この男性も騎士団の人だ。うっかり機嫌を悪くさせて騎士団本部に連行、だなんてなったら目も当てられない。
「あっ……そうだった。こちらはガイア先輩。わたしたちの騎兵隊長なの」
「騎兵隊長……何かに乗って戦うってことか?」
「うーん……そんな感じかな」
「今明らかに誤魔化しただろ!」
実は騎兵なんかせずに戦うとか? まぁ、だとしても誤魔化す理由になんて……あ、単にアンバーの知識不足で確かな答えを返せなかっただけという可能性もあるか。
「それでこの人は、えっと……遠いところから来た旅人の蛍さん」
「『遠い』ってことしか分からないのか……」
それは本当にその通り。私はこの世界の外から来たから、出身の国なんか聞かれても答えられないし。こんな面倒なタイミングに来た不審者で本当にごめんなさい。でもこの辺りの事情を説明するわけにもいかない。アンバーにも「兄を探してる」としか教えていないし……。
「事の経緯は、昨日からの話になるんですけど、昨日森でこの人に出会って、モンドを目指しているようだったので送ってあげたんです。それで今日またここの近くで会って、風の翼をプレゼントしたんですけど、そのタイミングで風魔龍が来ちゃって――」
「ふむ、なぜ旅をしているか、モンドに向かっていたかは聞いたか?」
「お兄さんと旅の途中ではぐれてしまったみたいで、手がかりを探しているみたいなんです。だから、城内に尋ね人のお知らせを貼ろうかと考えてて」
「なるほど、な。では――」
……怖い。直接受けている訳ではないけど、尋問されている気分だ。
ガイアは軽いような底知れないような出で立ちをしており、一目で「ただ者ではない」「敵に回すと厄介」ということを理解させてくる。そんな彼がアンバーに私のことを質問しながらちらちらとこっちに視線をやってくるのだ。怖くて仕方がない。
ガイアはくすんだ青い長髪で、1つに束ねて腰ほどにまで垂らしている。日焼けした肌の端正な顔の右目には金で縁取られた黒い眼帯をしていて、ミステリアスさを後押ししている。見えている左目は淡い青のつり目であり、視線を向けられるだけで緊張感がある。首元に金のチェーンネックレス、耳には水色の宝石がはめ込まれた大きなピアスをつけている。
服装は騎士団らしく騎士団の紋章などをあしらった黒のスーツを基本としているが、袖は白色、更に首元にはなぜか白いふわふわした……ファー? を身につけているけれど、それで雰囲気や印象が柔らかくなることはない。ちなみに襟元がかなり大きく開いていて、鍛えられた胸筋が見える形となっている。モンドの騎士は胸元を見せないと気が済まないのか。
かなりゆったりとした話し方でずっとにこやか。それでいて内容は私に関する聞き取りという真面目なものなので、真意を読ませないことに関しては一流だろう。本当にこの手のタイプは怖いし対応に困るからやめてほしい。普段単純で欲に忠実なパイモンとばかり接していることもあって、どう対応すべきかまだ掴めていない。
「――なるほど、モンドへようこそ、蛍さん。しかし、こんな最悪なタイミングで来るとはツイてないな……。俺にも分かるぜ、血縁者と離れ離れになるツラい気持ちがな」
アンバーから一通り情報を聞き終えたガイアは私たちに向き直り、そう歓迎の意を示してくれた。が……正直いちいち大仰だし、胡散臭い。本心からの言葉じゃないんだろうなと感じさせる言い方で、アンバーと違って一切受け入れてくれているようには受けない。
「何で風神を探しているかは知らないが……誰にでも言いたくない秘密はある。お前もその口だろう? ははっ、だから聞かないでおいてやるぜ」
「それはどうも」
「ちょっとガイア先輩? あんまりこの子を困らせないであげてください! すぐ意地悪するんだから……」
だから、私の言葉もつい険のあるものになってしまうのも仕方のないこと。――でも、アンバーがこんなに守ってくれることは予想してなかったな……。最悪だった第一印象も、今の件で少しは改善されたってことだろうか。それとも、ガイア相手の時限りなんだろうか?
「とにかく、騎士団を代表して礼を言うよ。風魔龍を追い払ったことに関してな」
「災いを放っておけなかったし、なりゆきではあったけどね。どういたしまして。報酬は何かあったりする?」
「……モンド名物のニンジンとお肉のハニーソテーでもどうだ?」
「それはアンバーに奢ってもらうことになってる」
「ほう? まあアンバーも騎士の一人だ。騎士団からの礼として、コイツから受け取ってくれ」
「え!? いやまぁそんな話はしたかもだけど……」
……あ、ごめんアンバー。ガイアへの意趣返しは出来そうにないし、そっちに飛び火しちゃった。まぁ元々あった話ではあるし、余分に負担を増やしてしまった訳ではないけど少し申し訳ない。
「さっきの風魔龍との戦いで、俺も含め守られた市民は全員お前たちの活躍を目撃した。そこで、代理団長もお前たちに興味があるみたいでな。騎士団本部までどうか来てくれないか」
「やっぱり連行!?」
「おいおい、『やっぱり』とは何だよ。それに、連行じゃないさ。連行というのは悪事を働いたヤツにするものだからな。お前たちはむしろモンドを救った救世主だぜ?」
「そうか……へへっ、行こうぜ蛍。コイツには無理でも、代理団長? からは豪華なお礼がもらえるかもしれないぞ!」
「いや多分……けど、そうだね。行くしかないね」
「おっと、別に断ってくれてもいいんだぜ? これは連行じゃないんだ。選択権はそっちにある」
とかなんとか言って。どうせここで断ったら私たちへの疑念を深めるだけのくせに。
モンドは現在ドラゴン――風魔龍の襲撃に遭っており厳戒態勢。そんな中素性の知れない旅人がモンドにやってくるだけでも怪しいのに、なんと一応の解決すら果たしてしまった。要注意人物として、騎士団が私をマークするのは当然の流れだろう。
だからガイアの私への態度、そして警戒心は理解も納得もできる。現在私ほど得体の知れない脅威は他にないはずだから。なんなら私が一連の事件を裏で操る犯人だと思われていても仕方のないレベル。――残念ながら私は一切知らないんだけどもね。「こんな最悪なタイミングで来るとはツイてないな」とはまさしくその通りだ。
「騎士団本部に行きますよ。案内よろしくお願いします」
「ほう。じゃ、俺に付いてきてくれ」
「わ、わたしも行く!」
「当然だ。お前も当事者だし、この旅人と交流のある数少ない人間だ。来てもらわないと困るぜ」
……ただまぁ、こうやって選択肢がないのは少ししんどいな。私は元々自由きままに旅をする旅人だし、行動を制限されたり強制されたりするのは苦手だ。仕方のないこととはいえ、早く解決して自由になりたいばかりだ。
アチーブメント「…それとも新たな嵐となるか?」:モンド城の巨龍を駆逐する。